転生したらHP10000だった。


 でも今のグレンは血が繋がっていようがいまいが、王妃様に自分が好かれていないということをちゃんと理解している。
 死ななかった――カルヴァ王国の守護神様の加護で死ぬに死ねなかった――グレンにとって、カルヴァ王国の城に帰るということは、またあの悪意に晒されるのが恐ろしい。
 そう思うのは無理のないことだと思う。
 だって、命を狙われてたんだもんね。
 王妃様のやり方もえげつない。
 自分の手は汚さない、自分の預かり知らないところで事故死(・・・)してほしいと、周囲を誘導(・・)する人。
 前世の母とも、母の再婚相手ともまったく異なるタイプ。
 母様に言わせると『王侯貴族にはよくいるタイプ』だというから仰天だ。
 もちろん、ここまで積極的に殺しに来る(・・・・・)のは珍しい。
 母様はすごくガッカリしてた。
 王妃様とも、王妃様の亡くなったお姉様――グレンの実母――とも貴族学園で同級生だったから。
 公表されていた王妃様たちが描いた『あらすじ』を丸呑みして信じていたから、いわゆるガチヘコみ。
 それでもグレン王子には王様と王妃様のいいところを思い出しては話してる。
 私はそれをやめてほしい。
 むしろ、もう王様と王妃様がグレンの本当のお父様とお母様ではないって話してもいいんじゃないの、って思うの。
 だって本当のお父さん、お母さんのことを知らないままなんて嫌じゃない?
『お父さんとお母さんに生きることを望まれていない』って思い続けるなんてつらいでしょ?
 違うんだよ、って言いたかったんだもん。
 そうじゃないんだよ、って。
 グレンの”本当の”お父さんとお母さんは、あの人たちじゃないんだよって。
 本当のお父さんとお母さんは、もう、亡くなっているけれど……私の母様の話だととても素敵な人たちだったんだって。
 母様もグレンの本当のお父さんとお母さんが王様と王妃様のお兄さんとお姉さんだと聞いてから、隙を見てそのお二人の話もよくグレンにしている。
 母様は……今はそれで十分だというけれど、私はあんまり……そう思わない。
 ちゃんと教えてあげた方が、絶対いいと思うんだけどなー。
 
「イリヤ、そろそろピアノの練習を再開しようか」
「グギッ……! ……は、はぁい」
「グレン王子、イリヤとセッションしてみましょう。新しい楽譜を書いたので、僕も一緒に演奏しますよ」
「…………」
 
 こく、と頷くグレン。
 ニーングルグ女王国の王宮に行っている母様は、まだ帰らない。
 きっと今日も遅くまで交渉しているんだろうな。
 協力は取りつけたけれど、問題はここからだと母様は言っていた。
 どのぐらいの規模の軍を派遣してくれるのか。
 その費用。
 損害が出た時の補填。
 無事に停戦したあとの報酬について。
 そりゃあもー、いっぱい決めることが山のごとく。
 でもおかげでグレンが帰る時によい“お土産”になる、と母様が言ってた。
 ……まあ、当のグレンは帰りたくなさそうだけれど。
 わかるんだけれども。
 このあたり、一度母様と兄様とグレンと、じっっっっくりと話をした方がいいと思うな。
 母様に提案してみようかな。
 
 
 
 ――というわけで、夕飯後のまったり時間に、お茶を嗜みながら、グレンの意見を母様に伝えてみることにした……ん、だけど……。
 
「女王陛下!」
「お邪魔するよ、イリヤ! ああ、今日も可愛らしいね!」
「お夕飯にお誘いしたら是非にということでね。食後によければ演奏を聴かせて差し上げて、ルイシス」
「ええ、もちろん」
「いや! よい! 演奏会は来週だろう? 日々の練習で疲れているところ、私だけが特別に聴かせてもらうのは申し訳ない! 演奏会の日まで楽しみにさせていただく!」
 
 ルイシス兄様も目を丸くする。
 夕飯の少し前に帰ってきた母様は、なんとニーングルグ女王国の女王陛下を同伴で連れ帰ってきたのだ。
 実はこういうこと、月に一度あったりする。
 びっくりするのだけれど、ニーングルグ女王国の女王陛下、マキアラング様はめちゃくちゃ行動派。
 行動派具合で言うとシーニャンさんやカルレットさんぐらい。
 それもこれもこの国の守護神様がおばあちゃんなため、活動的で行動力のある女性を女王にする傾向がある、らしいよ。
 そんな歴代女王の中でもマキアラング女王は特にフットワークが軽い。
 男性が王になる傾向が強い他国に対して、このくらいフッ軽でつよつよの女王じゃないと舐められる、って思っているのかも?
 なんにしても、このように他国からこの国に、ある意味で迷惑をかけに来ている私たちにも定期的に会いに来て様子を聞いてくれる。
 話していても王族っぽくないというか……王様っぽくないというか。
 と言っても、私が一番知っている王様がカルヴァ王国のあの王様だから比較することなんてできないのかもしれないけれど。
 食堂に入り、食事が運ばれてくる。
すると、一口食べた女王様が「うん、美味しい!」と満面の笑みで感想を言う。
 このお屋敷もシェフも女王様が用意してくださったから、出された料理はニーングルグ女王国の料理。
 この国の料理は香辛料がふんだんに使われていて、結構辛みが強いんだよね。
 子どもの私たちにはちょっと……なんだけど……まあ、美味しいといえば、美味しいと思う。
 普段はかなり控えて味つけしてもらうの。