「ところで、グレン王子。先週十歳になられたそうだが……魔力選定はこの国で行ってくれるのかな?」
「はい!」
グレンは俯いてしまったが、代わりに私が即返事をするよ。
元々母様とルイシス兄様もそう言ってたし。
グレンはまだカルヴァ王国に帰りたくないと思っているから、魔力選定にも行きたくないみたい。
でも私も一緒に行くから、と説得中。
私はまだ九歳だから、選定に行っても魔力量も魔力属性もわからないと思うけれど。
「ははは! イリヤ嬢の方が乗り気だな! ――グレン王子はまだカルヴァ王国に帰るのが恐ろしいのか?」
「ッ」
うへ、と変な声が漏れる。
完全に見抜かれているっ。
しかし、母様はナプキンで口許を拭いてからグレン王子の方を見て、「今宵マキアラング女王陛下に来ていただいたのはその件なのです」と言う。
どういうこと……?
「グレン王子、どんなに望まずともあなたは産まれた時からカルヴァ王国の王子。戦火に晒されている自国を完全に救うには、あなたがカルヴァ王国の守護神様から賜った真のご加護を発動させなければならないのです。このままでは魔力すべてを吸われ続けたカルヴァ王国が、自壊してしまいます」
「………………」
「事情は聞いておるよ。ご両親とあまり仲がよくないのだそうだな。それに、『呪いの王子』などと呼ばれているとか。それで王族の自覚を持てというのは酷なのだろう。しかし、持たねばならない。君を育てた国であり、君が国内にいる間口にしたあらゆる食べ物、着ていたもの、君を育てたものは国民の血税だ。君が今、勇気を出さなければ何百万人という人々が犠牲になるのだぞ」
ちらり、とグレンを見る。
俯いて、完全にスプーンを置いてしまった。
庇ってあげたいけれど、グレンの気持ちもわかる。
帰りたくないよね。
会いたい人にも会えないし、毎日毒を盛られて美味しくないご飯を食べなきゃいけなかったり、本当は守ってくれるはずの侍女に突き飛ばされたり怪我をしても放置される。
毎日痛くて苦しい。
……ああ、思い出しちゃう。
前世の、私の生活。
あれをもう一度、って言われたら私だって絶対無理!
帰ったあとも同じ状況にならないように……なるのかな?
「君は母国を救うために、オルヴァーニュ夫人に同行したのではなかったのか?」
「あ、あの!」
挙手。
食事の時に挙手は……と思われるかもしれないが、ここはいっちょ私がグレンの味方をしないと!
グレンの味方。
私にしかできないと思うし!
「どうかしたか? イリヤ嬢」
「カルヴァ王国に帰ってからのことを、ちゃんと話し合いませんか? 話し合うというか……決めておくというか……?」
あれ? 言葉これであっている?
なんか間違ってる?
帰ってからどうするのか、ってまるで私たちの動きの話みたいだもんね?
グレンの生活の話って言えばいいのかな?
ん? でもそれだと今現場の話みたいだし……。
うー、いっぱい毎日勉強してるのに文法難しい。
私は、バカだ……!
「なるほど。イリヤの言うことはもっともね。帰国し、終戦させたあとのグレン王子の生活の改善について。それを話せということね? イリヤ」
「そ、そう! それです!」
さすが母様!
私の言いたいことを簡潔にまとめてくれる!
もっと頑張って文法お勉強して、母様みたいな淑女になりたいっ。
「ふむ。確かにそれをきちんと話しておくことは必要だな」
「とはいえ……今のわたくしたちではそれを確約するのは難しいものね。カルヴァ王国の現状も確認をして、改善点の洗い出しをしなければ。まさかすべての侍女、メイド、護衛騎士や近衛騎士がグレン王子に危害を加えていたわけではないでしょう。――もちろん、王族に対して加害した者は問答無用ですが」
母様の声が低くなる。
それはそう。
グレンは王子様!
次の王様予定!
それなのに、王妃様のご機嫌うかがいのために痛いことするなんて許せないよ!
「しかし、今代のカルヴァ王国の国王と王妃はあまりにも息子に興味がなさすぎではないか? 我が子が家臣に蔑ろにされているばかりか、虐待を受けていたのだろう?」
「ええ……わたくしとしても話を聞いた時は驚いて倒れましたの。本当に信じられませんわ。お恥ずかしい限りです」
「だが、王族――いや、王となる者が守護神より与えられる加護はそれらの者たちを一掃するための力でもある。無論私怨で使うべきではないが、裁く力は国を統率するために必須の力。……そうか、君はまだその力を使うほどの覚悟がないと見える」
ちらり、とグレンを見ると、やはり絶対女王様の方を見ない。
まあ、グレンにとっては苦手なタイプの人……だよねぇ。
「よかろう! ならばカルヴァ王国の王子グレン! 君に王とはなんであるのかを、私直々に指南して進ぜよう!!」
「え」
「!?」
突然立ち上がり、胸に拳を当てて大声でなんか言い出した。
咄嗟にグレンの方を見ると、さすがに顔を上げて首を左右に振る。
しかし、母様がトドメのように「それはそれは、グレン王子にも良い経験となることでしょう」とにっこり。
これは拒否権がないやつだ。
