前世の私は、服を最後に買ってもらったのはいつだろう?
もう前世の私の年齢を超えてしまったから、本当にわからない。
サリィは「お嬢様には不自由を強いておりますが」と申し訳なさそう。
いやいや、こんな状態だもん、ドレスの枚数なんて着れればそれでいいのだ。
毎日サリィが綺麗に着飾ってくれているもの。
屋敷に住んでいた頃よりも、服の枚数こそ減ったけれど……日替わりでドレスが違う時点で十着くらいある。
平民はもっと少ないはずだもん。
前世なんて着替えそのものがなかった。
サイズ違いの服を、ずっと着ていた。
それに比べたら……。
まあ、それでもやっぱり貴族令嬢としては非常に少ないみたいだけれど。
前世のこともあって、あんまり服に興味がないんだよね。
服に限らず、靴にもバッグにも装飾品にも興味がないんだよなぁ。
でもお金をかけて着飾るのも貴族の勤めなんだよね。
あんまりびんぼっちいカッコウしていると平民に馬鹿にされて統治ができなくなる、って。
グレンを『みんなに愛される王様』にさせるためにも、倹約は最低限にしてくださいね、とサリィに言われた。
締めるところは締めて、使うところはしっかり使うって感じらしい。
「私も早く魔法や魔道具使えるようになりたいなー」
「お嬢様もすぐに使えるようになりますわ。グレン様と数ヶ月しか変わらないのですから。あと半年くらいですかね」
「うん……」
それでもこの半年がでかい。
けど、デカいからこそこんな北西の端っこまで来てしまうし、協力をしてくれるって約束を取りつけられた。
やっと帰れる。
手紙のやりとりはしていたけれど、父様も兄様も本当に大変そうなんだもん。
私が帰ってなにかできることがあるわけでもないけれど……。
「荷物まとめ終わりましたよ。荷馬車に運んでおきますね」
「うん! ありがとう、サリィ」
「王都に帰ったらなにをしたいですか?」
「クッキー屋さんに行くの! バタークッキー食べる!」
「まあ、バタークッキーでしたらサリィがいくらでもお作りしますのに……」
「絶対チョコクッキー完成してるはずだもん!」
チョコレート、きっと二年も経てばめちゃくちゃ広がっていくはずだもん。
完成したチョコレート、固めたやつとかも食べたい。
と、いう私の期待はサリィが首を傾げながら「バタークッキーにチョコレートを混ぜたらそれはバタークッキーではなくチョコレートクッキーなのでは……」とツッコミを入れてくる。
それはそう。
「どっちも好きなの!」
「チョコレートは…………朱雀領でしか採れない実から作られるものなのですものね。バタークッキーでしたらサリィがいっぱい作るのですが」
「バタークッキー食べたい! サリィが作るバタークッキーも好き!」
「たくさん作ってまいりますね。――ですが、お嬢様は公爵令嬢なのですから、もっと高価なお菓子もねだってくださってよいのですよ?」
え。
な、なにを言っているの? サリィ。
「イリヤがバタークッキー好きなのは高価だからじゃないよ」
「ええと……流行りというものがありして」
「興味なーい。イリヤ美味しいバタークッキーならなんでもいい」
「お嬢様、公爵令嬢たるもの、流行りの把握と流行りを生み出す立場ですのよ。同じものばかり好んでいてはいけませんわ」
「えぇ……」
それは前に母様にも言われたことがある。
私はどうやら、あまり新しいものに興味がない珍しいタイプの“令嬢”らしい。
普通の令嬢は流行り物に敏感で、むしろ流行りを生み出すのが上位貴族の女性の“仕事”。
そうやって流行りを作ることで経済を回すことに貢献するんだって。
ほげぇ。
私には無理だぁ。
無理だけどちゃんとやらないとなぁ。
前世の記憶で新しいものを、って思うけれど、そんなにすごいもの知らない。
チョコレートはたまに食べられる菓子パンの中身とかで食べられたもん。
甘くて美味しい。
「カルヴァ王国に帰る前にニーングルグ女王国の流行り物などを勉強して、持ち帰るのもありでああったのですが」
「それは戦争が終わってからでもできるからいいやー」
「確かにそうですね。平和になったら……またニーングルグ女王国に来て、流行り物のお勉強にしましょう」
サリィ、嬉しそう。
どうしたの、と聞くと「戦後の話ができるのが嬉しいのです」と言う。
私たちは比較的安全な国外をうろうろしていたけれど、国内に残っていたらきっと毎日不安だったと思うから言いたいことはわかる。
国外にいる私ですらこんなに毎日不安なのだもの。
国内に住む人たちは、もっと毎日不安だろう。
……うん、そうだね。
安全になったあとのことを話は楽しいね。
未来の話。
サリィと一緒に、こうしたい、ああしたいって話すの。
二年前はできなかったこと、今ならできるようになっている。
それに同じく国内にいるカルレットさんにも会って、成長した私を見てほしいし!
ランニングで持久力も上がったし、槍の訓練で筋力も上がったと思う!
まだおっぱい大きくなってないけれど、ちょっとは引き締まったはず!
新しいトレーニング方法を教えてもらうんだ。
父様とブロッサ兄様にも、会ったらまず抱き締めてもらって……あと、この二年頑張ったねって褒めてあげなくちゃ!
ああ、考えれば考えるほど楽しいな……。
「早く帰りたいねぇ~」
