なんでだろう、と騎士さんたちと顔を見合わせていると、見張り台の方からものすごい勢いで鐘が鳴る音が響いてきた。
その瞬間、騎士さんたちの顔つきが変わる。
テントから騎士たちが飛び出し、剣を腰に差しながら駆けていく。
各自状況の確認や、上官らしい騎士は下級の騎士を呼び集めてすぐに広い場所へ移動した。
「あ、あの、私のことは放っておいてくださっていいです。なにがあったのか、自分で確認します」
「し、しかし……」
「イリヤさんのことはわたくしにお任せくださいませ!」
走り回る騎士の間をすり抜けて、ピンク色の騎士服を纏った綺麗な女の人が駆け寄ってきた。
あの縦巻きロールと、はちきれんばかりのお胸は……!
「え! カルレットさんだ!」
「はい。カルレット・ジザックスですわ」
「なんでカルレットさんがここに!?」
ルイシス兄様より二つ下の、今十七歳のはずだから……王都の貴族学園に通っているんじゃないの?
まだ在学している年齢だよね?
「まあ、わたくしはカルヴァ王国騎士団第一騎士団団長エドレッド・ジザックスの娘ですわよ。ジザックス侯爵家の者として武の心得がある以上、わたくしも国防に貢献するのは当然ですわ。お父様には反対されましたけれど」
そりゃそうでしょう。
反対されるでしょう。
危ないよ、すっごく!
タタング様が初めてすっごい焦った顔をしながら『こ、こんなうら若き可憐な乙女がこんなむさ苦しい女日照りの戦場に!? 正気かこの娘!?』って焦っているよ?
相当おかしなことなのでは?
『イリヤ、おれはこの娘に加護を与えるぞ! 我が加護の中でも物理攻撃に特化した身体強化のアーツ魔法を!』
「え? え!? は、はい。お、お伝えすればいいのですか!?」
「え? なんですの? あ、そうですわ、イリヤさん! この鐘は魔獣が現れた音ですの! テントに戻ってお待ちくださいませ! わたくし、状況を確認してまいりますから!」
魔獣!?
じゃあアグレドとブロードの軍が戻ってきたわけじゃないんだ。
それでもさっき戦ったばかりで騎士さんたちは怪我もしている人がいっぱいいる。
休みもほとんどとれていない。
そんな時に襲ってくるなんて……魔獣空気読めな過ぎじゃない!?
「って、そうじゃない! 待ってくださいカルレットさん! タタング様がカルレットさんに加護を授けたいそうです!」
「え? は!? ななななななにをおっしゃっておりますの!? タタング様とは、あの武神タタング様のことですか!? 武神様がわたくしに加護!? なにを……」
「ほ、本当のことですよ! ちょっと待ってくださいね!」
顔を上に向けると、タタング様が頷く。
次の瞬間、カルレットさんの体が金色に輝き、光の柱が雲を引き裂く。
「ッッッ!?」
『イリヤ、ワタシは武神タタングの分霊、精霊タタング。本体よりも力は弱い。そこだけは訂正しておいてくれ』
「あ。ジュジュ様やローゼクリス様みたいな感じなのですね」
『そうだ。神というのは基本的に惑星の外の天界に住んでいるのだ。我々のような精霊はその神の分けられたモノ。勘違いされると幻滅されて加護が半減することがある』
そうなんだー。
ああ、でもジュジュ様も『本体と一緒にされると困りますわー』とか言ってたなー。
ゆっくり聞いた話だと、青龍、白虎、朱雀、玄武の四神は文字通り神様ではあるけれど、神様にも神格ってものがあるらしく、『星の精霊』と呼ばれて現世に顕現していない――私に加護を与えてくださった精霊様方は四神より上の神格の神々の分霊。
で、その『星の精霊』様の本体“神”のジュジュ様とローゼクリス様とタタング様はそのくらい高い神格の神様。
ロクサーナ様は四神の方々と同格の“精霊”。
なにが違うんですかー、と聞いたところによるとロクサーナ様は“季節”の精霊。
自然にまつわるため精霊の中では神様と同格くらいだけれど、今修行中の身でありいずれ他のお三方と並ぶ女神になる、予定。だそうで。
ややこしいよねぇ。
ややこしいけれど、それは当然加護の強さに関わってくるんだってさ。
「というわけで私の上にいるのは武神タタング様の分霊、[武]の精霊タタング様です」
「そ、そうなのですね。わかりましたわ。あの、それは理解したのですがなぜわたくしはタタング様にご加護をくださったのですか?」
なんか気がついたら走り回る騎士さんたちの中で、さっきの光を見て「なんだなんだ」と立ち止まる人がちらほら。
そしてカルレットさんの困惑はごもっとも。
そうだよね、私もわからんよ。
どうしてタタング様がカルレットさんに加護を与えたのか? なんで?
『そんなの当たり前だろう! うら若き乙女が戦場にいるべきではない! 清らかな身を護るべきであろう!』
「はあ」
「タタング様はなんと?」
「えっと、カルレットさんのようなうら若き乙女は戦場にいるべきではないって言ってます」
「え? そ、それでなぜご加護を……?」
「カルレットさんの身を護るためだそうです」
「まあ……」
ジュジュ様がタタング様の話をよくしていたのだけれど……タタング様は女の人にとても、こう、甘い? みたいな感じの話をよくしていた。
多分“女性に過保護”な神様、精霊様なのだと思う。
だからカルレットさんに対しても、加護をくれたんじゃないかなぁ?
私がいただいたものに比べるとシンプルだけれど。
