キミが『好き』だと言えなくて。


図書館の入り口の前で、私はドキドキしながら彼を待つ。

淡い水色の綺麗めなワンピースに、ちょっとだけ大人な雰囲気にしたくて、髪をゆるく巻いてきた。
メイクも梨花に手伝ってもらって、やってきたんだけど……。

ちょっと気合い入れすぎかな?
変って思われたりしないかな?
ひと言目は? 何て言う?

ずっとずっと会いたくて、約束したときからこの日を心待ちにしていたはずなのに。

大学の入学式よりも緊張して、心臓はバクバクいってるし、手も足もガタガタ震えて……どうしようもない。

あーもう、どうしようっ!

ギュッと目をつむった、その時だった。

「……大丈夫?」

背後から突然かけられた声。

私はビクッとして肩を跳ね上がらせて、聞き覚えのある声に恐る恐る振り返る……と、

「はい」

あたしに向かって微笑むメガネの男の子。
それは他の誰でもなく、前原くんだった。

少し身長が伸びて、大人っぽくなった……?

だけど、一緒に過ごした頃と変わらない優しい笑顔に、胸がいっぱいになる。

本当にまた会えた……。

嬉しくて仕方なくて、思わず涙さえ浮かべかける私に、

「望月さん?」

どうしたのと、前原くんが首を傾げる。

「あっ、いや、何かしばらく見ないうちに大人っぽくなったなぁって……」

また会えたことが夢みたいに嬉しくてと言ったら、まるで前原くんのことを信じていなかったみたいで、私は咄嗟にそう返事した。

大人っぽくなったっていうのも、確かに素直に思ったこと、なんだけど……。

「ははっ、ありがとう」

お世辞だとでも思ったのか、前原くんは軽く流すみたいに苦笑して。

「望月さんこそ、大人っぽくなって、今日もすっごくかわいい」

「えっ……」

ずっごくかわいい……?

きっとそれこそお世辞かもしれない。だけど、さらりと言われた言葉に舞い上がって赤面していると、

「……あ、そうだ」

前原くんは思い出したように、ポケットから何かを取り出し、私に差し出した。

それは……。

「カイロ……?」

「うん、待たせちゃって寒かったでしょ。さっきも震えてたから。やっぱり寒がりなんだね」

クスッと苦笑して言われた言葉に、カイロを受け取りながら目をパチパチさせる。

……そうだ、あの時のこと。中学の入学式のときから、誤解されたままなんだ!

「だから、あれはねっ……」

『寒かったんじゃなくて』と、慌てて説明しようとした時、

「あっ……!」

小学生くらいの男の子ふたりが走ってきて、前原くんはぶつかりそうになった私を庇うように体を引き寄せた。

「っ……」

前原くんのおかげで衝突は避けれた……けど、思いがけず密着した体にドキッとして、

「大丈夫?」

「えっ? あっ、うん……」

心配してかけてくれた言葉に頷く私の顔は、鏡を見なくても真っ赤だとわかる。そして、

「あ……ごめんっ」

少し慌てた様子で離された体。前原くんの顔を見ると、私と同じ。耳まで赤く染まっていた。

「とりあえず中、入ろうか。寒いよね」

手を口元にあて、顔を隠すようにそう言って、図書館の中へ入ろうとする前原くん。

照れてる……?

前原くんの反応に、嬉しいけれど何だか更に恥ずかしい気持ちになって。

「うん……あっ、でも!」

私は前原くんの制服の袖を、咄嗟に掴んで止めた。


『ありがとう』も『ごめんね』も『おめでとう』も……言いたいことは沢山ある。だけどまず最初に伝えたかったこと。

「なに?」

「あの……」

あのね、私ね……。

ぽかぽか、手のひらの中のカイロのように、私の心をあたためてくれたのは、いつだってキミだった。


「私ね、前原くんのことが大好き」