転生したらHP10000だった。


 だからだろう、馬車の中をとても怖がって震えている。
 仕方なく、手を握ってあげた。
 大丈夫、大丈夫、と言い聞かせる。
 それでもずっと、不安そう。
 可哀想だなぁ。
 本当に、本当に怖かったんだもんね。
 その原因の馬車に乗らざるを得ないの、可哀想。
 でも、貴族街の私のお家まで十分くらいだからねー。
 頑張ろう。

「イリヤがいっしょなんだから、なんにもこわくないの。だってイリヤがグレンおうじをばしゃからたすけてあげたのよ。そんなイリヤがいっしょにいるの。なにがこわいの? なんにもこわくないわよ!」
「………………」

 ここは強気で!
 自信満々で言い聞かせよう。
 三人の精霊様も『うんうん!』と頷いている。
 ……あれ?
 気がつくとグレン王子の頭の上にいた守護神様がいなくなっている?

『カルヴァ王国の守護神なら、戦地に向かいましたわよ。今頃侵攻してきた敵国軍を守護壁で追い出しにかかっていことでしょう』
「そうなんだ……じゃあもう、こっきょーもだいじょうぶなんだ……!」
『恐らく。余程強力なアーツ魔法を使う者がいなければ』
『いたところで守護神の守護壁を突破するには時間がかかりマース。……しかし、これでグレン王子が魔力を使えるようになるまでの時間が稼げるかもしれまセーン』
『そうね。三年――だから、その間に敵も態勢を立て直そうと一度退くはずです。ですが逆に言えば三年以内に守護神の守護壁を突破しようとするでしょう。それをどう乗り越えるかが鍵になるでしょうね』
「……う、うぅん……」

 急に難しい話になったぁ。

「どうかしたの? イリヤ。精霊様がなにかおっしゃっているの?」
「あ、う……うう……。うん……でも、イリヤ、むずかしくてわかんない」
「大丈夫よ。ゆっくり教えてちょうだい」

 母様に言われて、グレン王子を抱き締めながら三人の精霊様が言っていたことをそのまま伝える。
 すると母様は神妙な面持ち。
 グレン王子は目を閉じたまま私にもたれかかってくる。

「確かに精霊様たちのおっしゃる通りね。でも、それはわたくしたちにはどうすることもできないことね。それは騎士団が考えることだもの。わたくしたちは、わたくしたちにできることをしましょう」
「くにのおそとに、いく?」
「そうよ。でも……そうね。グレン王子がボックス馬車をこんなに怖がるのでは、別の移動手段を考えた方がいいかもしれない。うーん……少しお金がかかるけれど、竜籠がいいかしら?」
「りゅーかご?」

 なんだろうそれ?
 母様は「明日には届くように手配するわ」とだけしか言わない。
 というか――。

「グレンおうじもいっしょだよね?」
「ええ。グレン王子にも外交を手伝っていただくわ。暗殺の危険はあるけれど、それは国内にいても同じこと。それならば外交の重要性と社交性を学んでいただきながら、心身を癒していただく方がいいでしょう。見たところ勉学も遅れているのではなくて? 今の学力も知りたいわ。イリヤと一緒に学んでいけたらいいと思うの」
「グレンおうじもおべんきょうするの?」
「もちろんよ。本当ならば従者を決めてからと思ったのだけれど……王妃様がその機会を潰してしまったから仕方がないわね。国外に連れて行く場合は同年代の従者を決めても連れてはいけないし……。こちらで用意しましょう」
「大丈夫なのですか?」

 御者台からサリィとトリアが心配そうに小窓から振り返っている。
 な、なにが大丈夫……?
 こ、怖いんだけれど。

「他の貴族からの突き上げね。手紙は出しておくわ。ただ、手を上げる貴族は恐らく少ない――というか、よほど困窮しているか、我が子への愛がない者は手を上げるでしょう。それを忠誠心として受け取って、後々合流してもよいでしょう。もちろんこちらである程度精査する必要はあるわ。でも“次期王太子の従者”という立場はそれだけ魅力的なものなのよ。能力がそれについてくるかどうかはその子次第。そして、従者となる子に忠誠心を与えられるかどうかはグレン王子次第ね」
「おともだちになるの?」
「少し違うわ。友人でもあるけれど、従者というのは“絶対に裏切らない味方”のことなの」
「イリヤもグレンおうじをうらぎらないよ!」
「そうね。でも女の子では一緒に入っていけないところや、相談ができないこともあるものなのよ。そういうところに一緒に行ったり、お話したりする相手が従者なの。それに――今のグレン王子にはイリヤ以外にも“絶対に裏切らない味方”が必要でしょう?」

 ちらり、とまだ小刻みに震えるグレン王子を見下ろす。
 ……確かにぃ。
 グレン王子の味方は絶対いた方がいい。
 私も――前世で味方がほしかった。
 味方……助けてくれる人。

「うん! ぜったいいたほうがいいー!」
「でも、貴族というのは下心で動くもの。その下心がどんなものなのかを呑み込んだ上で、絶対に裏切らない腹心として働いてくれる者を見定めなければならないの。ただ仲良くしてくれるから、で選べないのです。仲良くするように親から言われているのだから、むしろそれは当たり前なのです」
「う……うん」

 なんかただ仲良くすることがいいことなわけではないんだ……?
 む、難しいな〜。

「そのあたりの判断は母様がします。現状であれば敵と通じている家の子が一番警戒しなければなりません。イリヤが精霊様にお聞きして、その子は弾きましょう。見定めるのを手伝っておあげなさい」
「はい! イリヤがグレンおうじのみかた、さがしてあげる!」
「………………」