「――つまり、命がけである、と」
「はい」
グレン王子の本当のお父さんとお母さんを陥れて、命を奪って王様になったこの人。
グレン王子はまだそのことを知らない。
そして、王様に国の守護神様は与えられていなかった。
王様に加護がないことを知っているのは私と私の父様と母様とサリィと……あの日あの場にいた数人の侍女と護衛騎士。
全部全部、繋がっていた。
始まりは王様たちがグレン王子のご両親をしに追いやったこと。
王太子の座を奪い――その奪い方も、グレン王子を産んだばかりの王妃様のお姉さんを、王妃様が自分のお母さんに毒を盛って瀕死にして夫婦揃って呼び寄せて……という悪質なもの。
ちょっと考えられないよね。
つまり王妃様も、共犯。
そうして立場も、産まれた赤ちゃん――グレン王子のことも奪った王様と王妃様。
国を守るための加護を悪いことに使うかもしれない、と守護神様に疑われても仕方ない。
どうしても王様として国を守るための加護を得たいのなら奪った命の分、命をかけるべきだと私は思うなぁ?
王様と王妃様はそんなことない、みたいだけど。
「へ、陛下……このままではアグレドとブロードに蹂躙されてしまいます……!」
「騎士たちに命をかけさせて、陛下は流れに身を委ねるのですか? いえ、もちろんグレン王子が守護神様のご加護を得られる年齢まで、わたくしどもの方でお預かりし、お守りすることは問題ございません。しかし、アーツ魔法を使える者を今から集めてアグレドとブロードを止めることができるかどうか……。そこは陛下の采配にかかっております」
「ぐっ……くっ……」
王妃様と母様は王様に試練を受けてほしい――のかも?
でも、王様は嫌そう。
すごく悩んでいる。
多分、命をかけるのが嫌なんだろうなぁ。
「だ、だが! その前にシシルが子を産む!」
「陛下! シシル様がお子をお産みになっても、そのお子が魔力を使えるようになるのに十年必要なのです! それまでこの国から魔力を奪うおつもりですか?」
「ぐっ、く……うううう!」
「陛下が試練を受ければ済む話ではありませんか! 陛下! お願いします!」
「だ、黙っていろ! シシル!」
王様は王妃様と母様に怒鳴る。
ああ、これ絶対試練受けたくないって思ってるな。
でも実際、現状だと王様が試練を受けて合格して、アグレドとブロードの侵攻を追い返す方がいいでしょ。
……って、思うけれど……。
「試練の、試練の内容は……!? いい加減そこを教えてほしいのだが!?」
「イリヤ、教えていただけそう?」
「え? でもさっき……まずは『しれんをうけるか、うけないか』をこたえてほしい、といってました」
「試練の内容を聞け!」
ビクッと肩が跳ねる。
私だけでなく、グレン王子も。
肩を震わせ、拳に血管を浮かせ、歯を食いしばり歯茎が見えるほど唇をつり上げ、まるで手負いの獣のような目つきでこちらを睨む。
そうまでして、この王様は“死にたくない”のだろう。
死にたくない、って、気持ちはわかる……けれども。
「……しゅごしんさま、しれんのないよう……おしえていただけるのでしょうか?」
そろそろ喋るの疲れてきてるんだけどなぁ。
これが終わったら私もお茶もらおう。
あと、毒の入ってないクッキー!
バタークッキー食べたいなー。
『王として国を守るために試練を受けるか、それとも我が身を案じて試練を受けないか。まず、“最初の試練”です。イリヤ、そう伝えられますか?』
「――わかりました」
グレン王子を抱きしめたまま、王様を見上げる。
そしてローゼクリス様に言われた言葉をそのまま伝えた。
これでダメならダメだろうなぁ。
「試練を受けるか、受けないか……それを答えることが、“最初”の試練、だと!? では、このあとにも試練があるということか!? いったいいくつの試練があるのだ!?」
『それは王自身次第デース』
「おうさましだい、だそうです」
「ッッッ〜〜〜〜! ふざけるな! なぜ……! やっと、苦労して、苦労して、やっとこの国の王になったのだぞ! それなのになぜだ! 私の努力は認めないというのか!? 守護神よ!」
テーブルを何度も何度も大きな音を立てて、強い力で殴り続ける王様。
その音に怯えて私の体に顔を押しつけてくるグレン王子。
私も、前世のことを思い出して怖くなってきた。
でも、私は今、グレン王子を守らなきゃいけない、
私に向けられているわけではないし、頭上の三人の精霊様からの“圧”も感じる。
なにかされたら精霊様たちが……なんか……こう、あの……っていう、感じっていうか? ……ね?
「俺に加護を与えなければこの国が滅びるのだぞ! この国を守る守護神であれば王たる俺に加護を与えるべきだ! 今! すぐに! 試練などというまどろっこしいことなどせずに!」
「――それは、しれんをうけない、ということですか……?」
「そ、そうではない! そうではなく! 試練などと面倒で時間のかかることをせず、今すぐに加護を俺に与えるべきだと言っている!」
グレン王子の頭を撫でて、ゆっくり体を離す。
怯えたグレン王子の顔。
おでこを撫でて、にっこり笑って見せる。
それから、王様に向き直った。
私は……前世と違う。
立ち向かえる。
だって後ろにはグレン王子がいるもん。
私は、守って、助けてあげるんだ。
そして幸せにしてあげるんだ。
ここで我儘を言うおとなに負けてられない。
