始終母様が優勢。
王妃様はほとんど母様に“お説教”をされていた。
忌々しげに表情を歪ませ、周りの護衛騎士や使用人たちは心配そうに二人の会話の行方を見守っている。
私はこっそーりとグレン王子の隣に移動して、お菓子を食べさせようとクッキーを二つに割ってあげた。
でも、食べさせようとしたら頭上でジュジュ様が『やめておあげなさい。毒入りよ』と止められてギョッとしてしまう。
ど、毒!? 毒入っているの!? このクッキー!?
でも、でも、私が持ってきたクッキーはサリィが買ってきてくれたチョコレート研究中のあのクッキー屋さんのクッキーだよ?
なんでないの……あ?
チョコレートクッキー、ない。
サリィが『明日のお土産に』って買ってきたクッキー缶の中を見せてくれたけれど、チョコレートがかかっているクッキーや、チョコレートを練り込んだクッキー、チョコチップクッキーも入ってたのに。
テーブルに並んでいるのはシンプルなクッキー。
近くにジャムが用意してある。
砂糖も入っていない、ジャムで味をつけるタイプのクッキーだ。
これも美味しいとは思うんだけれど、それならスコーンでもいいじゃん、と思ったことがあるから……。
『そうよ! そのクッキーは王妃の指示で作られた毒入りクッキー! 使用人たちも知らないのでしょうね』
どうして……?
グレン王子を殺そうとしているのは王妃様なの……?
『いいえ、違いマース。王妃のご機嫌を取ろうとしている考えの浅い侍女や使用人、小間使いたちが独断で行っているのと……アグレド、ブロードと繋がっている裏切り者が毒味のついていない次期王太子であるグレン王子を始末しようと毎日致死量の毒を盛っているのデース。もちろん、階段から突き落としたり、窓やテラスから放り出して落としたり事故死に見せかけようとしているのもそういうやつらの仕業デース』
『でも、グレン王子には国の守護神の“護り”があります。毒を盛られても死ぬことはありません。怪我をしても同じです。……ただ苦しみと痛みだけが、彼を苛む。可哀想に』
じゃあ……じゃあ、このクッキーにもそういう人たちが毒を……。
苦しいのと、痛いのだけがグレン王子に与えられるもの。
ああ……やっぱりグレン王子は、前世の私と同じなんだ。
可哀想。
……可哀想……。
隣のグレン王子が黙ってクッキーを見つめていた私を見て、不安そうな顔になっていた。
毒を盛られても、怪我をしても死なないのなら……私が『助ける!』って意気込んでいたのは無意味だったのかなって、思っちゃったけれど……。
毎日苦しくて痛いのは、やっぱり助けてあげなきゃいけないよね。
グレン王子の真上を見上げると、ジュジュ様が『お前がもっとしっかり護ってあげなきゃだめじゃないですか』と真っ黒で人の姿に近い、マントを纏った兎さんを怒っている。
真っ黒で細長い兎さんが、なんか困っているように見えるんだけれど……。
もしかして、その真っ黒な兎さんは――。
『そーデース! この黒いのがカルヴァ王国の守護神デース』
「やっぱりそうなんですねっ」
「イ、イリヤ? 急に大声を出すものではないわよ」
「あ、ごめんなさい。あの、あの、わかったの!」
「な、なにがかしら?」
複数の精霊様の加護のことは内緒。
ちゃんと覚えている!
でも、精霊様のことが見えることや声が聞こえることは『いずれ王家にも報告してもいい』と言っていたから、多分いいよね!
「グレンおうじがなにをこわいとおもっているのかわかったの。グレンおうじもみえるでしょ? あたまのうえの!」
「っ!」
グレン王子が顔を上げて私を凝視する。
ずっと俯いているのが心配だったの。
でも、もしかしてって思ったら絶対そうだ!
「グレンおうじ、ちがうの! グレンおうじのあたまのうえにいるまっくろいうさぎさんは、カルヴァおうこくのしゅごしんさまなの! グレンおうじをまもってくださっているんだって! とりつかれてるわけじゃないの! こわくないのよ!」
「……!」
「な……っ、なにを……!? 守護神、様……!?」
「イリヤ……!? まさか、カルヴァ王国の守護神が……見えるのですか!?」
「はい、かあさま! グレンおうじのあたまのうえの、このあたりに! カルヴァおうこくのしゅごしんさまがいるんですよ! まっくろでせのたかい、うさぎさん!」
そう言って守護神様がいる場所を指差す。
王妃様が目を見開き、私が指差す方を見上げる。
グレン王子も怯えながら見上げて、しっかりと守護神様を見つめた。
確かに守護神様、見た目は結構、怖いかも?
お耳の長い兎さんに見えるけど、目つきは鋭いし真っ黒だし、細長くて背が高い男の人みたいだもんね。
毎日致死量の毒を盛られて、毎日突き飛ばされて怪我をして。
頭の上に真っ黒で目つきの鋭い兎さんがいたら……死神に取り憑かれてる、とか思うかも。
でもそれは勘違い。
この真っ黒な兎さんは、この国の守護神様。
グレン王子が死なないように護ってくれている。
『ああ! 勘違いされていたのですね!』
『確かに見た目怖いですものねー』
『姿は見えても声が聞こえない体質なら、怖いかもデース』
「グレンおうじがしなないように、まもってくださってたんだって。だからこのどくいっぱいはいってるクッキーたべてもしなないんだって!」
「「毒!?」」
母様と王妃様が驚いた声をあげる。
ひとまずこの毒たっぷりらしいクッキーは皿に戻す。
一枚に入ってるってことは全部に入ってるってこと。
あれ……?
全部に入ってたらグレン王子以外も食べたら死んじゃうよ……?
