不完全な僕達は。【完結】



萌華はトレイの上のポテトを綺麗に平らげると、今度は思いっきりジュースを啜った。ズズズ、とストローが鳴る。

「ねえ、美優」

萌華は飲み干したカップを置くと、テーブルを挟んで美優の手をぎゅっと握りしめた。その真っ直ぐな瞳が、美優のガラスのような瞳を射抜く。

「恋愛ってさ、色々傷付いたり、悲しかったりすることもあるよ……! でも、自分も相手も成長できるというか、なんかもっと胸がぎゅっとドキッとするというか、苦しくなるというか……。もうその人しか考えられなくて、ずっと世界がキラキラしているような、もっと素敵なものだと思う!」

一気にまくし立てた萌華は、さらに言葉に熱を込めた。

「私らはさー、もっとそういう恋、したほうがいいと思うな! 一度きりの高校生だよ?!なんか勿体ないじゃん!」

熱を帯びた幼馴染の手のひらの温もりに、美優は少しだけ目を見開いた。

(胸が、苦しくなるくらい……世界がキラキラしていた、恋……)

脳裏に、引き出しの奥底にしまい込んでいた記憶が鮮烈に蘇る。
そうだ。きっと、伊澄先生といたときの自分は、確かにそうだったのだ。

あの頃は、世界がずっと完璧だった。先生と目が合うだけで、言葉を交わすだけで、自分の世界のすべてが眩いほどにキラキラと輝いていた。あの痛いほどの熱量を、美優の心は知っているはずだった。

美優はそっと視線を落とし、握られた萌華の手に優しく力を込めた。

「ありがとう、萌華。心配してくれて……やっぱり萌華は、真っ直ぐだね」

フッと柔らかく、今度は作ったわけではない自然な笑みが唇に浮かぶ。

それを見た萌華は、嬉しそうに、けれどどこか寂しそうな複雑な顔をした。美優の心の中にある「伊澄先生」という大きな存在と、それに囚われ続けている親友の孤独を、彼女なりに察したのかもしれなかった。

「もう! いつか絶対、美優を惚れさせる男の子と出会うはずなんだからね! 覚悟しなさいよ〜!」

萌華は寂しさを吹き飛ばすように、わざと大声をあげて美優を指差した。

美優は少し苦笑いをもらしながら、残った桃フロートの氷をスプーンでつついた。

「はは、ちょっと大げさだよ」

窓の外では、夕闇が完全に街を包み込もうとしていた。
萌華の言葉は嬉しかったけれど、美優の胸の奥にある冷たい塊は、まだ溶ける気配を見せない。それでも、過去の輝きを思い出した美優の心に、小さな、本当に小さなさざ波が立ったのは確かだった。