【短編】滝川という男

「なんでオレのこと好きなの?」

「えっ」

滝川は、思ってもみなかったことを聞かれたように小さく口をあけた。読みかけの本にしおりを挟んで閉じ、ソファに沈めていた体を起こした。
オレも本を置き、コーヒーを口にする。

だって、滝川とは1年のときから同クラだけれど、ほとんど接点がなかったんだ。
入学式の直後は、席が「高津」「滝川」で前後に並んでいたから、多少は話したかもしれない。
でも、オレは文芸部と演劇部の掛け持ちをしていて、そちらの友人と付き合うようになり、滝川は滝川で別のイケメン集団に組み込まれていたから、ただのクラスメイトでしかなかった。

「……なんでって、そりゃ高津は凄くかっこいいし」

「は?」

「オレ、部活入ってないんだよね」

「はあ」

何を言いたいのか分からない。部活に入っていないことと好きになることと、どう関係するんだ。

「だから、高津が『文芸部も演劇部も両方入りたいから両方入部した!』って言ってるの聞いて、凄い奴だなって……」

確かにそんな話をしたような気もする。

「それから高津のことよく見るようになって。いつも本読んでるのも、演劇部で俳優じゃなくて脚本書きたいって言ってるのも、凄くかっこよく見えて。ほら、ロミジュリの」

「滝川、ロミオ頼まれてたよな」

「高津が脚本書いてるって聞いたから、引き受けたんだ。……棒すぎて下ろされたけど。あはは」

「そうだったな。はは」

笑いながら思う。
オレが脚本書いてるから主役引き受けたって、どんだけだよ。
胸がじーんとしてしまうじゃないか。

そして思い出した。
滝川は、棒読みで周りに呆れられても頑張って演じようとしていたんだ。結局下ろされても、明るく笑っていて……すぐ悩んだり凹んだりするオレと違っていいなあと思ったんだ。

「いつから好きだって思うようになったのか、分からないけど。……でも本当は、理由なんか後付けなのかも。高津が帰宅部でも好きになったと思う」

滝川は、まっすぐにこちらを見た。

「好きだよ」

ふわっと笑う。
オレは、柄にもなく真っ赤になってしまった。

「た、滝川さ、そういうのさらっと言うわけ?」

「付き合ってるんだから言っていいだろ。高津が言ってくれなくても、オレは言い続ける。そうすれば、高津もほだされてくれるかもしれない」

「分かんないけどさ」

つい横を向いてしまったけど、流石に照れ隠しなのはバレバレだろうと思う。

まあ、1回くらい答えてあげてもいいかもしれない。滝川はオレのためにデートスポットを頑張って探したんだ。

何か、滝川が喜びそうなことは……。