「よし、終わった……!」
今日の分の仕事を終わらせて、和花はパソコンを閉じた。明日やらなければいけない仕事をリストアップしてメモしてから、夜ご飯になに食べようかと立ち上がる。
冷蔵庫になに残ってたっけ? なに食べよう?
考えながらキッチンに向かう途中、あることを思い出して玄関に向かった。
玄関のドアを開けてすぐ、足元に段ボール箱。その上にポストに入っていたのであろうチラシや手紙の束。
箱を開けると中には大量の野菜と肉、魚などが入っていた。今週も姉が持ってきてくれたみたいだ。姉の食材のチョイスはどれもセンスに神がかっていて、料理をするのがとても楽しみになってくる。
手紙を自分の机の上に置いたあと、また玄関に戻ってきて今度は重い箱を持ち上げる。そのままキッチンへ。とりあえず冷蔵庫に詰めて、冷凍保存はあとでやらなきゃ、と頭の片隅にとめておく。
それが終わると、立ったままスマホを取り出して姉とのLINEを開いた。
【お姉ちゃん、今週もありがとう】
すぐに既読がついた。30秒も経たないうちに返信が来る。
【どういたしまして】【別に私はいいけど、和花もたまには外出なよ】
こちらが返信を打とうとすると、さらにメッセージが届いた。
【仕事はともかく買いもの行くとか、郵便受けに手紙取りに行くとかさ】
少し待っても追加のメッセージは来ないので、ようやく返信を打つ。
【嫌だよ。知り合いに会っちゃったら気まずいし】
【もう、和花は社会人のくせに引きこもりなんだから】
秋元和花、25歳。社会人三年目。
現在、引きこもり生活を送っている。
もともと人と話したり、見られたりするのが苦手だったのもあるが、大学を卒業した頃は普通に買いものにも行っていた。
でも、仕事が忙しくなって、ネットで買いものをするようになった。
そしてそのうち『別に外に出なくてもいいじゃん』と思うようになった。リモートワークがメインの会社だったこともある。
気付けば、最後に自分でスーパーへ行ったのがいつだったか思い出せなくなっていた。
【外に出ると楽しいこといっぱいあるよ!】【外食とか、買いものとかさ】
【でも、それ以上に出たくないし勇気が出ない……】
姉の言葉は正しい。だが、外に出るかどうかは別問題だ。
送信したところで、持っていたスマホからメールの通知音が鳴った。会社からだった。
すぐに開いて内容を確認する。
この前出してもらった企画が通った、本社でのプレゼンが必要、突然だけど明日本社まで出張してほしい、プレゼンは午後二時から――。
……う、嘘でしょ……?
何回見てもメールにはそう書かれていた。和花は崩れるようにベッドにダイブすると、再び姉へメッセージを打つ。
【本社行くことになった……】
【え、なんで?】
【プレゼンだって。でも本社、東京にあるの】
【出張で東京!? いいじゃん!】
LINEの向こうの姉はとても『東京』というワードに興奮しているようだった。こっちは憂鬱でしかないのに。
【これを機会に引きこもり脱却じゃない?】
【それは無理そうだよ】
【行ってみたら変わるかもしれないじゃん。ていうかそれっていつ?】
【明日だって。プレゼン、午後二時からって】
テンポよくやり取りしていたのに、ここで姉からのメッセージが止まった。
もう終わりかな?
LINEを閉じようとすると、姉から短いメッセージが送信されてきた。
【準備!】
……え。
【スーツ、着替え!】【洗顔道具とかスキンケアの道具も!】【仕事で使うものもキャリーケースとかにまとめる!】
姉からメッセージが送られてくる。読む暇もないほど送られてくる嵐のようなメッセージの数々。
ちょっとだけお姉ちゃんって過保護なところがあるからなぁ……。
【あと! 明日はその分厚いメガネ外してコンタクト!】【ノーメイクとかやめてよ! きっちりメイクね!】【髪も結ぶ! 普段全然身だしなみ気にしてないんだから!】
「えぇ……」
結局、そのあともしばらく姉からのメッセージは続いた。



