転生したらHP10000だった。


 エドレッド様が指示するとすぐに魔法師が駆け寄ってくる。
 しかも数人。
 最終的に十人がかりで魔力を込め始める。
 ええ? この鏡の魔道具、使うのにそんなに魔力が必要なの……!?
 
『そうか。今は守護神によって魔力が吸い上げられ、魔道具が使えぬ状況か』
「あ」
 
 そうか。
 そうだった。
 こういう味方にも必要な魔道具も使えないのか。
 人間は体内に魔力器(マジックべセルズ)があるから、特に魔力量の多い魔法師が回復した分を通信魔道具に注いで起動させようとしている、ってこと?
 ひええ、大変だ……!
 
「本部よ、戦況が変わった。オルヴァーニュ公爵家のイリヤ嬢が[武]の精霊タタング様の加護を得て我らに助力をしてくださった。詳しくは後ほど詳細をまとめる! ともかく、ドニル領砦はもう大丈夫だ! 青龍領砦に増援を送る! こちらも詳細はまとめて報告する!」
 
 ものすごくざっくりと説明してから通信が切れる。
 鏡の向こうに移った人がなにか叫んでいた気がするけれど、無視。
 魔力がもったいないからだろう。
 魔力を注いでいた魔法師さん数名がぐったりしながら他の魔法師さんと場所を交代する。
 か、可哀想。
 
「イリヤ嬢、鏡の前へ。あまり長時間話せませんので、できるだけ話す内容は決めておいてください」
「あ、あ、あ、は、は、はい」
 
 ま、まとめる!?
 話をまとめて話す!?
 私にそんな難しことができるとお思いですか!?
 タタング様ぁ、助けてぇ!!
 
『母への連絡であろう? 戦場に来て解決した。アルドにもこちらから連絡して青龍領の砦へ援軍に行くよう話す。もし間に合わずそちらと合流したら、そのままカルヴァ王国城へ向かってほしい。これでよい』
「わ、わかりました」
 
 簡潔!
 こういうのでいいのか。
 よし、それなら私でも言えるかも。
 
「では、夫人のことを思い浮かべてください。イリヤ嬢の魔力を吸って鏡が夫人へ繋げるかと思います」
「え。あの、あの、私まだ十歳になってなくて」
「大丈夫ですよ。不安定な魔力を使うわけではなく、イリヤ嬢の魔力を少し通信魔道具が吸って、その魔力からイリヤ嬢に似た魔力――身内の方に繋がるのです。そこからイリヤ嬢が話したい相手を思い浮かべれば、その人の魔力を辿って繋がることができるのですよ。さあ、やってみてください」
「は、はい」
 
 難しそうだけれど、やってみよう。
 えっと、えっと……母様のことを、思い浮かべる。
 母様、母様と話をしたい。
 母様――!
 
『イリヤ!?』
 
 目を開く。
 鏡には焦った表情の母様とグレンとルイシス兄様をサリィ!
 よかった、無事に繋がったんだ!
 
「母様、あのね! 砦が襲われてたから、戦場に来てタタング様の加護で追い返したの! アルド兄様にも今からイリヤが連絡して青龍領の砦へ援軍に行くよう話すから! もし間に合わなくて、もう母様のところにいたら、そのままカルヴァ王国城へ向かってほしいの!」
『な、なにを言っているの!? 今どこにいるの!?』
「あんまり、通信魔道具に魔力がないから……」
 
 長く話しておけないんだよ、と言おうとした時にグレンと目が合う。
 ――グレンを愛される王様に――。
 
「グレンが守護神様にお願いして、青龍領の砦を、守ってくれてもいいよ!!」
『っ』
 
 ハッとした母様がグレンを見下ろす。
 私はグレンと約束したの。
 一緒に戦おうって。
 それから私がグレンをみんなに愛される王様にするって決めたの。
 でもそれなら、グレンに王様らしくなってもらわなければいけない。
 グレンは王様として、戦うんでしょ?
 
『うん』
「グレン王子殿下!?」
「ま、まさか!?」
 
 エドレッド様と騎士たちが驚いた顔で口々に声をあげる。
 そうだよ。
もうグレンは二年前の弱い男の子じゃないの。 
 私は、グレンを見て頷いた。
 
「うん! うん! 信じてるよ!」
 
 そう言うとグレンも少しだけ微笑んで、手を掲げた。
 近くで通信魔道具に魔力を注いでいた魔法師が「魔力が!?」と驚いた声をあげる。
 きっと魔力を注がなくても、通信魔道具に魔力が満ちたんじゃないだろうか。
 だって、鏡の向こうのグレンの頭上にカルヴァ王国の守護神様が見えるもの。
 掲げたグレンの手の平に、黒い柄で金の装飾がされた杖が現れる。
 グレンの身長よりも大きな杖。
 
「あれは――カルヴァ王家の王杖!」
「守護神様のお力を借りることができるという、王家の者のみが使えるという王杖ですか!? まさか、グレン王子は王杖を使えると!?」
「お、おおお!」
 
 鏡の向こうが眩しくなる。
 エドレッド様たちが叫ぶ。
 テントの中にも白い粒のような光が溢れ、タタング様が『素晴らしい。これこそ真の守護壁よ』と頷く。
 
『イリヤ』
「うん、見てたよ」
『……っ、できた……うん……うん……。……ありがとう……』
 
 グレンは涙を滲ませながら微笑んだ。
 もう魔力を気にせず通信魔道具で話していられるけれど、アルド兄様にも連絡をしなければいけないから……。
 名残惜しいけれど。
 
「じゃあ、またあとでね! イリヤがこの国を守るから、グレンも頑張ってお城に行って、王様に守ったぞって報告してあげてね! 今のグレンなら絶対みんなに大事にされる王様になれるよ! イリヤが絶対に味方するからね!」
『うん……うん……がん、ばる……』
 
 グレンは王子様としての仕事をしたよね。
 じゃあ、私もグレンの婚約者としてもっとできることをやろう。
 まずはアルド兄様へ連絡!