私は私をかえたいんだ。
高校入学当時、そう考えていた。だから普通科ではなくて工業科。それも電気科へ進み、何かかわらないか。と思い込み、そして進路を選択した。
選択した先に会ったのが体操競技と言われるもので、私はそれに興味があった。
昔から運動は得意ではなく、中学の時に友達が入るからという理由で始めたバスケットボール。試合に出たことは…練習試合の時くらいなもので、地区大会には1回も出場することはなかった。
お情けで3年生最後の大会にはベンチ入り。でも、声出し要員として頑張っただけで、それ以外のことはない。
私には取り柄が無かった。
キラキラ輝く青春時代を謳歌していれば、いずれ社会人になった時、そういう話で盛り上がれるのかもとか思っていたこともあるのだけれど、それは実際どうなのだろうか。
私は自分の学校の成績を見つめることになる。
中学3年生の時、普通科を選択していくみんなの背中を見つつ、私は「これをこのまま続けてどうなるんだろう」と感じていた。ただ、そう感じていただけで、それ以上の事は無かったのだけれど。
「…私、工業高校に行きたいです。電気科で、電気を勉強したい」
そう親と先生、友人に言ったら若干おどかれた。それもそうだろう。こんなことを今の時代に言うことではないのかもしれないけれど、私は女だ。かなりこの選択は自分にとっても、周囲にとっても、そういう反応を招く決断だったのかもしれない。
けれど、未来はない。と何となくその先に感じることは事実で、その事実に基づいて考えるのであれば、この選択は何も私に限ったことではないのだから。
高校入学、名前を呼ばれた。進藤 加奈子。それが私の名前。
私は、なんだろう、何かを探していたのだろう。高校入学後、様々な部活へ体験入部へ行ったのだけれど、部活紹介の時に見た、体操競技部。その演技が私の頭の中から離れなかった。
…気が付くと私は、その体操競技部のある体育館の一角へ足を進めていたのである。
「先生!新入部員らしき人が来たよ!」
体育館に入ると、先輩らしき存在の人がそう声を上げた。…何なのだろうか、そんなに人が来ないのだろうか。
「ねぇ、キミ、名前は?この部活に入る気で来たんだよね」
手を捕まえてきたのは1年先輩の小林さんという人らしい。後になって知ったことだけど。…手に白い粉が付く。体操競技の時に付けるやつだ。
「え…あ、はい。そうなんですけど…」
「やった、良かったよ、先生!」
他の部員に指導していた先生がこちらにやって来る。名前は知っている。関本先生だ。体育の先生。
「…進藤さん、だっけ?体操に興味あるの?」
関本先生はそう聞いてくる。私は「はい、興味あります」と答えると、更衣室に案内され、着替えをして、体育館に置かれている床の上に連れていかれることに。
「さっそく柔軟をしよう!」
小林先輩は明るく、元気が良いというのがイメージ通りの女の子。って感じですこしだけ押しが強い。けれど、よくみると手は豆だらけ、肩にはテーピングをしているのと、それと…足にも何か付けている。
「あ…あの、体は固い方で‥」
「大丈夫だよ、私も固かったけどほら見て」
というと得意げにY字バランスを見せてくれた。おお、凄いな、こういうのが出来るようになるのかな。とか考えたり。
「…私もそれ、出来るようになりますかね」
そう聞くと関本先生は「時間を掛けて、ゆっくりやればいずれ誰でも出来るようになるよ。柔軟技はね」
「柔軟技…」
そういう分類のがあるらしい。なるほど、そういうのもあるのか、てっきり床の上で飛んだり跳ねたり、鉄棒的なものでなんか大車輪?みたいなのをやるのだけじゃないんだ。
とそう思ったりした。
柔軟体操のあと、私は床の上に案内され、小林先輩がやることを真似ることに。
「まずはね、前転、後転。これは出来る?」
「…ふっ」
床に手をついて頭をつけ、そこからゆっくりと背中…に行こうとしたのだけれど、案の定、体が開いてしまって上手く行かない。…前転もできないのか私は。
「そうじゃなくてね、こうやって」
関本先生がホワイトボードに私の体の形を描き、そして出来ないことをポイントで教えてくれた。なるほど、もっと体の中心、それを床につける感じなのか。
「…できた」
出来た!と喜んでくれたのは私よりも小林先輩だった。「いいじゃん。私はもっと時間が掛かったよ」
「…でも、前転ですよね、もっとすごい技とか…」
と言いかけたとき、もう一人の先輩が声をかけて来た。
「いきなり補助輪なしで自転車は難しいでしょ、最初はそれでいいんだよ」
3年生の、藤崎さんという方だった。この人は男。がっしりとした体格で腕も太く、いかにもテレビで見る体操選手という感じだった。…手に何か付けている。それは何だろうか。
「…ああ、これね、これはプロテクターって言って、鉄棒と吊り輪…女子の場合は段違い平行棒で使う人は使う奴。それでこうやって使うんだ」
というと近くに会った棒を手に取るとどんな感じなのかを見せてくれた。
「…なるほど、握っているわけじゃないんですね、なんというかひっかけてるというか」
「そうそう、だから体重は手首にかかってるんだよ、握らないことは上手い選手の代名詞みたいなもんだから」
「うん。豆もそのうち出来なくなるから」
そういう小林先輩の手は豆だらけでもある。
こうして私の仮入部的な体験は1日目が終了した。その帰り道、私は考える。
「…入部するか」
雰囲気、人、そして先生。それらすべてが今まで別世界のように感じていた。なんだろうこの気持ちは。何かが始まりそうな。そんな予感がしている。
高校入学当時、そう考えていた。だから普通科ではなくて工業科。それも電気科へ進み、何かかわらないか。と思い込み、そして進路を選択した。
選択した先に会ったのが体操競技と言われるもので、私はそれに興味があった。
昔から運動は得意ではなく、中学の時に友達が入るからという理由で始めたバスケットボール。試合に出たことは…練習試合の時くらいなもので、地区大会には1回も出場することはなかった。
お情けで3年生最後の大会にはベンチ入り。でも、声出し要員として頑張っただけで、それ以外のことはない。
私には取り柄が無かった。
キラキラ輝く青春時代を謳歌していれば、いずれ社会人になった時、そういう話で盛り上がれるのかもとか思っていたこともあるのだけれど、それは実際どうなのだろうか。
私は自分の学校の成績を見つめることになる。
中学3年生の時、普通科を選択していくみんなの背中を見つつ、私は「これをこのまま続けてどうなるんだろう」と感じていた。ただ、そう感じていただけで、それ以上の事は無かったのだけれど。
「…私、工業高校に行きたいです。電気科で、電気を勉強したい」
そう親と先生、友人に言ったら若干おどかれた。それもそうだろう。こんなことを今の時代に言うことではないのかもしれないけれど、私は女だ。かなりこの選択は自分にとっても、周囲にとっても、そういう反応を招く決断だったのかもしれない。
けれど、未来はない。と何となくその先に感じることは事実で、その事実に基づいて考えるのであれば、この選択は何も私に限ったことではないのだから。
高校入学、名前を呼ばれた。進藤 加奈子。それが私の名前。
私は、なんだろう、何かを探していたのだろう。高校入学後、様々な部活へ体験入部へ行ったのだけれど、部活紹介の時に見た、体操競技部。その演技が私の頭の中から離れなかった。
…気が付くと私は、その体操競技部のある体育館の一角へ足を進めていたのである。
「先生!新入部員らしき人が来たよ!」
体育館に入ると、先輩らしき存在の人がそう声を上げた。…何なのだろうか、そんなに人が来ないのだろうか。
「ねぇ、キミ、名前は?この部活に入る気で来たんだよね」
手を捕まえてきたのは1年先輩の小林さんという人らしい。後になって知ったことだけど。…手に白い粉が付く。体操競技の時に付けるやつだ。
「え…あ、はい。そうなんですけど…」
「やった、良かったよ、先生!」
他の部員に指導していた先生がこちらにやって来る。名前は知っている。関本先生だ。体育の先生。
「…進藤さん、だっけ?体操に興味あるの?」
関本先生はそう聞いてくる。私は「はい、興味あります」と答えると、更衣室に案内され、着替えをして、体育館に置かれている床の上に連れていかれることに。
「さっそく柔軟をしよう!」
小林先輩は明るく、元気が良いというのがイメージ通りの女の子。って感じですこしだけ押しが強い。けれど、よくみると手は豆だらけ、肩にはテーピングをしているのと、それと…足にも何か付けている。
「あ…あの、体は固い方で‥」
「大丈夫だよ、私も固かったけどほら見て」
というと得意げにY字バランスを見せてくれた。おお、凄いな、こういうのが出来るようになるのかな。とか考えたり。
「…私もそれ、出来るようになりますかね」
そう聞くと関本先生は「時間を掛けて、ゆっくりやればいずれ誰でも出来るようになるよ。柔軟技はね」
「柔軟技…」
そういう分類のがあるらしい。なるほど、そういうのもあるのか、てっきり床の上で飛んだり跳ねたり、鉄棒的なものでなんか大車輪?みたいなのをやるのだけじゃないんだ。
とそう思ったりした。
柔軟体操のあと、私は床の上に案内され、小林先輩がやることを真似ることに。
「まずはね、前転、後転。これは出来る?」
「…ふっ」
床に手をついて頭をつけ、そこからゆっくりと背中…に行こうとしたのだけれど、案の定、体が開いてしまって上手く行かない。…前転もできないのか私は。
「そうじゃなくてね、こうやって」
関本先生がホワイトボードに私の体の形を描き、そして出来ないことをポイントで教えてくれた。なるほど、もっと体の中心、それを床につける感じなのか。
「…できた」
出来た!と喜んでくれたのは私よりも小林先輩だった。「いいじゃん。私はもっと時間が掛かったよ」
「…でも、前転ですよね、もっとすごい技とか…」
と言いかけたとき、もう一人の先輩が声をかけて来た。
「いきなり補助輪なしで自転車は難しいでしょ、最初はそれでいいんだよ」
3年生の、藤崎さんという方だった。この人は男。がっしりとした体格で腕も太く、いかにもテレビで見る体操選手という感じだった。…手に何か付けている。それは何だろうか。
「…ああ、これね、これはプロテクターって言って、鉄棒と吊り輪…女子の場合は段違い平行棒で使う人は使う奴。それでこうやって使うんだ」
というと近くに会った棒を手に取るとどんな感じなのかを見せてくれた。
「…なるほど、握っているわけじゃないんですね、なんというかひっかけてるというか」
「そうそう、だから体重は手首にかかってるんだよ、握らないことは上手い選手の代名詞みたいなもんだから」
「うん。豆もそのうち出来なくなるから」
そういう小林先輩の手は豆だらけでもある。
こうして私の仮入部的な体験は1日目が終了した。その帰り道、私は考える。
「…入部するか」
雰囲気、人、そして先生。それらすべてが今まで別世界のように感じていた。なんだろうこの気持ちは。何かが始まりそうな。そんな予感がしている。



