そんなこんなで、放課後を迎えた。
夕暮れのチャイムが鳴り響いた後、担任の先生から美優と相良の二人に、一つの仕事が言い渡された。今度の校外学習で使う、クラス全員分の「しおり」の作成だ。
しかし、相良は元々入っていた委員会の集まりと時間が重なってしまった。そのため、美優が一人で先に作業を進めることになった。
オレンジ色の斜光が差し込む静かな教室で、美優は黙々とプリントを揃え、ホッチキスで留めていく。パチ、パチ、と規則的な硬い音だけが、誰もいない空間に虚しく響いていた。
ふと手を止め、窓の外に目を向ける。
校庭では、サッカー部が声を掛け合いながらボールを追いかけていた。そこには萌華が熱を上げている町田先輩や、額に汗を流しながら走る同級生たちの姿がある。
誰もが放課後の時間を全力で駆け抜けている。
そんな当たり前の景色を眺めながら、美優はまた、昼間の資料室での出来事を思い出していた。
(…あんな風に言われたの、初めてだったな)
これまでの男子たちは、美優の外見ばかりを褒めそやした。けれど相良は、その奥にある美優自身の身体を、純粋に危なっかしいと心配してくれた。
思い出すだけで、また胸の奥がじんわりと熱くなる。
その時だった。
――ガラッ!
静寂を破って、教室の前のドアが勢いよく開いた。
美優が驚いて弾かれたように顔を向けると、そこには、少し肩を上下させて息を切らせている相良が立っていた。
夕日を背に浴びて、前髪を少し濡らした彼が、こちらを見てくしゃっと爽やかに笑う。
「ごめん、姫野! 遅くなった!」
わざわざ走ってきてくれたのだろう。制服の第一ボタンを外した相良の首筋には、かすかに汗の粒が光っていた。
美優は一瞬、言葉を失って目を見開いた。
たかが日直の居残り仕事だ。サボろうと思えばいくらでも言い訳ができるし、美優なら一人で終わらせていただろう。それなのに、彼は自分のために、こんなに息を切らせて戻ってきてくれた。
そんな相良の真っ直ぐな誠実さに、美優の心臓がまた、わずかに音を立て始める。
美優は慌ててホッチキスを握り直し、いつもの平静を装った声を絞り出した。
「全然、気にしてないよ。……委員会、終わったの?」
「おう、終わらせて速攻で飛んできた!」
相良はそう言いながら、カバンを自分の席に置くと、長い足を響かせて美優の隣の席へと歩み寄ってきた。二人の距離が再び近づき、美優の胸のざわめきはさらに大きくなっていく。



