その愛に気づくまで

 怒涛の一週間は、とても忙しくてあっという間だった。
 久しぶりに学校に行くと、もうお昼だった。午前中は仕事で、遅刻ということになる。
「麻実、おはよう」
「おはよう……てか、こんにちは…か?」
 僕はゼリーで昼を済ませ、勉強を始める。
「うわ…すごいね。シュウくん」
 話しかけてきたのは、クラスの女の子だった。
「あはは…そうかな?ありがとうね」
 僕は勉強を続ける。
「ねぇ…シュウくんは、彼女作らないの?」
「え……あぁ、高良が作ったからかな?僕は作らないよ。仕事で構ってあげられなさそうだし」
 僕がさりげなく断ると、女の子は「そっか…ごめんね」と言って、廊下にいる友達と合流した。
「モテモテですね〜」
 麻実がおちょくってきた。
「そんなことないよ。高良と繋がりたいって人、今までにもいたしね」
 自分で言って、少し疲れてしまう。高良の体温が無くて、最近は眠りが浅い。このくらい会えないのは、別に珍しいわけではない。だが、高良に彼女ができてからは、高良のことをよく考えてしまう。
「へぇ〜……それはそうと、今日は一人で帰んの?」
「その予定だよ」
「そう……なら、うちのプリンセスを迎えに行こうと思ってるんだけど、一緒に行かない?」
 麻実のプリンセスというのは、麻実の彼女である。
「明ちゃん?行こうかな。でも、珍しいね」
「今日からテスト一週間前だからね。一緒に勉強」
「ちゃんと勉強してるの〜?」
「してるもん!」
 そんな話をして、昼が終わる。


***


「プリンセス〜」
 放課後、麻実と一緒に明ちゃんを迎えに来た。
 明ちゃんは、女の子だけどボーイッシュで元気いっぱいの、明るい子だ。麻実とお似合いだな……といつも思っている。
「ちょっと待ってて……」
 なんだか今日は元気がないらしい。
 明ちゃんは、高良の教室の隣。高良のことが、嫌でも目に入る。
 今日も高良の彼女は、高良に甘えている。高良は、温かいだろう。
 僕も、高良に甘えたい…そう思った時、明ちゃんが来た。
「麻実〜」
 そう言いながら、ぽすっと麻実の肩に顔を埋めた。
「どうしたの?今日は甘えん坊だね〜」
「だって、久しぶりだよ?大好きな人に甘えたくなるよ」
 大好きな人に、甘えたい……
 それを聞いた麻実は、グハッというような表情をする。そのことに気づかず、僕は「ねぇ」と明ちゃんに問う。
「ねぇ…甘えたいってどんな人に思う?」
「えぇと……」
 明ちゃんは、自分の先程の言葉を思い出して、顔を赤くしながら言う。
「大好きな人、です」
「大好きな人……他にいる?なんでするの?」
「哲学的だなぁ……心を許せる人とか、大切な人に抱きつきたくなったりしない?理由もなくさ」
 明ちゃんの言葉を聞いて、ドキッとした。
 僕は、高良にだけ甘えられる。無意識に甘えたいと思う心を許せる、大切な人で、大好きな人…
「それって、俺のこと好きってことだよね?」
 麻実が明ちゃんに投げかける。明ちゃんは「はぁ…」とため息をついて、隠すのを諦めるように言う。
「そうよ!私は麻実が大好きなの!」
 そのまま明ちゃんは、麻実に抱きつく。明ちゃんは僕の方を見て続ける。
「疲れた時とかに好きな人に甘えると、疲れが吹っ飛ぶ。だから、私は甘えちゃうかな」
「俺はそんな明を見ると、尊いな〜って思う」
 尊い……?
「尊いって何?」
 疑問に思って問うと、麻実と明ちゃんが「うーん」とシンクロする。
「俺は明だな」
「ん〜…愛情過多!的な?」
 愛情過多……的?愛情表現ってことかな?
 愛情表現……僕は自分の行動を思い出す。僕は普段、高良に甘えるように近づき、高良が「やろうか?」と言って甘えさせてくれるのを待っている。
「え…あ」
 気づいた瞬間、僕の顔はきっと赤くなっただろう。そのくらい熱を帯びたのを感じた。
 僕は整理をするため、家に帰る。帰る時も考えるが、困惑が増すばかりだ。


***


「おかえり〜久しぶりの学校、どうだった?」
「ただいま……楽しかったよ半日だったけど」
「そう。良かったわ〜」
 本当は、楽しいわけではなかった。高良の姿がチラついてしまう。
 僕は勉強をしようと、二階にある自室に行く。机に向かってワークとノートを広げる。
「………」
 黙々と問題を解いていく。スキマ時間に行っていた勉強が、役に立っていることを実感する。
 だが途中で、手が止まってしまった。
「……これ、どうやって解くんだっけ?確か、高良と…」
 高良を思い出し、明ちゃんの言っていたことも思い出す。
────大好きな人、気を許す人…
「僕は……高良が、大好き」
 口に出して、勝手に顔が赤くなる。
 今日の僕は、確実におかしかった。高良に彼女ができて、楽しそうなのを見て喜ぶところで、素直に喜べなかった。
 最近、高良に甘えられていないからといって、高良の彼女を羨ましく思ったり、嫉妬の感情が生まれるのは、明らかにおかしい。
「この感情は……知りたくなかった…」
 高良には、彼女がいる。僕は幼馴染で、男。高良に見合った女の子ではない。
──ブブッ…
 スマホが鳴った。画面を見ると、高良だった。メッセージで「仕事、大丈夫?」と来ている。
 一週間の間、高良から連絡は無かったが、今この瞬間に来たメッセージは、僕を突き動かす。
 言いたい…伝えたい。ダメでもいい……!
 僕は初めて、高良に電話をかける。すぐに高良は出てくれた。緊張するな。
「────もしもし……なんか、こうして電話で話すの、初めてだな。なんか、緊張する」
 高良からの第一声は、僕が思っていたことと同じだった。久しぶりに聞いた高良の声に安心する。
「あ…ごめん。ちゃんと伝えたくて」
「うん。どうした?」
「高良……!僕、ちゃんと気づいたんだ。僕は……」
 ここまで言って、言葉が詰まる。
 想いを伝えていいのか?幼馴染で男の僕が高良に、恋愛的な意味で好きだと伝えて、もし断られたら?
 この幼馴染という関係すら、無いものにされてしまう。
「柊…?」
 高良の不安そうな声が聞こえる。
「僕…気づいたんだ。僕は……高良に甘えるのが…あ、甘えるのが……す、好き、です」
 恥ずかしい。このようなことをダイレクトに伝えるのは初めてだし、変なことを言っている気がしてしまう。
 だが、想いをハッキリと伝えることはできない。伝えて全てが無くなってしまったら、僕はダメになってしまう。
「柊…」
 表情が見えない中、僕の名前を呼ぶ高良の声は、冷たくも温かくとも聞こえる。
「はい…」
「それだけ?」
「え?」
 高良に、僕の気持ちがバレた?
 僕は何も言えずに、空白の時間が流れる。
「あ、いや……柊の気持ち、ちゃんと会って聞きたいなぁ?なんて」
「え…と、それは……」
 高良の声は珍しくふざけているが、僕の鼓動は速くなる。
 恥ずかしさで、すっかり真っ赤になっているだろう表情を、高良に見られながら想いを伝える?無理だ。僕にはそんな勇気がない。
「俺はその気持ちを電話越しじゃなく、ちゃんと会って聞きたい」
「あっ…」
 高良の声が真剣になった。しかも、声から熱まで感じる。重症なのかもしれない。
「俺、柊に会いたい」
「……っ!」
 高良に耳元で囁かれたようで、つい従ってしまいたくなる。だが、今夜はダメだ。会ってしまえば、顔を見ただけで、僕の気持ちはハッキリと伝わってしまう。
「あ……明日も午後は学校行くから…その時に、話そ」
「……うん。わかった。おやすみ」
「お…おやすみなさい」
 高良の声を聞いて、体温が上がるのを感じる。ウトウトと眠くなり、そのまま眠りについた。


***


 次の日も、お昼から授業を受けて、放課後になる。
「今日もプリンセス、お迎え行かね?」
 麻実はルンルンで話しかけてくるが、今日は高良に会わなければ。
「いや、今日は……」
──ブブッ
 僕のスマホが鳴って、僕は麻実に「ごめん、ちょっと待って」と言ってスマホを開く。
────シュウ、パリコレ決まったわよ!すぐに来て!
「え…?」
「ん?どうした?」
 麻実に声をかけられて、ハッとする。
「麻実、僕…えっと、パリコレ決まった!」
「おお…おめでとう!」
「で、僕行かないと!でも、高良に会わないと……」
 僕が迷っていると、麻実が肩を組んで言う。
「行ってこい。高良は、俺からちゃんと言っておくから」
 麻実は「大丈夫」と言って、僕の背中を押してくれる。
「ありがとう。行ってくる!」
 僕は、麻実に感謝を告げて、走り出す。
 僕の走り去る背中を、高良が見ているとは知りもせずに。


***


「麻実〜?」
「うわっ!高良か…」
「んふふ…」
 高良は怖いほど機嫌が良さそうな笑顔で、麻実を見る。
「高良……えっと、柊はパリコレが決まったらしいから、行っちまったぞ」
「え…ほんと?」
 高良は、麻実の肩を掴んで揺する。
「ほんとほんと。マネージャーからの連絡見たし、高良に会おうか迷ってたよ。あと、肩揺らすな」
「そっか……良かった」
「お前はいいの?」
 高良は麻実に聞かれて「うーん…」と考えてから言う。
「柊が、やりたいって言ったんだ。なんでもやってほしい。会えないのは……寂しいけど」
「……彼女いんじゃん」
「あはは……別れた。昨日の夜」
 麻実が「は?」と言いながら高良を見る。
「だって、やっと気づいてくれたみたいだし、嬉しくて」
「何がだよ?」
「柊がね、やっとわかってくれたみたいなんだ。でも……おあずけくらっちゃった」
 麻実は、少し俯く高良の横顔を見ている。
 高良の横顔は、とても儚げで美しいものだったという。


***


「菅野さん!ほんとですか?」
「ええ!春に、京都であったファッションショーしたでしょ?」
 春のファッションショーは、僕の初めてのランウェイだった。僕は、それがきっかけで服を魅せるということに、魅力を感じ出した。
「はい。でも、あれって大手ブランドは参加してなかったですよね?」
「ショーの参加はね。でも、見に来てた面々がすごかったのよ。来て」
 菅野さんに連れられて、いつもの会議室に行く。会議室の机には、オファーをくれたブランドと服の資料が、散乱している。
「今回、オファーをくれたのは老舗ブランド三つよ。中でも、ここのブランドが絶対使いたいって、言ってくれてる。とてもすごいことよ……!」
 菅野さんは、冷静に説明してくれているが、声の節々に喜びが見える。
「ほ…本当なんですね……!僕、目標にしてて…」
「シュウ?!な、泣いてるの?」
「あれ…?」
 嬉しくて、涙が止まらない。菅野さんが慌てている。
「そうよね。嬉しいわよね…」
 菅野さんも、少しうるっと来ているようだった。しばらく二人で喜びを噛みしめると、菅野さんが平常心を取り戻す。
「シュウ…あなたはどうするの?三つ受けるも良し。一つに絞るも良し。それによって、忙しさも変わってくるわ」
「三つか、一つか…」
 三つ、歩きたい…!
 でも僕は、まだ未熟者だ。一度ランウェイを歩いただけで、一流のモデルに追いつける技術は身につかない。
「菅野さん…僕はまだ未熟者だし、強く希望してくれるブランドに絞ろうと思ってます。でも、菅野さんの意見が聞きたいです」
 今の僕の選択は、自分で決めた限界と同じ。「まだできる」と期待してもらえるなら、僕は応えたい。
「私は……あなたなら、全てできるわ。希望されてる服は、合計六着。一週間のうち三日間歩くけど、一日に二着なら早着替えで失敗はしない」
 菅野さんは資料を見ながら、自分の中で整理するように僕に言う。
「今、あなたは売れるチャンスを得ているの。三日間、合計六回もアピールできる。私は、あなたの魅力を世界に広めたい…!」
 菅野さんは僕を真っ直ぐ見つめる。僕は「僕じゃなくて、服の魅力ですよ?」と訂正しようとも思ったが、菅野さんの眼差しは本気だった。
「僕……頑張りたいです!」
「うん。一緒に頑張ろ」
 菅野さんは、優しく微笑みかけてくれる。
「さぁ!忙しくなるわよ?今ある仕事に加えて、パリコレの準備が加わるんだから」
「その…どのくらいですか?」
 僕は顔を覗き込むように、恐る恐る菅野さんに聞く。すると、菅野さんは驚いた顔をしてから、顔を赤くする。
「ど、どうしました?そんなにキツキツなスケジュールなんですか?」
「違うわよ…あなたの顔は、心臓に悪いわね」
 菅野さんの心臓は、きっとパリコレ決定によって、速く脈打っているのだろう。
 そんなことを考えていると、事務所の仲間が会議室に来てくれた。
「パリコレ、おめでとう!俺より先とはなー」と先輩。
「おめでとうございますぅ!頑張ってくださぁい!」と後輩の女の子。
 他に、スタッフの方からもお祝いの言葉を貰った。
 菅野さんが「解散!解散!」と叫ぶと、みんなして「逃げろ〜」と散っていった。
「ふぅ…みんな、シュウの良さを知ってるから、嬉しいのよ」
「そう思ってもらえてるのは、嬉しいです!」
「うふふ…で、スケジュールね……まだ確定してないけど、テスト期間以外の休みは、ほぼ無くなるわよ。あっても月に三日ね」
「そ…そんなに?」
 菅野さんは、いつも使っているスケジュール帳の十一月と十二月のページを見せてくれる。
「今月は、もう既にキツイでしょ?来月は、新年のための新広告の撮影で、既に埋まってきてる」
「うわ…こんなに忙しかったんですね」
「そうよ。テストも終わって、冬休み入るからって、去年より多く入ってるのよ」
 十二月は、既に二週間分の仕事が入っている。ここにパリコレの準備が入れば、学校はもちろん、家にも長くはいれないだろう。
 高良にも、会えそうにない…
「わかりました。頑張ります」
「ええ。無理しない範囲でね。ちゃんとサポートするから」
「ありがとう」
 頼りになる菅野さんに、さらに背中を押されて、これからのことを話す。
 着る予定の服やスケジュール、パリコレの日程、ウォーキング……その他色々。
 夕方から、すっかり夜になって帰る時間になる。
「じゃあ明日から、また頑張ってね」
「はい。また明日」
 僕が帰ったあと、菅野さんが喜びで大きくジャンプしていたことは、後日先輩から聞いて知った。
 僕は事務所から駅に向かい、真っ直ぐ家に帰る。
 家に着いたのは十時。洸と美兎は寝ているため、静かに家に入る。
「おかえり、柊」
「ただいま、お父さん。お母さんは寝ちゃったの?」
「あぁ……お酒飲んだら、すぐにね」
 お父さんはリビングに向かう。僕も後を追ってリビングに行った。
 パリコレの件を、話したい。
「お父さん、話があります…」
「どうしたんだ?何かあったのか?」
 お父さんは、僕の少し緊張した声を聞いて、心配そうに聞いてくる。
「実は、パリコレでランウェイを歩くモデルに、決まったんだ…!」
 お父さんは目をぱちくりして、驚いている。
「ほ、本当にか?パリコレって、すごい大きなイベントだろう?あぁ…本当に、自慢の息子だ…!」
 そう言って、笑顔で僕を抱きしめてくれる。
「すごい…柊は、手のかからない子だったから、放任主義な感じになってしまったが、こんなにも立派になってしまうとは」
「手のかからない?」
「そうだよ。柊は、昔から甘えたりはしてこなかったからね。少し寂しい気持ちもあったけど、洸や美兎で忙しかったから、は言い訳か」
 別に、意識的に甘えていなかった訳ではない。だが確かに、双子の世話は大変だろうと、あまり迷惑はかけないようにはしていた。
 しかも、お父さんとお母さんがいなくても、僕には高良がいたから寂しさは無かった。
「言い訳とかじゃないよ」
「でも、柊の方が寂しい思いをしていたんじゃないかって、いつも申し訳なく思ってたんだ」
 お父さんは普段無口だが、今日はやけに素直だ。酒が入っている影響なのかもしれない。
「寂しくなかったよ。いつも、高良がいてくれたし…」
 高良の名前を出して、会いたくなる。
「あ、そうだ。高良くんには、ちゃんと言ったのか?すごい応援してくれてたじゃないか〜」
 僕の気持ちを他所に、お父さんが聞いてくる。だが、麻実が伝えてくれたのか、僕にはわからない。
「多分、伝えた…と思う」
「そうか〜。ふあぁ…もう寝ようかな」
 そう言ってお父さんは、お母さんの眠る寝室に向かう。
 僕もそろそろ寝よう。明日も仕事だし、これからさらに忙しくなるのだから。
 しかも、起き続けていたら、高良を思い出してしまうから。


***


────ブブッ
 柊が寝た後、柊のスマホが鳴る。画面には、高良から「パリコレ、おめでとう。忙しくなるよね?いつ会えるかな?」と連絡が来た。
 送った当人、高良はベッドに横になる。
「パリコレって、いつあるんだろう…」
 スマホで「パリコレ 日程」と調べる。
「へぇ…一月五日から五日間か…」
────ブブブッ…ブブブッ…
 高良のスマホが鳴り、画面が変わる。
 元カノからの電話だ。高良は、少し嫌な顔をしてから、電話に出る。
「……もしもし」
「高良くん…私、何かした?やっぱり、納得できないよ。お試しでもいいって言ったのは、私だけどさ…」
 元仮カノは、今にも泣き出しそうだ。
「ごめんね……俺、お試しで付き合ってて、やっぱり好きになれないって思ったんだ。だから、その…ごめん」
 電話口から、元仮カノの泣きじゃくる声が聞こえる。
「ズズッ……わかった。しつこく、ごめんね」
 その言葉を最後に、電話が切れる。
 高良はスマホを伏せて、目を閉じる。
「柊なら、こんな感じで、優しく断る方がいいって言う…」
 高良は元仮カノからの似たような電話を、既に二回ほど受けていた。嫌で怒鳴りたくなるが、毎度、柊を思い出しては心を落ち着けて、冷静に対応をしている。
「柊以外の人と昼食べたり、一緒に帰って放課後遊ぶの、すごい疲れたな…」
 高良は、目を瞑る。
「元仮カノには、悪いことしたな…柊が女子に絡まれてるの見て妬いてしまって、お試しの話に乗るなんて」
 高良は普段、柊が楽しく学校生活を送れるように、学校中の女子に「柊は見守る形で見て」と根回ししている。
 だが、一番は「柊を取られたくない」という理由で根回ししている。
「あの時は、柊に話しかけてる女子を久しぶりに見て、すごい怒りが湧き上がって…」
 高良は「やめやめ」と言って、深呼吸する。
 頭が冷えてきて、柊とのトーク履歴を眺める。柊からの返信はない。
「なんか……必死だな、俺。忙しくなるのに、会えるか聞いたら、困らせるよな」
──柊を困らせたくはない…
 そう思って、高良は先程送ったメールの送信を取り消す。
「もしかして、長いこと会えなくなるのかな。おあずけくらって、柊不足になって……俺、大丈夫かなぁ…」
 高良は目を閉じて、柊を思い浮かべて眠りについた。