夏休みの強い陽射しが、どこまでも広がる青い海に反射して、無数の宝石のようにきらめいている。
見渡す限り、自分たち以外には誰もいない、名も知らない静かな浜辺。
美優は白いワンピースの裾をひらひらとはためかせながら、打ち寄せる波際を素足で駆けていた。
「先生ー!冷たくて気持ちいいよ!」
冷たい海水が足首を洗うたびに、美優はキャッキャッと無邪気な声を上げて振り返る。
そんな彼女の姿を、少し離れた砂浜から見つめていた伊澄は、困ったように眉を下げてくしゃっと笑った。
「……学校の外で、先生はないだろ」
誰もいない隠れ家のようなこの場所でも、染みついた呼び名はなかなか抜けない。
からかうような、でも少し寂しそうなその表情に、美優はハッとして足を止めた。
波打ち際に佇んだまま、みるみるうちに顔を真っ赤に染めていく。
そして、もうどうにでもなれという風に、勢いよく叫んだ。
「じゃー、かなたっ!かなたぁ!かなたーっ!」
大切な名前を何度も口にすると、胸の奥がぎゅっと熱くなる。
恥ずかしさのあまりに俯きそうになった美優の身体は、次の瞬間、暖かな腕の中にすっぽりと包み込まれていた。
伊澄が美優の背中に腕を回し、愛おしそうに笑いながら抱き締めたのだ。
「あんまり可愛いこと言うと、海に放り投げるぞー」
「あははっ!怖いってばー!」
耳元で囁かれた冗談に、美優は腕の中で身をよじりながら、キラキラとした瞳で彼を見上げた。
伊澄は抱き締める力をそっと緩めると、大きくて温かい手で美優の紅潮した頬を優しく包み込む。
「美優……」
いつもより低く、甘く響いた彼の声。
美優が驚いて目を見開いた瞬間、伊澄の整った顔がゆっくりと近づいてきた。
美優の唇に、溢れんばかりの愛しさが込められた優しい口付けが落とされる。
重ねられた唇から、彼の体温が真っ直ぐに伝わってくる。
美優は嬉しそうに目を閉じ、そっと彼の背中に手を回した。
さらさらと引いては返す波の音が、まるで二人だけの特別な時間を祝福するように、いつまでも浜辺に響き渡っていた。



