不完全な僕達は。【完結】



それから、しばらくの時間が流れた。

あの日、公園のベンチで交わしたキスを境に、二人の間に流れる空気はどこか余所余所しいものへと変わっていた。そしてある日の放課後、美優は立石先輩に呼び出され、彼の教室へと向かった。

夕暮れの教室には、もう他に誰も残っていない。オレンジ色の斜光が、机や椅子を長く、寂しく引き延ばしていた。

「……俺ばっかり、好きみたいで。なんか、寂しくなっちゃったんだよね」

先輩は力なく笑い、けれど決意を秘めた目で美優を見つめた。

「ごめん。別れてほしい」

美優の感情がこれ以上動くことはないのだと、彼は身をもって悟ったのだろう。その表情には、諦めと、これ以上傷つきたくないという切実な痛みが滲んでいた。

美優は、その言葉を静かに受け止めた。取り乱すことも、引き留めることもなく、ただ少しだけ、形ばかりの笑みを浮かべる。

「わかりました。立石先輩、ありがとうございました」

美優の心は、最後の最後まで動かなかった。

立石先輩を好きになろうと、特別に努力したわけではなかった。「好きにさせてみせる」と言った彼の言葉に、ただすべてを委ねていただけ。けれど、結局のところ、美優の胸には何も生まれなかった。

「……じゃあね」

そう言って、先輩はゆっくりと背を向け、教室を出ていく。
美優にできるのは、ただその寂しそうな背中を、静かに見つめてあげることだけだった。

彼のことが嫌いだったわけではない。むしろ、顔も良くて優しくて、人として好ましい相手だと思ってはいた。
嫌いになれる要素なんてどこにもない。――ただ、どうしても、好きになれなかった。

誰もいなくなった夕暮れの教室で、美優はぽつんと佇んでいた。心に穴が空いたような寂しさすらなく、ただいつも通りの、ひんやりとした静寂だけが彼女を包み込んでいた。