Seventeen Vlog











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 学校に行くのを諦めた日のvlog
 #vlog#不登校 #jk

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[7:14 重いドアを開ける]


 家を出る。ドアを開けた瞬間、最高に優しい10月の朝日で、泣きそうになる。制服を纏ったけれど、私の気持ちは乗らない。学校に行きたくないのは、誰だってそうだ。
 

[7:21 ゆっくり歩く]

 
 見慣れた住宅街を抜け、駅の近くにたどり着いた。片側一車線の道路を挟んで、左側には、3年間通った中学校が見えている。一瞬、後ろを振り向き、誰もいないことを確認した。iPhoneを取り出すために、わざと立ち止まる。別に悪いことなんてまったくしないけど、何もないのに、動画撮影をするのは、ちょっとだけ後ろめたい気持ちになるのは、どうしてだろう。
 向かいから歩いてきた人とすれ違う。スーツを着た女の人。少しだけ、視線を感じた。そんな視線も無視して、私はあまり迷惑にならないように、シャッターが閉まっているお店と、コカ・コーラの赤い自販機を意味もなく映す。


[7:25 結局、朝の公園]

 
 公園のベンチに座る。ベンチはひんやりと冷たかった。比較的大きめの公園は、私の夢のあとみたいに見えた。緑が深くなり、ところどころ、色づき始めた木々が揺れている。ジャングルジムが黄色い朝日に照らされ、キラキラしている。赤と青と黄色の三色で塗られた砦みたいなジャングルジムはドリームコアになるのかなと思いながら、iPhoneを向ける。

 夢をRECし終えたあと、iPhoneをスクバに入れる。もう、行きたくない。去年、あの学校を受験した選択自体が、もう、間違いだったんだ。
 独りぼっちは、大丈夫だって思っていた。周りのノリが合わなかった。空気が合わないから、もう無理だって、親に相談したら、学校は友達を作るところじゃない。勉強するところだって言われて、なんとも言えない学校への嫌悪感を受け入れてくれなかった。


[7;35 時計の針は電車の時刻を過ぎました]


 公園の時計を映す。右手の親指と人差し指でiPhoneの画面に触れ、拡大したり、縮小したりを繰り返す。時計はそのたびに大きくなり、小さくなった。
 誰も同じ中学出身の子が入学しなかった。だから、仲間をつくらなくちゃって、私なりに頑張ってみた。だけど、すべて空振りに終わったのは、去年のゴールデンウィーク明けだった。
 私のいないところで、私のことを「うざいよね」って言われているのを聞いてしまった。それっきり、私の心はプレパラートのように粉々になってしまった。
 私の心は薄いガラスだったんだって、自覚した。理由はわかる。中学で一緒だった子たちと、同じノリで関わってしまったのが間違いだったんだ。
 たぶん、距離感バグってるって思われたのかもしれない。うざがられて当たり前だよねって、悲しくなった。

 
[これから学校に電話します]


 青空を映したあと、RECボタンを押した。カメラをスワイプし、受話器のアイコンを押した。電話連絡は毎回、憂鬱だ。夏休みまでは、ぼっちでもいいやって、開き直ったつもりでいた。
 夏休み、中学のときの仲間4人と花火を見に行った。そのときに、私のなかの心の糸がプツンと切れてしまった。なんで、私は仲間といると普通に楽しく過ごせるのに、あの学校では、ひとりぼっちなんだろう。
 花火見た翌日、仲間4人のなかのひとりであり、一番の親友に、たまらずにこのモヤモヤを話した。

「一緒の高校に行ってあげなれなくて、ごめんね。私が守ってあげれたのに」
 そう言われて、地味に傷ついた。親友は倍率4倍以上の美術コースがある公立高校に入った。だけど、私はその高校の普通科は偏差値が高くて、私の実力じゃむりだと思ったから、受けなかった。だから、私が持っている実力で十分受かりそうな高校を選んだ。
 だって、虚しくなるじゃん。私は最初から挑戦せず、逃げたんだから。


[7:39 電話終わりました]
[どうして、電話って緊張するんだろう]
[今日も私は欠席]


 もう一度、時計を映した。今度は、拡大とか、そういうことはせずに、普通に時計と青空を撮った。本当は登校するまでのvlogを撮ろうと思っていたのに、私は今日も不登校vlogの素材を作ってしまった。
 学校への電話は、今日も簡単に終わってしまった。これは学校の配慮だ。夏休み明けから、学校を休みがちになった。親は、卒業まであと1年半なんだから、そんなことくらい我慢しなよ。って言った。確かにそうだよねとも思った。そんな理由で学校いかない私のほうが、おかしいんだから。
 担任と親と話し合った結果、スクールカウンセラーと何回か面談をした。その頃から、スクールカウンセラーの先生の計らいしてくれて、本人が直接、欠席の連絡をしていいようにしてくれた。
 だから、今日も事務連絡みたいな感じで、休みます。わかりました。みたいなやり取りで、欠席することになった。


[7:41 どうして季節は移ろうのかしら]


 風が弱く吹いている。そのたびに木々が揺れている。休むことが決まっても、心はすぐに癒されない。前に似たような構成の動画を出した。私のアカウントはその動画で少しバズった。『不登校が動画上げるな』『学校サボるな』『事情はあるだろうけど、学校は行ったほうがいいよ』『Vlog撮れるほど元気なら、学校にも行こうね』とか、いろんなコメントがついた。
 『吐き気するのわかる』『よく頑張ったね』『学校に行こうとしてるの偉い』『不登校になるのは、心も身体も疲れ切っているんだよ』とか、いろんなコメントもついた。
 私はひとつのことに気がついた。人は自分が経験しないと、その痛みを想像できないということだ。
 

[7:55 帰り道のセブンでカフェオレ買う]


 カップに入っている大きめのカフェオレを録画したあと、iPhoneを制服のポケットに入れ、カフェオレをレジに持っていった。お店にいる他の人たちは、朝の忙しさのなかにいるようだった。自分だけ、その忙しさのなかで、ものすごく浮いているように感じ、また罪悪感が胸いっぱいに広がった。
 私が懲りもせず、不登校の日のVlogを上げようとする理由は、どうしてなのか自分でもわからない。ただ、私のことを発信することで、みんなが当たり前にできることができない、こんなどうしようもない私も生きているんだよって、ただ伝えたいだけなのかもしれない。
 それが承認欲求なのかは、私にはわからない。別に認められたいわけじゃない。ただ、私がここにいるという証拠を残したいだけなんだ。


[8:12 ただいま]

 
 家の玄関ドアの鍵を開け、扉を開くところまでをiPhoneのカメラで収めた。
 先週、スクールカウンセラーの先生と面談したときのことを思い出した。環境を変えるのも選択肢のひとつで、通信制の高校に編入することも視野に入れてもいいと思うと伝えられた。
 その理由は、人は居場所が見つけられたら、それだけで安心感が生まれるものだからみたいだ。

 もちろん、スクールカウンセラーの先生には、Vlogを投稿していることは伝えていない。今の私の唯一の心の支えは、Vlogを投稿することになっているのかもしれない。動画をアップしたら、コメント欄をオフにしよう。もう、ポジティブもネガティブも、正解も不正解も、なにも言われたくない。


[8:20 カフェオレ飲む]


 部屋に戻り、デスクの上にプラスチックカップのカフェオレを置いた。また、iPhoneを手に取り、ストローを挿す姿を撮影し続ける。そして、カップを手に取り、カフェオレを一口飲んだあと、カップの横で、右手を何度か振った。


[BAY BAY]


 いろんなこと、考えなくちゃならないけど、今はなにも考えたくない。単位もギリギリで絶望的になってきているから、いろんなこと、やっぱり考えなくちゃいけない。
 その前に季節が巡って、早く冬になってくれたらいいのに。
 初雪で白くなった雪を見たら、きっと、今のモヤモヤだって、一緒に溶けてなくなる気がするから。
 
 






通信制高校生の日常Vlog 
 #vlog #日常#生活音
▶  247回  ♥2 🗨️0 🏴0



[7:03 4月の雨は寂しいね]


 カーテンを開いたあと、窓ガラスについた雫を撮影した。すっきりしない灰色の世界は、世界の色がモノラルになってしまったのかと思えるくらい、暗くて、気持ちがすっきりしない。
 低気圧の所為か、頭痛がする。目覚めてからずっと。真夜中に、久しぶりに高校のとき、気になっていた男子にメッセージを送った。だけど、返事はなかった。いつものこの頭痛のことを返事をくれなかった君の所為にしたいくらい、痛い。



[7:12 頭痛に鎮痛剤]
 

 軽く身支度をしたあと、白色のダイニングテーブルにグラスに入った水と、2つのアスピリン錠をiPhoneで映す。
 明日は晴れるらしい。月に3回の登校日に合わせて、出来上がったレポートを学校に提出したいな。そしたら郵便局に行かなくても済むから。今日はしっかり数学と世界史のレポートをやって、さっとやるべきことを終わらせたい。
 だけど、この頭の痛みは、決して君の所為じゃないよ。私がいけない子だったんだよ。それでも君のことを考えているなんて、最上級の片思いだし、最強級の思い上がりだよね。



[7:19 MacBookちゃんおはよう]


 親からの型落ちのMacBookを使っている。もう、7年も前の型みたいだけど、あまり気にしていない。私のMacBookの使い方なら、今でも、快適に使えるって、パパが言っていた。
 確かにその通りで、なにも苦に感じていない。とりあえず、ブラウザからネトフリを立ち上げた。そこまでの過程を左手にiPhoneを持ったまま映した。
 メッセージの男子とは、同じクラスメイトだった。去年の12月上旬、学校を辞める直前のときがきっかけだった。たまたま帰りのバスが一緒になって、思いがけず、話が盛り上がった。そのときをきっかけに、12月、少しだけメッセージのやり取りをした。
 メッセージもいい感じだった。君は大人っぽくて、優しかった。もし、クリスマスデートに誘われたら、行こうと思ったし、自分から、声かけてみてもいいかもって思っていた。同じクラスの男子に恋してもいいのかなとか、考えながら、メッセージをやり取りするのは、楽しかった。

 その次の週から、私は学校に行けなくなった。自称進学校の生活に疲弊した。毎日のようにある小テストと課題の山。周りとノリが合わなくて、友達ができなかった。合格点ギリギリで入ったから、最初から、みんなの後ろを追うように勉強することの焦り。全部が、上手く噛み合って、ある日、私は学校に行けなくなった。
 
 

[いただきます]


 さっき、キッチンで温めたコストコのベーグルと、ネイビーのマグカップに淹れたホットミルクを映した。本当はタプレットが欲しい。一番欲しいのは、iPad mini。大学生Vlogでよく観るような、レポートとか、ノートとかを、iPad miniとApple Pencilでデジタル完結するような学生生活を送りたい。私は看護師を目指している。理由は小さい時によく病院に入院していたから。看護系の大学に行きたいから、そのために受験はしようと決めている。
 ベーグルを食べたあとも、頭痛はあまりひかなかった。薬が効かないと、憂鬱になるけど、仕方ないよね。

 12月の上旬、私は不安定だった。だから、あの日、君とふたり、バスを降り、駅のベンチに座って話していたとき、気がついたら、君の言葉で、私は泣いていた。
『ずっと俯いてたのが、気になってた』

 もし、恋人がいれば、こんなとき、励ましてくれるのかな。君はきっと、励まし上手なんだろうなって、ふと思った。高校生から恋人は必要なんじゃないかなって、私は寂しさや、日々の痛み、つらさを感じるたびに、そう思う。もし、幸せになるために努力が必要なら、もう一人の存在を探す努力が必要だと思う。
 もし、恋人がいれば、私の性格的に、なんでも乗り越えられるような気がするから。



[7:39 レポートスタート]


 白のデスクの上に、世界史の教科書と、紙のレポートを広げる。デスクにそれらを広げたところを10秒くらいiPhoneで映した。デスクの奥に追いやったMacBookのブラウザは開きっぱなしだ。Spotifyを開き、おすすめに上がってきたLo-fi HipHopのプレイリストを再生すると、一気にチルくなった。
 私は教科書を開き、レポートに書かれている問題の答えを教科書から探し始めた。
 いつか観たショート動画の中で、Lo-fi HipHopはレコードのノイズやカセットテープのノイズを入れつつ、ジャズとかヒップホップとかをミックスアップしたものらしい。1年生の冬休み明けから、通信制高校に転校した。最初の頃、最新のヒットチャートを聴いていた。だけど、歌詞が頭の中に入ってきて、あまり集中できなかった。だから、Lo-fiを流すことにした。
 Lo-fiを聴きながら、勉強すると、自然と集中できる。あと一年半くらいで訪れる大学生生活も、きっと、私はLo-fiで集中するんだと思う。

 


[10:48 レポート終わり]


 数学の教科書を閉じるところをiPhoneで映した。そして、iPhoneをデスクにそっと置く。世界史と数学のレポートが終わった。しっかり集中して、片付けることができて、ほっとした。これで明日の登校日にレポートを提出することができる。息を大きく吐いたあと、デスクに置いたiPhoneを再び手に取り、君とのメッセージを表示する。

『こないだ泣いてたよね。もしよければ、話聞かせてよ』
『ずっと連絡待ってるから』

 去年の12月のメッセージ。君からのメッセージで時が止まったままだった。私は君に対して、なにも言い出すことができないまま、学校に行くこともできず、そのまま通信制高校に転校した。あれから4ヶ月以上経った。昨日の夜、私は君にメッセージを送った。

『ずっと黙ったままでごめんなさい。自分勝手だけど、私、会って話たい』

 身勝手なのはわかっているけれど、君に会って話たいと思った。12月のわずかな期間、メッセージを送り合っただけの君。友達でも恋人でもない君に対して、メッセージでも通話でも伝えられないと思った。
 だから、こんな午前中、学校の10分休みで返信してくれると思わなかった。
『待ってたよ。俺も同じこと考えてた』
 だから、私は会って君に直接、話たい。そして、こう君に伝えたい。
「前、向けるようになったよ」







17歳の卒業式

 #vlog  #期限切れjk #17歳で卒業
▶ 32万回  ♥2267 🗨️53 🏴2197



[6:28]
[今日は卒業式です]


 ハンガーラックに掛けた制服をiPhoneで数秒間、カメラで撮影した。ブレザーに白Yシャツ、赤リボン、チェックのスカート。3年間、なんとか卒業まで迎えることができた戦闘服を見て、よく卒業まで迎えることができたよねって、ちょっとだけ感慨深くなる。制服は可愛くて気に入っているけれど、学校ガチャは大外れだった。
 ひとりぼっちのまま、卒業できちゃうなんて、自分の生命力の強さを褒めたい。 



[6:38]
[3月8日が誕生日]
[早生まれJKは17歳のまま卒業します]


 白いダイニングテーブルの上に置いてある、朝ごはんの、白いお茶碗の白米に、昨日の残りの肉じゃがをiPhoneのカメラで撮影した。そのあとお母さんとお父さんに「卒業おめでとう」と言われたから、「ありがとう」と言った。ふたりとも仕事で行けないことを謝ってたから、「もう、高校生だからいいでしょ」と言うと、「そういうものじゃないし、お祝いだからね」とお母さんから、返された。

 そのやりとりで、そっか。やっぱりお祝いごとなんだと、なんとなく卒業に対して、実感が湧いたような気がした。私は17歳で卒業する。それは、早生まれだからだ。卒業式の1週間後に誕生日を迎え、ようやく18歳になる。
 


[7:22]
[最後の制服姿]
[実年齢より1歳上の扱いには、もう慣れっこです]


 制服を着て、壁掛けミラーに映る自分の姿をiPhoneで撮影した。顔にはモザイクをかけた。最後まで、顔出しはしないまま、Vlogの投稿は貫き通したい。この動画を最後にしばらくVlogをアップしないつもりでいる。
 もともと、ぼっちJKを主題に置いていたアカウントだし、『Vlogは18まで』ってなんとなく、引き際が綺麗でかっこいい気がする。毎年、出席単位ギリギリだった。年間で20日くらい休んでしまえば、こうなるのは当たり前だし、担任から、また単位ギリギリだよって、嫌味っぽく電話を受けたりもした。
 この学校では、弱者はフォローされるというより、自己責任でしょという冷たさがあったような気がする。それは教員もそうだし、生徒もそうだった。陽キャグループに入ることができたら、多少のフォローが入るかもしれないけれど、陰キャで三軍以下だったら、あまりフォローはされない。空気みたいになかったことにされることが多かった。



[7:28]
[駅まで歩く]
[好きになれなかった学校生活も今日で最後です]

 
 信号待ちで立ち止まった、足元をiPhoneで撮影する。白い朝日で、乾いたアスファルトすら新鮮に感じる。電柱の隅に生えている草は、朝露で濡れていた。いつものブラウンのローファーに黒のハイソックスを履いている。ゆっくり息を吸い込むと、春の匂いがした。少し前までタイツを履いていたのに、あっという間に季節は巡っていく。
 
 もともと、高校受験が失敗に終わり、滑り止めでこの学校に来てしまった。だから、最初から、愛着なんてなかった。最初のころは、人間関係、頑張って作っていこうと思って、頑張ってみたけれど、あまり上手くいかなかった。同じクラスの子たちとも、上手く仲良くなれなかった。そもそも運動部の強豪校だから、基本、テンション高かった。それに、レギュラーになれない人たちは、ストレスがすごくて、誰かの嫌味を言っていたり、悪口で盛り上がるのは、当たり前みたいな雰囲気だった。

 
[7:52]
[最後の電車]
[ひとりぼっちで、望んだ青春とかできなかったけど]
[とりあえず卒業できて、ほっとしています]
 
 
 電車の銀色のドアが開く瞬間をiPhoneで撮影した。いつもクラスでも腫れ物扱いをされてきた。普通の学校だったら、白けた空気になるはずなのに、性格の悪さが滲み出るような独特の威圧感があったような気がする。何もしていないのに、くすくす笑われたりもした。
 なにか変な問題があったら、私がやったんじゃないかって、噂も流されたりした。別に黙ってただけだし、それなりに身綺麗にして、身なりも気をつけていたけれど、それでも私は異質扱いされていた。もともと、学校が苦手なのに、余計に苦手になって、休みがちになった。

 いじめられていたわけではないけれど、異質扱いはされた。それが苦しくて、学校を辞めようと何度も思った。だけど、たった3年間、我慢すればいいんでしょって、開き直って、自分を強く保つことにした。ときおり、自分を強く保つことができなくて、何日間か、学校を休んだ。自分のことを充電するみたいに、部屋にこもった。

 限界に近かったと思う。それでも、こいつらに私の人生、壊されるのは嫌だって反骨心で、無理矢理、学校に行った。特に3年生のクラスの最悪だった。運動部が引退したあと、みんなだらけて悪ノリで毎日、馬鹿笑いしているような環境だった。大体が、受験勉強しなくても、付属の大学に進学することになっていた。だから、みんな受験シーズンなのに、もう自由を謳歌しているような雰囲気だった。
 そんな毎日が、ノイローゼ気味になり、あまり受験勉強も、身が入らなかった。家に帰っても、ストレスで集中できない日々が続いた。



[8:16]
[学校まで歩く]
[慣れっこでも、17歳で卒業するのは]
[ちょっとだけ取り残された気持ちにもなります]


 改札のICリーダーにタッチするところと、そのまま、出口まで向かうところの足元を撮影した。結局、私はまた受験に失敗した。望んでいた大学には、不合格だった。現役にするために他の大学に行くことも考えたけれど、高校受験のときみたいに、また妥協して、望まない選択はしたくないなと思ったから、浪人することにした。
 怒られるかなと思いながら、親に素直な気持ちを伝えたら、「早生まれで1年急かされて生きてきたんだから、1年くらいいいよ」と返してくれた。

 結局、この学校に居て、自分を強く保とうと思ったけれど無理だった。勉強に集中できなかったし、学校から帰ってきたら、疲れ切っていて、勉強したいのに、寝てしまうことがほとんどだった。いくら、土日で頑張っても、また平日は学校で消耗して、頑張れない日々が続いた。
 こんな学校、早く抜け出したくて、自分を変えたくて、頑張ろうとしているのに、学校のくだらない環境が足かせになった。

 だけど、この学校で威張り散らしているような人のほうが、人生、上手くいきそうな気がするのはどうしてだろう。たぶん、普通に恋愛して、普通に就職して、普通に結婚してという順風満帆な人生を送りそうな気がする。普通に子供も育てて、普通に家を買って、普通に孫を可愛がり、そして、普通に生涯を全うして死ぬ。
 高校生のとき、私のことをバカにしていたことなんて忘れて、普通の幸せを手に入れるんだ。きっと。

 一方の私は、このまま、鬱屈したままだと、自分を幸せにすることができない気がする。一生、異性からも愛されないで、鬱屈と戦う。自分の人生、好きになれないまま、なんとなく生活のために仕事をして、休日に誰かの普通の幸せを見て、自分と比べてしまう。

 そんな人生、嫌だから、私は私の手で自分の未来を変えたい。




[12:08]
[卒業式、終わり!]
[最後のホームルーム終わって、すぐに抜け出しました]


 玄関の前に立てかけられた『卒業証書授与式』の看板を少しだけアップにして、学校名がバレないように撮影した。玄関前には、数人の保護者以外、人がいなかった。私は振り向くことなく、学校の最後の姿すら見ないで、駅まで歩き始めた。

 最後の最後まで、悔しかった。卒業式なんて、単位なんて関係ないから出なきゃよかった。クラスでは、打ち上げの話でもちきりだった。もちろん私は誘われていない。それをわかって、嫌なやつが、私を指さして、くすくす笑っていた。
 担任の最後の言葉も、明らかに私を意図した発言をしていた。
「この中で1人以外は進路決まっています。自分が選択した道を信じて進んでください」
 そのあと、「え、1人やばっ」って、誰かが言って、なぜかクラスは笑いに包まれた。担任も笑っていた。

 今まで、泣かないようにしようと努力してきた。胸の奥底が、ものすごく、ぎゅっと握りつぶされる感覚がして、一気に泣きそうになったから、思いっきり歯を食いしばって、涙が出ないように我慢した。

 学校を出たあとも、ふわふわしている。憔悴(しょうすい)したんだ、私。
 外は朝よりも暖かくなっていた。朝露が日差しともに旅立ち、爽やかな春の匂いは朝よりも、強くなっていた。早く、学校があるこの街からも出てしまいたい。誰一人、同じ制服の人が歩いていない、この道を一刻も早く抜け出したくて、私は走り始めた。 



[12:57]
[地元のイオンのフードコートでお祝い]


 イオンのフードコートのカウンター席に座り、ミスタードーナツで買ったポン・デ・リングと、チョコファッション、そしてアールグレイのアイスティーをiPhoneで撮影した。卒業祝いと、ちょっと早い自分への誕生日プレゼントだ。親が気をつかって、卒業式終わったら、友達と遊びに行くかもしれないからと、朝、ポチ袋に入った『卒業祝い』をもらった。
 結局、この3年間、まったく友達がいないことを親に言わずに終わってしまった。たぶん、親の印象は私の学校生活は上手くいっていないだろうけれど、多少の友達はいるものだと思っていただろう。だけど、現実は違う。

 ひとりぼっちで、私の青春は終わり、今日、期限切れJKになった。
 Vlogも今日でいったん、更新をやめるつもりだ。受験勉強をしっかりやりたいし、Vlogで埋めていた、私なりの青春にも別れを告げたいから。

 ため息をついたあと、バッグから『卒業生の進路先一覧』というプリントを取り出し、それをカウンターに置いた。そして、iPhoneを手に取り、そのプリントの一部を撮影した。



[ちなみに進路先未定者は私です]

 
 『進路先未定者:4名(1.7%)』この項目だけ、iPhoneで撮影した。
 私は240名のうち、1%の存在らしい。『卒業生の進路先一覧』を配られることを知らなかったから、思いがけず、心にくるものがあった。やっぱり異質扱いのまま、私の高校生活は終わってしまったんだなって思った。
 この高校は大学の付属校だから、ほとんどが、その大学に推薦で入学する。成績も倫理観も関係ない。ただ、学校で問題を起こさず、しっかり出席していれば、簡単に進学できる。私は最初から欠席する日数が多かったから、推薦はできないと明確に断られた。そんなこと言われても、私にとってみれば、別に目指してもいなかったから、どうでもいいことだ。


[行きたい大学目指して、もう1年頑張ってみます]


 明日から、勉強し始めよう。
 私の未来は私の手で掴み取れるんだから。

 







友達とデート前の私

 #vlog  #儚い #jk
▶ 1.7万回  ♥267 🗨️5 🏴107



[9:23]
[좋은 아침이에요 아침이에요]
[おはようございます。朝です]

 
 キッチンで、ヨーグルトをお皿に盛り付けるところをiPhoneのカメラで収めた。字幕を入れるとき、韓国語を入れてみよう。Chat GPTに翻訳させたものを乗せて、ちょっと可愛くしたい。今日のお昼、サイゼリヤで親友から恋愛相談を受けることになっている。親友の気になる人は、友達だってお互いに言い張っている仲の男子で、学校でもモテるタイプの男子だ。
 学校でも、もう、思いを伝えちゃえばいいじゃんって、何度か言ったけれど、『これで友情が崩れたら怖い』って言っている。

 一方の私の恋は、SNSで知り合った彼とのやりとりで、遠距離恋愛だ。リア恋のはずなのに、推し活みたいな遠さで、このままこの恋を続けていいのか迷っている。

 部屋に戻り、カーテンを開ける。窓の外から見える街路樹は、黄色く色づいていて、あと1週間もすれば、すべてが散ってしまいそうなくらい綺麗だ。一瞬、Vlogの素材にしようかなと思ったけれど、あまりにも家から近い場所を撮ると、危ないから、やっぱりやめることにした。
 


[9:27]
[아이패드로 유튜브 보면서 밥 먹는 중]
[iPadでYouTube見ながらごはん]

[오늘은 친구의 연애 얘기 들으러 가요]
[今日は友達の恋バナを聞きに行きます]

 
 デスクの上で朝食のヨーグルトと、iPadをiPhoneのカメラで収める。サイゼリヤでがっつり食べるつもりだから、軽めの朝食にした。もう、気がつけば11月の下旬だ。きっと、親友はクリスマスに合わせて、気になる男子と恋人になりたいのかもしれないと、ふと思った。いいなぁ。クリスマス。私も新しい恋に行ってもいい気がする。

 私にとって、Vlogは完全に趣味でやっていることだけど、ちょいちょいバズって観られているようだ。雰囲気がいいって、よくコメントで言われる。完全に私の趣味の押し付け、私の好きを集めて、適当にやっているだけなのに、そう言ってくれるのは、嬉しいし、モチベーションにもなっている。
 SNSは趣味でやっている分には、気晴らしになるし、気楽でいいんだと思う。これをガチって収益化とか、お金が絡むと、急に面倒になりそうで怖い。発信も使い方次第で、幸せにもなるし、不幸にもなるんだと思う。

 昨日も、DMで彼とのやり取りをしたけれど、なんだか、不毛に思えてきた。私は2ヶ月くらいこの彼とのやり取りをする時間を捧げているけれど、自分でもこれが恋なのか、ただの世間話をする相手になっているのか、わからなくなってきている。
 彼とは、明確には付き合っていない。ただのDMと通話する友達のままだ。そもそも彼と私は1000キロ以上も離れた場所に暮らしている。
 


[10:17]
[에센스로 피부 관리할게요]
[美容液でお肌整えます]


 Anuaのアゼライン酸15を取り出す。瓶の緑色が鮮やかで好き。スポイト付きの蓋を取り出すところまでを、iPhoneのカメラで収めた。自分の肌にあっているような気がして、最近、よく使っている。
 
 そもそも、私は男女の友情は成立しないと思っている。だから、親友の『友情が崩れたら怖い』というけれど、恋仲になりたいなら、その怖さを超えなければいけないと思っている。友達のままがいいなら友達でもいいと思う。だけど、友達の関係は長くは続かないと思う。

 そう思うのは、中学3年生のときに、私自身、それを経験したからだ。その彼は、隣の席になって、なんとなく仲が良くなった。私と彼が仲良くなったから、男子の仲間と女子の仲間、合わせて5人くらいで、遊びに行ったりもした。
 
 私はそのとき、彼のことを友達だと思っていたけれど、ある日、彼から告白されて戸惑った。私は友達のままでもいいと思っていた。友達として、彼を見ていたからだ。だから断った。

「ごめん、友達だと思ってる。ずっと友達でいよう」
「わかった。変なことして悪かった。これからもよろしく」
 彼は少なくとも、私がそう返したことによって、傷ついたはずだ。だけど、笑顔でそう返してくれた。
 そして、今はどうかと言うと、もう、その彼とは、会うこともないし、連絡も取り合っていない。受験勉強で忙しくなったからかもしれないし、別々の高校に入学したから疎遠になっただけかもしれない。男子って、少なからず恋心を抱いていないと、友情まで行かないんじゃないかって、なんとなく思った。
 もちろん、それは私の偏った考え方かもしれない。恋の対象として、興味がなくなったら、急に疎遠になるなんて、寂しいよ。だから、男女の友情は成立しないじゃないかって思っている。一方的に友情を抱いていても。



[10:22]
[헤어 오일로 찰랑찰랑한 머릿결을 만들어 볼게요]
[ヘアオイルでサラサラを手に入れます]


 ululisのヘアオイルを手に取る。透明のパープルの容器に施された多面体のカット。そのカットが光を適度に屈折させて、キラキラ輝いている。一瞬、煌めいた瞬間をiPhoneに収めたあと、iPhoneをデスクに置いた。

 今、DMと通話でやり取りしている彼は、きっと恋愛を意識していると思う。私も意識していた。ここ最近考え続けて、私のなかで結論が出てしまった。私のなかで、会えないのは恋愛じゃない。もしかすると、推し活のほうが、まだ会えてる感覚が得られるかもしれない。
 いつか、触れ合うのが恋愛な気がする。最初は触れられない薄い壁があって、その壁がそっと消えていくのが、私にとって恋愛なような気がする。

 いくら、DMや通話でやり取りをしていても、寂しさと虚しさが募るだけだ。
 iPhoneを手に取り、彼とのDMの画面を開いた。



[10:32]
[DM으로 연락하던 남자, 차버렸어요]
[DMでやり取りしていた彼のこと、振りました]


 ヘアアイロンをセットする様子をiPhoneのカメラで収めた。文字は「彼を振りました」って書いたけれど、本当は付き合ってもいないから、振ってもいない。そのほうがわかりやすいかなと思って、こんな感じで書いた。
 私は考えて、自己解決してしまうタイプだから、相手からすれば、唐突な別れを切り出すほうだと思う。それはひどいことだと思う。中学のときに私に告白した彼と、同じようなことをしている気がする。

 私だって、男女の友情は、結局、成立できないと思う。中学3年生のときは、成立できると思っていたけれど、高校2年生になった私は、きっと男女の友情なんて成立させることはできない。
 DMの彼とだって、友達みたいな関係のままでもいいはずだ。それで友情だって言い張ってもいいはずだ。だけど、私はこの中途半端な関係に耐えられない。

 彼に送った文面はこんな感じだ。

『いきなりごめんね。あなたとDMをしていると、だんだん自分が苦しくなってきた。仲良くしてくれたことには、感謝しているよ。あなたのこと、知れてよかったと思ってる。だけど、これ以上はもういいかな。もう、連絡取り合うのやめよう。あなたの時間、奪ってごめんね。今日で終わりにしようね。ありがとう』

 

[11:20]
[그럼 안녕! 다녀올게~ 👋]
[じゃあね、行ってきます]


 玄関のドアを開ける瞬間をiPhoneのカメラで収めた。出た瞬間、強い冷たい風が吹き、家の前の街路樹がカサカサ音を立て、黄色く揺れていた。いくつかの葉が落ちるのが見えた。街路樹の下のアスファルトには、黄色の束ができていた。
 準備している途中、だんだんと時間が足りなくなってきて、結局、メイクしているところは撮影しなかった。自分のVlogよりも、親友との約束の時間のほうが大切だ。

 DMを彼に送ったあと、少しだけ、虚しさでなにもできないでいた。自分が送ったメッセージを見て、けっこうひどいことしてるなって、罪悪感で自分が嫌になった。
 親友の恋愛相談を聞く日だ。私の恋愛相談を聞いてもらう時間じゃない。だけど、今日の気づきは、言いたいような気がする。私の経験なんて、大したことじゃない。

 私はこう思うってことを、ただ親友にも伝えてもいいのかなって思った。
 恋とか、友情って、考えすぎると難しいって。
 






金曜日♡放課後vlog
 #vlog #放課後 #透明界隈
▶ 18.7万回  ♥892 🗨️18 🏴22



[15:27]

 ガラガラの電車だけど、ドアにもたれて、いつもの海を撮っている。

[朝から録画しようと思ってたけど]
[寝坊したから、放課後からのスタート]
 

 私はちょっとしたインフルエンサーになったのは、去年の夏、初めて投稿した動画がバズったからだ。使っているコスメを透明界隈の雰囲気を織り交ぜて紹介したら、バズった。
 CEZANNEのグローリップと、無印のアクリルケース(5段の引き出しのケース)をメインに映した1本目の動画が私の代表作になった。

 アクリルケースの中には、JUDYDOLLのパレットやTIRTIRのクッションファンデとか、普段使いのなかでも、映えそうなものを目立つところに置いて、ちょっとあざといことをした。小物にも気を使った。スリコのシンプルなデザインのコンパクトミラーをさり気なく置いたりもした。
 透明感出てかわいいかもって思ったから。


[15:49 地元の改札]


 パスケースを改札にタッチするところの動画を撮ったあと、そのまま、数秒、私の足元を撮り続ける。黒ローファーの先とスカートの裾がチラチラと映る。

 Vlogでは、日々を充実させているふりして、本当の私はひとりぼっちだ。学校には同じ中学だった仲間の子が1人いる。その子の仲間とは仲がいい。お昼はいつも、その子と、その仲間2人と私。4人組になって、過ごしている。だけど寂しいことに、その子たちは、別の科だから、3年生になっても、私と同じクラスになることはない。

 部活も面倒だから、入るのやめて、私は帰宅部になった。そのほうが楽だから、そうすることにした。クラスでの私は、薄く広い付き合いって感じになっている。この学校は大人しい子ばかりだから、いまいち合わせるのが面倒に思えた。
 挨拶したり、話したりする子はいるけど、がっつり一緒に遊ぶとか、そういう付き合いはない。
 そういう意味で、私はひとりだけど、ひとりには、慣れてしまった。
 

[16:01 駅前ローソンでビスケットサンドご購入]
[あと2週間で夏休みだけど]
[それまでに]
[あと10個くらい買う自信ある]


 ローソンを出たあと、軒先で立ち止まった。左手にiPhoneを持ち、録画ボタンを押す。そして、買ったばかりの森永のアイスクリーム、ビスケットサンドを白いビニール袋から取り出した。
 真ん中にバニラアイスが挟まれているビスケットと、両縁の青色のパッケージ。それを日向でテラテラしているコンクリートを背景にゆっくりと数回揺らしたあと、撮影を終える。

 夏休みになったら、同じ中学だった仲間の子を含めて、5人で花火を観に行くことになった。そのやり取りが行われたグループチャットによると、5人の美女たちが彼氏いない寂しい奴らだぜって笑い合う会らしい。
 もちろん美女は身内の自虐的なネタで、中学から親しみを込めたお決まりとして自虐している。



[16:05 歩く]


 歩きながら、黒いローファーの先を数秒だけ撮影する。駅から家までは、大体歩いて15分くらい。帰ったら何しようかなってことばかり考えている。私が通っている学校は、一応、進学校を謳っているからか、アルバイトは禁止されている。
 それでも1年生のときは、夏休みの間、こっそりバイトをしたりした。イオンモールで携帯電話会社のイベントスタッフを1週間くらいやったり、Jリーグのチケットチェックを3試合くらいやった。冬休みは郵便局で年賀状の仕分けのバイトもした。
 いくつかのアルバイトで稼いだお金は15万くらいだったけど、それでほしかったプチプラコスメを買えたし、毎月のおこづかいと合わせても、十分だった。

 
[16:08 アイス溶けるから、少し走る]


 少しだけ駆ける黒いローファーの先を数秒撮影したあと、またゆっくり歩く。動画を飽きさせないようにするには、ちょっとした緩急が必要だ。
 嘘でも、ちょっとした演出は、やっぱり必要だ。だって、Vlogは人のことを楽しませることも必要なんだから。

 よく『顔気になる』『顔出ししてほしい』ってコメントが来るけど、フォロワー10万人を超えた今でも、顔出しする勇気がでない。
 気が向いたときのコメ返で『顔出しはハタチになってから🫰』って返してるけど、仮にあと3年、このアカウントをやり続けても、きっと、私は顔出しなんて、できないと思う。
 
 今のところ、学校の人たちに、このVlogがバレていないと思う。時折映る、制服や、学校近くの風景や、この街の風景で、この学校の生徒だってことは、何人かにバレているだろうけど、私がインフルエンサーということには気が付かれていないと思う。

 
[16:17 ただいま!]
 

 玄関に入って、ローファーを脱ぐところを撮影した。家の中が、むわっとしていた。2つ下の中学生の妹もまだ帰ってきていないようだ。リビングまで行き、とりあえずエアコンをつけた。両親は共働きで帰ってくるのは、大体18時台。妹もバスケ部だから、だいたいそれくらいだ。
 バッグの中に入れていたビスケットサンドを取り出す。少しだけ濡れていた。

 動画を最初にアップし始めたとき、Vlogではなかった。1本目の動画のようにアクリルケースの前で、コスメの蓋を開けたりする動画を3本くらいアップした。だけど、だんだん、ネタも尽きてきたから、『やってほしいことありますか?』って概要欄に書いて聞いたら、「日常が気になる」って、コメントが来たから、じゃあ、それやるか。と思って、Vlogもアップし始めた。
 そしたら、いい感じに動画の再生回数が回り始めたから、面白くなってきた。

 Vlogと合わせて、商品レビューもするようになった。買ったプチプラコスメとか、気になったガチャガチャとか、そういうやつ。なんでかわからないけど、20万回再生とか、50万回再生された。
 美女と野獣をモチーフにしたランプ(ガラス蓋に入ったガラスのバラが光るもの)を買って、商品レビュー動画を出したら、まさかの200万回再生された。
 その動画が私の第二の代表動画になった。


[16:19 ビスケットサンドを入れ、蘇生させる]


 キッチンの照明をつけないまま、冷蔵庫の冷凍室のドアを開け、ビスケットサンドを入れるところまで撮影した。恥ずかしいから、キッチンはあまり映さないで。と以前、ママに言われたけど、それは無視する。
 ママだって、私の動画、すべてをチェックしているわけじゃない。
 
 顔出しは恥ずかしいわけじゃない。ただ、自信がないだけだ。顔出しした瞬間、動画で、今まで作り上げてきた信頼や、期待が一気に崩れてしまいそうな気がするからだ。私は最初から顔出しをしないで動画を投稿しはじめたから、きっと、幻滅される気がする。だから、今までも、顔が映るところは必ず、顔にぼかしの加工をした。

 それでも、スキンケア商品やコスメの案件をもらったこともあるし、動画自体、収益化することもできているから、これでいいんだと思っている。案件で得た収益と動画自体の収益で、今はアルバイトをしなくても、お金が入ってくるようになった。

 よく言われている承認欲求なんてよくわからない。動画をアップし始めたときは、多少あったかもしれないけど、今は本当によくわからない。ただ、動画を上げて、私のことや世界観を喜んでくれる人が、楽しんでくれたらそれでいいと思っている。

 インフルエンサーになることは、過度な自己開示や、承認欲求に比例しない。これが今のところの私の持論。

 

[16:31 iPadでようつべ]


 自分の部屋に戻り、着替えたあと、スマホスタンドにiPhoneをセットして、いつもの画角になるように調整した。そのあと、LEDライトをつけ、部屋のカーテンを閉めた。
 そうすると、いつものキラキラする世界が完成する。アクリルケースの前にiPad miniを置いたあと、iPhoneの録画ボタンを押した。そして、自分も椅子に座り、iPadを操作した。

 だけど、私のリアルでの学校生活は味気ない。味気ない日常を映えるように演出しているだけだ。
 メイクだって、とびきり上手じゃないし、彼氏だっていない。私はただ、気の合う数人の仲がいい友達と、楽しく過ごせさえできればいい。
 私はただ、味気ない日常のなかでも、ひとつでも自分がやりたいこと——。つまり、アイスを買うとか、気になったコスメを買うとか、そういうことで日々を満たすことができたら、それで十分なんだ。
 未来へ向けた夢もないし、熱中したい部活だってない。
 別に、夢も情熱もなくたっていいんだ。

 
[17:20 ようやくビスケットサンドを食べる]


 キッチンにビスケットサンドを取ってきて、再び、椅子に座る。ビスケットサンドを右手に持った。そして、私はiPhoneのカメラに向かって、ビスケットサンドをシャカシャカと音がなるくらい振った。

 このさき、5年も、10年も私は、このアカウントで動画を投稿しているのかな。20歳になった私も、夏のある日、ビスケットサンドを食べるところを撮影しているのかな。25歳になっても。
 先のことなんて、まだ、なにもわからないや。17歳の今の私を満たし続けてさえいれば、今はそれで十分なんだから。

 今の私にとって、Vlogを撮る行為は、自分でもよくわからないし、意味付けをできていない。
 ただ、そんな私でも、これだけは言える。
 動画を作るのって、とても楽しいよ。








図書館でお勉強Vlog
 #vlog #テスト勉強 #恋愛
▶ 3798回  ♥36 🗨️8 🏴23


[17:02 先生さようなら みなさんさようなら]
[下校のお時間 勉強しない幼稚園の頃に戻りたい]


 学校を出たあと、歩いている様子を録画した。雨上がりの濡れたコンクリートと、白のコンバースでトコトコ歩く私。時折、ひらひらと映る制服のスカートの裾。親友と好きな人が重なったことが発覚したのは、先週のことだった。



[ところで、みなさんは親友と好きな人が重なったら、親友に譲りますか?]
[そんなことより、テストがやばいので、これからお勉強します]


 歩く私を映したまま、最近発覚したモヤモヤを、そのままテキスト入力しよう。私のアカウントは、冴えない私の日常を、儚く映し、恋愛話を入れて、軽く笑いを取るスタイル。コール&レスポンスみたいなものだ。コメントで軽くおしゃべりができたら、それでいいと思っている。私の冴えない日常はおまけ程度のもので、たまにそんな日常のミラクルを一緒にお届けする。


[17:06 虹、みっけ]


 慌てて、青空にかかっている虹を撮影する。ほら、こういうミラクルが起こるんだよ。私は、私自身でミラクルを起こせると勝手にポジティブに考えることにしている。だけど、今回のことは、けっこうショックだった。理由は単純で好きな人は、脈アリだと思っていたから。

 虹、見れたから、なにかいいことがあればいいな。なんて思っているけど、結局、私は親友に譲るつもりだ。どうして、親友に譲るのか。それは一言で言えば、ちょっと前に親友がひどい振られ方して、泣きじゃくっていたことも理由のひとつになっている。
 親友の次の恋が上手くいきますようにと思っていた矢先、親友から、新しい片思いの話を聞いた。それが私の好きな人だった。

 それとは別に、親友には、いろんなところで助けてくれたから、ずっと感謝している。小学校のときも、中学校のときも、ひとりぼっちになりそうだった私のことを、輪の中に入れてくれて、助けてくれた。だから、好きな人が重なったくらい、譲ってもいいと思っている。
 理性ではそう思っている。


[17:19 バス移動]



 バスからの車窓を人が映らないように、ささっと撮影する。別に悪いことしているわけじゃないけど、罪悪感が顔を出す。好きな人とは、このまま、友達でいいと思っている。今日の昼休み、好きな人から、親友のことを探られた。

 『俺のこと、どう思ってるんだろう』って聞いてきたら、
 『気になってるみたい』と伝えた。
 『あとで声、かけてみようかな。ありがとう。勇気出せそう』

 私も君のこと、気になってるみたいだよ。ってことは、どうやら、好きな人は感知しなかったらしい。そのやり取りの最中、なぜか、胸の奥がぎゅっと掴まれる感覚がした。きっと、好きな人は、今頃、親友に告白でもしているかもしれない。性格的に、親友は、自分から告白するタイプじゃない。

 『告白、待つべきだよね』って、昨日、親友に言われたから、
 『待つべきだよ』と答えた。

 今にして思うと、そう答えたのは、自分の些細な意地悪だったんじゃないかと思い、自分のことが嫌になった。そう、時間稼ぎ、答えの先延ばし、相手の恋が現状維持で進まないようにしたかっただけなのかもしれないと思ったから。よくわからない不可抗力で、もし、好きな人が私に振り向いてくれたら、それは私の恋になると思った。


[17:42 図書館 テスト勉強スタート]
[今のところ、私に恋はないので、お勉強しまーす]


 図書館の学習スペースに辿り着いたところから撮影し、2人がけのテーブル席に座った。窓側の席で、右手に窓がある。さっきの晴れ間は嘘だったみたいに、今はどんよりと灰色の雲で暗くなっていた。もう、堪えきれなかった涙みたいに雨が数滴、窓に当たった。



 [17:45 Study]


 とりあえず、バッグから英語の単語帳とノートを取り出し、それぞれ開いた。その状態を6秒、iPhoneで撮影したあと、テーブルの上にiPhoneを置き、勉強を始めた。
 単語を書くたびに、なにも考えないことを意識した。

 『意外と、話合うな』『優しいところあるじゃん』『もっと、話聞かせてよ』
 1ヶ月前にした、好きな人とのやり取りが嫌でも頭の中で流れ始めている。やっぱり、好きになっていた事実は変わらない。もし、君と付き合ったら、私はどんな話をしたんだろう。親友は、今頃、どんな話をされているんだろう。
 告白されて、甘い恋を意識し始めているのかな。

 iPhoneの画面に、親友からのメッセージ通知が表示された。
 昨日みた夢の中みたいに、気がついたら、右頬に涙が伝う感触がした。あーあ。開かなくたって、わかるよ。
 ごめんね、まだ、私の中で恋の感触が忘れられなくて、開けないや。
 







夜のお散歩Vlog
 #vlog #お散歩 #儚い
▶ 1012回  ♥23 🗨️1 🏴0


[mini vlog]
[22:04 お散歩]


 22時の県道を歩いている。濡れて黒くなったアスファルトと、水たまりに反射した街灯のオレンジ、そして、私の足元が映っている。秋雨が降り終わった世界はひんやりとしていて、気持ちがいい。車が通るたびに、走り去る音は重く湿っている音がした。雨水とアスファルトの上に残っていた僅かな砂利でタイヤが重くなる音だ。
 iPhoneのカメラのボタンを押し、今の世界を保存した。

 近所のローソンまでは、歩いて5分。iPhoneをアウターのポケットに入れ、右手で額に触れる。少し前まで勉強で使っていた頭は少し熱を持っている気がする。体調が悪いわけじゃない。ただ、英単語を頭の中に入れすぎただけだ。夜のお散歩は、そんな頭を優しく冷やしてくれているような気がする。
 歩いている道の少し先に、青白く光る牛乳瓶のマークが見えている。



[22:10 入店]


 ローソンの自動ドアが開き、私は白いタイルがLEDで輝く店内に入っていく。足元だけを映したあと、iPhoneのカメラを止め、再びiPhoneをアウターのポケットに戻す。
 
 チョコレートが置いてある棚に行き、ロッテのガーナミルクを手に取った。次に、グミが置いてある隣の棚から、ブルボンのしゃりもにグミのヨーグルト味を手に取った。ちょっとした甘さが欲しかった。ただ、それだけのことだよ。
 学校ではそれなりにやっているつもりだ。仲間と呼べる友達もいるから、普段の寂しさはない。けれど、仲間のみんな部活に入っているから、この仲間で学校の外で遊んだことはない。ただ、噂話を聞いて、相槌を打っている日々だ。

 セルフレジの前にたどり着く。タッチパネルを操作したあと、左手に持ったままのチョコレートを裏返して、タッチパネルの下に付いているセンサーにバーコードを読み込ませた。同じようにグミのバーコードも読み込ませた。
 タッチパネルに表示された金額を確定させたあと、『バーコード払い』をタッチした。iPhoneでPayPayを起動し、バーコードを表示する。それをセルフレジに認識させると、支払いはあっけなく終わった。

 小さい頃、店員さんと話すことが当たり前の世界だったのに、時代が進んで気がついたら、あっけない世界になったような気がする。
 学校の仲間といても、そのあっけなさは、ある気がする。誰かが誰のことが好きらしいとか、誰かが誰に対して、ひどいことを言っていたらしいとか、あっけなさの対極の湿っぽさのなかにいると、嫌気が差してしまうこともある。
 だけど、笑い話も、それなりにある。ネガティブな話は、うんざりする。笑い話からネガティブな話を引いても、楽しい気持ちのほうが、まだ僅かに勝っているのかもしれない。



 
[22:14 退店]


 赤いパッケージのガーナチョコと青と白のパッケージのしゃりもにグミを左手に広げるように持っている。2つのお菓子の背景は駐車場の白いLEDで照らされた黒く濡れたアスファルトだ。いくつかの濡れた枯れ葉のブラウンとボルドー。その光景をiPhoneのカメラのボタンを押したあと、電源ボタンを押した。そして、画面が消えたのを確認して、アウターのポケットに入れた。
 
 田舎でも、都会でもない私の地元は、不便でも、便利でもない。大学は東京の大学を受けるつもりだ。別に夢とか何もないけれど、もっと都会的でキラキラの中で、からっとした生活がしたい。築30年くらいの平成初期っぽい物件で、レトロチックな雑貨で部屋を作って、のんびり過ごすような、そんな生活に憧れている。
 そのなかで、初めての彼氏と一緒に過ごしたりするんだろうか。そして、将来、何人の子供いたらいいかなとか、赤色のニットが似合う女の子がいいとか、そういう話をするのかな。
 結婚はすると思い込んでいる。そのまま専業主婦になって、好きになった相手に尽くしたいとだって思っている。
 
 今日の昼休み、なぜかノリで結婚の話になって、『夢も目標もないから、専業主婦になりたい』って言ったら、仲間全員『なりたい』って言って、爆笑した。
『なりたいけど、実際、難しいらしいよね』
『じゃあ、結婚するの何歳くらいがいい?』
『24』
『25』
『18』
『え、来年じゃん』仲間の一言で、一通り笑う。
『てか、相手見つけてないのに、なりたいしか言ってない、うちらやばくね?』
 それでまた、みんなで爆笑した。

 ノストラダムスの予言すら乗り越えた部屋のなかで、私はどんな将来を手に入れたらいいんだろう。

 
 

[22:21 夜のお散歩の終わり]


 家の玄関前の2段の階段を上がり切り、 右手に持つ鍵をドアの鍵穴に差し、それを回す。そして、縦長のドアノブを手をかけ、ドアを開けた。iPhoneのライトで一通りの動作を照らしたままの世界。カメラのボタンを押して、その世界を保存した。

 別に悪いことなんてしてないのに、そっと靴を脱ぎ、家に入った。
 「おかえり」とリビングの方から声がしたから、「ただいま」と返しておいた。別に悪いことなんてしていない。うちでは、外に出る前に一言、行き先を親に伝えたら、問題ないんだから。

 話題は天気みたいに自分の意志に反するとこが多い。私は悪口を言いたくない。陰口を言いたくない。仲間から意見を求められるたびに、『わからない』とか『どうなんだろう』とか、そういうことしか言わない。

 今日の昼休み、仲間のひとりから、『その感じ、腹立つわ。それって私がやっぱ悪いってこと?』と詰め寄てしまった。それで結局、『いや、悪くないよ。悪いのは相手の方』と思わず言ってしまった。悪口をその子とは、同じクラスで、そこそこ仲がいい。
 すると仲間は、満足そうな表情をしていた。
『前から思ってたけど、もっとはっきりしたほうがいいよ』
『そうそう、思ったことは、言おうよ』
『どうせ、私たちの話なんて、誰も聞いてないんだからさ』
 私は『そうだね』とは言ったけれど、胸の中によくわからない気持ち悪さだけが残った。
 



[22:23 手洗い]


 iPhoneのカメラのボタンを押して、白くて四角い洗面台の前に立つ。レバーを上げて、水を出す様子を数秒映したあと、カメラのボタンを押した。iPhoneをアウターのポケットに入れて、手を洗い、カップに手を取り、うがいをした。

 手を洗いながら、今日の昼休みのやり取りを頭の中で再生してしまった。
 幸いだったのが、今日が金曜日だったことだ。土曜日、日曜日のお休みのうちに、今日のやり取りは、あっという間に過去のことになるということだ。

 陰口とか、悪口が嫌いなのは、小学6年生のときだ。自分の悪口を流されていることを知って、ショックだったからだ。だから、自分は絶対に言わないで、人のことを傷つけないようにしようと、そのときに決めた。
 中学のときも、たまたま周りが、いい友達ばっかりだったから、悪口を言わないで済んできた。高校に入っても、昨日までは、なんとかやり過ごすができていた。だけど、今日、それが崩れた。
 
 自分の決めたことを守れなかったことに対し、モヤモヤしているのもあるかもしれないけれど、私のモヤモヤは、多分そうじゃない。悪口を言ったその子に悪いと思っているモヤモヤだ——。



 
[22:30 お部屋でグミ食べる]


 白いLEDのスタンドライトに照らされた薄暗いデスクの上に、ガーナチョコとしゃりもにグミを置いた。その横に、開きっぱなしの英単語帳と、赤いシートとノートと白いシャープペンシルが映っている。グミの袋を開けて、グミをひとつ取り出した。iPhoneを向け、カメラボタンを押して、それらを撮り終える。

 iPhoneをデスクに置き、取り出したグミを口に含んだ。
 何度もリピしているヨーグルト風味の甘さのなかで、ふと思い付いた。あの子とは、初めてだけど、通話してみよう。
 再び、iPhoneを手に取り、あの子とのトーク画面を開く。もしかすると、あの子はこのことで、悩んでいるかもしれない。私なら、あの子の話、聞くことできるんじゃないかな——。

『急だけど、話さない? あのこと、聞いたよ。なんか違うって思ったから、話したいな』
 そう送るとすぐに既読マークが付き、その後、すぐにあの子から、通話が来た。
 謝りたい。すぐに謝りたいけれど、あの子の話をしっかり聞いてから、謝るね。自分の気持ちより、あの子の気持ちが心配だから。







バイト直前までの私
 #vlog #バイト #日常
▶  478回  ♥3 🗨️0 🏴0


[15:02 クリニック終わり]


 歩いている私の姿を映している。先週から鼻の調子が悪くて、アレルギー薬をもらいに行った。画角には、黒いスニーカーと左手に持っているビニール袋が映っている。9月に入って、秋雨前線が何度も、雨を降らしている。湿度は適度に保たれつつ、徐々に夏の暑さが冷めていくのを感じ、なんだか、寂しい。TikTokで流れてきたニュースによると、今年は、例年よりも、夏は早く終わってしまったみたいだ。
 
 ビニール袋には、処方されたがアレルギー薬などが入っている。正確には、クリニックでもらった処方箋を薬局に出して、すべてをもらったあとだ。
 優しかった母に対して、私は男っぽくて、荒くて、尖った気質になってしまった。高校に通っていた頃までは、ボーイッシュを心がけていた。母が言うには、口調は死んだ父みたいに荒いから、きっと遺伝だね。とよく笑われていた。

 彼と同棲することになったきっかけは、母の死だった。シングルマザーだった母が死に、帰る家がなくなった私に、今の彼が『俺のところ来なよ』と言ってくれた。
 彼はすでに一人暮らしを始めて数年経っていた。彼は中学卒業後、高校に行かずに、建築業の仕事を始めた。理由は不条理な家庭から自立するため。彼が言うには、家庭はとっくに崩壊していて、高校に行くお金も浪費されてないから、とにかく外に出なくちゃいけないと思っていたようだ。




[15:09 水とカフェオレ買う]


 スーパーで水とカフェオレを買った。それをアレルギー薬が入ったビニール袋に入れて、一緒にしてしまう。それらをiPhoneのカメラに収める。バイト先で水分補給しようと思ったけど、喉が渇いて、持ちそうになかった。それに甘さも欲しかったから、ご褒美がてらペットボトルのカフェオレも買った。

 彼は、早くひとりで立ちたかったんだと思う。
 彼は全国大会に行くほどの、バスケのエースだったのに、高校に入ることはなかった。彼がどうして、中学までバスケを続けることができたかというと、監督が遠征費とか、ユニフォーム代とか、すべて賄ってくれたみたいだ。監督は、彼にプロになれるから、絶対に高校に行ってほしいと言った。だけど、彼は、また監督の世話になることもわかっていたから、彼はそれを強く断り、高校には行かなかった。

 彼と付き合い始めたのは、去年の7月のことだった。彼は2つ上だ。恋を始めた頃は、17歳と15歳の恋だったのに、いつの間にか、19歳と17歳の恋になってしまった。2年近く彼と付き合っている。同棲し始めて、3ヶ月が経った。そうしているうちに、明日、私は18歳になる。18歳になれば、もう大人だ。

 純愛のままいかず、私たちは簡単に大人の関係になった。同棲する前から、愛し合うってこういうことなんだって、ぼんやりしていた視界が一気にビジュアライズになった。子供でもない大人でもないはずなのに、強制的に大人になってしまったような気さえする。
 まだ子供のはずなのに、結婚のことを考えてしまう。結婚なんて紙切れ一枚の契約に過ぎないのに、それを求めてしまうのはどうしてだろう。どうして、一緒になりたいんだろう。喧嘩したあとだから、余計にそう感じてしまうのかもしれない。
 ベッドの上でお互いに漠然とした未来のことを切り出せないでいるようにさえ思えた。私も彼も事情は違うのに、世界は甘えを許してくれていないようにも思えた。



[15:18 アイライナー購入]


 さっき、メイクアップしたとき、アイライナーが切れそうな気がしたから、ドラストで買った。その姿をiPhoneのカメラで軽く収めた。
 母のことを未だに思い出す。中学生のとき、母と一緒に、初めてのメイク道具を一通り買いに行った。そのとき、母にこう言われた。
『メイクひとつで、自分の第一印象が変わる』『自分を丁寧に扱うと相手も丁寧に扱ってくれる』『雑にするのは自分を愛していないものと一緒』
 つまり、母が私に言いたかったのは、メイクアップは、自分を大切にするための行為だって、ことだったんだと解釈している。
 だから、消耗品はできるだけ切らさないようにしている。
 
 5日前、高卒認定試験の合格通知が届いた。2年生まで取っていた単位のおかげで、数教科分だけの認定試験を受けるだけで大丈夫になった。この先のことは、まだ考えていない。どうしてかと言うと、彼がバスケのプロになることが決まったからだ。
 彼は自立してから、実業団のチームでバスケを続けていた。毎年、いくつかのトライアウトを受けていた。彼の話だとBリーグの中でも、弱いチームで、チームの規模も小さいところから、オファーを受けた。
 それが昨日のことだった。彼は行くしかないのに『行かない』と言った。


[15:22 フードコートで待機]

 
 ドラストの横にある、スーパーのイートインに入り、バイト時間まで待機する。カウンター席に座り、窓とカウンターに置いたカフェオレをiPhoneのカメラに収める。

 私のバイト先は、母が勤めていたバルだ。母が着ていた店のエプロンを返しに行ったとき、バルのオーナーが私に声をかけてくれた。オーナーは母と同じくらいの年齢の男性で、昔から母の親友だった。だからなのかもしれない。身寄りがない私のことを心配してくれて、『ここでアルバイトしなよ』と声をかけてくれた。
 しかも、時給はどこよりも高くて、驚いて、私はそれを断った。それでも『学校と家庭、両立できるように協力するから大丈夫』と優しく返してくれた。

 お店は、0時までの営業だけど、高校生だから、法律で22時までしか働くことができない。閉店まで居たいと思う、もどかしさ以外は仕事に不満はなかった。私が路頭に迷わないようにそうしてくれたことに、本当に恩義を感じている。だから、ホールもキッチンもしっかりと仕事をこなすことにしている。土日祝の昼営業以外は、基本、16時からの出勤だ。




[カフェオレ、飲む]


 カフェオレを飲むところをiPhoneのインカメラで収める。あえて口元が映る画角にした。

 『行かないって、意味わからねえし』と私が強目に返して、始まってしまった彼との言い争いは、結局、今日になっても、仲直りすることはなかった。
 今日の現場は早めに入るだったからか、私が起きた時には、もう、彼はいなかった。

 昨日のベッドの上でのやり取りを思い出した。
『考えていることがあるんだよ』
『いや、すべこべ言わず行けよ。夢だっただろ』
『夢は夢だけど、どうするか考えてるんだよ』
『一体、なにを考えてるんだよ。ったく』
『口悪いな。——ケジメだよ』
『さっさと、行ってしまいなよ。せっかく掴めたチャンスなのに』
 私がそう言うと、彼は黙ったまま、寝返りを打ち、身体を私の反対側に向けた。

 高校を中退した理由は、私も自立しようと思ったからだった。母が残してくれた貯金だけでは、高校の費用を出すことが難しかったと言うのも理由としてある。奨学金を貰うことも考えたけれど、元々、地方のバカ高に行っている私に未来なんてないことは、自分が一番わかっていたから、リスクを追うよりも、現実を見ることにした。
 バルのオーナーが高校の費用くらい出すよとも言ってくれたけど、申し訳なかった。それだったら、しっかり働いて自立したいと言ったら、オーナーは私のことを尊重してくれた。



[16:43 バ先到着!]


 店に入る前、私の足元だけを映しながら、ドアを開けた。
 昨日の夜、彼との言い争いだけが、頭の中でぐるぐるしている。なんで夢を追わないんだよ。せっかくのチャンスなのに。マジで意味わからん。
 誕生日前に最悪だなって、思った。明日、彼は私の誕生日のためだけに休みを取ってくれたみたいだ。
『18歳になるんだから、絶対に休みとれよ』
 そう彼に強く言われたから、仕方なく、私も休むことにした。本当は、休みなんて取らないで、オーナーのために働きたい。だけど、オーナーは、嫌な顔もせずに、『いいよ』とひとつ返事で休みを承諾してくれた。
 
 彼も私も、嬉しいことがたくさんあったはずなのに、どうしてか、色々噛み合わないや。それでも仕事はしっかりやりたいから、無理やり頭を切り替えることにした。

 

[22:02 しごおわ]


 私が働いている間、雨が降っていた。帰り道のアスファルトは濡れている。そして、空気が冷え切っていて、肌寒い。

 家までの帰り道、誰もいない住宅街の路地を歩きながら、iPhoneで軽く録画した。彼はとっくに、帰ってる時間だ。あと、2時間弱で私の17歳が終わってしまう。18歳になったら、もう成人扱いになるんだね。そう考えると、あと2時間で子供の期間が終わってしまうことになるんだなとも思った。

 私の子供時代はどうだったんだろう。楽しい思い出もある。6歳のときに父が事故で死んだ。そのとき、母はひたすら私のことを抱きしめ、泣いてばかりいた。だから、私は強くならないとって、呪いを自分にかけて生きることにした。だけど、その10年後、母は急な病気で呆気なく死んだ。
 もしかすると、私の子供時代は16歳で、もう終わってしまったのかもしれない。いや、大人でも、子供でもなかったんだ。きっと。
 もうすぐ、大人でも、子供でもなかったわずかな期間が終わる。

 もし、子供ができたら、私も人並みに子供を育てること、できるかな——。
 急に鼻の奥をくすぐるような感覚がして、くしゃみをした。
 


[22:27 ただいま]


 家バレしない程度に、ドアを開ける瞬間を映したあと、iPhoneの録画を止めた。

「ただいま」
 そう言ったあと、彼と喧嘩していたことを思い出した。そう言いながら、いつも通り、玄関のドアを閉め、黒いスニーカーを脱いだ。そして、玄関ホールとリビングを隔てるドアを開ける。

「遅いな。待ちくたびれたわ」
「うるさいな。いつも通りだろ。時計見ろよ」
 いつものように、そう返すと、彼は笑った。リビングに入り、中央にある白いローテーブルの上に何か、置いてあるのに気がついた。

「座ってよ」と彼に言われたから、頷いて、ローテーブルの前に座った。
「まだ18歳になってないけどさ——」
 ローテーブルに置かれているものを見て、私はただ頷くことにした。そして、じっと、彼を見つめることにした。

「絶対、幸せにするから、一緒についてきてください」
 私は左手を広げて、彼の前に差し出した。彼はゆっくりと、私の左指に指輪をつけた。
「17歳だから、まだ結婚できないよ」
「あと、1時間半だろ。17歳で結婚したっていいじゃん」
「そうだね。プロになってよ。私、そこそこ良い妻になれる気がするから」
「——ありがとう」
「当たり前じゃん」
 そう、当たり前だよ。私はもう、決めてたよ。彼がプロのバスケットボール選手になるなら、この街を出て、彼について行くって。今の私の夢はね、あなたと結婚することだよ。







クリスマスの予定ある?
大雪が降ったクリスマス・イブの登校Vlog
 #vlog #クリスマスツリー #大雪
▶1.4万回  ♥432 🗨️25 🏴182



[05:01 メリークリスマス]


 家の中にあった、赤いオーナメントを右の手のひらの上にそっと乗せた。それを左手に持っているiPhoneで撮影した。デスクに置いているIKEAのデスクランプの光だけの世界は、冷え切った部屋に暖かみを感じる。グレーグリーンのデスクランプは、レトロ調のデザインで気に入っている。
 薄暗い部屋でそれを撮影したあと、部屋に置いてある小型のストーブをオンにした。ストーブに付いている温度の表示を見ると、17℃だった。

 私がVlogを始めたのは、キラキラJKを演じるためだ。話すことができない自分の影を隠すためでもある。デスクには、無印の5段のアクリルケースを置いている。その中に、メイク道具を一通り入れている。
 バズっているメイクは試しているけれど、そのメイクを施した顔で、会う友達も、恋人も私には誰一人いない。

 

[05:10 本日、地元は大雪警報]
[寒すぎて、震える]


 古いiPadで、地元の天気予報を表示したものを、iPhoneで撮影した。まだ寒くて、手が震えるけど、手振れ補正でなんとか、揺れは最小限になっているような気がする。ストーブはつけたけれど、まだ、部屋いっぱいに暖かさを与えてはくれていない。
 カーテンを開けて、外の様子を見る。窓の外に広がる住宅街は、まだ真っ暗で夜の中だった。車の音も何もしない、静かすぎる夜明け前。ただ、しっかりと雪は降り続いている。吹雪というほどでもないけれど、昨日の夜よりも、白の厚みは増えていた。
「最高のホワイトクリスマスになるね」
 そう口にしてみた。ひとりだったら、簡単に言葉を出すことができるのに、どうして、みんなの前だと、ひどく難しいことになるんだろう。
 
 大雪警報が出ていても、終業式中止のお知らせは、きっとこない。私の地元は北の果てで、マイナス二桁の気温になっても、普通に登校しなくちゃいけない。だから、大雪でも特別警報が出るほどのブリザードじゃない限り、教頭先生は学校の鍵をすべて開けるはずだ。
 たとえ、それがクリスマス・イブでも——。



[05:13 ホットのカフェオレ]


 キッチンの床は冷たかった。ブレンディスティックのカフェオレをマグカップに入れ、ティファールの電気ケトルで、お湯を入れるところを撮影した。
 身支度をしたあとに、電気ケトルに水を入れて、スイッチを入れておいた。iPadで表示した天気予報の画面を映している間に、電気ケトルに入れた水は、100℃まで沸騰した。

『高校に入ってから、ずっと早起きなの、すごいよね』
 お母さんにある日、褒められたことを思い出した。それを聞いたとき、久しぶりに人から褒められたような気がした。
 高校に入ってからも、普通の高校生活を送っていたら、友達を褒めたり、褒め返されたりの繰り返しをしていたのかな。
 だけど、今の私は、相手のことを褒めることはできない。

 頭の中から、出したい言葉が消え、真っ白になってしまう。相手から何かを問いかけられても、なにも考えられず、弱い耳鳴りだけが支配する世界。中学の頃までは普通にできていたことが、何一つできない。黙ったまま、時が過ぎていく。
 「そうだよね——」
 そのあとの言葉が発せられないまま、一年以上が経った。私の心の底に雪が降り積もったまま、その雪が溶けずにいるみたいだ。



[05:15 iPadでダラダラSNSチェック]
 

 三脚にした自撮り棒に、iPhoneをセットした。録画をしたまま、自分のデスクまわりを映す。カフェオレを飲みながら、iPadを分割画面表示にする。片方にインスタリールを立ち上げ、もう片方には、ブラウザを立ち上げた。
 両耳にAirPodsをつけて、右手の人指し指で動画を上にスワイプしていく。少しだけ眠い所為か、あまり動画の内容が頭に入ってこない。
 それでも、動画では同い年くらいの子のVlogが流れてきた。金曜日の放課後のVlogで、電車のドア越しに夏のキラキラした海が映されていた。
 その子の動画は、いくつも観たことがある。コスメを紹介したりとか、友達と花火大会に行ったときの様子とか、とにかく、過ごしてみたいなって、青春が映っているように見えた。

 一方の私は、そんな青春を掴むことはできなかった。なりたかった自分になれなかった高校生活だ。
 私がまともに話せなくなったのは、高校に入学してからだった。
 知り合いが誰もいない高校だった。中学で仲が良かった友達は、みんな別の高校に進んだ。私はごく普通の高校に入学した。進学校でもないけれど、バカ校でもない、ごく普通の高校だ。

 私が言葉を失い、会話ができなくなったのは、そのごく普通の高校に入ってからだ。それまでは、普通に話すことができていた。最初は話すことができていたような気がするけど、気がついたら、頭が真っ白になっていた。
 焦ったら、余計に話せない。相手の怪訝そうな反応に余計に戸惑う。そして、困った挙句、ようやく発することができることは、「そうだよね」だけだった。

 
 
[05:48 今日は大雪だから、早めに準備]
[面倒だけど]


 iPadをデスクの端に寄せて、デスクランプを消すところまで、撮影したあと、iPhoneを自撮り棒から外した。そして、充電ケーブルに接続して、部屋を出た。
 バスルームまでたどり着いた。蛇口を捻り、シャワーを出す。一度、バスルームを出て、服をすべて脱ぎ、再び、バスルームに入り、シャワーを浴びる。

 よく、ナイトルーティンとかの動画で、バスタブに入る動画とか、観たことがあるけど、私はそこまで撮影する気になれない。だけど、多少の顔出しはする。たまにメイクが上手くいったときに、自撮りをVlogに混ぜている。
 
 入学して数日経ってから、お母さんに、高校の子に対して、話すことができなくなったこと、言葉に詰まるようになったことを伝えた。
 『緊張してるだけだよ。一時的なものだから、気にしないほうがいいよ』
 お母さんはそう言って、私のことをなだめてくれた。そう言われると、確かにそうかもしれないと思った。だって、お母さんには、こうやって話すことができている。
 
 緊張しているだけだ。そう思いながらも、学校では、上手く話せない日々は続き、結局、私はひとりぼっちになってしまった。どうして、上手く話せないんだろうっていう、焦りと、戸惑いで、私は私自身のことがどんどん嫌いになってきてしまった。

 1年生の夏休み直前になっても、話せないままだった。夏休み、中学のときの友達から、遊びに誘われたけど、話せなくなるのが怖くて、誘いのすべてを断った。
 そして、1年生の9月。私はひとりぼっちになってしまった。


[06:28 朝食はヨーグルト]
[朝は食べれないタイプ]


 自分の部屋に戻り、デスクに置いた、ヨーグルトと銀色のスプーンをiPhoneで撮影した。撮影したあと、ヨーグルトの蓋を開けて、スプーンで白色を掬う。
 
 私がVlogを始めたのは、話せない自分でも、自己肯定したい気持ちから、始めた。お母さんには、1年生の4月に相談したとき以来、そのことをもう、話題に出さなかった。
 むしろ、お母さんは、学校で上手く行っているじゃないかって思っている気がする。毎朝、スクールメイクを施して、学校に行くし、朝も早く起きているみたいだし、成績も良くもなく、悪くもなく、普通だから。
 休日には、カラコンをつけて、フルメイクで、ひとりで遊びに行っている。お母さんは、そんな私を見ると、『友達と楽しんできてね』と言ってくれる。
 私は、スタバとか行って、キラキラJKっぽいことをして、それをVlogにする。
 
 お母さんに嘘をついているつもりはない。ただ、結果としてそうなっているというだけだ。フルメイクをした自撮りをVlogに混ぜて投稿すると、毎回、必ず、『かわいい』と何人かから、コメントを貰う。
 やっぱり、メイクは自己肯定感を上げてくれるものだと思う。話せなくても、かわいい雰囲気を見た目で作れば、みんな『かわいい』と言ってくれる。健全か、不健全かどうかなんてわからないけれど、私はその言葉で、救われている部分がある。

 
[06:38 メイクアップ]
[今年最後のスクールメイク]


 再びiPhoneを自撮り棒にセットし、三脚モードにする。そして、デスクと私の手元が映る画角にセットし、カメラを回す。ファンデとパレットを広げ、メイクを始める。

 幸い私が通う普通の学校は、校則が緩い。だから、スクールメイク程度だったら、全然文句を言われることがない。今日は、午前中に学校が終わるから、午後から街に繰り出して、大きなクリスマスツリーを見に行くつもりだ。
 クリスマスツリーの前で自撮りをするために、フルメイクにするために、メイク道具一式を持っていくつもりだ。
 学校なんて、どうでもいい。話せない自分が惨めに思えるだけだから。
 

[07:15 雪、やばし]


 歩いている様子を撮影する。もう、黒のショートブーツが埋まるくらい、雪が降り積もっていて、歩きにくい。降り積もった雪を、踏み均しながら、歩着続ける様子を10秒の動画データにした。そのあと、カメラを前に向けて、雪が降り続いて、先が真っ白の様子も5秒の動画データにした。
 制服をまとい、黒ストッキングも身につけ、黒のダウンジャケットを纏っている。ダウンジャケットのフードを被っていても、この世界は氷に支配されていて、寒さで体力が奪われ、すぐに息が上がってしまいそうだ。

 それでも、JRの駅まで私は歩く。20分くらい歩くのかと思うと、憂鬱だった。家を出る前にネットで運行状況を確認したけど、意外と遅れてなかった。これからJRが遅れて遅刻してしまうかもしれないけれど、そうなったら、遅延証明もらって、私の所為じゃなく、この世界の所為にしてしまえばいい。



 
[08:35 遅刻確定]
[駅で遅延証明もらう]


 駅の改札の横で立ち止まり、左手に持った遅延証明書を撮影した。いつもホームルームは8時35分から始まる。だけど、まだ学校ではホームルームが行われていないかもしれない。この駅から学校までは、歩いて5分。何十人も、同じ制服を纏った人たちがいたし、このあとの電車で来ている生徒も多いから、始業時間を20分遅らせるとか、そんなことになっているかもしれない。

 駅を出ると、さっきまで強く降っていた雪は少しだけ弱くなっていた。雲が切れて、黄色い光が、空から白い世界に差している。その光の中で、無数に舞う雪がキラキラと輝いていた。
 電車は何度も止まったりして、うんざりしたけれど、これが見れたから一気にいいクリスマスに思えた。
 学校なんて、このまま行かないで、もう、クリスマスツリー観に行きたいなって思うくらい、学校なんてどうでもよくなった。

 ここ最近の私は、ようやく開き直れるようになった。
 話せなくたって、私はひとりでも、キラキラJKになることはできるし、キラキラした青春っぽいことをひとりでやればいいんだって。

 このさきの人生、どうなるかなんてわからない。もしかしたら、私の話せないこの状態は続くかもしれない。そうなったら、仕事とか、結婚とか、どうなるんだろう。未来を考えすぎて、ゾッとしてしまうことがある。もし、このままだったら、私はもう、なにもできないんじゃないかって。

 だから、未来のことを今は考えないようにしている。
 今の自分が、いかにキラキラしたJKであり続けられるかだけを考えている。
 仕方ないじゃん。それが私の人生なんだから。


[14:27 クリスマスツリー]
[撮りたかった自撮り(自画自賛)]







雨の日の休日ひとり行動Vlog

#vlog  #儚い #雨時々、ひとりきり
▶ 746回  ♥12 🗨️0 🏴0



[10:20]


 ビニール傘を差しながら、雨の住宅街を歩いている。透明のビニールには、無数の雨粒が散らばっている。濡れた住宅街は何もかも、グレーを被ったみたいに見える。コンクリートは黒くなっているし、10月に入り、いっそう緑が深くなった街路樹も、くすんで見える。
 冷たい雨の所為で、深海魚になった気分になる。雨の所為か、身体も重くてだるい気がする。今日はいつもより寒く感じる。思わず身震いする。

 白いセーターに、黒のスカート。そして、黒のブーツを履いている。冷たい秋雨のなかを歩く休日もいいものだなって、ちょっとだけ思ったり。気晴らしにイオンモールに行って、LOFTで気になるコスメみたり、島村楽器でギターの弦を買って、H&Mと、GUみたり、ガチャみて、未来屋書店で気になってるコミックの新刊をみたいなって思っている。

 

[10:28]
[屋根付きのバス停ありがたい]


 バス停でバスを待っている。バスが来るまで、あと5分くらいある。ちょっとだけ余裕ができて嬉しい。いつも、これくらい余裕をもって、行動することができたら、もっと生きやすいのかな、なんて思ったりする。

 17歳6ヶ月で仮免許と本免許試験を受けることができるようになったから、4月生まれの私は、今、近所の自動車学校に運転免許を取りに行っている。パパが「もう免許取ってしまえばいいんじゃない」って、言ったのがきっかけだった。
 17歳のうちに、本免許試験を合格すれば、18歳になったその日に、免許が交付されるらしい。つまり、私の場合、2年生のうちに免許に関わることをすべて合格しておけば、3年生になり、誕生日が過ぎた4月から、家の白いNBOXを運転することができる。

 ここ最近の土日は、自動車学校で運転したり、学科を受けたりしている。学校が早く終る日も、自動車学校で運転してみたけれど、さすがに疲れたから、土日だけにすることにした。

 


[10:33]
[バスでイオンに向かう]


 バスに乗り込みICカードをタッチするところをiPhoneで撮影した。そして、空いている二人掛けの席に座った。地方住みだからっていうのもあるけれど、免許は高校卒業までに取ってしまうのが当たり前みたいな雰囲気がある。たまたま、法律が変わったからだけど、JKのうちにドライバーになれるってなんか雰囲気だ。今までも18歳になったタイミングから自動車学校に入ることができるから、3年生のうちに免許が取れたら、JKドライバーになれたことになる。

 なんか、大人になることを急かされているような気もする。まだ、子供のままでいたい気持ちもある。だけど、私は単純だから、免許があったら、今日みたいな日も楽そうとは思う。
 17歳は、大人でも子供でもない、中途半端でややこしい年齢だ。




[10:58]
[イオンが終点。バス降りる]


 ICカードをタッチして、バスを降りるところをiPhoneで撮影した。そして、そのまま歩き、イオンモールの入口まで歩く様子も、一緒に撮影した。

 パパに乗せられた私も悪いけれど、普通に学校のテスト勉強もある状態で、自動車学校に通うって、普通に考えて大変だ。私はなにも考えないで、自動車学校も入学してしまったけれど、今月から行き始めて、ちょっとだけ後悔している。
 今日は開校記念日で水曜日だけど、休みだから、本当は自動車学校に行くつもりだった。だけど、受講できる学科がすでに受けたものばかりで合わなかった。運転は明日も学校だし、疲れるから、やめようと思い、予約すらしなかった。

 だから、息抜きにイオンモール。ひとりきりなのは、学校に友達がいないから。軽音部でバンドはやっているけれど、あまりガチってないからバンド練習はあまりしない。クラスのノリも合わない。もう少し、中学校のときの友達がいる学校に行けばよかったと思ったけれど、バンド仲間とは、ノリが合うから、それでよしとしている。
 だけど、バンド仲間ともたまにしか、遊ばないから、大体、私の青春はぼっちなことが多い。
 
 パパから「ほかの高校生より、暇そうだから、行けるよ。それにJKで車乗ってたらかっこいいよ」って完全にそそのかされた。
 私はなにも考えず、その場のノリで決めてしまう悪い癖がある。
 


[11:22]
[ドトールでココア]


 ドトールに寄って、アイスココアを飲むことにした。テーブルの上に乗っているアイスココアを数秒間、iPhoneで撮影した。島村楽器でギターの弦を買ったあと、せっかくイオンモールまで来たのに、あまり気持ちが乗らないから、いきなりココアを飲むことにした。
 やっぱり、ちょっと疲れているのかも知れない。家でゆっくり休めばよかった——。

 首元を左手で触れる。
 そっか、なんかだるいと思ったら、熱あるんだ——。
 
 あーあ。せっかくここまで来たけれど、ココアを飲んで帰ろう。
 寒気がしたときに引き返せばよかった。


[11:55]
[なんかだるいかと思ったら、]
[まさかの発熱していました]

 帰りのバスに乗るところをiPhoneで撮影する。あーあ。忙しくなると、すぐこうなっちゃうんだから。嫌になるよね。ホントに。
 自分のキャパは自分でコントロールしないとね。

[今日は帰って大人しくしてます]







ぼっちでガチャ回す放課後Vlog
 #vlog #放課後 #透明界隈
▶ 787回  ♥32 🗨️0 🏴0


[17:23 JILLSTUARTのガチャガチャ]


 白いガチャガチャのコイン投入口に百円を入れる。地元のイオンにあるガチャ専門店。JILLSTUARTのコスメガチャ。柔らかいビンクが目に入った。気がつくと、私は財布から百円玉を取り出していた。
 ハンドルをゆっくり回すと、黄色のカプセルが出てきた。左手にiPhoneを持ちながら、右手でカプセルを取った。そして、数秒間だけ、それを映したあと、録画を終わらせた。
 ひとりきりの青春に慣れてしまった私は、私なりの青春を求めて、Vlogを作ることにした。これが5本目の動画作成になる。未来は今の些細な選択の連続で作られるものなのかもしれない。今の私に未来なんてわからないけど、未来の私が、今の状態でVlogを作っていることを微笑ましく思っていれば、それで十分かなって思って、Vlogを始めた。
 誰かに自分を見せるわけじゃない。今の私が透明にならないように、今の私がここにいる証として、動画を作っている。



[ガチャガチャは開けない]

 黄色のカプセルをiPhoneのカメラで捉えたあと、制服のブレザーのポケットに入れた。ガチャは一回だけと決めていたから、そのままマクドナルドへ向かう。ひとりぼっちには、もう慣れてしまった。この高校に入ってからも、私は変わることができなかった。変えようとしようと思って、去年の春頃は、ちょっとだけ背伸びをして、無理をしていた。



[17:32 マックでカフェオレ]


 西陽が差し込んでいる窓側のカウンター席に座った。カップに入っているホットのカフェオレをテーブルに置き、西陽に照らされたカフェオレをiPhoneで数秒間、撮影する。数秒間だけ、途切れ途切れに撮影した動画をあとで一つの動画に繋ぎ合わせるだけだ。
 ブレザーのポケットに忍ばせていたカプセルを取り出し、それをカップの横に置いた。その状態を再び、iPhoneのカメラで数秒間、撮影した。
 西陽のオレンジが綺麗すぎて、よくわからないけど、涙が溢れそうになる。そんな些細なことで感傷ほど、私は打たれ弱いんだ。いつも何か大きな壁にぶちあたったら、そっと逃げだすことを選んでいる。そんな自分が時折、嫌になることもあるし、これが私の生き方なのかもって、揺らぎの中で生きている17年だ。




[開けていきます]


 iPhoneをテーブルの上に置き、カプセルを手にとる。左手と右手、ぎゅっと力を入れる。何度か捻り開けようとしたけど、開かなくて、いつも自分のフィジカルの弱さの所為で、勝手に焦らされる。何度か、それを繰り返し、ようやくカプセルが開く。上蓋が開いた瞬間、中の袋が飛び出し、テーブルに落ちた。
 いつも失敗だらけで、自分のことは嫌いだ。何かひとつでも面白いことが言えたら、きっと、仲間が優しく笑ってくれるようなそんな青春を送れたのかもしれない。だけど、私はイノセントすぎるんだ。つまり、無垢すぎるし、のろまだし、気の利いた面白いことも言えない。ノリが悪いし、よくわからない透明な存在なんだ。
 危害を加えないけど、面白くない存在。それが私という存在なんだ。




[いつも開けるのが苦手です]


 不器用さをアピールするかのように、数秒間、カウンターテーブルの上の状態を撮影する。左端に雑に置かれた二つのカプセルと、袋に入ったままのガチャガチャの中身。その右側にあるカフェオレが入っているカップ。ふと、去年の5月ごろに友達だと思っていた子たちからの陰口を思い出した。
 職員室から用事を済ませて、教室に戻ったとき『つかみどころなくて、つまらないよね』『確かに、よくわからなくない?』というやりとりを聞いてしまった。私は聞かなかったふりをして、その時は、何事もなかったかのように、自分の席に戻った。心臓はバクバクするし、両手は一気に変な汗で濡れているしで、そわそわした気持ちは収まらなかった。
 時間が経ちさえすれば、いつか心の傷は癒えるかと思った。でも傷は癒えなかった。仲間だと思っていた子たちと、次第に距離を取るようになった。
 もう、これ以上、傷つきたくなかったし、私は高校生になっても、変われないまま、どんどん透明になればいいと思った。学校にいる間は、一言も話さない日がほとんどになったとき、それが私の日常なんだと悟った。
 17歳から先、いろいろ環境は変わるだろうから、また気力が湧いたら、人と関わってみればいいさ。私の青春はオブラートのように、一瞬で水の中に溶けてしまったんだから。



[JILLSTUARTのコンパクトミラー]
[お目当ての子が来て大満足です]


 袋から中身を取り出すと、なんでこんなに嬉しいことがあるんだろうって、飛び上がりそうになった。
 透明の楕円にクラシカルな模様。外側は7枚の透明な花びらが控えめに咲き、その内側に透明に刻まれた無数のドットが円を描いている。中心に向かい、いくつもの線が刻まれ、中心に透明な十時のリボンが咲いている。その透明な楕円の底に銀色の鏡が輝いていた。
 JILLSTUARTのコスメガチャを回した結果は最高だった。そして、心の中でなんとくな、決めた。今年の自分へのクリスマスプレゼントは、JILLSTUARTのコンパクトミラーにしよう。
  透明な中でも、輝いてさえいれば、こんな私でもいつか変われる気がするから。








ぼっちの夏休み、海で線香花火する

#vlog  #夏休み #線香花火
▶ 78万回  ♥1.2M 🗨️187 🏴1M



[18:56] 
[夏休みの思い出に]
[ひとりで花火大会をします]


 夕日が沈みきってオレンジと藍色が混じり合っている砂浜と海へ、歩いていく様子をiPhoneで撮影している。7月の終わりの夕方。珍しく28℃しか気温が上がらなかった今日。ニュースでは、冷夏だと騒がれているけれど、ここ数年の日本列島が暑すぎたんだ。だから、たまには、冷夏があったっていいじゃんとも思いながら、微温い空気の中を歩いている。この時間でも、半袖で十分な気温だし、湿度だってしっかりあって、空気が重たい。

 夏休みなのにセーラー服で海へ向かっている。制服を着たのは、そのほうが絵になるような気がしたからだ。
 ひとりで花火をしようと思ったのは、今日、たまたま両親とも出張が被ったのと、2つ下の妹も、友達の家にお泊りしに行くことになったからだった。家から海までは、歩いて5分。夜が始まる時間に海に行くのは、危ないからやめてとお母さんに言われているけれど、今日はその言いつけを破ってみた。少し前、そんなやり取りをお母さんとしたのを思い出す。

「じゃあ、ひとりじゃなきゃいいの?」
「うん、友達となら、遅くならなくちゃいいよ。そういうこともあるだろうから」
「遅くならないって、具体的に何時くらいなの?」
「7時くらい?」
「7時って、まだ夕方じゃん」
「未成年だから、危なっかしいことしないで」
「じゃあ、18歳になったら?」
「18歳になっても」
「過保護すぎだって」
 お母さんに、そう言い返すと、お母さんは呆れたみたいで、
「屁理屈ばかり言わないで」と私に強めに言って、このやり取りはそこで終わった。

 お母さん、私には一緒に、海に行ってくれる友達が、ひとりもいません。



[19:02]
[自販機で三ツ矢サイダーを買う]


 砂浜の入口近くにある、白い自販機でペットボトルの三ツ矢サイダーを調達した。百円玉2枚入れて、青く光るボタンを押した。そして、ガタンと音を立てて、受け取り口に落ちた三ツ矢サイダーを取り出した。その一連の流れをすべてiPhoneで撮影した。
 
 お母さんは、私が小さい頃から中学生くらいまで、身体が弱かった所為か、過保護なところがある。小学生のころの私には、もちろん決定権はなかった。中学生に入って、少しだけ緩和されるかなと思ったけれど、そんなことはなかった。そして、高校生になり、さらに緩和されるかなと思ったけれど、多少の緩和程度だ。こんな感じだから、普段から、生活を監視されているような気分になって、たまに息苦しさを感じる。

 お母さんにしてみたら、幸いなのかもしれないけれど、私はあまり反抗しない。素直に言うことを聞いている。ただ、お母さんに黙っていることは、いくつかある。学校に友達が一切いないこと。深夜たまに出て、コンビニでお菓子を買っていること。そして、Vlogをやっていること。
 
 たぶんだけど、Vlogをアップしていると言ったら、お母さんは発狂するだろう。そして、iPhoneを取り上げ、すぐさま禁止令を出すだろう。そんなお母さんに、私は半分呆れている。だけど、過保護にしてしまったのは、私が小さい頃、よく入院して、手がかかる子供だったことにも、原因があると思う。
 お母さんは、私のことが心配なんだ。ただ、その愛情は、今の私にとっては重い。
 
 

[19:05]
[砂浜に着きました]
[持ってきた線香花火とライター。そして消火セット]


 薄暗い砂浜の上に、線香花火のセットと、ライター、雪印のコーヒー牛乳のパックを置いているところをiPhoneで撮影した。
 10本入りの小さい線香花火セットを買ったのは、2時間前のことだ。近所のホームセンターまで自転車で行き、線香花火と、ライター、そして500ミリリットルのミネラルウォーターを買った。バケツ代わりに昨日飲んだ雪印のコーヒー牛乳のパックを使うことにした。ネットで調べたら、牛乳パックをバケツ代わりに使っている人がいるみたいだった。

 私が学校の中で、ひとりぼっちなのは、緊張して、上手く人と話すことができないからだ。正確には多少、話すことができる。「すごい」とか「そうなんだ」とか、「ありがとう」とか、「大丈夫?」とか話すことはできる。だけど、そのあと、相手から返ってくる反応に対して、話を広げることが苦手だ。緊張でどんな言葉を相手に返せばいいのかわからなくなる。考えすぎて、咄嗟に気の利いたことを言うことができない。

 家族にはそんなことはないのに、なぜか身内じゃない他人には、そんなコミュニケーションしかとることができない。原因は緊張だってことはわかっているけれど、引っ込み思案が加速して、より緊張してしまう悪循環だ。
 本当は話せるのになって思いながら、学校生活でたまに訪れる会話をするけれど、そのほとんどが失敗に終わる。大体、相手は苦笑いする。
 


[19:07]


 セーラー服の私が、しゃがみこみ、ライターで線香花火に火をつける。線香花火はゆっくり着実に細くてか弱い黄色い光を放ち始めた。自撮り棒を三脚展開して、私と海が映るような画角にした。右側に若干、画面から見切れるようにセーラー服の私がいて、画面の真ん中で線香花火の黄色が空間に光を放つ。

 学校での生活は、つまらない時間も多いし、二人一組になれって言われたら、必ず私が余るし、学校では空気みたいな存在だ。そんな感じだから、つらい時間のほうが長いけれど、そんな時間に耐えるのに慣れきってしまった。つらすぎて逃げ出したいという感覚もない。だから、ひとりぼっちだけど、学校にそんなに嫌悪感がない。

 線香花火が激しく光を放つ。
 小学生、中学生と、身体が弱くて、学校を休みがちだったからかもしれない。もし、小中学校とも、単位制だったら、私は留年しすぎて、退学になっていたかもしれない。義務教育のいいところは、どんな事情があっても、平等に扱ってくれるところだと思う。
 高校生になってから、身体大きくなったからか、この1年半くらいは入院するほど、体調を崩していない。だから、今のところ留年しないで済んでいる。
 ただ、いつ大きく体調を崩すかなんてわからない。身体の弱い私は、常に留年するリスクと隣合せだと思っている。
 
 微温い風が吹き、中心のオレンジが闇に落ちた。1本目の線香花火は、あっけなく終わってしまった。

 水を張った牛乳パックに、持っていた線香花火を入れる。
 そして、ふと後処理のことを考え、嫌になる。命尽きた線香花火をどうやって片付けたらいいんだろう。家に持ち帰って、どうやってバレないようにしよう——。
 いや、バレてもいいや。バレたときは、親と喧嘩しよう。
 私だって、花火をする権利くらいあるから。



[19:09]
[2本目]


 さっきよりも、自撮り棒に固定されたiPhoneに数歩近づいて、2本目の線香花火に火をつけた。また小さい火の玉が熱で着実に大きくなっていく。そして、閃光がいくつも闇の中へ向かう。オレンジと黄色が大きくなり、激しく辺りを灯す。

 高校を留年せず、卒業してほしいと、きっとお母さんも強く思っている気がする。だから、その分、束縛が強くなる。その気持ちもわかるよ。だって、私だって、留年せず、3年で卒業したいから。
 だけど、その前に私は、17歳の少女なんだよ。閃光のようにその時期は一瞬で終わってしまうでしょ。私だって、子供でもない、大人でもない、今を楽しみたいんだよ。身体が弱くても、今、やりたいことはしっかりやっておきたいの。
 大人になったときに、後悔しないように。

 ねえ、お母さん。だからわかってほしい。
 親離れも必要だけど、子離れも必要だよ。
 私も大人になっていくんだから。







17歳の誕生日♡Vlog

#vlog  #誕生日 #fyp
▶ 1082回  ♥33 🗨️4 🏴3



[0:00]
[17歳になりました]


 iPadの時計の表示が、23:59から0:00になる瞬間をiPhoneのカメラで撮影した。デスクの後ろには、ガチャで集めたフィギュアがいくつか並んでいる。
 2月24日から2月25日に変わった。25日は入試で、学校はお休み。三連休だ。今日は木曜の夜。学校めちゃくちゃ疲れてしまったから、これで一回寝ることを決めていた。Vlogを始めて、半年くらいが経った。Vlogを始めたときから、誕生日Vlogをやりたいと思っていた。0:00になる瞬間を、捉えたVlog作ったら、かっこいい気がしたからだ。



[眠いからおやすみなさい!]


 わざとiPhoneのカメラのレンズを右手で覆い隠し、画面を真っ黒にした。iPhoneのカメラを止めたあと、すぐにベッドに向かう。Vlogの中だけは、陽キャを演じるようにしている。これは、Vlogを始めたときに決めたこと。ギャルじゃないけれど、無敵のギャルマインドがほしいから、陽気な雰囲気で明るい感じのアカウントにしようと決めた。実際の私は、学校では陰キャ扱いでぼっちだ。

 小説を読むことも、コミックを読むことも好きだ。ゆるくアイドルの推し活だってしている。ネットフリックスとはお友達だから、中古で買ったプロジェクターも置いている。
 


[8:32]
[おはよう17歳]


 部屋の白い大きな掛け時計をiPhoneのカメラで録画する。部屋が冷え切っているから、エアコンの暖房をつけた。正直、テンション高めの字幕を入れるだろうけれど、今はテンションがものすごく低い。ひとりぼっちは、それなりに日々、消耗してしまう。
 
 私が学校でひとりぼっちになのは、単純に友達ができなかったからだ。1年生のときはそれなりに友達も居て、4人も大切な仲間ができた。1年生のときは、上手くやれていたのに、2年生になった途端、ぼっちになった。
 だから、お昼ごはんは、1年生のときの友達4人と一緒に食べている。その友達4人とは、正直、バカ騒ぎしている。日に日に仲良くなっているし、趣味や感性も合う。だから、笑い合うことができる。だけど、今のクラスにそれができる人がいないから、私はものすごく大人しい。

 その所為か、私が昼休み、友達4人と笑い合っていると、今のクラスの子が私のことを見て、驚いた顔をしていく。あまりにも、クラスとキャラが違いすぎるから、そんな顔をするんだと思う。それは自覚ある。自覚あるから、そんな驚いた顔をしないでと、私はたまに思う。
 



[9:02]
[17歳、初めてのお買い物に出ます]


 玄関で白いスニーカーを履くところをiPhoneのカメラで撮り収める。普通に青のジーンズと、黒のダウンジャケットで、セブンイレブンまで向かおうとしている。私はあまり、おしゃれじゃない。靴だって、かわいいと呼べるものは、1足のローファーだけだ。

 普段、どんなことにお金を使っているかと言うと、気になる推し活のグッズを買ったり、気になるガチャガチャを見つけたら、コンプリートするまで回すことだ。推し活とか、オタ活とか、そういうことをしている部類に入るんだと思う。
 よく、友達4人からも、散財だって言われて、笑われる。この間「大人になったら、もっと推し活にお金使いそうだよね」と言われた。
「ヤバいかな」
「ホストでお金溶かすよりマシなんじゃない?」
「それでも、推し活って一過性だと思うんだよね。一生はない気がする」
「違うよ。今、一瞬にかけるから推し活なんだよ」
「沼るのはいいけどさ、健全に働いて、健全に消費してほしいなと思うよ。友達としては」
「私に対してなにを指摘しているの?」
「資産管理への忠告」
 そう友達の1人が言ったから、みんなでバカ笑いした。そのとき、たまたま同じクラスの女子が私たちの前を通り過ぎながら、引いた顔をしていた。

 確かに、沼ると見境がなくなるかもしれない。今は、お小遣いという小さい枠の中にとどまっているからいいけれど、バイトとか始めて、その枠がなくなってしまうと、私はどれだけ消費に費やすんだろう。消費に費やして、10年後、それらのグッズを見て、私は何を思うんだろう。
 もっと、ビジュを磨くほうに向かうべきだよね。おしゃれとか、メイクとかに。
 


[9:03]
[外は極寒。風が冷たい]


 身震いするほどの冷たい風が吹いている。歩きながら、近所の住宅街をiPhoneのカメラで撮影する。ものすごく晴れていて、雲一つない青空なのに、ものすごく冷え込んでいて、寒かった。一気に耳と鼻先が冷たくなっていく。私の誕生日は、大体、ものすごく寒いか、季節外れの陽気になるかのどちらかだ。17歳の誕生日は、ものすごく寒気が上空を覆っているらしい。

 やっぱり、私も女子だから、大学に入ってからは、ビジュのほうに意識を向けようかな。最近はそんなことを考えている。ほかの人たちのVlogを観ると、ものすごくおしゃれな人が多いような気がする。バズってる化粧品は、大体、しっかり揃えているし、部屋だって、シンプルで大人っぽい。
 一方、私は、未だに子供っぽい気がする。やっぱり、人は見た目が9割なような気がする。第一印象が大切なような気がする。17歳になったから、そろそろ大人っぽさも意識しなくちゃいけないのかもしれない。
 いや、もしかすると、すでに遅いのかもしれない。だったら、今日からそういうことを目指したほうがいいのかな。
 そんなことを考えていると、また強い風が吹いたから、私は思わず立ち止まった。



[9:09]
[セブンイレブンでハーゲンダッツを買います]


 セブンに入る瞬間をiPhoneで撮影した。本当はシュークリームにしようかと思ったけれど、大人っぽさをテーマに考えた結果、ハーゲンダッツを買うことにした。ちょっとだけ、おしゃれっぽさを出してみよう。ちょっとだけ儚い感じのフィルターをつけて、動画を暗いトーンにしてみよう。そして、儚い感じの音源をつけて、いつもと違う、大人っぽさを演出しよう。
 なんとなく、化粧品コーナーに行って、ナイトパックも一緒に買った。
 
 大人になるってどういうことだろう。恋をすることだろうか。私はまだ、付き合ったことはない。片思いに焦がれて、誰かにアプローチをかけたこともない。大体、高校生で恋愛を経験したほうがいいのか以前に、恋をしていないから、私はよくわからない。
 そういうことは、18歳になって、大学生になってからにしようと思っているけれど、やっぱり、17歳からでも恋は必要なのだろうか。
 もちろん、今の友達4人は、誰も恋をしている様子はない。誰が好きとか、そういう話はあまりしない。まるで、友達4人との世界には、恋という概念がないかのように——。



[9:21]
[戻りました。極寒だけど、ハーゲンダッツいただきます]


 部屋に戻り、ハーゲンダッツバニラをローテーブルの上に置いた。iPadも一緒に置いて、画面をつけて9:21の表示も一緒にiPhoneのカメラで撮影した。続けて、ハーゲンダッツの蓋をあけて、内側のビニールの蓋も開けた。そして、ハーゲンダッツのプラスチックスプーンでバニラを掬った。

 iPhoneのカメラを止めて、ローテーブルの上に置く。スプーンを右手に持ったまま、左手でiPadを操作して、YouTubeを開き、推しの新着動画をタップした。よくわからない美容整形のCMが流れた。
 ようやく、スプーンを口元に持っていき、ハーゲンダッツを口に含んだ。バニラの香りと甘さ、そして冷たさが一気に口の中を支配した。

 私のVlogは、陽キャマインドを目標にしているだけで、それ以外はほとんど自己満足の領域だから、あまりバズったことがない。バズは狙ってないし、バズりたくないと思っている。このアカウントのことは、友達4人にも言っていない。私しか知っていない秘密のアカウントみたいになっている。
 半年経って、半分飽きてきている自分もいる。だけど、誕生日のVlogだけは撮りたかった。もし、この動画が最後の動画になったとしても、私はもう、十分、満足している。

 だって、今の私を明るく記録できていると自負しているから。
 
 






学校無理だった日のVlog

 #vlog  #学校行きたくない #JK
▶ 298回  ♥7 🗨️0 🏴0



[6:23]
[冬休みが明けて1週間、学校行くのつらい]


 カーテンを開けるところを、iPhoneで撮影した。マンションの7階から見下ろす街は、薄い青を均一に溶かしたような色をしていた。灰色のはずなのに、薄い青に近い雲は、今日も冷たくて、軽そうに見える。静かに雪が降っていて、家の近くの街灯のオレンジ色の下で無数の雪がちらついていた。真冬の夜が明けたばかり世界は、降り積もった雪の白が空の青を吸い込んでいるみたいだ。
 窓の縁には、雪が降り積もっている。それを数秒間、iPhoneで撮影し終えると、私は少しだけ満足した。

 私の住んでいる街は、1年のうち、3分の1が雪に覆われる。私はそのたびに調子が悪くなるような気がする。冬になると、気持ちが塞ぎ込みがちになる。学校嫌いなのは、もう小学生の頃からで、教室の中で、つまらないことを我慢するのが嫌だった。そのうち、中学校、高校と進み、一方的に抑え込む、「こうしなければならない」という、矛盾があるような抑え込む感じもものすごく苦手になった。
 ストーブをつけて、寒い部屋を暖める。部屋が暖まる間、またベッドに戻り、ライトグリーンのブランケットに包まる。
 



[6:28]
[いつもより早く起きたのは、あまり眠れなかったからです]


 薄暗いままの部屋、デスクに置いてあるスチールのスタンドライトをつけると、辺りは電球色の暖かさに包まれた。白い置き時計も一緒に数秒間、iPhoneで撮影をする。昨日は日曜日で、今日は月曜日。昨日の夕方から、ずっと気持ちは暗いままだった。学校に行きたくない気持ちは、雪のように心に降り積もって、交感神経がやられているんだ。きっと。
 
 小学校のときから、こういうことが続いている。楽しみでソワソワしてあまり眠れなかったわけじゃなく、寝ようと思っても、頭が騒がしくて眠れない。些細な人間関係でくよくよしちゃう。あのとき、こういう反応をしとけばよかったとか、どうして、上手く気の利いたこと言えなかったんだろうとか。もう、過ぎ去ってしまったことを、いちいち考えてしまう。
 
 今日も、金曜日の些細なやり取りを思い出して、自分を責めて、上手く寝ることができなかった。



[6:55]
[悩んだ末に親に休むことを伝えに行きます]


 自分のドアを開けて、リビングへ向かうところをiPhoneで撮影した。そして、母親に「今日、休みたい」と言うと、「今日もでしょ」と返された。俯いたまま、なにも言わないでいると、しびれを切らした母親が「わかった、連絡しておくから。お弁当食べてね」と言われた。「ありがとう。ごめんなさい」と返したけれど、母親は不機嫌そうだった。




[7:02]
[母は不機嫌そうでした。当たり前だよね]


 再び、自分の部屋に戻り、ここ最近はタブレット代わりにしているSwitchを手に取り、そのまま、ベッドの上に戻った。ベッドボードにSwitchを立てかけて、YouTubeのアプリを起動させた。そこまでをiPhoneで撮影した。
 休むことを伝えたら、一気にほっとしてしまった。

 金曜日、進路について説明される集会があって、そのなかで、学歴と生涯収入の違いについて話された。そのなかで、大卒で正規雇用のほうが生涯収入は良くなる傾向があると言われていて、一方でフリーターとか、派遣社員とか、非正規雇用を選ぶと生涯収入が低くなる。だから、「大卒で正規雇用のほうがいい」と、進路担当の先生が言っていた。
 色使いがカラフルで、見づらいパワーポイントでそれを説明していた。なんで、4色も5色も使うんだろう。3色コーデでいいでしょ。とも思った。

 こうやって言われると、身構えてしまう。だって、働くということだったら、どんなことでもいいでしょとも思うし、個人の自由でしょ。
 
 つまり、お金と愛、どっちが大事なんだろうって話でしょって、途中から呆れて、勝手に脳内変換した。私だったら、愛。愛のほうが大事でしょ。もし、どうしても好きな人がいたら、その人に私はついて行く。
 
 

[7:32]
[いつも家を出る時間になりました]


 ベッドボードに立てかけたSwitchの画面をいったん、ホーム画面に戻した。そして、時刻のところをアップ気味にiPhoneで撮影した。

 進路の授業のとき、もうひとつ思ったのが、結婚相談所みたいなこと言ってるよなって思った。結婚相手の希望年収は? 希望年齢は? 結婚後子供は? とか、条件をサーチしているような感覚だ。あなたの希望年収は? あなたの希望結婚年齢は? あなたは子供がほしい? みたいに聞こえて、気持ち悪い。
 というか、そんな可愛くない、ひねくれた考えをしてるから、私は学校に矛盾を見つけてしまうんだと思う。そもそも、これも自分自信が矛盾だと思い込んでいるだけで、真っ当なことを言っているにすぎない。

 たぶん、こういう説明に不自由さを感じているんだ。だけど、友達の前では、決してこんなことを言わないようにしている。数少ない、私と一緒に居てくれる人たちに、不快なことをしたくない。
 だけど、先週の金曜日、友達の一人が「やっぱり年収高いほうがいいよね」って言ったことに、「いや、人生、お金だけじゃないでしょ」って思わず言ってしまい、変な空気になった。

 

[7:33]
[今日はずっとベッドの中にいると思う]
[まだ、学校始まってないけど罪悪感]


 再び、SwitchでYouTubeを起動するところを、撮影した。友達は失いたくない。本当は学校に行かなくちゃいけないことだってわかっている。学校に行かないと、そのうち、今、私に優しくしてくれている友達を失ってしまうと思う。
 だけど、顔色合わせて、悪口も言いたくない。金曜日は、もうひとつ、ニアミスがあった。誰々の噂とか、悪口とか言いたくないから、適当にはぐらかしていると、「いつも逃げてばっかりだよね」って、言われて、それ以上、なにも言えなくなった。
 どうして、人って、悪口を言わないと生きていけないんだろう。今いる友達が悪いだけなのか、それとも、ノリで悪口を言わない私が悪いのか、もうわからない。

 Vlogを始めたのは、先月からだ。最近、学校に行かないことが多くなってきたし、自分の矛盾した思考を整理したいと思ったからだ。進路の授業ですら、引っ掛かりを覚えるほど、性格がきつくなっているような気がする。たぶん、些細なストレスが溜まっているからだと思った。
 自分の些細なことを発信することで、Vlogで少しでもストレスを解消できたらとも思っている。バズなんて興味ない。このアカウントは最高で観られても、1000回再生程度なんだから。


[8:12]
[ようやく、街の青が薄くなりました]
[どうにか、今日だけで、先週のモヤモヤを解消したいな]

 再び、窓から街の様子を撮影した。起きたときより、街の青は薄くなっている。雪は相変わらず降り続けていて、空は薄い青色から白色に変わりつつあった。
 
 残り1年と2ヶ月。学校に行かなくちゃいけないことは変わらない。こうやって、たまに休んで、やり過ごすしか、ないんだと思う。友達とも、ノリを合わせなくちゃいけないんだと思う。
 それも、嫌だったら、ひとりぼっちになってしまえばいいだけなんだけど、今の私にそんな勇気、ないよ。
 








別れた。ぐるぐるしちゃうね

 #vlog  #失恋 #開き直り #恋愛
▶ 84回  ♥0 🗨️0 🏴0




[17:03 帰宅するバス]


 バスがバス停に着き、ドアが開く瞬間を、iPhoneで撮影している。そのまま、バスに乗り込み、ICカードをタッチした。
 10ヶ月付き合った彼氏に振られた。理由は『好きな子ができたから』だった。すごく幼稚な理由だなって、私は思ったけれど、それを受け入れることにした。さっき、告白されたときみたいに、学校の屋上に呼び出された。今日は短縮授業で、授業自体は16時くらいには、終わっていた。それで、昼にメッセージで放課後の呼び出されて、その結果が、これ。

 9月になったのに屋上はまだ、熱を帯びていて、少しだけジリジリしていた。告白されたときみたいに、ペンキが剥げている青色の手すりに寄りかかって、少しだけ高くなった秋になり始めた青空をぼんやり眺めて、元彼の話を聞いていた。
 


[17:33]


 バス降りる。バスから降りる様子を撮影した。そして、iPhoneをスクールバッグのなかに入れた。なんとなく、両手を広げてみる。なんとなく、納得がいかなくて、失恋したあとの学校でつけたネイルチップを眺める。エメラルドグリーンに銀色のラメが入ったデザインのネイルチップだ。
 帰るだけなのに、もったいない気もしたけれど、なにかしないと、気持ちが晴れないような気がした。だから、誰もいない教室で、ネイルチップをつけた。

 それでも、気分はいまいちのままで、振られた理由も釈然としなかった。あのとき、粘って、メンヘラっぽく、必死に引き止めるっていう、やり方もあったのかもしれないけれど、なぜか、そんな気分にもならなかった。

 そんな幼稚な理由で、心変わりしてしまうのなら、私の魅力は、彼にとってみれば、その程度だったってことなのかもしれない。それなら、いっそのこと、浮気してくれてたほうが、まだましだったかもしれない。変に誠実っぽくされるほうが、傷つく。

 『友達に戻ろう』と言われたのも、違和感しかなかった。
「いまさら戻れるかな」
「戻れるよ。勝手かもしれないけれど」
「新しい女のことがちらつくから、無理って答えたら?」
「それでも、俺は友達で居続けるよ」
「一方的じゃん」
 そんなやり取りをした。私のことなんて、考えてないんだろうなって、ふと思った。



[17:37 なんとなくマツキヨ]


 マツキヨの入浴剤コーナーをなんとなく撮影したあと、iPhoneをスクールバッグに戻した。ちいかわとか、キャラクターがついたバスボムも気になった。普段だったら、買ったかもしれないけれど、今日は大人っぽいものがほしいなって思った。
 だから、重炭酸のバスタブレットを買った。色もなにもついていないかもしれない。ただ、私の奥のなにかを浄化してくれるのは、重炭酸しかないような気がした。

 そもそも、私は最初、彼のことが好きかどうか、わからないまま付き合い始めた。だから、最初はデートしてもあまりときめかなかった。だけど、だんだん、あっているうちに、話しているうちに、彼に惹かれて始めていて、いつの間にか、普通に好きになった。
 まっすぐなところとか、意外と、深いことを考えているところとか、同い年だけど、大人っぽいなって思うことがあった。
 だからこそ、子供っぽい理由で振られたのは、まったくもって意味がわからなかった。
 



[18:03 ただいま]


 薄暗い部屋を撮影したあと、私は制服のまま、ベッドに飛び込んだ。そして、仰向けになり、今日の出来事を何度も、脳内で再生してみた。

 どうして、友達に戻りたいんだろう。
 どうして、私じゃない人のことが好きになったんだろう。
 そもそも、私に告白したのは、君でしょ。
 そんなの無責任じゃん。

 あー、だめだ。右手を上げて、エメラルドグリーンのネイルチップをぼんやり眺める。1ヶ月前、もしネイルするとしたら、何色が合うと思う? って彼に聞いた。すると、緑が似合うよ。って言ってくれた。だから、私は次に彼に会う時のために、このネイルチップを買い、さらっとお披露目しようと思っていた。
 なのに、この1ヶ月で彼は、新しい女に惹かれていた。惹かれた女のことを聞こうとした。だけど、彼は言おうとしなかった。ただ、微笑んで、なにも言わなかった。
 
 そんな彼を見て、私はため息をつき、青空を眺めていた。無限に広がるように見える灰色の住宅街も、遠くの団地も、なにもかも消えてしまえばいいのにって思いながら、彼の次の言葉を待っていた。



[18:33 結局、ネルチ外す]


 左手の人差し指のネルチを剥がすところを自撮り棒に固定したiPhoneで撮影した。そもそも、Vlogは彼と付き合う前から、やっていて、完全に自己満足のアカウントだ。このアカウントのことは、彼にも伝えていない。あまりにも再生数が回らないから、シャドーバンされているんじゃないかとも思ったけれど、たぶん、需要がないだけなんだと思う。
 再生数が100回にも満たなくてもいいやと今は思いながら、自分の記録用にVlogをちまちまアップし続けている。

 すぐに外してもいいと思っている。どうせ、気持ちが落ち着くまで、このネイルチップをすることはないかもしれない。もともと、私は水色とか、薄いピンクとか、淡い感じのほうが好みだ。あまりはっきりした色のネイルをしたことはなかった。
 
 男なんていくらでもいるんだから、いちいち些細な失恋で、感傷してたって仕方ない。そんなことは、わかっているのに、自分のことを否定されたみたいに感じてしまうのはどうしてだろう。
 左の薬指のネイルチップに手をかけ、息を吐いてすぐ、右目から勝手に涙が流れてしまった。




[19:52 お風呂にバスタブレット]


 40℃のお湯が張ったバスタブに、重炭酸のバスタブレットをそっと入れるところをiPhoneで撮影した。バスタブレットを入れた瞬間、泡が一気に吹き出した。iPhoneを脱衣所の洗濯機の上に乗せ、裸になり、お風呂に入る。

 もう一度、話したいってメッセージを入れたくなったから、それを我慢するために、お風呂に入ることにした。彼とのメッセージをなんとなく、辿ってしまったのが原因なのは、自分でもわかっている。だから、物理的にiPhoneと距離をおくことにした。
 目の奥が痛い。ひとしきり泣いた所為だ。どうしてかわからないけれど、胸の奥も痛い。
 
 彼に大人っぽさを感じていたのはどうしてなんだろう。
 彼のことが好きだったのは、どうしてなんだろう。
 どうして、私は彼に恋をしていたんだろう。

 そんな、どうしてばかりが頭の中でぐるぐると回ってしまう。そして、私はそこまで彼のことが好きじゃなかったんじゃないかって、結論にいたった。なんだか、浅い恋愛をしていたのかもしれないって。深い恋愛って、もっと、人のことをしっかり、好きになって、愛することなんじゃないかって思った。それが大人の恋愛であって、高校生のガキの恋愛と、大きく違うことなんじゃないかって。

 そう考えると、私と彼の恋愛は、浅くて、脆かったのかもしれない。
 私は彼に、好きだということを伝えていたつもりだったのに、彼にはそれが届かなかったのかもしれない。だから、彼は私に飽きて、次の恋愛に行ってしまったのかもしれない。
 あー、考えが堂々巡りする。
 
 もう、いいよ。って思っても、彼のことばかり、頭の中でぐるぐる回り続ける。
 君はいいよね。もう、次の恋愛、始めているんでしょ。
 私のことなんか、忘れて。








虚弱体質が普通に登校する日

 #vlog  #sjk #虚弱体質
▶ 308回  ♥8 🗨️0 🏴0




[5:38 起床]


 デスクに置いてある白いデジタル時計をiPhoneで撮影する。遮光カーテンの隙間から、わずかに光が射しているけれど、部屋は薄暗い。10分前に起きて、iPhoneを見ながら、ぼんやりいらない情報をSNSを見て、摂取した。

 相変わらず、身体は疲れ切っている。疲れている理由はわかり切っている。私にとって、学校が遠いんだ。遠いと言っても、1時間半くらいでたどり着くことができる距離なんだけど、私はあまり体力がない。もともと、虚弱体質だった小さい頃から、疲れやすい体質だった。遠足の次の日は必ず熱が出て、休んだし、運動会の次の日も必ず熱が出た。
 
 そんな私が通学だけで疲れ切るような学校に行ってるなんて、笑えてくるよね。
 


[5:52 おはようヘアアイロン]


 ヘアアイロンの電源をつけるところを撮影した。薄暗い部屋のなかで、スリコで買った、LEDでライト付きの丸いミラーの端も同じ画角に入るようにした。怒られない程度のスクールメイクは、最低限している。どうしても、不機嫌なときが多いから、少しでもいい印象持ってほしいから、最低限のメイクはするようにしている。
 
 体調がいいと思える日は、月に1回か2回あればいいほうだ。ほとんどが体調不良だから、きっと、険しい表情をしていると思う。それでも、周りの友達は、優しくて、ここまで、なんとか普通の高校生活を送っている。しょっちゅう休むから、友達からも虚弱キャラで通るようになった。だからといって、過度に心配してくれないところもあるから、本当にありがたい。虚弱な状態を仕方ないよって笑い飛ばしてくれるところも、本当に感謝している。

 

[5:54 ヘアアイロンが温まるまでベーグル食べる]


 デスクに置いた白いお皿に乗ったベーグルを撮影した。キッチンで冷凍のベーグルを温め、それを部屋に持ってきた。デスクには、iPadもあり、朝からYoutubeを観ている。Vlogにアップするときは、儚い感じにしたいから、暗めのフィルターをかけて、今、見ている世界をより暗くしようと思っている。

 そんな優しい友達に、支えられているけれど、最近、やっぱり限界を感じている。ゴールデンウィークが終わり、5月も中旬に差し掛かっている。5月になって、もう3日も休んでしまった。1年生のときも休みすぎて、あと一日でも休んだら、留年してしまいそうなくらい、ギリギリの日々だった。単位のためだけに、熱がある状態で学校に行ったりもした。

 

[6:07 メイクとヘアセット]


 自撮り棒で、手元を画角にして、FASIOのBBクリームを左手に出すところを撮影した。グレーのボディからライトベージュを出したあと、キャップを閉めた。そして、右手の人差し指で顔に点を作っていく。
 ミラーは映らないようにしている。もし、映っていたら、モザイクをかけるつもりだ。

 Vlogを始めた理由は、制服を着た普通のJKの期間は、もう長くないんじゃないかなって思ったからだ。そう思ったのは、1年生の秋頃で、そのときから、登校している様子とか、遊びに行った時の様子とかを撮影して、ほそぼそと、このアカウントに残している。

 2年生に上る前、親から、もっと身体の負担が少ない学校に転校するのはどうかと話をされた。例えば、通信制の高校にして、登校する日を少なくするとか。「見ていて、辛そうだよ」と本当に心配してそうだった。
 そのときは、「大丈夫、ありがとう」と伝えたけれど、2年生が始まって、1ヶ月半。やっぱり、ここ最近、体調がよくない。

 私も、ここ最近、特に体調不良が続いていて、やっぱりもう限界なんじゃないかなと思っている。4月、学校が始まって2週目で、咽頭炎になって、一週間、高熱で休んだ。ゴールデンウィークが明けて、2日後も、熱が出てそのあと、3日休んだ。 



[6:24 JK完成]


 スタンドミラーで制服姿の自分を映す。ブレザーにYシャツ、赤いリボン、そしてチェックのスカート。あとで顔にはモザイクをしよう。どうせ、数百回しか再生されないんだから、制服を映したところで、誰にもバレやしない。このアカウントなんて、どこにでも吹いている風のように無視される存在なんだから。

 ギリギリまで、寝ていてもいいけれど、時間に余裕がないのが嫌だ。ギリギリまで寝て、ギリギリで焦って、学校まで行くと自分が整っていない状態で、学校に行くような気がしてしまう。ただでさえ、体調が悪いし、疲れやすいから、自分の気持ちを整えていかないと、周りに当たり散らしてしまいそうで怖い。
 無意識にイライラしていると思うから、できるだけ、それを表に出さないためにも、自分のなかで余裕を持つことが大切なような気がしている。

 

[6:26 時間余ったから、お勉強]


 お勉強と言っても、これは昨日、友達から借りたノートを写しているだけだ。休んだ、2時間分の世界史のノートを書き写している。ノートの書き写しも慣れてしまって、大体、30分もあれば、大体のことは、書き写すことができる。
 その代わり、ノート点検に引っかからないくらいの、最低ラインの書き写しをしている。重要そうなところを重点的に書き写している。その代わり、授業にでているときは、先生が板書しない話とかも、ノートの片隅に書いて、点数を加点させるようにしている。
 物事はメリハリが大切だ。時間は限られているし、体力も限られているから。

 それにノートを借りたまま、休んだりしたら、最悪だ。その友達に迷惑がかかるから、できるだけ迷惑がかからないようにしたい。そもそも、ノートを借りている事自体も、うしろめたくて、申し訳ないと思っている。友達からの、優しさは嬉しいけど、自分が情けなく思い、申し訳ないと感じることも多い。



[7:02 いってきます]


 今日も身体の疲れを感じたまま、ドアを開けた。その瞬間をiPhoneのカメラで撮影したあと、ブレザーのポケットにiPhoneを入れた。今日も身体が重たい。私は常に水に濡れて生きているのかなって思うときがある。アンパンマンみたいに水に濡れて力が出せないのか。それとも、本当にずぶ濡れで、制服が水を吸って、重く感じているのか。
 火曜日でも、金曜日の疲れのように感じる日常だ。これから先、大学に行ったり、一人暮らししたり、社会に出て働くとなったとき、こんな疲れ切った身体で、世の中の普通のことができるとは到底思えない。

 週5日6時間、学校に行くのも大変なのに、週5日8時間も働くことなんて、私にはできないと思う。たぶん、普通のハードルが高くて、私には、到底飛び越えることなんてできないんだと思う。
 だからといって、最初から諦めるのも良くはないから、そうなったら、実際に働いてみると思うけれど、結局、しょっちゅう、熱で休むことになるかもしれない。
 そして、休んだら白い目で見られるのかな。私だって、普通になりたいだけなのに。ってモヤモヤを抱えながら、過ごすのなんて、やってられないよ!

 そんなことを考えながら、JRの駅まで歩いている。今日も帰ってきたら、どっと疲れてしまうのかと思うと、ちょっとだけ憂鬱だった。今日は、体育もあるから、より疲れてしまいそうだ。

 それでも、学校に行けるうちは、学校に行きたい。
 だって、友達といる青春は楽しいから。
 今だけでも、だましだましでいいから、普通の青春を送りたい。

 







夏休み最終日Vlog

 #vlog  #永遠に夏休みをください #学校嫌い
▶ 4.5万回  ♥1267 🗨️37 🏴102


[10:25]
[なぜ学校に行かなくちゃいけないんだろう]


 白いお皿の上に2つのクロワッサンがのっているのと、炭酸水が入ったグラスをデスクの上に置いてある状態を、撮影している。自撮り棒の三脚で手元が映る画角にしている。雰囲気作るために、薄暗いフィルターをつけてみた。私のVlogは思ったことをそのまま、文字に入れるようにしている。
 


[いろいろ頑張れなくて、もう限界だ]
[疲れ切っているのかもって感じ]


 iPad miniでネトフリのドラマを流しながら、クロワッサンを食べているところを、撮影し続けている。
 学校は騙し騙し行っている。ギター弦が切れても、無理やり演奏し続けているような状態だ。自分は続けることがもうできないと思っていても、曲は流れ続けるし、オーディエンスは熱狂したままだから、不安でいっぱいなのに、仕方なく演奏し続ける。

 周りはたぶん、勉強し続けているだろうけれど、私は勉強することすら今は、あまりできていない。もう、諦めたって、両手を上げてしまえれば、どれだけ楽なんだろうって、思うことが増えている。あと1年半もこの学校に通えるのか、本当に自分でもわからない。
 今さら、部活だって入りたくないし、だからと言って、今のクラスに仲がいい子もいないから、ひとりぼっちだ。
 明日から、またつまらない我慢するだけの日々が始まるのかと思うと、うんざりする。



[10:47]
[夏休みにすっかり夜型になった身体]
[頭が回らなくて、ぼーっとする]


 部屋を出て、階段を降りて、キッチンにお皿を戻しに行くところを、自撮り棒を持ちながら撮影した。
 これは小学生のときから、なんだけど、年に何回か、まったく起き上がれないことがある。なにもかも気力がなくなってしまって、電池が切れたみたいになる。そういう日は、じっとベッドの上で丸まって、ずっと横になっている。大体、そういう日は、泣いていて、なにも考えられなくなる。大体、ごはんも食べる気分になれないから、ただじっとしている。
 たぶん、ズル休みの部類に入るのかもしれないけれど、そういう日は、本当にじっとしていないといけない。
 夕方になって、ちょっとずつ動けるようになって、ようやく普通のことができるようになる。スイッチでゲームしたり、ネトフリ観たり。いつものことができるようになる。
 でも、決まって襲ってくるのは、罪悪感。自分は一体、学校を休んで、なにをしていたんだろうって。ほかの人たちは、頑張っているのに、私は頑張れないんだって。

 今日はその感覚に似ているけれど、まだ、動けるだけマシな気がした。これは、夏休み最終日のマジックだ。まだ、夏休みなのに、もう憂鬱が支配しているんだ。


[そんな弱気なこと言ってられないのもわかってるよ]

 
 部屋に戻って、デスクからiPadを手に取り、ベッドサイドテーブルの上にiPadを置いた。その様子を11秒、撮影したあと、ベッドに寝転んだ。

[学校に行くことに意味はありますか?]
  
 同じ動画のまま、文字だけを変えた。ただ、こんな憂鬱な日々でも、Vlogを始めてよかったことが、似たような気持ちを抱いている人から、コメントをもらえるようになったことだ。同じような気持ちを抱えている人たちから、『気持ちわかる』とか、『響いた』とか、コメントを貰うようになったからだ。コメントのなかで、みんな辛そうだった。
 『頑張れないときは休んでいいよ』とか、『ひとりぼっちって辛いよね』とか、『この動画みて、少しだけ学校に行く気になった』とか、本当にいろんな人たちから、いろんな反応をもらっている。

 いろんな反応をもらうなかで、わかったことがある。
 それは、「ひとりじゃない」ってことだ。



[11:37]
[順位をつける意味はありますか?]


 ネトフリでドラマを一話見たあと、お昼ごはんを買いに、セブンイレブンまで行くことにした。玄関のドアを開ける瞬間を撮影し、そのまま歩きながら、白いコンバースを履いた足元を撮影し続ける。親は共働きだから、夏休みの期間中は、大体、お昼を買いに行くことが多かった。お昼ごはん代の1000円札が一枚、ダイニングテーブルの上に置いてあるのが、ここ最近の日常だった。

[青春とか、楽しいことは学校じゃなくてもできる気がするし]
[ただ、試験とか、受験とか、順位とかに追われているような気がする]

 同じ動画のまま、文字だけを変える。そう問いかけているのは、みんなはどう思っているのかを聞きたいからだ。順位や成績が下がるたびに、私はやっぱりダメなんだって思う。学校のみんなが頑張っている間に、私は頑張れなくて、上手く勉強ができなくて、置いていかれる。
 これは常に疲れている自分の問題なのかもしれない。よく考えてみると、夏休み期間中も、ベッドに横になっている日のほうが多かった気がする。
 普段、学校で気を張っているわけでもないけれど、学校に行くだけで、疲れが溜まっていって、ここ最近は疲れが抜けないような気がする。



[11:43]
[教室に閉じ込められている感覚も嫌だし]


 近所のセブンイレブンに入るところも、そのままiPhoneで撮影を続けた。一旦iPhoneをポーチに入れる。そのまままっすぐ進み、冷蔵棚のほうへ向かう。ここ最近、ハマってる冷やし担々麺を手に取る。そのあと、お菓子コーナーに向かい、たけのこの里を手に取り、レジへ向かう。
 
 セブンイレブンを出る時、再びiPhoneを手に取り、店を出る瞬間の足元を撮影した。

[周りは頑張ってるのに、自分は頑張れてないって、]
[比較して、自己嫌悪しちゃうし]
[だからと言って、これ以上、なにを頑張ればいいのかわからない]

 
 そう、これ以上、なにを頑張ればいいのか、本当にわからない。自分でもよくわからないまま、メンタルだけ、豆腐になっていくし、その間に季節は巡っていくし、本当にわからない。最近、親も私のことを気になりだしているみたいだ。去年の今頃とかは、ズル休みはありえない。学校に行かないとダメだ。としか言われなかったのに。
 親の繁忙期が終わったら、心療内科でメンタルを観てもらうことになった。

 それでも、今は、無理にでも頑張らなくちゃいけない。

[それでも、明日は学校に行くよ]
[頑張れることはそれしかないから]

 






通信制高校jkの登校日

 #vlog  #通信制 #過緊張
▶1694 回  ♥40 🗨️3 🏴19


[8:02 おはよう]


 白い器に入っているヨーグルトと、白いお皿の上の食パンをカメラで収めたあと、iPhoneをそっと、テーブルの左端に置いた。
 それらをゆっくり食べる。この時間にゆっくり朝ごはんを食べている。10時からのスクーリングに間に合うように、朝の準備をしている。昨日から、若干、緊張しているけれど、こればかりは仕方ないと思っている。
 いつも臆病な私は、いつだって、多くの人たちがいる環境に行くことが決まると、こうやって緊張する。そんなのは、いつものことなんだから。
 慣れは必要だけど、私はずっと、これに慣れない気がする。

 

[8:34 久々の制服]


 前に通っていた学校の制服に袖を通す。洗面台のミラーに映る自分を映した。顔出しはもう、ずっと前からしているから、さほど、抵抗感はない。それよりも、久々の制服姿の自分に少しだけテンションが上がった。
 ここ最近は、ずっと、家のなかで勉強をして、大人しく過ごしていることがほとんどだった。だから、制服を着ると、やっぱり、私はまだ17歳なんだってことを実感できるような気がした。
 学校に行けなくなったのは、過緊張の所為だ。緊張しすぎて、人前で話すことができなくなった。どもって、上手く話すことができないし、過呼吸で倒れてしまうしで、普通高校という環境に、なにもかも合わなかった。
 せっかく一生懸命勉強して、憧れだった進学校に入ったのに、たった3ヶ月でやめてしまうことになった。私が緊張で話せなくなると、みんなすごい冷たい視線で、私のことをじっと見ていた。そのときのことが今でも、フラッシュバックしてしまう。
 中学校のときは、できていたことが、高校に入って急になにもできなくなってしまったから、余計にショックだった。



[8:40 自転車で駅まで行く]


 自転車の鍵を外すところを撮影したあと、iPhoneを黒いバッグに入れた。高校に行っていたときは、すでにこの時間は、遅刻している時間だ。だから、この時間、平日に自転車で駅で向かうのは、不思議な気持ちになる。
 7月の暑さは、もはや絶望的で、むわっとした湿度すら煩わしい。すでに陽炎で住宅街の先のコンクリートは溶けているように見えた。

 いつ、どこで、明確に傷ついて、過緊張するようになったのか、自分でもわからない。だけど、朝の混雑している電車も、嫌になったのも確かだし、全校集会みたいに人が密集するような環境が、嫌になったのも確かなことだ。
 人前で話すことができなくなったのも、その嫌な感覚の延長にあった気がする。学校をやめて、1年近く経った今、ようやくそれも落ち着いてきたような気がする。
 それでも、今でも電車に乗るときは緊張するし、人が多い商業施設とかに行っても、人の多さで緊張してしまう。



[8:58 改札通過]


 改札にICカードをタッチして、改札を抜けるところを撮影した。iPhoneは手に持ったまま、今まで行っていた高校とは、反対の街へ行く方のホームまで階段を降りていく。
 朝のラッシュが過ぎ、ホームは静かだけど、少しだけ心臓がドキドキし始めたような気がした。20分電車に乗ればいいだけの話だ。そして、学校に着いたら、大人しく教室に入り、大人しくスクーリングを受けて、それが終わったら、帰ればいいだけの話だ。
 そんなこと、頭の中ではわかっていても、私は、やっぱり緊張しているようだ。

 別に誰とも話さなくたって、許される場所だ。単位を取るために必要な登校なんだから、仕方ない。こんな状態だから、バイトもできないでいる。今は、高校生だから、許してあげるけれど、卒業したら、考えてね。と親にも言われている。
 定期的に病院のカウンセリングも受けている。だけど、トンネルは抜ける気配はなく、私はただ、暗闇を歩き続けいるように思える。



[9:23 改札通過 その2]


 学校に通うことが普通だとしたら、私はその普通ができない。いや、無理やりやっているような気がする。今は17歳だから、いろんなことが許されているような気がする。だけど、いつかは、18歳になり、大人になる。今、許されていることも、だんだんと許されなくなるような気がする。
 それが、成長というものだろうし、普通に生きるということは、年齢に応じて、成長していくことなんだと思う。

 そう考えると、今、人前で過緊張してしまう私は、この先、どうなってしまうんだろう。
 いつも、そう考えると、怖くなってしまう。幸せを追い求める前に、まず、普通に暮らせるようになることを追い求めてしまうと思う。
 普通ができないから、苦しい。だから、私は普通を求めて、溺れる。

 努力しようとしたり、克服しようと行動しているけれど、その行動は、ちっとも前に進んでいないように思える。そのことをカウンセリングで話したら、『焦らなくていいよ。焦らず、着実にやっていきましょう』と言われた。

 わかるけれど、私は、私自身の人生に焦ってしまうよ。
 今も、学校に緊張しているけれど、人生に焦っているから、私は自分を奮い立てている。







小説書く日のVlog
 #vlog  #小説家志望 #高校生
▶ 1.6万回  ♥481 🗨️12 🏴87




[8:22 土曜日なので小説書いていきます]
[今日は小説を完成させます]
[クライマックスを書くので、目標1万字です]



 デスクに向かう私の後ろ姿を捉え続けるiPhoneのカメラ。4月の黄色い朝日が、部屋に射し、ブラウンのフローリングも、白い壁もすべてがキラキラしているように見える。その中で、私は、わざとらしく身体を伸ばし、机に置いてあるグレーグリーンのタイプライターキーボードに手を置く。
 タイプライターキーボードのホルダーには、iPadを立てかけていて、いつも使っている小説執筆のアプリが立ち上がっている状態だ。
 ここまでの姿を演技したあと、左後ろの本棚に置いたiPhoneを回収した。三脚展開した自撮り棒も一緒に持っていく。
 
 朝から、赤い水玉模様の白いシャツと、グレーのワイドパンツを着た。別に外に出るわけじゃないのは、わかっているけれど、スウェットのダル着を見せるほどの勇気はない。だからといって、妥協して、画角を調整して、服が見えないようにしたいわけじゃないから、結局、着替えた。

 7時40分に起き、始まった今日は、物語の最後まで書くことができるような気がした。



[8:23 相棒はアイスのカフェオレ] 


 動画を撮影する前に持ってきた、白いマグカップに氷が入った、カフェオレを撮影した。ありそうな雰囲気が作れたような気がする。今日、初めてVlogを撮影している。Vlogを撮ることはもう、半年前から決めていた。小説を書く様子を収めるVlogを作るときは、完璧なものを作りたいなと思った。
 だから、筆が進まないところを撮っても仕方ないと思っていたから、書き始めた長編のクライマックスを書く様子をVlogにしてしまおうと思った。

 今まで、3作、10万字超えの小説を書いたことがある。大体、10万字くらいあれば、1冊の本になる文量だというのは、いつか見た小説の書き方のネット記事で見たことがある。短編だともう30作くらい書いた。
 それらの経験から、大体、クライマックスは一気に書くことができるのに気がついた。
 
 いったん、席を立ち、窓の前に立つ。窓越しの世界は、気持ちいいくらいの快晴だ。近所の公園の桜は今日も、完璧なピンクで、今日も最高の一日になるような気がした。



[8:34 さて、書いていきますよー]


 手元と、グレーグリーンのタイプライターキーボード、そしてiPadの画面の一部が画角に入るように自撮り棒を三脚モードにして、セットした。ここからiPhoneの録画を切らずに撮影することにした。
 私は、再び両手を組み、手のひらを伸ばした。そして、すっと息を吐き、昨日の夜、書いていた続きから、文章をタイピングしていく。
 本当にラストスパートのシーンだ。あと、1万字くらいあれば、半年かけて書いてきた小説を書き終えるはずだ。脳内は一気にシーンに集中する。現実では、iPadに表示された文字を追っているはずなのに、意識は、脳内映像の物語の中にあるような感覚だ。

 主人公の感情が、自分の胸の中いっぱいに伝播する。追い込まれて、苦しくて、泣きたくなる。その気持ちをしっかりと文字に書き起こしていく。自然と呼吸も荒くなる。心拍数も若干、上がっているような気さえする。
 現実ではない、ただの空想のなかなのに、リアルに思える。小説を書いていると、いつもそんな感じで、意識が吸い込まれるような感覚で、本当のことを書いているような気さえする。

 本当は、自分のなかの脳内でしか起きていないことなのにね。
 
 ここから映像を12倍速にした。ただ、書き続け、タイピングしているところを定点で撮影しているだけだ。
 こうして映像を観ていると、小説を書く作業は本当に地味に見える。意識のなかで、文章を書いているような感覚だから、普通の論文とか、作文とか、そういう文章を書いているときと、感覚が違う。たぶん、絵が地味だから、そういう大変さとか、伝わりにくい気がする。
 こうして、映像を観ていると、ただ、文章を打ち込んでいるようにしか見えないから。



[11:06 いったん、疲れたから休憩です 頭が熱いです]
[7000字くらい書きました]

 
 倍速から、等速に戻り、いったん書くのをやめて、iPhoneの撮影を終わらせた。iPhoneは2時間半、無理させたぶん、すごい熱くなっていた。バッテリーも残り23%になっていた。iPhoneも冷やさないと、Vlogの撮影ができなくなるなと私は思った。
 
 席を立ち、部屋の窓を開けた。春の爽やかな空気が一気に流れ込んできた。近所の公園が見える。公園の桜は淡いピンク一色で、穏やかな風で、ピンクの波打つように揺れている。右手で額に触れると、少しだけ熱を感じた。別に体調不良ではない。一気に7000字も書いたら、頭を使いすぎているから、頭が熱くなる。
 すでに疲れ切っているんだ。小説を書いたあとは、大体こんな感じになる。ぼーっとするし、なにかしっかりと運動をしたあとみたいに、身体もずっしりと疲れている。

 小説を書くことって、地味だけど、けっこう体力を使う作業なんだと思う。17歳の私自身の体力がないわけじゃないと思う。むしろ、昔から、人並みで健康的なほうだと思う。年に一度、風邪か、インフルエンザになるくらいだ。
 それでもひどく疲れるのは、脳内のイメージを言葉にする作業が、相当、身体に負担がかかる作業だからだと思う。



[13:02 ちょっとだけ桜、見に行きます]

 
 淡いピンク色の桜をアップで撮影したあと、iPhoneを白いパーカーのポケットの中に入れた。iPhoneは充電して、78%になった。場所が特定されないように、桜だけをアップで撮影した。たぶん、大丈夫だと思う。そういうのは、ちょっと怖いから、警戒しちゃう。
 だったら、Vlogなんて作らなきゃいいのにって話になると思うけれど、それとこれとは、話が違う気がする。そう、昔から、私は、自分の考えることが長過ぎるから、あまり、人から話を聞いてもらえることが少ない気がする。

 別に普通に友達だっているし、普段の高校生活は、キラキラJKとまでは、いかないけれど、それなりに楽しんでいると思う。
 『Aじゃないけれど、Bってこともあると思うんだけど、やっぱりAなのかな』みたいな、話し方をしてしまうから、友達からは、「話が長いよ!」ってよく笑われる。できるだけ、簡素に伝えられるように、話をまとめるようにしているけれど、気を抜くとすぐに、こんな感じで、長い考えをつらつらと話してしまうクセがある。

 話が伝わらないのが、ちょっとした私の悩み。
 つまり、私は、なにかを伝えようとすると、正確に伝えたいと思っちゃうから、面倒な人間なのかもしれない。



[14:05 桜もみたところで、作業再開します]


 また、午前中と同じ画角にiPhoneをセットした。手元と、グレーグリーンのタイプライターキーボード、そしてiPadの画面の一部が映るようにした。
 ここから、また倍速にして、小説を書いている様子を映し続ける。

 Vlogを始めようと思ったのは、『小説書くのって楽そうだよね』って、友達から言われたことがきっかけだった。そのときは、「楽しいよ」って答えたけれど、いや、楽ではないでしょ。という違和感が胸の中に残り続けた。
 ある意味、その言葉を根に持っているのかもしれない。小説が書けたとき、楽しいってよりも、達成感のほうが大きい気がする。なにかをチャレンジし続けて、成功したときに嬉しい感覚だと思う。だけどそれって、「楽しい」とは違う感覚だと思うし、書いている間は基本的にずっと辛い。
 
 じゃあ、どうして書いているの? って思われるだろうけど、書くことが得意だし、自分にはそれしかないように思えるからだ。イラストを描くことが得意だったら、それをずっとやっただろうし、ピアノが得意だったら、ずっとそれをやっていたと思う。バスケ、バレーが得意だったら、ずっとそれをやっていたと思う。
  
 小説は試合で活躍した達成感とか、イラストとか、音楽みたいに、瞬間的第一印象で、上手いかどうかわかるものでもない。それに文章を書くことは誰にでもできることだから、軽く見られているような気がする。
 楽ではないけれど、達成感はあるってことを、このVlogで発信できたらって思うけれど、やっぱり、難しいかもしれない。



[18:24 できました!!]
[結局、1万3000字くらい書きました]
[10万2千字でこの物語はおしまいです]


 Enterをわざとらしくゆっくり押して、タイプライターキーボードから、両手をゆっくり離した。はじめて、iPadに表示された時間を見る。もう、夕方になっていて、薄暗いことに気がつく。15時すぎから、デスクの白いスタンドライトを付けていたから、それすらもあまり気を払っていなかった。
 気がつくと、イメージのなかに潜り込んでいた。時間とか、そういうのは、もうわからないくらい、イメージの映像をずっと文字にしていた。
 とりあえず、iPhoneを手に取り、iPhoneの録画を切った。iPhoneは熱くなっていて、バッテリーも残り9%しか残っていなかった。

 達成感の所為で、頭の中がバグっている気がする。結局、今日は1万3千字以上書いたことになる。もう、なにも考えられないくらい。人にどう思われるかとか、今はそんなことなんて考えられない。ただ、いい作品を書いたような気がするという、気持ちの良い錯覚だけが残っている。

 立ち上がると、ふらっと、立ちくらみがした。数秒、目をつむり、再び、黒い世界から、夕暮れの世界に戻ると、ふらつきが収まった。
 窓の前まで行き、窓を開ける。風は冷たくなっていた。公園の方へ視線を向ける。
 公園の街灯にかすかに照らされて、桜のピンクが揺れていた。

 ぼんやりとした、のぼせた頭で、ずっと春が続けばいいのにって思った。
 いつか、プロになったら、桜について書こう。
 誰よりも綺麗に桜のことについて、書く自信があるから。
 







田舎の夏休みVlog
 #vlog #雰囲気 #夜明け前
▶  24万回  ♥1467 🗨️30 🏴224


[4:04]
[暑くなる前に朝をインストールします]


 私は今、見慣れた田んぼ道を歩いている。藍色とオレンジ色が混ざり合った空が低い山と山の隙間を埋めている。車も人も誰もいない世界。この世界にただ、ひとりだけ取り残された気持ちになる。昨日の暑さが微温くなった世界は、これ以上、微温くなる気配はなく、今日も日が昇ると絶望的な暑さになりそうな、そんな微温さだ。
 みんなが寝静まっている世界の中で、私はひとり彷徨っている。



[4:22 国道沿いのローソンで燃料調達]


 LEDの街灯の下、ビニール袋を左腕にかけながら、ピースサインを作る。ついでに指ハートまで作っておく。いろはすと、クラフトボスのブラックコーヒーと、クリームパンを買った。とても広いローソンの駐車場は2台の大型トラックと、1台の軽自動車が駐車されているだけだった。
 片側1車線の国道は白色の街灯が等間隔であるだけで、とても静かだ。たまに走り去るトラックの轟音だけが現実感がある。

 永遠に夏休みだったらいいのにって、ありがちなことをふと思った。また、決められた時間までに自転車で駅まで向かい、2本しか猶予のない列車の時間に追われる。どちらかの列車に乗っても、列車が駅を追うごとに、同じ制服同士で混雑し、その混雑のまま、駅を降り、学校へ行くのが、面倒だ。1時間半かけて通学する自分は偉いと思う。
 JKでいる期間も、残り1年半で、一年半後には、期限切れJKになるんだと思うと、時の流れに圧倒されそうだ。
 


[4:24 いにしえのiPhoneと白い有線イヤホン]


 白い有線イヤホンが刺さっている古いiPhone。オフライン再生しているSpotifyの画面をメインのiPhoneのカメラで映す。再生されているのは、青葉市子のアンディーヴと眠って。3秒くらい、それを撮影したあと、2台のiPhoneを肩がけしている赤いポーチの中に入れた。
 お母さんが元々使っていた古い機種。そのiPhoneで私の小さい頃の姿を録画してたって考えると、私自身も遥か遠くまで来てしまったような気さえする。

 あまり疲れていないのは久々な気がする。夏休みが始まって、2週間ちょっと。夏休みが終わったら、また疲れる日々が始まると思うと、ちょっとだけ憂鬱だ。
 別に学校に不満はない。そこそこ友達もいる。恋はしていないけれど、不満はない。



[4:28 いい感じの坂道登ります]


 あまり通ったことない路地の坂道を登っていく。だいぶ日が登ってきて、オレンジだった輝きが黄色に変わりつつある。地元だけど、正確には地元じゃない場所。家から歩いて30分くらいのこの坂道はあまり歩いたことはない。小さい頃、いとこのお姉ちゃんが通っていた高校の文化祭に行くことになって、お母さんとおばさんと三人で歩いたことがあった。この坂を登った先に3年前に廃校になった高校がある。

 恋も、愛も、すべて上京してからしようと思っている。今はとりあえず、高校を卒業して、東京の大学に入り込むことだけを考えている。友達もそれなりにいるけど、地元が離れているのと、今通っている高校もこの周りでは都会の部類になるんだろうけど、田舎すぎて、SNSで見るような、派手でキラキラした青春はあまりできない。
 この辺りからは、なにもかも消えていっている気がする。私が小さい頃は、まだそれなりにお店があった。いつの間にか、いろんなチェーン店が消えていった。もちろんいくつか新しくできたお店もあるけれど、青春を求めるようなお店ではなかった。




[4:36 廃校になった高校です]


 坂を登り切ってすぐ右手に大きな校舎が見えてきた。校門には、チェーンがかけられている。もちろん、ひっそりとしていて、校舎の中は冷たそうに見える。
 高校の姿をさらっとiPhoneで撮ったあと、高校の向かいにある公園の方に画角を向ける。そして、録画したまま、公園に入っていく。そして、見晴らしのいい場所にでる。
 もし、この高校がまだ、この世界に存在していたなら、面倒くさがりな私は、この高校に通っていたと思う。今の高校に行くことにしたのは、もっと広い世界に出てみたいと思ったから。
 わざわざ、進学校に行かなくたってよかったのかもしれない。だけど、周りに行けるなら行った方がいいって意見に流されて、私は今の学校を選んだ。だけど、周りの意見に流されても、実際、学校に行くのは私だった。私は遠く感じる学校に嫌気がさしていた。
 もちろん、部活もしないし、平日、友達に遊びに誘われても、断ることがほとんどだ。それが時々、寂しく感じるけど、日々をこなすだけで、疲れやすい私は、こうして自分を守るしかないんだと思っている。




[4:38 微かに見える海の近くに私の高校があります]


 高いところから、坂の下に広がる私が住む町と、私が通う隣の隣町の景色を撮る。手前の緑の先に寂れた色の住宅が坂を下るように並んでいる。そしてその先の平らなところに無数の背の低い建物が広がり、その先に海が見える。海は、朝日の黄色でキラキラと輝いている。まだ青くない白く輝く海。町はまだ、眠りの中で、穏やかに見える。

 上京して、なにをするかなんて、まだなにも決めていない。たまにコメント欄で、『こういう雰囲気ある田舎、憧れる』『高校生だけど、住んでみたい』とか、そういうこと言ってくれる人がいる。
 そのコメントに嬉しいような、虚しいような、よくわからない感情になるときがある。別に好きでこの町に住んでいるわけじゃない。だけど、雰囲気あるこういうノスタルジックな景色は、私も好きだ。この町の景色は好きだけど、私の中で今、求めているものは、都会的なライフスタイルなんだと思う。東京に出て、キラキラしたことをやりたい。

 上京してから、やりたいことは決めたらいいと思っているけど、私って、楽観的すぎるのかな。そんなことを考えながら、iPhoneの録画を止め、ポケットに入れた。そして、左手に持ったままの袋から、クラフトボスのブラックコーヒーを手にとり、それを一口飲んだ。








 おはよう12月。ここ最近の私の断片
 #vlog #fyp#新しい日常#おはよう世界

 ▶ 4022 ♥323 🗨️3 🏴6



[5:00]
[おはよう世界]

 
 ベッドから起き上がり、部屋の右側にある窓まで歩く。部屋はまだ暗い。カーテンを開けても、4階の部屋から見るいつもの街並みは、まだ眠りについたままだった。少しだけ夜明け前の青さを期待したけれど、日に日に冬至に近づく世界のなかで、それは期待できない。


 [12月入ったばかりなのにアナ雪な部屋]
 [寒くて、画面ブレる]


 iPhoneを片手に持ちながら、それっぽく部屋の中を歩く。スリコで買った掛け時計を映し、この世界が5時である証明を映した。そして、RECボタンをタップし、撮影を終える。学校を辞めてから、私はなにかの罪滅ぼしのように、早起きをするようにしている。Vlogを撮るようになったのは、自己治癒のためかもしれない。11月に学校を辞めて、1ヶ月が経った。
 その罪の正体は掴めない虚像みたいなものにさえ思える。ただ、多くの普通と違うことをしている私は、堂々と胸を張れない、モヤモヤとした気持ちが胸の中を占めているだけだ。

 
 [5:05 キッチン]


 髪ボサのまま、キッチンへ。最近のお気に入りは、カルディのカフェオレベース。冷蔵庫から、牛乳とカフェオレベースを取り出した。白いマグカップにそれらを入れて、電子レンジに入れる。そのまま、あたためボタンに温度を委ねる。木目調のトレーの上に白いお皿置く。昨日、駅前のパン屋で買ったクロワッサン2つを白いお皿に。


 [朝食はカフェオレとクロワッサン]
 [レンジ鳴る]
 

 電子レンジの扉を開けて、マグカップを取り出した。それもトレーの上に置く。マグカップの取手は、熱くもなく、微温くもない、温度感。学校を辞めてから、自分に対して、丁寧な暮らしができたらいいなって、私は胸の奥で密かに願っている。


 [5:08 おはようMacBook Neo]


 白いデスクの上に置いているシトラスイエローのMacBook Neoを開く。スリープが解除された。去年、高校の入学祝いで買ってもらったMacBook Neo。今の私は、その入学した高校を辞めてしまった。すべてのことが嫌になってしまってから、早起きをするようにした。
 その理由は、今まで優しくすることができなかった自分を癒すため。忘れてしまった少女の頃を思い出すため。17歳は、大人でもなく、子供でもない。きっと、大人ほど、鈍い痛みも知らないし、子供ほど、甘い癒しを知っている。
 開きっぱなしの三つ足の自撮り棒にiPhoneを固定する。MagSafe(マグセーフ)の磁力で、白い自撮り棒の円に、ピッタリとくっついたiPhone。学校を中退した日、vlogを撮ることにして、その日の帰り道のスリコで買った白い自撮り棒。
 それをデスクから見て、右側に置いている白いカラーボックスの上に置く。
 

 [5:10 ネトフリ] 


 韓国ドラマの続きを見始めた。昨日の続きが観たいと思って再生した。それを観ながら、クロワッサンを手に取り、一口食べる。微かにサクッとした感触がした。乾燥してたからか、しっとりとはしていなかった。バターの香りと、適度な甘さが口いっぱいに広がる。
 クロワッサンの一口目のこの感じが、私の中での、世界の中で好きなことランキングの上位に食い込む。

 少しの眠さの所為なのか、それとも、クロワッサンに気を取られている所為なのか、まったくドラマの内容が入ってこない。クロワッサンをもう一口食べたあと、クロワッサンをお皿の上に置く。MacBook Neoのトラックパッドに右手を置き、再生されたままの韓国ドラマを止める。そして、おすすめに表示された作品をタップする。


 [ドラマやめて ひつじのショーン]

 
 朝から、可愛い羊たちが暴れている。
 ここ最近のリアルな私について。学校を中退した理由は疲れたからだった。疲れているのは、すべてのことが嫌になってしまったからだ。すべてのことが嫌になった理由は自分でもわからない。
 ただ、私が社会不適合な気質だったからかもしれないし、今見ている世界に急に冷めてしまっただけかもしれない。私は自分でも、普通の高校生だったと思っている。周りに合わせるために多少の嘘はつくし、〇〇がダメだよねって話があったら、それにも合わせるようにしていた。
 とにかく多数側につくことばかり考えていた。それが普通になると信じていたから。

 
 [5:40 ごちそうさまでした]


 ゆっくり、もたもたしながら、2個のクロワッサンを食べ終わる。白いお皿の上には、こぼれ落ちたクロワッサンの生地が残っていて、それが初雪みたいだなって思った。カフェオレはマグカップに半分、残ったままだ。
 ひつじのショーンは流れ続けている。そもそも、学校自体、昔からあまり好きじゃなかった。小学校の頃から、無理して学校に行く感覚はあったし、なんか、基本、いろんなことを押し付けられるのが嫌だったし、みんなと同じことを、同じように強制させられているような、閉鎖的なシステムが好きになれなかった。


 [5:43 さよなら ネトフリ]


 iPhoneを自撮り棒から取り、MacBookの画面を映す。トラックパットをなぞり、赤の×ボタンをタップする。
 友達といると、楽しい。だけど、運動会が嫌いだった。友達と一緒に、はしゃぐ。だけど、文化祭が嫌いだった。中学で、友達に誘われて、吹奏楽部に入ってみた。だけど、なぜかつらくなって、半年で辞めてしまった。練習がつらいわけじゃない。先輩付き合いがつらいわけじゃない。ただ、集団で何かすること自体、私の性格的に向いていないことに気がついただけだ。


 [5:45 さよなら お皿とトレー]


 白いマグカップだけをデスクに残し、キッチンにお皿とトレーを戻した。iPhoneの録画を切ったあと、グラスを手に取り、お水を一杯飲みほした。空になったグラスに再び、水を入れ、部屋に戻る。
 
 心はグラスに似ている。グラスに自分が自覚していなかった我慢や些細に傷ついたことを溜め込めんでいる気がする。きっとそれは水ではなく、涙。涙の蛇口で、蛇口を捻り、涙をグラスに注ぐ。グラスが涙で溢れそうになったら、適度に捨ててたり、飲みこんだりしている。大体の人はそうやって、グラスが溢れないように、上手くやりくりをしているんだと思う。
 だけど、私はそれが下手だし、私のグラスは人よりも、一回り小さいんだ。そんな自分が嫌いだ。

 
 [6:03〜8:24 動画編集]


 デスクに戻り、iPhoneを再び、自撮り棒に戻した。そしてMacBookで、動画編集ソフトを起動する。
 なにかをやっている風なことが、今の私には必要なんだ。だから、朝から動画編集してますって、アピっているのかな。中退した今の私には、vlog以外、社会の繋がりがなにもない。中退するとき、すぐに通信制の高校に転校することで話が進んでいた。だけど、私はそれを拒んだ。どっちにしても、2年生の単位は、すでに足りないから、通信制高校に、転入するにしても、留年は決まっていた。
 親はどうしてって聞いたけど、「死にたいくらい疲れたから」と返したら、それ以上、なにも言わなかった。そう言った、私は最低な人間だと罪悪感で胸の奥がきつく締め付けられる感覚がした。
 親のことを困らせたいから、言ったわけじゃなかった。心の底から思っていた本音が出てしまった。

 いじめとか、孤独とか、そういう、苦しくて、明確な理由はない。ただ、17歳になった私が、疲れ切ってしまっただけだ。このまま大人になれる気もしないし、もし、来年の4月から、通信制高校に転入して、2年生をやり直すにしても、心のグラスに溢れている涙を、少しでも減らさないとやっていけない気がする。
 
 グラスの涙を減らすための作業。漠然とした苦しさに溺れている私にとって、vlogは唯一、許せない自分のことを許せることだ。


[さあ、今日はなにをしよう]









11月土曜日。ぼっちのmini Vlog
 #vlog  #スタバ #ストロベリームースティーラテ
▶ 5067回  ♥187 🗨️3 🏴12



[mini vlog]
[10:47 これからスタバ行くよ]


 ムートンブーツの足元は、黒と黄色い線のエスカレーターの上。上りエスカレーターは、私のことを上へ連れて行く。11月下旬、土曜日の午前中なのに、いつもより、街は騒がしいような気がする。オフィスビルへと繋がるエスカレーターの先は、吹き抜けになっていて、ガラス張りの空間と、各階を仕切るようにシルバーの線が几帳面に入っている。
 
 エスカレーターが地下から、1階に近づくにつれて、微温い空気に、新鮮な冷たい空気が混じり始める。その冷たさは、淀んでいた気持ちすら、すっと払ってくれるような気さえした。
 11月下旬の土曜日は、冬休みまで1ヶ月以上ある所為か、少しだけ憂鬱が抜けない。学校でもひとりぼっちだから、ひとりにはもう慣れてしまった。というより、ひとりのほうが気楽な気がする。

 

[mini vlog]
[10:58 ストロベリームース ティーラテ]


 蓋はつけないでほしいと伝えた。カウンターでストロベリームースティーラテを店員さんから受け取り、「ありがとうございます」と言って、会釈した。左手に録画したままのiPhoneを持ったまま、狙っていた、窓側の席に座る。ビルの2階の高さから見る街は、どんよりと曇っていた。
 
 小さい丸テーブルの上にストロベリー ムース & ジョイフルメドレー ティーラテのショートサイズを置く。淡いピンク色のストロベリームースに、赤いドライストロベリーのフレークが、印象的だ。ホリデー用の緑色のカップがクリスマス感があり、ワクワクする。とりあえず、インスタ用に写真を数枚撮った。
 
 ベージュのコートを脱ぎ、丸めて、向かい側の椅子に置いた。黒のポーチから、白い有線イヤフォンを取り出し、iPhoneのUSB-C端子に差し込む。両耳にイヤフォンを付け、TikTokを開き、なにが流行っているのかをスワイプして探す。
 白い有線イヤフォンにしているのは、なんとなく丁寧な暮らしへの第一歩なような気がしたから。あえて、線に繋がれているほうが、優しさに包まれているような気がするから、そうしている。もちろん、レトロでかっこいいというところもあるけれど、私は、派手な暮らしよりも、シックな丁寧さにあこがれている。
 

 
[mini vlog]
[11:02 おいちい]


 冷たいムースが唇に触れたあと、温かい紅茶の風味で口の中がいっぱいになる。ほのかに香るいちごの甘さで、幸せになる。一口飲んだあとのカップを、数秒間、iPhoneで撮影したあと、カメラのアプリを閉じ、再び、TikTokを開く。

 アカウントは、日常を撮るVlogのものと、バズったダンスを踊るアカウントのふたつを使っている。ダンスアカウントは、バズって、100万回再生超えた動画もいくつかある。顔出ししていても、あまり日常になんて影響はないように思える。
 たまに学校で「もしかして、動画上げてる? 知ってるアカウントの人に、めっちゃ似てるんだけど」って、声かけられるくらいだ。でも、声を出さずに、ううんと首を振ると、相手は、怪訝そうな表情をして私の前から去ることがほとんどだ。

 Vlogのほうは、地味だ。バズっても1万回程度だ。バズらない理由はわかっているし、バズらせる気なんてない。Vlogは自分の息抜きにやっているから、流行りに一切寄せていない。自分の好きな音源を適当に使うだけだし、自分の私生活なんて、地味だし、Vlog用に派手なこともしたくないからしない。本垢でVlogのアカウントを宣伝したりとかもしていない。まったく別人の別アカウントということにして、このアカウントは自由にやっている。

 本当に日常の一部を切り取っているだけだから、バズるわけがない。
 私の息抜きだから、それでいいの。それで。



[mini vlog]
[11:16 悲報。もう半分、飲んでしまう]



 半分くらい飲んだところを、また数秒間、撮影した。再び、TikTokに画面を戻し、動画を眺めて、良さそうな動画、音源をブックマークしていく。

 メインのアカウントを始めて、1年半くらい経った。動画を撮り始めて、週末のルーティンができた。それが1時間のリサーチだ。今、どの音源が流行っているのか、どの振り付けが一気にバズりそうか、一線級のアカウントでは、どんなことをしているのか——。
 本当は週末1時間だけじゃ、足りないくらいだけど、私はちょっとしたコツを掴んだから、これでいいと思っている。流行りに、波があることに気がついた。その波はだいたい、2〜3ヶ月くらい。
 ものすごくバズった音源と流行りは、大体、最初の2週間くらいでバズったあと、2〜3ヶ月くらい、こすられ続け、そのうち、その波は引いていく。
 つまり、その頃には定番みたいになって、残り半年くらいは、流行り続けるけれど、そのバズは時の波間に消えていく。

 だから、自分のアカウントをバズらせる、ちょっとしたコツは、バズる直前に、バズりそうな音源、振り付けをするということだ。そのバズる期間、次のバズが始まる間隔さえ覚えてしまえば、週1回のリサーチでも、意外と対応できてしまう。



[mini vlog]
[11:21 外、雪がちらつく]


 ふと、右側の窓を見たら、雪がちらつき始めていた。それに気が付き、私は思わず、カメラを向ける。窓の外の世界は、灰色の中に、白いふわふわが、舞っていた。店内の電球色と、自分の顔が多少ガラスに反射して、映っているけれど、左半分だけしか映っていないからいいかと思った。

 私は、高校ではひとりぼっちだ。もともとの人見知りを発揮して、1年生のときに、友達作りに失敗した。ノリが合わないし、話も合わなかった。入学する学校を失敗したと思ったし、クラスガチャに失敗したとも思った。人見知りで怖くて、どの部活にも入らなかった。遊ぶときは、別の学校に行った中学のときの親友たちだけだけど、それで十分だった。
 だから、高校でひとりぼっちでも構わないと思っているし、大した問題だとも思っていない。二人一組になるときは、同じぼっちの子と、それとなく二人一組になることもできる。その子とは、友達未満だけど、お互いに助け合うことを共通認識として持っている。
 修学旅行は、ひとりぼっちじゃ、辛いだけだから、勇気を出して行かないことにした。

 中学の親友たちは、ノリが合わないなら仕方ないよ。って励ましてくれた。私のアカウントがバズったときも、一緒になって喜んでくれて、その次の週、みんなでバズったお祝いをしてくれた。
 私は、そんなかけがいのない、親友たちを大切にしたい。



[mini vlog]
[11:24 ごちそうさまでした]


 空になった、緑色の紙カップを数秒撮影したあと、インカメラにして、自分の目元を自撮りした。たまに儚い風を装って、目元の自撮りをしたりする。これから、ヴィレッジヴァンガードに本を買いに行くつもりだ。コミックじゃなくて、本を買う。いつか見た、オードリー・ヘップバーンの本が急に気になり始めたからだ。
 いつかのヴィレッジヴァンガードで見た、その本のことを急に思い出したから。それから、ここの近くにある大きなクリスマスツリーを見に行こうかな。雪なんて降り積もらないのは、わかっている。雪で濡れた世界は冷たいかもしれないけれど、今日は、なんとなく、温かくなるようなことをしたい日なんだよ。

 そして帰り道、人通りが少ない、いつものビルの壁面で覚えたての振り付けをこっそり撮影するよ。
 インフルエンサーの私の裏は地味なままでいいの。
 だって、これが私の人生なんだから。
 






普通の放課後Vlog

 #vlog  #デザイナーになりたい #jk
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[16:25]


 だだっ広い片側二車線の道路の歩道を歩いている。5月の午後。黄色い日差しで道すら、キラキラと輝いているように見えた。同じ制服を着た何人かの集団が私の先を歩いている。JRの駅まで歩いている様子をiPhoneの中に収めてしまうと、私の頭の中は、もう、Vlogのことばかりになっていた。

 1年生の12月までやっていた、吹奏楽部を辞めてから、やりたいことがなくなってしまった。それで始めたのが、Vlogだった。別におしゃれを狙う必要もないし、ただ、日常を切り取ろうと思っただけだ。そのために、冬休み、郵便局で年賀状の仕分けのアルバイトをして、そのアルバイト代で、中古のiPadとApple Pencilを買った。

 Apple Pencilを買ったのは、もともと、お絵かきが好きだったから。コミックっぽいイラストは描けないけれど、グラフィックデザインみたいなイラストは描ける気がしたから、今は、それを練習している。



[16:38]


 英字ゴシック体の白色のLEDで光る『TSUTAYA BOOKSTORE』をiPhoneで収めた。駅前にあるTSUTAYAに寄ったのは、気になるデザインの本をこの間、インスタで見たからだった。在庫検索したら、在庫ありになっていたから、親に頼んでAmazonで買うよりも、はやく実物が見れるから、今日の帰りに買うことにした。
 デザイン関係の本がたくさんある棚の前にたどり着いた。電球色の柔らかい色の蛍光灯に照らされた、黒いスチールの棚にいろんなデザインの本があって、思わず何冊か手に取った。

 吹奏楽部だった頃は、こういう時間を取ることは難しかった。中学校のときに全国大会に行ったから、当たり前のように、高校は吹奏楽部の強豪校に入学した。ユーフォニアムをやっていて、中学校のときは、実はエースだった。だけど、高校に入って、私はメンバー外だった。一度もメンバーになることができなかった。1年生だから当たり前かもしれないけれど、1年生からメンバーになれると絶対的自信を持っていたから、ショックだった。

  

[16:53 この本が欲しかった]

 
 デザイン関係の棚を背景に、欲しかった本を左手に持ち、それをiPhoneのカメラで収めた。在庫ありになっていた、この本は、真ん中の棚に表紙が見える状態で置かれていた。だから、すぐに見つけることができて、ほっとした。探す作業は大変だ。デザイン関係のコーナーを見つけるのも、本屋に慣れていないからか、少しだけ時間がかかった。
 
 本を探すことは、譜面の中に意図を探すのと、似ている作業な気がした。メンバー外になってから、悔しくて、今まで以上にそういうところを研究するようになっていた。自分の音も変えていかなくちゃと思い、悔しくて、今まで以上に練習をするようにした。 
 譜面と本気で向き合った。譜面に自分の解釈を書き込み、それを全体の中で調和を取りながら、自分の音で表現できるようになるかを考えた。それをもとに自分なりに考えた、自分の音を出せるようにした。
 
 

[17:18]


 足元を画角に、ホームに電車が停まる様子と、ドアが開く瞬間を、iPhoneのカメラに収めた。いつも、ドアが開く瞬間、なにかの物語が始まるようなソワソワした感じになるのは、きっと私だけだと思う。旅に出て、JALの飛行機に搭乗したときに流れている機内音楽を思い出す。気になって調べた曲名は『I Will Be There with You』。
 
 その曲が頭の中を流れても、私の日常は変わらない。車内は空いていて、青いロングシートに1〜2人しか座っていない。だけど、私は今日は座りたくない気分だったから、そのままドア側に立った。ドアが閉まり、電車が動き出した。流れていく、黄色の日差しを反射して、キラキラしている住宅街と、線路沿いの雑草をぼんやりと眺めていた。

 今までの私には、音楽しかないと思っていた。だけど、そうじゃなかったみたいだ。12月、またメンバー外だった。自分のやれることだけをしっかりやったうえだった。周りからも、『次こそ、メンバーになれるよ』と言われていた。
 だけど、メンバー外だった。顧問にどうして、メンバー外なのか聞いた。
「一番、上手いけれど、演奏が自由すぎる。つまり、今の君には、協調性がないね。オケはひとりでやるものじゃない。君がやっていることは、ソリストがやることだ」と言われた。
「悔しければ、もっと譜面をみよう」とも言われた。

 その言葉で、急にやる気がなくなってしまった。これだけ譜面みても、そう言われるなら、もういいや。って、これまで張り詰めていた気持ちが一気にどうでもよくなってしまった。
 曲の最後、ストリングスが余韻を持って、全音符をゆったり伸ばし、ゆっくり音が消えるように。



[18:06]


 自分の部屋に入り、デスクに置いてあるスタンドライトをつけるところと、デスクに置いてある古いiPadをタップして、『18:06』と表示された画面を、iPhoneで録画した。制服のまま、椅子に座り、iPadを操作して、今日、iPhoneで録画したVlogの素材をAirDropでiPadに共有した。

 吹奏楽部を辞めるとき、仲間から、泣きながら、辞めないでって言われた。ただ、辞めるだけなのに、どうしてこんなに熱くなるのって、思いながらも、ちょっと前までの私も、泣きはしないけれど、辞めそうな仲間をこうやって説得していたなと思った。
 だけど、もう、辞めることを決めていた。だから、仲間の必死の引き止めも「ごめんね」と謝りながら、無視した。
 顧問に伝えると「残念だ。これを超えたらいい奏者になれると思ってたのに」と言われた。

 そう言われて、一瞬、迷いができた。ここでもし、顧問に頭を下げて、「やっぱり、続けさせてください」って言えたら、辞めることはなかったことにできる。そもそも、この高校に入学したのは、吹奏楽を極めるためだったはずだ。
 それなのに、今、辞めてしまったら、私自身、今、この高校にいる意味がないんじゃないか。なにもしないまま、この高校を卒業してしまうんじゃないかと思った。
 だけど、謝ることはできなかった。
 音楽準備室を出るとき、顧問に「また待ってるよ」と言われたけれど、何も言わず、一礼して、ドアを開けた。

 

[18:08]

 
 買った本を、デスクの上に置くところをiPhoneで収めた。iPhoneをテスクに置き、本を開き、パラパラとページを捲り、気になるところを少しだけ読んだ。

 退部して1週間くらいは、急に心が揺れることばかりだった。だから、それを紛らわせるために、とりあえず、学校で張り紙があった郵便局の年賀状のアルバイトに応募した。アルバイトをすれば、少しは気が紛れて、冷静になれるような気がしたからだ。それでも、アルバイトが始まるまで、2週間もあったから、Vlogを始めてみた。最初はiPhoneで編集までやっていたけれど、手狭に感じた。

 Vlogを始めた頃、なんとなくノートにイラストを書き始めた。最初はモヤモヤを発散するためだけにやっていた。グラフィティフォントみたいなのを描いて遊んだり、エッセイコミックみたいなおしゃれでゆる系のイラストを描いて遊んだ。
 そのうちに、デジタルで描いたら、なにか新しい道を探れるんじゃないかってことに気がついて、年が明けて、アルバイトの給料が入って2日後にiPadとApple Pencilを買った。

 「ソリストがやること」をそのまま、やってしまえばいいのではないか。
 デザイナーを目指したら、どうなるんだろう。だったら、もう目指しちゃおうと決めることができた。だから、私はもう、吹奏楽に未練はない。

 

[18:08]


 自撮り棒を三脚モードにして、iPhoneを固定する。Apple Pencilを持ち、iPadに、思いついたタイポグラフィを描く。
 『There is no right answer』
 正解なんてない。正解は自分が導くものなんだから。
 








Seventeen Answer Vlog

#vlog  #正解なんてない #月曜日
▶16.8万 回  ♥834 🗨️16 🏴392



[19:06]
[今日は夏至らしい]


 ビルの窓に反射するオレンジ色をiPhoneのカメラで収める。暗い青のガラスに映るオレンジは、1年のなかで、もっとも高い位置からのオレンジだ。地球がもっとも太陽に傾く日らしい。
 帰り道のビル街を撮影して、満足した私は、こう文字を乗せることに決めた。

[月曜日vlog]

 15秒になんて、自分の思いなんて乗せることはできないと思っている。そう思っているからこそ、ほかの人のVlogを観ると、この人は何を思って暮らしているんだろうと、ふと考えてしまう。私だって、気持ちを隠したまま、儚い雰囲気のVlogをアップし続けている。
 私の動画を観た人たちからは、『儚い雰囲気好きです』や『こんな暮らし憧れる』みたいなコメントをもらうことが多い。私はコメントに返信しないタイプの人間だから、動画投稿者として、コメントに♡を送ることしかしない。

 17歳のリアルの私は、さえない日常を送っている。学校では一言も話さない。リアルでの友達は必要ないと思っているからだ。ただ、小学生のときと、中学生のときに、人間関係に疲れてしまい、それっきり、人間関係をあまり築きたくなくなってしまっただけだ。周りが悪いわけじゃない。
 私が自ら壁を作って、冷たいだけ。




[19:38]
[近所のセブンを出る]


 買ったばかりのグリコのアーモンド効果を左手に持ったまま、店を出るところをiPhoneのカメラで収めた。外はまだ、濃い青にかすかにオレンジ色が残っている。今日の最高気温は28℃だったらしい。夏が始まった暑さはあっという間に、夜風に冷やされ、今は少しだけ肌寒い。
 今日は午前授業で早めに学校が終わった。だから、制服のまま街に寄って、服を見たり、雑貨を見たり、本を見たりした。月曜日なのにこんなに出歩いたのは、明日、学校を休むつもりだからだ。
 明日も三者面談の期間で午前授業だけど、休もうと思っている。理由は休んでも影響する単位が4時間分で済むこと。今年は、まだ一回も学校を休んでいないことのふたつ。
 
 学校は行っても退屈で、嫌になっちゃう。毎日、今日が早く過ぎ去ればいいと思っているし、ここ最近は、Vlogの編集のことばかり考えている。いろんなことを自分のVlogでもやってみたいから、いろんな人たちのVlogを最近はよく観ている。
 アルゴリズムは、自分の趣向に合わせてくれるらしい。私のフィードには、ぼっちのJKのVlogがよく流れてくる。その大半は、タイトルに『ぼっちJK』とつけている。けれども、内容は淡々と日々を切り取っている。

 たまに思っていることを文字入れしているVlogもあるけれど、そういう動画ですら、彼女たちの本心や、リアルな生活は見えない。
 私だってそうだ。日々、儚い生活を送っているわけではない。ただ、儚い雰囲気が好きで、儚く日常を切り取って、自分の生活を儚く編集しているだけだ。



[19:48]
[街灯]


 公園の白色LEDの街灯をアップにして数秒間、iPhoneのカメラで撮影した。すっかり夜になった世界で、都市のなかの寂しさや、意味のなさを、ひたすら動画で収める。この1年で私のiPhoneのストレージは、都市の寂しさでいっぱいだ。誰もいないのに、意味もなく、照らし続ける街灯や、雪が降る夜、誰もいない道の踏切が鳴る様子とか、そういう光景ばかり、集めてきた。

 季節が巡るたびに、新しい発見をしている気がする。誰もいないイチョウ並木の黄色い午後。4月の冷たい雨に濡れるビル街。すべては儚い夢のなかみたいに思える。

 いろんな人のVlogを観ていると、誰もが、しんどくて、迷っている。答えを探しているような気がする。唯一の希望に手を伸ばそうとしている。それでも季節は巡って、悩んでいる彼女たちだけが置いていかれていく。
 彼女たちがVlogをアップしているのは、現実逃避じゃないと私は思う。今の唯一の希望がVlogになっていて、自分の日常を切り取ることで、つらい現実と向き合う気持ちを自己治癒しているんだと思う。

 私だってそうだ。
 未来なんて、まだなにもわからないし、考えたくもない。どんな大人になりたいかなんて、まったくわからないし、私が何者なのかも、まったくわからない。
 それがVlogをアップする理由だ。
 


[19:52]
[公園でアーモンド効果]


 ストローを挿したアーモンド効果と、街灯に照らされているアスファルトをiPhoneのカメラで収めた。誰もいない公園のベンチに座り、アーモンド効果を一口飲んだ。優しい甘さで泣きそうになる。

 ときおり、何も悲しくないのに、ただ、泣きたくなることがある。失恋したわけでも、傷ついたわけでもない。ただ、ぼんやりと闇を見つめていると泣きたくなる。今もセンチメンタルなんだと思う。ただ、泣きたくなることに、一体、なんの治癒効果があるのかはわからない。
 意味なんてないのかもしれない。

 日々、生きている中で答えなんて見つからないと思う。答えなんて探し求めていても、ただ、辛くなってしまうだけだ。強く意味を求めても、頭のなかがややこしくなるだけだ。自分の中で勝手に作ったルールに自分自身が囚われてしまうだけだ。
 
 私は日々になんて、なにも意味や答えなんてないように思える。ただ、そのとき、そのときをしっかり味わって、楽しめば、それで十分な気がする。社会は意味を追い求めすぎているし、答えを追い求めて過ぎているような気がする。

 ただ、泣きたくなる夜に、答えなんて求めても意味なんてないよね。



[20:22]
[Shower]
[正解なんてわからない日々だね]


 バスルームに入り、銀色のシャワーから勢いよく、お湯が流れ続けるところをiPhoneのカメラで収める。これは撮影用で、私はその光景を制服を着たまま、濡れない位置で撮影している。この撮影が終わったら、すぐにシャワーを浴びるつもりだ。
 
 この動画のタイトルを思いついた。こうすればいいんだ。17歳の私が抱えている、今のモヤモヤをタイトルにしてみよう。Vlogをアップしている多くの彼女たちを救うようなタイトルにしよう。明るく快適な生活を演出している彼女たちが、振り向くタイトルにしよう。
 
 彼女たちの事情はわからない。何に対して、思い悩み、正解を探そうとしているのか、わからない。彼女たちが、私の動画を観たところで、私が何に対して、思い悩んでいるのかがわからないように。
 ただ、今は、悩んでいてもいいよ。誰だって、悩みのなかを生きているんだから。
 
[私は浴室で考えを巡らせた]
[正解がないのが正解なんじゃないかって]









明日から新学期Vlog

#vlog  #夜桜 #儚い
▶ 8.8万回  ♥659 🗨️23 🏴227



[18:23]
[公園に向かいます]


 濃いオレンジ色が藍色に吸い込まれていく空と、住宅街のアスファルトを歩きながら、iPhoneで撮影している。4月5日の外は、昼間の心地よい暖かさが嘘みたいに、肌寒い。大人っぽいってよく言われるベージュでロングのトレンチコートに身を包み、公園まで歩いている。
 
 今日、16歳から17歳になったばかりだ。自分のなかでは、まだ15歳くらいの感覚なのに、もう17歳になってしまったんだと思うと、不思議に感じる。
 明日、新学期が始まる。高校2年生になる。

 去年の秋までは、さんざんだった。最初に入っていた8人の友達グループで、夏休みが終わってから、突然、無視されるようになった。最初はなにが起きているのかわからなくて、ただ、悲しかった。



[18:27]
[夜桜]


 比較的大きな公園にたどり着いた。桜並木は、等間隔の街灯に白く照らされて、暗くなった世界のなかで、淡いピンクが儚く見える。立ち止まって、それをしばらくの間、iPhoneで撮影した。弱い風が吹くたびに、夜の中で桜が揺れて、そして無数の花びらが散っていく。アスファルトの両端は、淡いピンクで染まっている。


 夏休み明け、私は悲しさを紛らわせるために、Vlogを始めた。15秒の動画はよく観られるって聞いたことがあったけれど、私のアカウントの再生数は大したことはなかった。それでも、7ヶ月くらい続けているのは、単純にVlogをアップするのが楽しいからだ。

 私はしばらくの間、グループから、どうして無視され始めたのか、まったくわからなかった。思い当たる原因といえば、ちょっとだけ夏休みの付き合いが悪かったかもしれない。
 カラオケは大きい音が苦手なのと、騒ぐのが苦手だから、断り続けていた。グループのメッセージに積極的に参加しなかった。ひとりの時間がほしかったから。最後のほうは、通知すら切っていた。夏休み中、一回だけ遊びに行ったけれど、グループのなかであまり楽しみを与えることができた感触がなかった。
 思い当たる原因を考えてみると、わりとある。



[18:32]
[別の夜桜]


 公園の桜並木を少し歩いて、別の角度で桜をiPhoneで撮影した。また冷たくて、強い風が吹いたから、私は思わず身震いしてしまったけれど、手振れ補正で、動画は揺れなかった。

 8人くらいのグループだったけれど、リーダー格の子の一声で、無視する方向に向かったらしい。それを教えてくれたのは、グループのなかで一番仲良かった子で、一番、気の合う友達だ。それを伝えられたのは、無視されてから、1ヶ月近くが経った、10月の夜のことだった。

 気の合う友達からの突然のメッセージで呼び出され、学校から離れたロードサイドにあるスタバで、友達と会って話した。夜のスタバの店内は、落ち着いた雰囲気で、その雰囲気だけでなんだか、大人になった気分になった。私と友達は、店内の一番端っこのブラウンの革張りの椅子に座った。レジカウンターの近くと、お店の二面の大きな窓側は避け、壁側の席を選んだ。もし、誰かに見られたら、友達を面倒なことに巻き込んでしまうからだ。

「ごめんね。友達なのに、最低だったよね」
「いいよ。事情はわかったから」
「私たち、一番気が合うと思っているんだ。こんなことしたのに、図々しいかもだけど、親友になろう」
 友達は私のことをじっと見て、そう言った。私はそれに少し戸惑った。
「え——。いいの? 私なんかと一緒にいて」
「一緒にいたいから、親友になろうって、告白したのに」
「じゃあ、今から、親友ね。裏切ったら、容赦しないから」
「なにそれ。ウケる」
 そうして、私たちは、私のキャラメルフラペチーノのグラスと、親友のバニラフラペチーノのグラスを、軽く当て、乾杯した。

 その日、夜のスタバで、親友と話した内容は、子供っぽいかもしれないけれど、私にとって、大切な時間になった。




[18:43]
[ファミリーマート]
[消しゴムと、シュークリーム買う]


 ファミリーマートの店外に出る瞬間をiPhoneで撮影した。小さいビニール袋を、わざと、ぶらぶらさせながら歩いた。

 秋に友達から、親友になった私たちは、ほぼ毎日、一緒に行動するようになった。もちろん、親友も最初にいたグループから次第に離れていく結果になった。ある日、そのことを帰りのバスのなかで聞いた。ふたりで横並びになって、座っている。窓側に親友、通路側に私。

「本当に私と、ふたりきりでいいの?」
「いいじゃん。ふたりもいるじゃん。ぼっちじゃないでしょ」
「そうだけどさ。その——」
「グループにいるほうがよかったんじゃないかってこと?」
「そう。それがずっと気になってる。私が壊したんじゃないかって」
「なんだ、そんなことか」
 そう言って、親友は笑いだした。親友のその反応に私は少し戸惑った。
「もう、かわいいんだから。私より、年上なのに」
 親友の誕生日は、3月31日。私の誕生日は、4月5日。早生まれすぎる親友と、遅生まれすぎる私。

「居心地がよくなかった」
「グループの?」
「陰口ばかりだし、つまらないことばかり言って、つまらない遊びしかしない」
「そうだったね」
「それに一番気が合う友達を傷つけた。私は一生の親友になると確信していた。3年の付き合いと一生の付き合い、私はそっちを選んだってだけだよ」
 親友は前を見たままだった。私にはわかる。言っている途中で、気恥ずかしくなったんだ。きっと。

「いいよ。一生、親友ね」
「えっ」
「そっちが言ったんじゃん。かわいいな」
 そう返すと、親友は顔を真っ赤にして、肩をすぼめた。



[18:46]
[もう一回、公園の夜桜]

 公園の桜並木をもう一度、iPhoneで撮影した。さっきとは、逆の方からの画角だ。強い風が吹き、また桜が夜の中に無数に散っていった。闇のなかに、無数のピンクが舞っている。
 そう、夜桜をわざわざ見るために外に出たわけではなかった。ただ単に、新しい消しゴムで新学期を迎えたいなって思ったから、ファミマに向かっただけだった。

 iPhoneのRECボタンを押し、撮影を終えて、すぐに親友からのメッセージ通知が届いた。

『誕生日おめでとう。遅くなってごめんね』
 嬉しくなって、すぐに返信する。
『ありがとう。私たち、明日、また同じクラスになれるかな』
 わかり切ってることをやりとりしてみたくなった。

『なるに決まってるよ。だって私たち、あえて理系クラス選択したでしょ』
 この学校では1クラスしかない理系クラス。女子が極端に少ないらしい。

「逃げちゃおうよ。私たちふたりで」
 進路希望を出さなくちゃいけない期限の前日、親友にそう言われて、数学も化学も得意でもないのに、理系クラスを希望した。
 そんな親友に感謝している。
 明日も、落ち着いて、ふたりで過ごすことができそうだから。