【短編】滝川という男

結局、ブックカフェに3時間いた。

本を読んだり、しゃべったり。オレは、アルジャーノンは本屋で買うことにして、途中で読むのをやめた。滝川は手に取った『五番目のサリー』を途中まで読んで「次来たときに続き読む」と言って棚に戻していた。

次に来たとき、というのは、オレと一緒にという意味だろうか?
聞こうと思ったけど、なんとなく聞けなかった。
勢いで付き合ったけど、これからもずっと付き合うかは分からないし。

ブックカフェを出てもと来た道をブラブラと歩くと、何かを待つ列に気がついた。先を辿ると、アイスクリームショップだった。
そういえば、さっき階段ですれ違った女子高生もアイスクリームを食べていたな。

「並んでみる?」

聞くと、滝川の顔がぱっと輝いた。

「並ぶ!」

……素直。嬉しくなっちゃうじゃないか。
滝川と並ぶと、そこかしこから視線がちらちらと飛んでくる。特に、女子グループはひそひそ話しながら見てくるからストレスがたまる。
オレが

「……凄い見られるな」

と言うと、滝川は

「うん」

と固い声で言って、なぜかオレを隠すようにオレと女子グループの間に立って、睨みを効かせはじめた。

いやだから、女子が見てるのはオレじゃなくてお前だよ!
めんどくさいので、突っ込まないでおく。

10分ほど待って、アイスクリーム店の最前列まで来た。リッチミルク、クッキークリーム……色々ある。

アイスクリームを舐めながら階段を下りるのも、ローマの休日ぽくていいな、と思う。
そして、ローマの休日、もとい渋谷の休日もそろそろおしまいなんだ。

滝川は「どれも美味しそうだよなぁ」と言いながらアイスを選んでいる。
もっと喜ばせてやりたい。
滝川はなにが好き? なにが嬉しい?

オレは、滝川のことをまだなにも知らないんだ。

「すみません、オレはダブルで、ラテカカオとチョコチップ、コーンで」

隣で滝川が注文していた。
滝川は、チョコレートが好きなんだ。滝川の好きなものを1つ、覚えた。



渋谷駅まで戻ってきた。スクランブル交差点を渡り、雑踏の中に紛れていく。
スマホを見ると、5時半。家に帰って夕食だけ食べて、塾。まあまあいい時間。

「じゃ、ここで。オレ田園都市線だから」

滝川の家は山手線方面なことは知ってる。だからここでお別れ。
人の動く足音と、電光掲示板からの音楽。

オレはふと、滝川が返事をしないことに気がついた。
オレが目を向けると、慌てて

「そうだね! オレこっちだから!!」

明るく言ってJRの方を指さす。
そのわりに動かない。もしかして、オレと別れたあと、まだ渋谷で他の用事があるのか?
……まあいいか。

オレは田園都市線の入口に向かいかけてーーふと気がついた。

そうだ。
前回のデートのとき、別れ際に滝川に「次の日曜空いてる?」と聞かれたんだ。
それで空いてるよと答えて、今日デートした。

さっき滝川は聞いてこなかった。
別れ際にもたもたしていたのは、次の約束をしたくて、でも言い出せなかったのか?

オレが、自分のこと好きじゃないと分かっているから。
『高津が言ってくれなくても、オレは高津を好きだと言い続ける』と言っていた。

バカなくせに、変なとこで気をつかうなよ。
バカかよ。

胸が、気づかなかった自分への嫌悪と滝川の笑顔でいっぱいになる。

オレはUターンし、JR渋谷駅に向かった。
滝川は周囲から頭一つ抜けていて、すぐに見つけられた。
自動改札を通ろうとしているのをつかまえて、待ち合わせをする人がたむろしているカフェ前のスペースに引きずっていった。

「あのさ」

オレは滝川を見上げて言った。息があがる。

「次の約束してなかったなと思って。次の日曜、空いてる?」

「えっ……」

滝川は一瞬ぽかんとしてオレを見た。それから、信じられないというように、目を見開いてーー

「空いてる!!」

大きな声で言った。周囲の視線が飛んでくる。
ああ、こんなに嬉しそうな顔をするなんて。ニコニコ幸せそうに笑ってこちらが照れる。

もう少し付き合ってもいいかな、と思う。

それは、オレがほだされ始めているということだろうか。


(完)