転生したらHP10000だった。



 私がグレン王子と“お友達”になってから数日後。
 この日はアルド兄様が目を覚まし、全快したということで殿下へのご挨拶が叶う日となった。
 アルド兄様はとても嫌がっていたけれど、言葉が話せなくなっているほどにトラウマを植えつけられていると聞いてさすがに同情した兄様は挨拶へ行くことを了承。
 
「どうしてアルド兄様はグレン王子にあいさつするの、やなの?」
「殿下の護衛騎士になれって言われるから」
「だめなの?」
「嫌なの。俺は冒険者を続けたいから」
「そっかあ」
 
 と、馬車の中でも頬を膨らましてぷんすかしている兄様に、父様と母様が困った顔をする。
 貴族が冒険者なんて、という意味が大きい。
 父様と母様はアルド兄様にグレン王子の護衛騎士になってほしいみたいだ。
 アルド兄様が起きてから、ずっと「そんな誉、なかなかいただくことはできないのだぞ」と説得している。
 けれど、護衛騎士というのは忠誠心が必要な職業だ。
 アルド兄様は見るからに王家へ忠誠心がない。
 というより、興味がなさそう。
 でも貴族だから、王家に命令されたら受け入れなければならない。
 それが嫌みたいだ。
 
「決まったことではない。だが、家のためにも少し真剣に考えてくれ」
「嫌だよ。俺にだってつき合いがある。もう自分で冒険者としての仕事もしている! 貴族のしがらみに巻き込まないでよ!」
 
 馬車の中とはいえ兄様が明確に拒絶の意思を示す。
 でもすかさず父様は「お前が貴族なのは変えようもない事実だろう」と言い返した。
 
「それになにより、貴族ではなく冒険者として生きていくのであれば貴族の縁はしっかり断ち切りなさい。中途半端に残すからこういうことになるのです。冒険者としての最終地点も爵位です。あなたは生まれながらに与えられたものを、自らの力で得たいと言い家を出ましたね。しかし、イリヤが可愛くて戻ってきた」
「だって可愛いんだもん! 妹を可愛がるのは別にいいでしょ」
「そうですね。私たちは家族ですから」
 
 母様が参戦。
 まるでアルド兄様を貴族から抜けたがっている。
 でも、私がいるから貴族のままでいる、みたいに聞こえるな。
 
「イリヤ、いないほうがいい?」
「「「誰もそんなこと言ってない!」」」
 
 こんなに綺麗に言葉重なることある?
 
「イリヤが大好きだから……俺は……でも、だからってイリヤがいない方がいいなんて思ったことない! イリヤはお兄ちゃんの癒し! 愛そのもの! 可愛い! 大好き! 愛してる!」
「う、うん。よかったぁ」
 
 抱きつかれる。
 まあ、その……なんか色々、おとなの世界は複雑なんだろうなぁ。
 
 
 
 馬車の中でそんな話をして、お城に到着する。
 今回も多くの使用人に出迎えられて、中庭に案内された。
 でも、なんか知らないおじさんが王妃様の隣に座っている。
 だ、誰ぇ?
 
「ロナシュ陛下、息子、アルドと娘、イリヤを連れてまいりました」
「へ、陛下!? あ……アルド・オルヴァーニュと申します」
「イリヤ・オルヴァーニュともうします」
 
 へいか?
 へいかって、国王陛下のこと?
 それってこの国で一番偉い人のことだよね?
 え? え? え? え? なんでそんな偉い人がいるの? 王子様のお父さんだから?
 
「アルド・オルヴァーニュ、イリヤ・オルヴァーニュ。此度は息子グレンを助けてくれたこと、心より礼を言う。その方らのおかげで我はたった一人の息子を失わずに済んだ」
「い、いえ」
「みにあまるおことば、ありがとうぞんじます」
 
 えっと、確か頭を上げていいよって言われるまで頭は下げたままにしなきゃいけないんだよね。
 陛下が「ああ、すまぬ。面をあげてよい」と言うから、顔を上げる。
 すると、バチっと目が合った。
 すごく優しそうに微笑んでいるが、なんか……気持ち悪いな。
 やっぱり、私はまだあのくらいの年齢の“男の人”、苦手だ。
 
「その年齢でもう淑女教育が始まっているのか」
「え、ええ。とても意欲的な娘なのです」
「ね、言った通りとても素晴らしいでしょう?」
「うむ。将来的なところで見ても、その意欲は王妃の器」
 
 どうやら褒められている。
 しかし、王妃?
 アルド兄様の表情が冷たくなった。
 
「席にどうぞ。グレン、この方があなたの命を救ってくれたアルド・オルヴァーニュよ」
「………………」
「お聞きしております。今、声が出ないのだとか」
「ええ、そうなの。本当なら直接お礼を言うべきなのだけれど」
 
 王妃様に席へ促され、私たち家族も席につく。
 早速王妃様がグレン王子に兄様への礼を促すが、やはり口を開けても声を出せない。
 兄様が気を遣って手で制しても、王妃様と国王陛下は渋い表情。
 頰に手を当てて「困ったものだわ。王太子がこれでは」と溜息を吐く。
 そんなこと言ったってグレン王子は心に深い傷を負ったのだ。
 何年も引きずるかもしれないようなあんな出来事、一週間がそこらで回復するわけがないでしょ。
 
「そこで、どうだろう。不甲斐ないとは思うが、次期王太子のグレンがこの有様では今後の教育に不足があるやもしれぬ。ぜひ、アルドにはグレンの護衛兼従者となり、イリヤ嬢にはグレンの婚約者になってもらいたい」
「っ」
 
 目が笑ってない。
 有無を言わせぬ、その表情。
 これ、嫌だ。
 前世の、お母さんの再婚相手と同じタイプの……。
 背筋がゾッとした。