転生したらHP10000だった。


 翌朝、荷物を竜籠に入れて自分たちも乗り込む。
 タニシには歩いてお城まで向かう。
 タニシかわいい。
 もちもちぽてぽてしてて可愛い。
 黄色い鱗がバタークッキーみたいで可愛い。
 
「ようこそ! 我が城へ!」
「まあ、マキアラング女王陛下! わざわざ見送りに来てくださったのですか?」
「[転移陣]起動に私の魔力が必要、というのもあるが、ルイシス殿やイリヤやグレン王子に別れを告げたいという気持ちが大きくてな。いや、もちろん夫人にもな!」
「まあ。おほほほほ」
 
 そして女王様自ら私たちを厳重に警備された場所へ案内してくれた。
 お城の一番大きな棟。
 階段を上ると四階。
 太い柱が定間隔に建てられ、すごく綺麗な街並みが見える。
 部屋の真ん中に二十メートルくらいの大きな円型の石畳。
 もしかして、これが……。
 
「大きい! これが転移陣?」
「そうよ」
 
 バサバサ、と音がしてタニシが外から柱の隙間を通り転移陣の上に着地する。
 タニシ、お城の中には大きさ的に入れないけれどどうするんだろうって思っていたらまさかの外から直接入って来るとは~。
 母様も女王様も「大丈夫」としか言わないからどうするのかと思ったら。
 
「アルドたち『金の大槌』のメンバーも間もなく城に着く。主らを送ったあとに、彼らも送る。できれば三十分ほどその場で待ってやってくれ」
「わかりましたわ」
「アルド兄様! 一緒にはいけないの?」
「うむ。彼らは冒険者だからな。そなたらに雇われたわけではないし、武装しておるゆえに転移陣を使わせるのに少々手続きに時間がかかるのだ」
 
 そっかあ。
 会いたかったなぁ、アルド兄様。
 でも、カルヴァ王国の近くで会えるんだもんね。
 タニシが私の側に来て見下ろしてくる。
 
「タニシも一緒に行けるね」
「トゥルル」
「うむ! それではオルヴァーニュ公爵夫人、そしてグレン王子、ルイシス殿、イリヤ嬢、我らの支援物資は追ってお送りする。そちらの受け入れ体制が整い次第、順次転送しよう」
「本当にありがとうございます。ニーングルグ女王国の協力に報いるよう、一日も早い終戦と平和を掴みとれるようわたくしどもも尽力することを約束いたしますわ」
「うむ! 無事に平和になった際はぜひ、ルイシス殿には再びニーングルグ女王国を訪れ、演奏会を開いてほしいものだ」
「ええ、もちろん。喜んで」
 
 やはり兄様の音楽はすごいんだなぁ。
 ニーングルグ女王国からの支援は援軍ではなく支援物資。
 まあ、カルヴァ王国の守護神様が他国の軍勢を”援軍”とはいえ受け入れるのは難しいそうだ。
 他国に侵攻されている状態だから、仕方ない。
 なのでそこそこの量の物資を確約されたらしいよ。
 カルヴァ王国の状態がわからないけれど、食糧や物資はいくらあっても足りないもの。なんだって。
 
「それでは皆、息災でな。無事に家族と再会し、平和を取り戻せることをこの地から祈っておるよ」
「なにからなにまで本当にありがとうございました」
「絶対にまた来ます!」
「いずれまた」
「ありがとうございました」
 
 マキアラング女王と、近くにいた侍女さんたち、近衛騎士の人たちにも頭を下げて転移陣の真ん中へと移動する。
 色々な場所に行った。
 色々な人に助けてもらった。
 ようやく帰れる。
 グレンの方を見ると、見たこともない真面目な表情。
 というか、これが……覚悟をした人間の顔――なのかもしれない。
 
「グレン」
「ッ」
「大丈夫だからね。もしお城に帰れなくても、イリヤのお家にいればいいんだからね」
「………………」
 
 こくり、と頷くグレンの表情が少し泣きそうだった。
 怖い顔になっていたけれど、覚悟した表情の他にも恐怖と不安があったんだと思う。
 そうだよね。こわいよね。
 もうお城には帰りたくないんだよね。
 毎日毒を盛られたり、階段から突き落とされるような生活に戻りたくないよね。
 でも、そうならないから。
 帰りたくないなら帰らなくってもいいんだもん。
 私のお家の離れに暮らせばいいんだからね。
 もともとはそういう話だったんだから。
 
「ゆくぞ!」
 
 マキアラング女王様の声とともに、転移陣がゆっくりと光を放つ。
 呪文のようなものを女王様が唱えるごとに、光が魔法陣の線をなぞるように広がっていく。
 すごい、これが魔力。
 
『イリヤ・オルヴァーニュ』
「え?」
 
 誰? 上から声がする。
 顔を上げると、褐色の肌で鉄の鎧をまとった大きなおっぱいを放り出したような金髪碧眼美女が見下ろしている。
 すごい……! カルレットさんより大きい!!
 いや、おっぱいじゃなくて、おっぱいもだけど、背とか、体とか、お尻とか!
 おっぱいの先とお股以外全部出てる!
 でも、鉄の鎧で隠れているからおっぱいもお股も厳重ガードされてる!
 本当に誰!?
 
『我が名はタタング。[武]の精霊』
 
 タタング様!
 私に加護をくれた精霊様のお一人!
 いっつも[季節]、[学問]、[心]のお三方だったけれど、お名前はかねがね!
 
『用件だけ伝える』
「え? はい?」
『アグレドとブロードの軍が青龍領を抜けて常駐していたところと同時に強襲を仕掛けてきた。間もなく砦が落ちる』
「え?」
 
 砦が落ちる?
 それって、マズいことなんじゃないの?
 父様とブロッサ兄様の顔が浮かんだ。
 守らなきゃ……守らなきゃ、守らなきゃ……!!