その日の夕方に、グレンはニーングルグ女王国の王家の軍馬に乗って帰ってきた。
グレンがボックス馬車を苦手にしているから、気を遣ってくれたらしい。
お出迎えに玄関ホールに出ると、顔が、違う……。
いや、顔は同じなんだけれど、なんかいつも所在なさげに俯いてもじもじしているグレンが背を正し、前を向いて真っ直ぐ私の方に歩いてきた。
なんか変なことを言うようだけれどグレンの顔がこんなにカッコよくて、背も私より高かったっけ? って感じ。
どうしたの? どういうことなの?
あれ? 私の知っているグレン、なの……?
「おかえ、り?」
「…………」
首を傾げて声をかけると、コクリと頷かれる。
ああ、相変わらず声は出ないみたい。
でも、顔つきが……あと、目も、違う。
いったいなにが起きたの?
「…………」
「う、うん? 話? うん、いいよ。どこで話す?」
「…………」
「お庭? いいね。じゃあ、お茶を用意してもらおうか。サリィ、お願いできるかしら?」
「はい、もちろんです。すぐにご用意いたします」
というわけでなんか私に話があるんだって。
どうした、どうした?
一緒に帰ってきたトリアはすぐに母様のところに戻ったけれど、従者として同行したルイシス兄様はどうするんだろう、と思ったら「じゃあ疲れたから部屋で休んでくるね」と生き生きした笑顔で手を振って二階へ上っていく。
お、おう……兄様、本当に疲れを人に悟らせないのが得意だなぁ。
パッと見ただのイケメンアイドルみたい。
でも目許が本当に疲れている。
疲れを悟らせないルイシス兄様だけれど、目許を見ると一目瞭然。
まあ、これは身内だからわかることなのかも?
兄様曰く『疲れを見せると漬け込まれるからね』と真顔で言ってたもんね。
疲れを見せると漬け込まれるって、なにに? って思っちゃうけれど……なんかあるんだろうなぁ。
モテモテの人はなにかあるらしいよ。
大変なんだろう。
それに、ルイシス兄様は音楽や芸術が大好きだけれど家族以外の人間は嫌いなんだよね。
本人が言ってたことがある。
貴族は特に『醜い』と評するのだ。
どこに行っていたのかはわからないけれど、きっと人の多いところに行ったんだろうなぁ。
ルイシス兄様があそこまで疲れ果てているのは、人が多いところに行った時だもの。
演奏会のように自分の好きなものに触れている時間があれば、あそこまでじゃないんだよね。
ゆっくり休んでほしいよ。
「それで、今日は女王陛下とお出かけして楽しかった?」
「…………」
庭に出ると、サリィが指示しておいてくれたおかげでお茶とお菓子が用意されていた。
とりあえず差し当たりないところから聞いてみよう。
大丈夫、サリィにも言われたから浮気は疑ってないよ! あんまり!
「…………」
「町へ行ったんだ」
「…………」
「え!? 女神神社に……!? それって、もしかして魔力選定に……!? えええ!? じゃあどうだったの? ……え!? 魔力選定してきたの!? あんなに嫌がってたのに!? ……で、でも、その……ど、どうだったの?」
なんか急にびっくり展開なんだけれど!?
なんと、あんなに嫌そうにしていたのに魔力選定をしてきた!?
な、なんだってー!?
いったいどんな心境変化!?
っていうのもあるけれど、シンプルに魔力の属性や魔力量がどんなもんだったのか気になる。
どんな感じで魔力選定したのかも気になる!
だって私、来年だもん!
「うんうん、魔力の属性は[風属性]と[闇属性]。魔力量は『3』。どんなふうに調べたの? …………へぇー、紙の魔法陣の上に手を置くだけでわかるんだ? え!? 魔法陣に手を置いたら、[ステータス]が自分で見られるようになるの!? じゃあ、じゃあ、グレンはもう自分で自分のステータスが見られるの!? い、いいなぁー!」
ステータスって鑑定士さんしか他人のステータスを見られない。
自分のステータスは自分で見られるようになるらしいけど……。
いいなー!
魔力選定するとステータス見られるようになるんだ〜! いいなー!
私も自分のステータス見たいー!
ところで魔力量『3』って多いの? 少ないの?
「あ、それに魔力属性が二つあるのもすごいね! 確かカルヴァ王国の王族は闇属性を受け継ぐものなんだっけ。やっぱり王子様なんだね」
「うん……」
首を傾げる。
少し目を伏せ、そして顔を上げたグレン。
いつも顔を伏せていたのに、私を真っ直ぐに見る。
「……国、この、国……民、生活、見た」
「う、うん……?」
めっちゃ声出てるな……!?
相変わらずたどたどしいけど。
この国の、民の生活を見せてもらったんだ?
「イ、イリヤ、帰る……カルヴァ……帰り、イリヤ……」
「――うん。私はカルヴァ王国に帰りたいよ。父様とブロッサ兄様に会いたいもの。それに――」
サリィに昼間言われたこと。
ちゃんと考えなければいけない。
今までの旅も、サリィや母様、ルイシス兄様に教えてもらってきた貴族としてのあり方。
でもきっと王族は――もっと……。
「貴族として、国の民も……助けなければいけないと……思う」
父様と兄様は公爵家の人間として、王と民を守らなければいけないって残った。
私が今首にかけている魔道具[ヘルスチャージ]も、戦いが苦手な祖父がそれでも勇気を振り絞り、貴族の責任から戦いに赴いて得た魔石から作られている。
