不完全な僕達は。【完結】



静まり返った寝室には、カーテン越しに差し込む淡い光だけが満ちていた。

美優はベッドの上で、頭まですっぽりと布団をかぶって横になっていた。
先ほどまでの熱情が嘘のように静まり返った部屋で、そのすぐ傍らには、伊澄先生が静かに腰掛けている。

しばらくの沈黙の後、先生はぽつりぽつりと、自分自身の心の内を吐露するように語り始めた。

「ずっと隠してた……姫野に対する気持ち」

その声は低く、どこか自分を責めるような響きを帯びていた。

「これは絶対にいけないことだって、頭ではちゃんとわかってた。教師と生徒だし、年齢だって離れてる。……でも、あの日、姫野の真っ直ぐな目を見てたら、もう自分に嘘がつけなかったんだ」

布団の隙間から、美優はそっと目元だけを覗かせた。
先生の横顔は、ひどく切なげで、同時にひどく優しかった。
美優は胸の奥が震えるのを感じながら、掠れた声で言葉を返す。

「私だって……先生の事……最初はそんな風に思ってなかったんだよ?」

かつての、ただの「先生と生徒」だった日々が頭をよぎる。あの穏やかで、何の迷いもなかった時間が愛おしかった。

「だから……凄く悲しかった。先生と、ずっとあのまま、何も変わらずに一緒に過ごしていたかったから……っ」

本当の気持ちに気づいてしまったからこそ、今までの関係に戻れないことが怖くて、苦しかった。
美優の瞳から、再び涙が溢れそうになる。

それを見た伊澄先生は、困ったように眉を下げると、布団の上から美優の頭をそっと撫でた。大きな手のひらの温もりが、髪を通じてじんわりと伝わってくる。

「姫野。俺たちは世間から認めてもらえない立場だ。だから……」

先生が現実の壁を口にしようとした、その時だった。美優はそれを拒むように、先生の言葉を強く遮った。

「うん、わかってる」

美優は布団から顔を出し、濡れた瞳で先生を真っ直ぐに見つめた。少し泣きそうになりながらも、その声には強い決意がこもっていた。

「だから……先生。私が大きくなるまで、待っててくれる?」

子供のわがままかもしれない。それでも、これが今の美優にできる、精一杯の未来への約束だった。

自分の言葉を真っ向から受け止め、未来を提示してきた美優の強さに、伊澄先生は一瞬だけ目を見開いた。
やがて、すべてをあきらめて受け入れるように、ふっと肩の力を抜く。

「参ったな……」

先生は頭を少し掻きながら、困ったように、けれどこの上なく愛おしそうに微笑んだ。