「イリヤ、食べていない!?」
「だ、だいじょうぶ。イリヤはたべてない」
食べたかったけど!
クッキー大好きだから、食べたかったけれど!
でも、三人の精霊様が『毒入り』って言ってたから食べてないよ!
母様に肩を掴まれてガクガク揺らされて「かあしゃま、だい、じょう、ぶ、だ、か、らぁぁぁぁぁ~~~~」と声まで揺れる。
そのままドレスが汚れるのも構わず座り込み、抱き締められた。
母様、震えて……?
「もう、もう……っ! あなたは、本当に……っ、心配ばかりかけて……!」
「ご、ごめんなさい……」
心配。
そうか、心配、してくれていたんだ。
震えるほどに心配してくれる”お母さん”……。
抱き締め返す。
心配をかけてごめんなさい。
「グレン王子は? 食べていませんか?」
母様はすぐにグレン王子に向き直る。
こくり、と頷くグレン王子に安心したら、王妃様は立ち上がって使用人たちに「なにをしているの、お前たち! すぐにこのクッキーを作った者を探し出しなさい!」と命じた。
慌てて使用人たちが「は、はい、すぐに!」と動き出す。
『このクッキーの毒、目標はグレン王子だけではないでしょう。王妃、ひいてはその客人も、狙われたと思って間違いありません。王妃の客となれば高位貴族に違いありませんからね』
え……!?
じゃ、じゃあ、狙われたのは私たちも、ってことですか!?
こ、怖……!
『イリヤ、守護神の声は王族にしか聞こえないのです。しかし魔道具で魔力を安定させたイリヤと違ってグレンはまだ魔力が安定していないから姿が見えても声が聞こえないのでしょう。ワタシたちが守護神の言葉を通訳してあげるから、王妃たちに伝えるのです!』
「は、はい! かあさま、せいれいさまが、しゅごしんさまのおことばをつたえてくださるそうです」
「まあ! 精霊様が……!? 守護神様はなんと……!?」
王妃様も驚いて前のめりになってくる。
聞いてくれるつもりはあるみたい。
ジュジュ様たちを見上げると、ふん、と鼻を鳴らしてジュジュ様が『言いたいことはたくさんあるらしいけれど、まずは』と前置きのあと告げられたのはなかなか衝撃的なことだったらしい。
らしい、というのは、私にはちょっと難しかった。
そのまま伝えたのだけれど、母様も驚いた顔をしている。
「――かごは、ちょっけいにのみ、あたえられるもの」
これ、どういう意味?
ちょっけい?
加護が与えられる条件みたいな話っぽい?
数秒間沈黙のあと、王妃様が鬼のような形相に変わる。
テーブルを殴りつけ、私に詰め寄ってきた。
「じょ、冗談じゃないわ! わたくしのお腹の中の子も直系のはずです! 陛下だって次男ではあれど、王族ですよ!?」
「お、落ち着いてください、王妃様。イリヤ、精霊様と守護神様にお聞きして。お答えいただけるのならお言葉の真意をお聞きしたいのだけれど」
「えっと……」
私にはよくわからないのだけれど。
ジュジュ様を見上げると、今度はロクサーナ様が『手続きをしてないのデース』と言う。
「てつづきしてないんだって」
「「手続き!?」」
「えっと、えっと、せーしきな、てつづき。おうたいしになったときに、おうさまからもらう、まどうぐ。いまのおうさまには、しゅごしんさま、きにいらないからかごはあげない。グレンおうじと、いま、おうひさまのおなかのなかにいる“こども”には、まどうぐがあれば、かご、あげる。……って」
「「魔道具」」
母様と王妃様の声が重なる。
すごーい、こんなに被るんだぁ。
「その魔道具というのはどこにあるの!?」
「え、えっと……えっと……“おまえたちには、しかくがない”とおっしゃってました」
「しかく――資格!? そんなことを言っている場合ではないわ! 国境はすでにアグレドとブロードに押し切られているのよ!? この国の守護神様だったら、ちゃんと国を守りなさいよ!」
「王妃様! 無礼ですよ!」
「っ! そんなことを言っている場合!? すでに国境が侵されているのよ!? このままではどうなるのか……! まさか――お前も裏切るつもり!? 国外に出て、そのまま逃げるつもりじゃないでしょうね!?」
王妃様が突然母様の肩を掴む。
毒入りクッキーのこともあり、王妃様は完全に怯えているように見える。
母様はそんな王妃様の肩を優しく撫でながら、繰り返し「落ち着いてください」と言って宥めるが王妃様はヒステリックに叫び続けた。
なんだか、その様子は前世の母にそっくり……。
「しっかりなさい! あなたは王妃! この国の国母でしょう! 取り乱すものではありません!」
「っ! っ……!」
「それになにより、お腹の子に障ります! 守護神様は魔道具があればグレン王子にも、お腹の子にも加護を与えるとおっしゃっています。まず落ち着いて。せっかく守護神様のお言葉を賜われる機会を無駄にするものではありません。そうでしょう? 落ち着いて。誰か、毒味したお茶を王妃様に」
「は、はい! すぐに!」
「さあ、とりあえず座ってちょうだい」
「っ……」
まだ興奮している様子の王妃様を席に座らせ、母様は私の方に戻ってくる。
グレン王子の肩を優しく撫でながら、私に向かって「魔道具について教えてもらえるかしら?」と言う。
こくり、と頷いて守護神様と三人の精霊様を見上げた。
