【短編】滝川という男

細い坂道は、途中で階段に変わった。
上の方から、アイスクリームを舐めながら女子高生のグループが下りてくる。滝川をみて、一斉に固まった。

「やだ…」「めっちゃイケメン……」

滝川は素知らぬ顔。自分のことを言われていると分かっているだろうけど。
と思ったら、突然手を握られた。

うお!? 何? 

カップル繋ぎで引かれる。案の定、女子高生たちは

「あ……そういう」

と目を丸くしている。
オレは、少し足早になった滝川に合わせて、その場を通り過ぎた。
階段を登りきったところで、滝川の手を振り払う。

「おい!」

オレは抗議するように言った。

「びっくりしたわ。付き合ってんだから、手をつないだっていいけど、いきなりだったから!」

どきどきしただろうが!!
とは、言えない。

滝川は、少し傷ついたような顔をした。

「ごめん、だって、あの子たち高津のこと見てたし」
「はい?」
「嫉妬した」

バツが悪いようにふいと顔をそらす。

いやいやいやいや! 女子高生が見てたのはお前だよ、オレを見てたって、どこからでてくるんだ、その発想。
オレが指摘しようと口を開いたとき、

「あ、着いたよ。興味あるかなと思って……」

切り替えるように、滝川が明るい声で言った。
わりと新しくて綺麗なビルの入口に「ブックカフェ」の看板。
中に入ると、書棚に新書や文庫、ハードカバー本などが並んでいて、図書館をカフェに改造したような店だった。実は本好きなオレは思わず本棚に目を走らせた。

あ、ダニエル・キイスの『アルジャーノンに花束を』読もうと思ってたんだ。ヘルマン・ヘッセもある。少し読んで面白いのあったら、帰りに本屋で買おうかな……。

はっ!

オレが振り向くと、滝川がソファ席に荷物を置いて確保していた。

「何飲む? 食べものもあるけど」
「アイスコーヒー……」

デート中なのに、自分の世界に飛んでしまったじゃないか。良かった、とでもいうように目を細めている滝川は、やっぱり後光の差すイケメンだ。

店内には鳥の声の混ざった音楽が流れている。ソファに座る。図書館と違って雑音が多くて話しやすいのがいい。

「滝川さ、オレが本好きだからここ選んでくれたの?」

オレは、アルジャーノンから目をあげて滝川に聞いた。
滝川は、同じキイスの『5番目のサリー』を読むのを止めて、オレを見た。

綺麗な顔を傾げるようにして笑う。

「うん。高津が喜びそうなところ、死ぬほど考えてさ……」
「あ、そ」

赤面。
オレはふと、告白されたときからずっと気になっていることを思い出した。

「滝川って、なんでオレのこと好きなの?」