あの妙に意識してしまった図書室の出来事から、数日が経った。
美優の日常はいつも通りに流れていく。
そんなある日の朝、ホームルームの前に黒板を見上げた美優は、小さく息を呑んだ。掲示板の隅にある日直の欄に、「姫野」「相良」と二人の名前が並んでいたからだ。
「お、姫野じゃん、今日よろしくな!」
背後から不意に声をかけられ、美優の肩がびくりと跳ねる。振り返ると、そこにはスクールバッグを肩にかけた相良が立っていた。朝の光を浴びた彼は、驚くほど爽やかな笑みを浮かべている。
美優は胸の鼓動を悟られないよう、いつも通りの仮面を被って、一応は平静を装って答えることができた。
「あ、うん。よろしくね、相良くん」
「おう」
相良は短く応じて自分の席へと向かっていく。その後ろ姿を見送りながら、美優はそっと胸をなでおろした。
(なんだ……私、結構普通に答えれるじゃん。あの図書室は、やっぱり何かの気のせいだったんだ)
自分にそう言い聞かせると、少しだけ心が軽くなった気がした。
しかし、運命はそう簡単に美優を解放してはくれないようだ。
午前中の社会の授業が終わった直後、担当の河北先生が教壇から二人に向かって声をかけてきた。
「おい、今日の日直。昼休みに資料室に集合なー。ちょっと手伝ってもらいたいことがあるから」
断る理由もなく、美優は昼休みになるとすぐに、校舎の奥にある古い資料室へと向かった。
重い木製の扉を開けると、独特の紙の匂いの中に、すでに相良が一人で待っていた。肝心の河北先生の姿はまだない。
「ごめんね、待たせちゃった?」
美優が申し訳なさそうに部屋に入ると、相良は窓際から振り返り、にっこりと眩しそうに笑った。
「いや、俺もさっき来たばっかりだから大丈夫だよ」
相良は机の上に積まれた古い資料を指差しながら、呆れたように肩をすくめる。
「河北先生、次の授業で使う資料をここで見つけてまとめとけってさ。自分は職員会議だからって、ほんと人使い荒いよな、あの人」
くしゃっと破顔して笑う相良の顔が、また一瞬、美優の視界の中で伊澄先生の面影と重なりそうになる。美優は慌てて視線を資料へと落とした。
「そうなんだ……。じゃあ、私も手伝うね」
それから、狭い資料室の中で二人の作業が始まった。
「これは?」「あ、それいるやつ」といった他愛のない会話を交わしながら、静かに時間が流れていく。かれこれ15分ほど経った頃には、目的の資料が何冊か机の上に集まっていた。
「よし、これだけ集めれば充分じゃね?」
相良はパンパンと手のひらについた埃を払い、満足そうに息を吐いた。
「あ、待って。あと、これも要るかも……」
美優は部屋の隅にある古いスチールラックを見上げ、その最上段に目を留めた。そこには、関連しそうな古い資料が入った段ボール箱が置かれている。
スラリとした手足を伸ばし、少し短い制服のスカートが持ち上がるのも気にせず、美優は背伸びをして上の棚の段ボールに手を伸ばした。
指先が箱の底に触れた、その瞬間だった。
バランスを崩していた重い段ボール箱が、美優の引き出す力に負けて、不自然にぐらりと傾いた。
「え――」
美優が声を上げる間もなく、大量の古い資料が詰まった重い塊が、美優の頭上めがけて真っ直ぐに落ちてきた。
美優の日常はいつも通りに流れていく。
そんなある日の朝、ホームルームの前に黒板を見上げた美優は、小さく息を呑んだ。掲示板の隅にある日直の欄に、「姫野」「相良」と二人の名前が並んでいたからだ。
「お、姫野じゃん、今日よろしくな!」
背後から不意に声をかけられ、美優の肩がびくりと跳ねる。振り返ると、そこにはスクールバッグを肩にかけた相良が立っていた。朝の光を浴びた彼は、驚くほど爽やかな笑みを浮かべている。
美優は胸の鼓動を悟られないよう、いつも通りの仮面を被って、一応は平静を装って答えることができた。
「あ、うん。よろしくね、相良くん」
「おう」
相良は短く応じて自分の席へと向かっていく。その後ろ姿を見送りながら、美優はそっと胸をなでおろした。
(なんだ……私、結構普通に答えれるじゃん。あの図書室は、やっぱり何かの気のせいだったんだ)
自分にそう言い聞かせると、少しだけ心が軽くなった気がした。
しかし、運命はそう簡単に美優を解放してはくれないようだ。
午前中の社会の授業が終わった直後、担当の河北先生が教壇から二人に向かって声をかけてきた。
「おい、今日の日直。昼休みに資料室に集合なー。ちょっと手伝ってもらいたいことがあるから」
断る理由もなく、美優は昼休みになるとすぐに、校舎の奥にある古い資料室へと向かった。
重い木製の扉を開けると、独特の紙の匂いの中に、すでに相良が一人で待っていた。肝心の河北先生の姿はまだない。
「ごめんね、待たせちゃった?」
美優が申し訳なさそうに部屋に入ると、相良は窓際から振り返り、にっこりと眩しそうに笑った。
「いや、俺もさっき来たばっかりだから大丈夫だよ」
相良は机の上に積まれた古い資料を指差しながら、呆れたように肩をすくめる。
「河北先生、次の授業で使う資料をここで見つけてまとめとけってさ。自分は職員会議だからって、ほんと人使い荒いよな、あの人」
くしゃっと破顔して笑う相良の顔が、また一瞬、美優の視界の中で伊澄先生の面影と重なりそうになる。美優は慌てて視線を資料へと落とした。
「そうなんだ……。じゃあ、私も手伝うね」
それから、狭い資料室の中で二人の作業が始まった。
「これは?」「あ、それいるやつ」といった他愛のない会話を交わしながら、静かに時間が流れていく。かれこれ15分ほど経った頃には、目的の資料が何冊か机の上に集まっていた。
「よし、これだけ集めれば充分じゃね?」
相良はパンパンと手のひらについた埃を払い、満足そうに息を吐いた。
「あ、待って。あと、これも要るかも……」
美優は部屋の隅にある古いスチールラックを見上げ、その最上段に目を留めた。そこには、関連しそうな古い資料が入った段ボール箱が置かれている。
スラリとした手足を伸ばし、少し短い制服のスカートが持ち上がるのも気にせず、美優は背伸びをして上の棚の段ボールに手を伸ばした。
指先が箱の底に触れた、その瞬間だった。
バランスを崩していた重い段ボール箱が、美優の引き出す力に負けて、不自然にぐらりと傾いた。
「え――」
美優が声を上げる間もなく、大量の古い資料が詰まった重い塊が、美優の頭上めがけて真っ直ぐに落ちてきた。



