【短編】滝川という男

日曜日の午後一時、ハチ公前。
皆、スマホを手に雑踏の中。スクランブル交差点の信号が変わると、人が波のように動く。
オレは、スマホで音楽を聞きながら滝川を待っていた。

ざわ、と人が動くのを感じた。
信号機のカッコーもピヨピヨも聞こえないのに? 
顔を上げると目の前にいた女子二人がオレを見ていた。向こうの学生グループも。
いや、オレじゃない。オレじゃなくてーー

「高津、お待たせ!」

後ろから声をかけられた。高津とはオレのことだ。
振り向くと、すらっとした長身の、後光が差してるのかという爽やかなイケメン。
どこで買ったのか、白いTシャツにベージュのパンツという地味ながらもハイプランドっぽいおしゃれな服で、前回のカミキリ虫とは雲泥の差だ。

「あー滝川…」

これは……隣に並んだらオレがちんちくりんに見えてしまうじゃないか! 
視線がちらちら飛んでくる。
周りが見てるのはオレじゃなくて滝川だろうが。

オレもつい、滝川をガン見していたらしい。
滝川が、自分の胸のあたりに手をあてながら、戸惑ったようにオレを見た。

「変かな? 一緒に買った無印の服着てみたんだ。こういう服って着慣れなくて」

「……いんじゃね?」

無印だったんだ?!
前のデートのときに、オレが引っ張っていって買ったやつか。無印がハイブランドに見えるとかイケメンマジックかよ。

「良かった」

滝川はあはは、と屈託なく笑った。
クラスの女子が

「滝川くんて、母性本能くすぐられる!」

と言っていたけど、なんとなく分かる。
純粋というかアホというか……この顔ならもっと天狗になっても良さそうなのに。

並んで歩き始めると、交差点に行く前にサラリーマン風に呼び止められた。
オレが顔を向けると、男は滝川に

「すみません! 芸能事務所の者なんですけど……」

と話しかけていた。スカウト?! 初めて見た。

オレがびっくりしていると、滝川は黙って首を振って「すみません」と言って前をむいた。
歩き始めると、またスカウト。
交差点を抜けて路地にはいると、ようやくスカウトの嵐が止んだ。

飲食店が並ぶ路地の坂を並んで登りながら

「すごいな、あんなに声かけられるんだ」

若干嫉妬まじりに感嘆すると、滝川はにこっと笑った。

「うん。オレ、見た目はいいみたいなんだ。役に立つことないなと思っていたけど。……でも、もし高津がオッケーくれたの、オレの見た目を気に入ってくれたからなら」

「別に、イケメンだからじゃない」

「うん……」

滝川が幸せそうにこちらを見る。
イケメンだからオッケーしたわけじゃないけど、……なんでだろうな。

気まぐれで保護した野良犬に懐かれたような、胸の奥がこそばゆいような変な感触。

ってか、目的地を決めているらしい滝川についてきてしまったけど、どこに向かっているんだろう。