転生したらHP10000だった。


「はあ、はあ、はあ……ふ、ふーーーー。ノルマたっせーい……」
「お疲れ様です。お嬢様。またタイムが縮まりましたね」
「ほんと? 嬉しい!」
 
 と、サリィに返事をしてみたものの……心配が勝る!
 昨日の夕飯にニーングルグ女王国の女王様マキアラング様がグレンに『王の覚悟』というものを教える! と息巻いて今朝からお出かけしている。
 グレンはマキアラング女王のポジティブで行動的なところがとても苦手!
 しかし、これは王族、次期王となる者が学ぶべきものであり、決めるべき覚悟。
 私はまだグレンの婚約者。
 しかも、カルヴァ王国を始め他の国にも“公表”はしていない。
 婚約は成立しているものの、お披露目をしていないので“事実上”、“書類上では”婚約者、らしいよ。
 それにマキアラング女王様は『こういうのは王族同士の語り合いだからな! 遠慮してほしい!』って言われたし。
 そう言われちゃったら……まあ……でも……グレンはまだ私たちにしか声を出して話をしたりできないのに……いやでも、女王様の言うことだし……ぐぬぬ。
 って、いう感じで私はお留守番。
 一応母様の侍女トリアと、グレンの従者という立場のルイシス兄様が同行しているのだけれど……私は……留守番……留守、番……。
 ちょっとジッとしていられなくて、ランニングを多めにして、久しぶりに槍の訓練。
 お勉強っていう気分じゃないんだもん。
 グレンのことは……信じてるけど……。
 
「年上のお姉さんの方が好きって言われたらどうしよう……」
「え? ……っげっふ……」
 
 なんかサリィから変な音が漏れた気がするけれど、振り返るといつもの冷静なサリィ。
 いやー、だって、だってさぁー、グレンは私のなんだよ?
 心配になるに決まってるじゃん。
 いや、まあ、グレンが私じゃなくて身長とおっぱいが大きくて、ハキハキサバサバした美人なお姉さんの方がいいっていうのならそれは仕方ないと思うよ。
 苦手なタイプのだと思うけれど、少なくとも私や王妃様みたいな人と性格が全然違うじゃない?
 前世の母が『恋と結婚は別物』って豪語して、前世の本当の父と再婚相手はほんっっっとうに違うタイプだった。
 前世の母、前世の父の浮気が原因で“りこん”したって言ってたけれど……あれ? 母の浮気だっけ? とりあえず浮気だった気はする。
 そしてとりあえず最初に結婚した人とは違うタイプの人がいいらしい。
 だからグレンも、その、恋とか。
 私に恋してほしいとは思わないし、幸せにしてあげるって決めているけれど……でも、ニーングルグ女王国の女王様相手はすごく大変なんじゃないかな?
 年の差もあるし……。
 
「お嬢様、そんなに心配される必要はありません。グレン王子に王子としての自覚を持っていただくために“話”をされるだけの予定とお聞きしております。こういったことは王族同士にしかわからないこともあるのでしょう」
「え? で、でも……デートみたいなことじゃないの? 二人で出かけるって」
「だいぶ意味合いが違いますね」
 
 違うの!?
 
「どちらかというとお説教に近いかと」
「お説教!?」
「はい」
「え!? な、なんで!? グレンはお説教をされるようなことしてないよ!?」
 
 あたふたしているとサリィは「なにもしないことが問題なのです」と目を細めて頰に手を当て語る。
 王族なのになんにもしてないのがダメ。
 魔力選定をしようとしないことも、カルヴァ王国に帰ろうとしないのもダメ。
 王族としての役目を果たそうとしていない。
 
「で、でもそれは……グレンはカルヴァ王国のお城にいた頃、虐められてたから……」
「そうですね。その生活は当然改善されるべきかと思います。しかし、それでも王族として生まれた以上、守護神様の加護を与えられた存在として国を守らねばなりません。王族に与えられる守護神様のご加護は強力であり、それは今のような有事にこそ発揮されるべきだからです」
「でも…………グレンは別に好きで王族に生まれたわけじゃないよ?」
「そうですね。生まれは――どうすることもできません」
 
 サリィが目を瞑って、心の底から悲しそうに呟く。
 仕方ない。
 そうだけど……。
 
「ですが王族は特別なのですよ。望んで生まれたわけではない、という言い訳をねじ伏せられてしまうほどに。……お嬢様もいずれわかるでしょう。いえ、グレン王子と結婚されるのであればいずれは国母。時には王を諌め、常に支え、次代の王を育てるために王族の覚悟をともにしなければならない時も来るはずですから」
「イリヤも?」
「はい。……王道というものは、身内を切り捨ててでも国を守ることを優先しなければならないのですから」
 
 公爵家の侍女の一人であるサリィが、そこまで言うなんて。
 
「私も王族のことをもっと勉強した方がいいってこと?」
「もちろんですわ。お嬢様は次の国王となる子の教育を行わなければならないのですから」
 
 いまいちピンとこない。
 でも、グレンと結婚するってそういうことなんだろう。
 じゃあ、やっぱり勉強もした方がいいよね。
 
「でも今日は体動かしたいかも」
「それも大事なことですわ。いざという時、王妃は王と王太子を身を挺して守るものですから」