だから、さっき私が追い返した兵たちの中で、怪我をしていない兵士はまた来る。
別の場所にいた部隊も合流して、さっきと同じかそれ以上の人数になって。
そんな……!!
「今すぐ終わらせることはできないんですか!?」
「まず不可能ですね。やつらは神々への敬意などひとかけらもありません。あれば守護神様に守られた国々を次々侵攻したりなどしないでしょう。もし本当にすぐに終わらせたいのであれば、アグレド本土への直接攻撃を行うしかないでしょう。あの国はそこまでしなければ止まりません。現実的な話ではありませんが」
『おれとしてもそのくらいのことをしてやりたい気持ちもある。が、幼いそなたにそこまでは求めぬ。まだ魔力が安定したわけでもないからな』
「え? じゃあ、タタング様はできるんですか?」
『魔力が安定したそなたと、おれならばできる。しかい、今のそなたには無理だ。今日もこれ以上のアーツ魔法は使わぬ方がよい。さっきのはおれが制御を行い、魔力はおれが与えて使ったのだからな』
ああ、じゃあやっぱりあの白い壁はアーツ魔法だったんだ。
私、魔法を使ったのか。
よ、よく爆発しなかったなぁ。
あ、制御も魔力もタタング様がしてくれたから大丈夫だったのか。
「イリヤ嬢、タタング様はなんと?」
「え、ええと……きょうはもうやめておくように、と言われました」
「そうですか。まあ、今日はもう来ないでしょう。では、本日はもうお休みになりますか? たいしたおもてなしはできませんが、テントを一つイリヤ嬢のためにご用意いたしましょう」
「あ」
そうか、転移陣もないから王都へ行くには移動用のお馬さんや竜籠がないと無理。
今日、これから王都へ行こうにも移動手段がない。
お泊りするしかないのか。
なんにも考えずに来ちゃったから……お着替えもない!
「す、すみません。なにも考えずに来てしまいました」
「お気になさらず。そのおかげで多くの騎士が救われました。なによりタタング様のご意向だったのでしょう? そうだ、ナシュラ。イリヤ嬢がいる間はお前にお世話を任せてもいいか」
「もちろんでございます! [武]の精霊タタング様といえば騎士の侵攻する精霊様。まさかその加護を持つご令嬢のお世話をさせていただけるなんて! 誠心誠意努めさせていただきます!」
「ええと……よろしくお願いします」
仕方ない。
今日は特になにもできないっぽいし、休ませてもらおう――かな?
「イリヤ様、テントをご用意するまでしばしこちらでお待ちいただいてもよろしいですか?」
「あ、はい」
ナシュラさん、という灰色の髪の若いイケメンさんが私の前まで来て、わざわざ膝をついて頭を下げる。
顔を見ていると、アッと顔を上げて「自己紹介が遅れました。私はナシュラ・エクラと申します」と名前を教えてくれた。
ブロッサ兄様と同い年くらいの人だろうか?
まだ二十歳にはなってなさそうなのだけれど……こんなに若いのに本陣に呼ばれるなんて高位貴族の出っぽいね。
「すまん、待たせたな。報告を頼む」
「はっ。カルヴァ王国守護神様の守護壁の再展開を確認いたしました。しかし、陛下の守護壁とは違い再び魔力が使えるようになりました。これはグレン殿下が守護神様に加護をいただき、殿下が展開した守護壁であるから、なのかと思われます」
「なぜ殿下と陛下の守護壁が違うのでしょうか?」
「魔力選定を行って、殿下の方が魔力が多かったのだろうか?」
「わからぬ。ただ今はグレン王子の展開してくださった守護壁がどれほどの者かを確認した方がいいだろう。陛下の展開してくださった守護壁は国を覆うほどの広範囲だったが、国全土の魔力と魔道具、魔石の魔力を必要としていた。殿下の守護壁は魔法を使える代わりに小規模、と言う可能性もある」
「確かに……」
「見えている範囲だけでは、困りますな……」
おお、グレンの守護壁はちゃんと機能しているんだね。
よかった~。
でもやっぱり陛下のと違うから、みんな困惑してる。
確かにグレンと王様とでは、なにか違うのかも?
魔力が使える使えない云々は特に大きいと思う。
せっかくテントを準備してもらっているのだし、その間はエドレッド様のお仕事ぶりを見てようかなあ。
私、本当に場違いなんだけれど……。
知らなかったことを、見て聞いて、知る機会だし。
『そうだな。そなたは戦争とはかけ離れたところに避難させられていた。だがそれが騎士たちとそなたの家族が望んだことだ。誰しも子どもに戦場を見せたいなどと思うわけもない。そなたは普通の令嬢として、穏やかな日々をただ甘受すればよいからだ。しかし、今回そなたはおれの手を取り、この場にやって来た。一度関わった以上、今後頼られることも多かろう。学べるものは学ぶという気概があるのであれば、ここで吸収できるものをしていくのもよかろう』
「はいっ」
グレンを守るために、国を守ってきた人たちがどんな仕事をしているのかを見ておくのはいいこと、だよね?
せっかく本陣にいるのだし、貴重な機会と思って勉強しよう。
……まあ、難しくて、ほとんどなに言ってるのかわかんないけど!
ぶたいのへんせーとか、怪我人の人数はなんとなくわかるけれど……物資のどうのこーの……ええとー?
「イリヤ様、テントを建てましたので移動をお願いいたします」
「あ、はい」
「あの………………イリヤ様はオルヴァーニュ公爵令嬢なのですよね?」
「え? はい」
