不完全な僕達は。【完結】





相良は、気恥ずかしさを誤魔化すように首の後ろを掻きながら、美優をふと見て言った。

「はは、なんか変なところ見られたなー」

いつもの気だるげな様子に戻ろうとする相良。けれど美優は、抱きしめた小説に少しだけ力を込めると、真っ直ぐに顔を上げた。

「そんなことない、……嬉しかったし」

言葉にして伝えると、急に自分の声がひどく熱を持ったものに思えてくる。美優は耳の奥が熱くなるのを感じ、少し恥ずかしそうに視線を斜め下へと逸らした。

完璧な優等生として、いつも他人の好意を淡々と受け流してきた美優が、今はっきりと照れている。

相良はそんな美優の様子を驚いたように見つめていたが、やがて相好を崩した。

「はは、姫野でも照れることあんだね」

思いっきり少年みたいに笑うと、相良は大きな手を伸ばし、美優の頭上へポン、と置いた。

美優は息を呑み、大きく目を見開いた。

「……っ、」

頭のてっぺんから、心地よい重みと温かさがじんわりと染み込んでくる。
そんな美優の動揺など露知らず、相良は「じゃ、またなー」と、ひらひらと片手を振って、そのまま足早に図書室の出口へと去っていった。

重い扉が静かに閉まり、図書室には再び、ひんやりとした静寂が戻る。

けれど、美優の胸の奥は、これまでにないほど波立っていた。
今まで誰に抱きしめられても、誰から甘い言葉を囁かれても、悲しいくらいに何も感じなかったこの心が。今はまるで、嵐の前の海のようにざわざわと騒ぎ立てている。

相良の、あの屈託のない真っ直ぐな笑顔。
それが、ずっと美優の心の奥底に眠っていた「伊澄先生」の面影と、なぜかどうしても重なってしまったのだ。

「私……、なんでこんなに…」

ぽつんと一人、夕暮れの図書室に残された美優は、激しく脈打つ自分の胸にそっと手を当てた。
冷めきっていたはずの時間が、相良優希という存在によって何かが変わり出して、動き出そうとしている。美優は生まれて初めて、自分の感情に、ただ戸惑うことしかできなかった。