「っ、っ」
「や、やめてぇ! くびしまる! グレンおうじしんじゃう!」
「カルヴァ王国の守護神としての役目を果たせ! カルヴァ王国の守護神よ!! 我が声に応えよ!」
なになになに!?
この王様はなにを言っているの!?
グレン王子の命を捧げるから、守護神の加護を寄越せって言っているように聞こえるんだけれど……!?
慌ててグレン王子の頭上に浮かぶ黒い兎さんを見上げる。
目が……もともと赤く鋭かった守護神様の目が大きく、見開かれた。
『まあ、野蛮ね』
『イリヤ、すぐに伝えてあげてほしいデース』
『守護神としての役目を果たす、だ、そうですわ』
「え?」
ドンッ、とものすごい音と揺れ。
一階だけだけれど、城の窓ガラスが揺れの衝撃でビシビシ軋む。
人の悲鳴がそれを追うように広がって、母様が驚いた王様からグレン王子を抱えて取り戻し、車椅子に座らせる。
「今のは……」
「グレンおうじ、だいじょうぶ!?」
「けほ、けほ」
背中をさする。
首、絞められると苦しいんだよね。
それにしても、今のなに?
地震……ではなさそうだったけれど……。
「な、なんなの、今のは……」
「イリヤ、守護神様はなんと言っていたのですか?」
「しゅごしんとしてのやくめをはたす、って」
「……そう、ですか……」
母様は渋い表情。
王妃様は真っ青なかおになって、ゆっくりと王様を見つめる。
王妃様に見つめられる王様はといえば……青通り越して真っ白な顔。
そして小刻みに震えている。
「ま、魔力が……へ、陛下……魔力が、感じられませんわ……! こ、これは、まさか……!」
「ええ。守護神様は陛下のおっしゃる通りカルヴァ王国の守護神様の役割を果たされたのでしょうね。グレン王子はこのまま我が家でお預かりします。そういうお約束でしたもの。御前を下がってもよろしいですか? 王妃様」
「ッ…………」
王妃様は長く沈黙していたけれど、母様の顔と王様の背中を交互に見比べて急にがくんと地面に座り込む。
そして小さくだけれど確実にコクリと頷く。
王妃様が頷いたのを確認してから、母様とトリアが車椅子を押して、私と手を繋いで庭から出る。
いったいなにがどうなったの?
「かあさま……」
「そ、そうね。お家に帰ってから話しましょう」
「は、はい」
家に帰ってから教えてくれるのか、と思っていたら、廊下を全速力で駆ける魔法使いの格好の人。
それも、何人も。
警備の騎士が走る魔法使いを呼び止める。
そりゃあ廊下を全力疾走してたら怒られるよね。
って、思ったら魔法使いが必至の顔で「魔力がなくなった! 魔法が使えない! 魔道具も!!」と叫ぶ。
え……それって……。
「報告! 現地から報告!! 陛下は何処か!?」
「陛下はお庭に……」
顔を上げると母様も緊張の面持ち。
しかし、すぐに「急ぎましょう」と言われる。
『守護神がカルヴァ王国内の魔力を持つ者すべてから魔力を奪い、防護壁を展開したのですわ!』
『まあ、国王が自分で言ったことデース。試練は受けない。それでも国を守れ、っとね!』
『イリヤもグレン王子もまだ魔力が安定していませんから、よくわからないかもしれませんけれどね』
やっぱりそうなんだ……。
私の魔道具も、今使えないの?
『イリヤの持つ魔道具は魔力関係ないですわ。HPを吸い上げて蓄積するものですもの。つまりイリヤの魔道具は影響を受けません!』
『魔力が安定していて、魔道具を扱える年齢だったなら、魔道具の中のHPを取り出せなくなっていたかもしれませんがやっぱりあんまり関係ないデース』
『でも、今頃前線はさぞ大混乱でしょうね。国内から追い出され、また侵入しようにも見えない壁に阻まれるのです。アーツ魔法を持つ者や、特殊な加護を持つ者には通じませんが』
アルド兄様とかも?
アルド兄様は今、冒険者になって国から出ているんだよね?
帰ってこれないの?
『アルドは朱雀の加護とアーツ魔法を持っているのでカルヴァ王国に戻ってくることはできますわ! でも、イリヤは国外に出るのよね?』
ジュジュ様に言われてそれもそうだった、と思い直す。
あれ、でも、国から出ても魔力は復活する、ってことなのかな?
母様や、ルイシス兄様とか。
『そうね、この国にいる間は魔力がすべて守護神に吸い上げられるけれど、人間の魔力は魔力器という神経器官があるの。国から出れば、その器官に自然魔力が溜まるから、また魔法が使えるようになるでしょう』
魔力器!
前にサリィから習った!
人間の体の中に小さな魔力ちくせききかん! が、ある。
それが魔力器。
空気中にある自然魔力を取り込み、蓄積して魔法を使えるようになる。
これは遺伝らしくて、平民にはまず受け継がれない。
だから貴族にしか魔法を使えないとかなんとか。
魔獣が体内に持つ“魔石”と同じ効果のモノ。
「さあ、イリヤ。乗って。グレン王子、抱えてもよろしくて?」
馬車が待機するロータリーに着く。
母様はグレン王子に確認を取り、頷いてもらったのを確認して抱き上げる。
馬車に乗り、馬が歩き始めるとやっと胸を撫で下ろす。
でも、グレン王子の手がガタガタ震えているのに気がつく。
「あ」
「どうかされたの?」
「グレンおうじ、ばしゃのなかでこわい目にあったから……」
