グレン王子を連れて行けるかどうか、すべては王妃様の出す条件次第。
しかし、私の意思に反して私と母様、ルイシス兄様は国外に出ることが決まったらしい。
国境の状況が王都に伝わるのは、魔道具で繋がっている間だけ。
城から帰ってくる父様とブロッサ兄様から聞く限り、状況は刻々と悪くなっているそうだ。
スタンピード――魔獣の大量発生により、そちらへの対応を迫られている間に国境の砦を攻め落とされたらしい。
しかも、スタンピードのボスはまだ討伐されていないという。
なぜかスタンピードの魔獣たちはアグレドとブロードの合同軍を襲わずカルヴァ国軍だけを襲うんだって。
やはり人工的に起こされたスタンピードである可能性が極めて高い、んだって。
そんなことあるの?
『あるわ。もちろんわたくしたちは認めていないわ。ブロントズウェールが怖がるもの』
『魔獣はブロントズウェールが苦手なものの一つなのですわ。スタンピードなんてブロントズウェールが怖がることを技術を使って起こすなんて、神に対して反逆的なものですわ!』
『そうデース。でも、それってつまりアグレド王国とブロード島国は神の加護もなく人間だけでここまできたんデスよねぇ。それはそれですごいっていうか』
『あら、だとしても今代の王族に守護神の加護がない時に侵攻することを“人間の力だけ”とは言わないわ! カルヴァ王家の守護神の本来の力があれば、そもそも人工的なスタンピードの侵入は許されなかったはずよ!』
『まぁねぇ』
『そうデスねー』
つまり、悪いことをしてカルヴァ王国に戦争を仕掛けてきているんだ。
神様や精霊様にも嫌がられているようなことをして、それなりに発展しているのはすごいこと。
でも、神様にも精霊様にも見放されているから、いずれ悲惨な最期を迎えるだろうとジュジュ様が目を細めて言っている。
その最期が、なぜカルヴァ王国に攻め込む前に訪れていないのか。
なんで私が家族と離れて暮らさなきゃいけないの。
私は今の家族と離れるのが嫌。
やっと私を大事にしてくれて、愛してくれる家族を得られたのに!
朱雀領に行って、問題の解決を頑張ったのに!
なのに……なのに……!
「イリヤ、王妃様から連絡が来たわよ」
「グレンおうじ?」
「そうよ。わたくしたちと一緒に国外に連れて行けるかどうかもお聞きしているから、その答えが聞けるでしょう」
母様がそう言って頭を撫でて行く。
グレン王子を……助けてあげる。
前世の“私”と同じであるグレン王子を。
私、見捨てたくない。
グレン王子も連れて行けたらいいのに。
連れて行けるように、お願いしてくれているみたいだけれど……。
「サリィも、サリィもいっしょに、きてくれるの……?」
「はい。サリィも同行いたしますよ。奥様のお世話係としてはダナがついていきます。護衛騎士にはブランとソブレが。あまり多くの使用人はついていけませんが、この命を賭して生涯お仕えいたします。不安なお気持ちはわかりますが、この国のためにも、旦那様とブロッサお兄様のためにも他国での交渉術を今から学びましょう!」
「……うん……!」
そうだよね。
グレン王子を連れて行けたら最高だけれど、国外に連れて行くのがいいのかどうかはわからない。
むしろ、危ない。
私みたいにHPが10000もあるわけじゃないし、ルイシス兄様も『グレン王子は国内外どこにいても危険だから』って言っていた。
グレン王子を守りながら、国外で旅をするのは……私だけじゃ難しい。
『だから朱雀領に行けばよいのですわ。そこで拠点を構え、そこにグレン王子と待っているといいのです。ワタシがタタングに頼んで守りの加護を与えてあげる!』
『ジュジュはすーぐタタングに頼るデース』
『北西に行くのなら玄武か白虎に頼んでもいいのではないかしら? 特に玄武領は許可のない人間が立ち入らない地域も多いもの。わたくしたちが頼めばそこに住まわせてもらえるわ』
でも、母様と兄様は他の国を味方にしてアグレドとブロードをカルヴァから追い出すって……。
そのために旅をするって……。
「イリヤ、かぞくがもっとバラバラになるのは……イヤ」
『そう……』
『そ、そうよね。ごめんなさい。で、でも、でも、イリヤが十歳になれば【生命の盾】というアーツ魔法が使えるようになるのよ! それがあれば多分、戦争なんてすーぐ終わらせられるの! 多分! だってタタングがあなたに与えた最強の加護だもの! 多分!』
タタング様……[武]の精霊様。
私に加護の一つを与えてくださっている『星の精霊』様の一人。
母様とルイシス兄様には『星の精霊様が、四人もイリヤに加護を……? え?』と現実を受け入れられていない顔をしていたから、相当おかしなことになっているみたいだけれど。
あと、母様は『そのことは絶対に家族以外に言ってはいけない。使用人にもダメ。サリィにもダメよ』と言っていた。
そもそも、『星の精霊』様に加護をいただくこと自体がとっても珍しい。
家族が一緒に暮らせなくなるかもしれないレベルで。
そんな『星の精霊』様の加護を、私は四人分与えられていた。
これは前代未聞なことらしい。
だから最初に私を鑑定した鑑定士も、同格のはずの朱雀様も、お一人の『星の精霊』の加護だけしか“視”えなかったってことのよう。
