転生したらHP10000だった。


「ふんふんふーん、ふふふふんふふーーーん」
「おや、新曲かい?」
「ルイシス兄様! うん! 夢の中で聴いた気がするのー」
 
 現在私はニーングルグ女王国に身を寄せている。
 母様はこの国の隣、スタルリオス王国に助力の交渉を行っており、私とルイシス兄様とグレンはお留守番。
 ふふん、もう九歳だからね!
 私は兄様たちとお留守番ができるようになったのだ!
 
「いいね。楽譜に起こしてもいいかな? 次の情陛下への演奏の時に披露したい」
「うん! 女王陛下、ルイシス兄様の演奏大好きだもんね! イリヤも大好き! アルド兄様も早くニーングルグ女王国に来れたらいいなぁ」
「そうだね。手紙ではそろそろ到着するという話だったけれど――あ、グレン王子が来たね」
「え」
 
 ルイシス兄様は耳がいい。
 だから扉の前にいるグレンの足音でピアノの椅子から立ち上がり、扉を開けて部屋に入れてあげる。
 ――この国に来る前に、私たちはカルヴァ王国から南に抜け朱雀領に立ち寄り協力を仰いだ。
 けれどシーニャンさんは「頼ってくれたのは嬉しいが、四神領は戦争に関わらぬ契約をしているのだ」と断られた。
 つまり、他の四神領からも協力は得られない。
 母様はがっくりとしていたけれど、シーニャンさんは他の国への橋渡しを手伝ってくれた。
 そのシーニャンさんの橋渡しのおかげで私たちが次に向かったのは南西の大国グラブレール王国。
 でも、この国は縁も所縁もなくて半年もいなかった。
 この時点で国外に出て一年が経過している。
 白虎領でも同じことを言われるのを覚悟しつつ半年過ごし、私が精霊様たちの勧めで白虎様と会う。
 加護も協力も得られなかったが、白虎様には玄武様に会いに行って顔を見せてやってほしいと言われる。
 なんでかなぁ、って思ったら、玄武様はグレンに会ってみたかったらしいよ。
 カルヴァ王国の守護神が四神の中でも穏やかな玄武にグレンのことを頼んでいたんだって。
 母様とルイシス兄様も一緒に来てくれて、玄武領で一年を過ごした。
 そこでグレンの体調にすごく変化があったのだ!
 なんと! ずっと出せなかった声が!
 ちょっとだけ出るようになった!!
 まあ、完全に話せるようになるのは、まだ私とルイシス兄様と母様の前でだけなんだけれど。
 声が出るって言っても、ものすごーーーーく小さい声。
 聞き取るの難しい時があるくらい小声。
 でもでも、全然声が出なかった頃から考えるとすごく進歩してない?
 治ってない!?
 怪我も完治したし、暗殺者が来ても母様の侍女トリアが全部やっつけた。
 びっくりしたけどトリアは元暗部騎士だったんだって。
 サリィはトリアの弟子。
 めっちゃびっくり。
 
「ですが、私がお嬢様のメイドになったのはお嬢様が私を選んでくださったからですよ」
 
 らしい。
 全然覚えてない。
 どうやら赤ちゃんの頃の私がメイド見習いとして孤児院から連れてこられたサリィを選んだんだって。
 サリィは私の専属メイドにならなかったら、キモイおっさんのメイドになることになっていたって言ってた。
 その人も貴族だろうけれど、私のメイド、そして侍女になるくらい出世できて私の侍女に慣れたことに恩を感じているって。
 こっちこそ私の侍女になってくれてありがとー! って感じだよー。
 でもその私がまったく覚えていない恩義に報いようと、トリアの弟子にまでなっていたのは驚きだよー。
 ……で、まあ、それでいつの間にか他国の協力もまともに得られないまま二年。
 母様は玄武領に私たちを置いて、玄武領と隣接するナルパ王国へ協力を求めに行っていたけれど成果はない。
 二年近くそんな感じなので、さすがにルイシス兄様は不安になっていたようだけれどカルヴァ王国と敵国に動きはないらしい。
 守護神様の守りが強く、アグレドとブロードの連合軍は手も足も出ない。
 それでも魔法と魔道具が使えない日々で国内の不満は高まり続けている。
 国を守るためなんだから、って思うけれど、便利なものが一切使えないと不満も溜まるのは無理のないこと。
 むしろ、この件で国王が守護神に認められていないのでは――ということが国民と貴族に疑われ始めているんだって。
 実際王家の加護を持ってないわけだけれど。
 それがバレるのは非常に危険。
 生まれてきた王様の実子に、我が家とアジュール公爵家以外の公爵家が目をつけているとかなんとか。
 グレンとその新しく生まれた子がいなければ、加護のない王様なんて玉座から降ろしちゃえって公爵家がほとんどなんだってさー。
 父様がギリ、抑え込んでるみたいだけれどそれも限界に近い。
 めっちゃ自業自得じゃない? って思うけどねぇー?
 でも父様は王様を支えるんだって。
 父様まで王様を裏切っちゃったら、国外に出ている私たちにも暗殺の手が及ぶからなんだって。
 政治ってよくわかんないね。
 いっぱい母様に教えてもらっているけどいまだに難しいよー。
 
「どうかされましたか? グレン王子」
「…………」
「ああ、次の音楽会にグレン王子も出席されたいと。うーん、そうですね……では、なにか楽器をされてみますか?」
「…………」