不完全な僕達は。【完結】




広々とした図書室の最果て、窓際にぽつんと置かれた木製のテーブル。そこに美優と萌華は並んで座り、それぞれのノートに熱心にペンを走らせていた。

しばらくの間、カリカリという筆記音だけが二人の間に流れていたが、ふいに萌華が短く悲鳴を上げた。机の上のスマートフォンの画面を見たまま、完全に固まっている。

「うわっ、もうこんな時間!? 美優、ごめん、私委員会行ってくる!」

ガタガタと慌ただしく筆記用具をスクールバッグに押し込み、萌華は勢いよく立ち上がった。美優は驚いて顔を上げる。

「え、ちょっと待って。課題、まだ途中じゃない?」

「続きはまた今度! というか、思い出したの! 今日、町田先輩が委員会に来る日だから急がなきゃいけなかったんだ!」

髪を指先で整えながら、萌華は文字通り飛び出すようにして図書室の出口へと走っていった。その後ろ姿を見送りながら、美優の唇から、ふっと小さく含み笑いが漏れる。

「あぁ……なるほどね」

美優は少しニヤリとしながら、誰もいなくなった隣の席を見つめた。
町田先輩といえば、サッカー部に所属する2年生の、そこそこ有名なイケメンの先輩だ。そして、萌華が今、密かに熱烈な片思いをしている相手でもあった。

同じ美化委員会に所属してはいるものの、先輩はレギュラーで試合が近くなると部活が忙しく、なかなか委員会には顔を出さないらしい。ただ、たまにこうしてひょっこり現れる日があるのだという。

「……っていうか、そんな情報、一体どこから仕入れてくるんだか」

美優はクスクスと肩を揺らした。
先輩が来るというだけで、あれほど嫌がっていたゴミ拾いの委員会へ全力で走っていける。そんな風に、誰かを好きという気持ちだけで世界が180度変わってしまうような、恋愛にどこまでも真っ直ぐな萌華。

美優はペンを置き、頬杖をついて窓の外を眺めた。
グラウンドからは、運動部たちの元気な声がかすかに響いてくる。

(いいなぁ、萌華は)

胸の奥で、小さく呟いた。
そんな萌華の姿が、時々、どうしようもないくらい羨ましくなる。自分にはもう二度と訪れないかもしれない、あの眩しいほどの熱量が、今の萌華には確かにあった。

萌華がいなくなった広い図書室の片隅で、美優は再び、課題に取りかかった。