美優はひたすら走った。
涙で視界はぐにゃぐにゃに歪み、息が苦しくて胸が張り裂けそうになっても、足を止めることだけはできなかった。
走って、走って、頭の中が真っ白になるまで、何も考えられなくなるくらい無我夢中で走り続けた。
だが、限界はすぐに訪れた。
学校から少し離れた歩道で、もつれた足が自分のローファーを引っかける。
重力に逆らえず、美優はアスファルトの上へ激しく転倒した。
「……っ!」
鈍い衝撃とともに、強い痛みが走る。
めくれたストッキングの隙間から、擦りむいた膝が覗いていた。じわりと赤い血が滲み、痛々しく擦過傷を染めていく。
美優は立ち上がることができず、その場に力なくしゃがみこんだ。
じっと、虚ろな目で自分の膝を見つめる。
ポタポタと、目から大粒の涙が次から次へとこぼれ落ちて、傷口を濡らした。塩分を含んだ涙が触れた瞬間、膝がズキズキと激しく染みた。
けれど、身体の痛みなんて、胸の痛みに比べたら何でもなかった。
『なんで……?』
どうして、こんなことになってしまったのだろう。
夏休みの誰もいない海辺、冷たい波の感触、優しく頬に添えられた手のひら。
「美優」と、いつもより低く甘い声で名前を呼んでくれたあの瞬間の、胸が苦しくなるほどの愛おしさ。
――今までの伊澄先生は、全部嘘だったの?
――どうして、私に何も言ってくれなかったの?
――婚約って……何?
答えの出ないたくさんの疑問が、濁流のように美優の頭を支配していく。
今まで心の底から信じて、大切に育んできたはずの二人の愛は、すべてただの幻だったのだろうか。
「うぐっ…うう…ふっ…ううう」
とめどなく流れる涙は、止まることを知らない。
すぐ横の車道を、一台の車が大きな音を立てて走り去っていく。
巻き起こった生温い風が、美優の小さく震える背中を、慰めるでもなくただ無情になでて通り過ぎていった。
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