転生したらHP10000だった。


 グレンの話を聞いた感じだと、マキアラング女王にこの国の平民街に連れて行ってもらい、平民の暮らしを見聞きしたんだって。
 この国の平民は、カルヴァ王国の貴族のように学校に通い、文字の読み書きを学ぶ。
 勉強が嫌いな子は肉体労働コースに移行して、勉強が得意だったり勉強が好きな子は管理や資格を積極的に受けられる制度。
 貴族はそれ以上の教育が義務づけられており、特に男児は貴族籍を受け継げないためすっごく勉強したり魔法師や騎士として強くなったりしなければいけないんだって。
 そういう成績がよくないと、お婿さんとして迎えてもらえないんだって。
 男の子大変なんだな。
 で、グレンはこの国の平民のこと話して、平民の子ども――同年代の子が将来の自分のことを考えて、なにを学ぶのかを楽しそうに話す姿に自分が情けなくなったんだって。
 平民の子がこんなに自分と家族と、そして国のことを考えているのに、って。
 ま、まじめー。
 それから、女王様に王族としての覚悟について話をしたらいいよ。
 うんうん、聞いてたらグレンは急に私をジッと見て……。

「イ、イリヤの、ために……王様、って、思っ、た」
「え? ん? イリヤのため?」
「ん、ん……」

 こく、こく、と頷かれる。
 ……私のため……。
 私のために……?

「イ、イリヤに……相応しい……お、王様……。ぼ、ぼくじゃ……む、むり、かも、だ、け……ど……」
「そんなことないよ!!」

 思わず立ち上がって、またグレンを抱き締めにいってしまった。
 私のため。
 家族と使用人とサリィ以外で初めて言われた。
 というか、グレンに言われたのが……自分でも思っても見ないくらいうれしい!
 なんか胸があっつくて、顔まであっつくて、あと、あと……喉がつーんて苦しくて。
 なんだこれ、って思ったら、息が詰まってきちゃた。
 そして、気づいたら涙が出てた。

「グレン、嬉しい、うれしい……! ありがとう……! だいすきだよ……!!」
「ッ……」

 びっくりした。
 嬉しいのに涙が出る。
 苦しいけど、どこも痛くない。
 嬉しい気持ちしかない。
 不思議。こんなの初めてだ。

「イリヤもがんばる。グレンが国のみんなに大好きって言われて、大事にされる王様になるようにがんばる。女王様みたいな、みんなに尊敬されて、大事にされる王様なんだよ、って」
「う、うん……ぼ、ぼくも……がん、ばる……」



 ◇◆◇◆◇



 魔力選定を終えたグレン。
 そして女王様と話をして、王太子を目指すことを決めたグレンを、オルヴァーニュ家は“推す”ことにしたんだって。
 そしておそらく他の公爵家もグレンを王太子に推すだろう、って。
 でも王様も王妃様も自分の子どもを次期王にしたいはずだから、まず立太子するバトルを王様たちとしなきゃいけなくなるんじゃないか、って母様は溜息を吐いていた。
 そういえばカルヴァ王国を出る前に、王妃様が妊娠しているっていう話があった。
 そうか、もう生まれてるのか。
 そりゃあ王様と王妃様は自分の子どもを次の王様にしたいよね。
 自分の子どもの方が可愛いもんね。
 でも私からするとグレンの方が可愛いから!
 うちのグレンの方が絶対可愛いし、いい子だよ!

「他の公爵家にも根回しはしてあるけれど、まだ反応がないの。だから……もしかしたら国に帰ったあと、反対意見が出るかもしれない。けれど、おそらくどの家も基本的には反対しないのではないか、とわたくしは思っているの。みんな王妃様の対応には、不満が溜まっていたからね」
「じゃあカルヴァ王国に帰ったあとのことは大丈夫なんだ?」
「ええ。アルドがニーングルグ女王国に入ったと先ぶれが届いたわ。『金の大槌』のメンバーも一緒だそうよ。彼らに一日、二日休養をとってもらってから、[転移陣]でカルヴァ王国へと帰りましょう」

 アルド兄様!
 それに『金の大槌』!
 っていうか[転移陣]って、あの偉い人しか使えないという噂の……!?
 使っていいの!?

「なんと、[転移陣]を使わせていただけるのですか?」
「ええ。かなりの魔力を使うから、一方通行になるけれど」
「お家に、帰れる……?」
「ええ、そうよ。イリヤ。お父様にももう手紙を出しておいたわ。明後日か、明明後日には帰れるって。……ただ、今カルヴァ王国は守護神様の影響で国内の魔力がすべて守護神様の守護壁に触れるから、おそらく国境付近に到着することになると言われたの。竜籠も一緒に転移させていただけるらしいから、そこからさらに移動になっても問題はないと思うけれど」
「では、すぐに荷物をまとめておいた方がいいのですね」
「そうね」

 決まったからには動きは早い。
 すぐにみんな、荷物をまとめるべく部屋に戻る。
 母様はグレンに「魔道具の出し方の訓練も始めましょう。国についたらすぐに使えるように」と声をかけるのを横目に、私はサリィと部屋にある服を鞄に詰めた。
 結構、なんか、あれだなぁ。

「服、減ってる」
「はい、お嬢様の成長に合わせて作っておりましたから、小さくなったものは仕立て屋に引き取ってもらっておりました。公爵家から離れている状況ですから、奥様が『節約』『倹約』を心がけるように、と。無論、ルイシス様の演奏会に着ていくドレスは必要ですから、そこにお金はかけなければなりません。こればかりは貴族令嬢としての当然の経費です」
「そうなんだ」

 屋敷に残してきた服も、きっともう着れないもんね。
 着れないなら売るしかない。
 そして、私、成長したんだなぁ。