不完全な僕達は。【完結】



萌華とのあの日の会話から、しばらくは何気ない、穏やかな日常が流れていった。美優の毎日は、相変わらず完璧な女子高生としてのルーティンで満たされている。

「おーい。みんな、課題は金曜日までに提出するようになー」

気だるげなチャイムの音と同時に、社会の教員がそう言い残して教室を出ていった。その瞬間、クラスのあちこちから小さく、重苦しいブーイングが沸き起こる。

「ちょっと美優、社会の課題! もう超面倒くさいよね~!」

萌華が机に突っ伏しながら、恨めしそうに声を上げた。けれどすぐにガタッと椅子を引いて立ち上がり、美優の腕を掴む。

「こうしちゃいられない! 美優、図書室行こ! 早く終わらせちゃおう!」

「はは、そうだね。行こっか」

美優はペンケースをスクールバッグにしまい、萌華に引っ張られるようにして教室を後にした。

高校の図書室に足を運ぶのは、いつ振りだろうか。
重い木製の扉を開けると、ひんやりとした空気と、紙とインクの独特な匂いが鼻腔をくすぐった。課題の締め切りが近いせいか、室内にはすでに、ちらほらと生徒たちの姿が集まっている。

静まり返ったその空間を見渡した瞬間、美優の胸の奥が、ちくりと痛んだ。

(……中学と違って、ここの図書室は広いな)

目の前に広がる整然とした書架を眺めながら、美優は数年前の記憶を手繰り寄せていた。
あの中学の、もっと狭くて、いつも放課後には誰もいなくなったあの図書室。自分と伊澄先生だけの、誰にも言えない秘密基地だった場所。
あの場所で過ごした濃密な時間が、一瞬だけ、目の前の光景に重なって消えた。

「ちょっと美優、何ぼーっとしてるの? 席なくなっちゃうよ!」

萌華の声にハッと我に返る。

「あ、ごめん。……萌華はこの後、委員会だっけ?」

美優が苦笑交じりに言うと、萌華はあからさまに肩を落とし、顔を歪めてみせた。

「そーだよ、美化委員! なんで私がゴミ拾いとかしなきゃいけないわけ? やんなっちゃう」

一気にテンションの下がった萌華を少し可笑しく思いながら、美優は空いている窓際の席へと歩みを進めた。