翌日の朝、姉が普段起きる時間を狙ってLINEのメッセージを送った。
【おはよう、お姉ちゃん】
【おはよー】
姉はもう起きていたようで、メッセージとスタンプが送られてきた。和花が気に入っているうさぎのスタンプ。
【朝ごはん食べた?】【ていうかいつ帰ってくるの? 新幹線の席とった?】
【もう帰ってきたよ。始発の席とってたの。朝ごはんはこれから作るとこ】
メッセージを送って、既読がついた直後に着信音。お姉ちゃんだけど……なんでこんな時間から?
「もしもし」
『もしもしじゃなーい! 和花あんた、帰ってきてたの!?』
「帰ってきてたけど……」
『なんでよ! 昨日、頑張って外食したんでしょ!?』
「うん」
『行きたかったお店に行けたんでしょ? それも一人で!』
「うん」
『珍しく写真も撮って、仕事終わりで腹ぺこなお姉ちゃんに送ってくれちゃってさ!』
「えっと、羨ましいの?」
『そういうことじゃない!』
だったら全然話が読めないんだけど……。
和花はスマホから少し耳を離す。ちょっと声が大きいよ、お姉ちゃん。
『和花さ、昨日美味しかったって言ってたよね』
「本当だよ。今まで食べたオムライスの中で一番美味しかった」
『じゃあなんで帰ってきちゃうの! 朝ごはんもどこかで食べてきたらよかったじゃん!』
あー……。
なんとなく話は分かった。要するに、姉が言いたいのは『もっと東京のご飯を堪能してこい!』ということだろう。
「朝ごはんまで食べてくるのは、ね? ……ハードルが高いよ?」
『これでも大きな進歩だけどさ……ちょっとは引きこもりから脱却したみたいだし』
それは……どうか分かんないなぁ。
だけど、
「お姉ちゃん、私、ちゃんと楽しんできたよ」
『……まあ、和花が楽しかったんだったらいいけどさ……』
姉の言葉にくすっと笑いをもらす。
昨日の朝までは、出張に行くのが嫌だった。
本社でプレゼンをすることも、一人で電車に乗ることも、知らない人と話すことも。
でも、行ってみたら、思っていたより怖くなかった。
もちろん、全部が平気になったわけじゃない。
今だって近所のスーパーに一人で行くのはちょっと嫌だ。
それでも。
「……昨日、行ってみてよかったな」
『ん? なに?』
「ううん、なんでもない」
和花は小さく笑って、窓の外を見る。
昨日までなら、東京なんてできるだけ行きたくなかったのに。



