転生したらHP10000だった。



 家に帰ると父様とブロッサ兄様が登城したとじーやに言われる。
 母様が「なにがあったの」と聞くと首を横に振られて手紙を渡された。
 その手紙を読み終えた母様は肩を震わせながら口を手で覆う。
 ルイシス兄様がそんな母様の肩に手を置く。

「奥様、我らは屋敷に残ります。まだ時間はあるとはいえ、避難はお早い方がよいでしょう。すでにある程度の準備は済んでおります」
「ああ、こんなに早く……っ」
「母様……」
「にいさま、かあさま?」

 なに? なんか不穏。
 なにかあるの?
 私の横に、馬車から下りてきたサリィが寄り添う。

『国境が突破されそうなのよ。スタンピードと同時に攻め込まれて、事態が想像以上に早く動いているの。カルヴァ王国の国王は国の守護神に認められていない。だから、国の守護神が生み出す国境の結界が機能していないのです。結界がないと魔獣を阻めません。そこを突かれたのです。そして、スタンピードが阻めないということで敵国にカルヴァ王国王家が守護神の加護を失っていることもバレたでしょう。カルヴァ王国の貴族たちにも間もなく広まり始めます』
『イリヤ、ワタシたちが手伝うから、この国から出た方がいいですわ。アグレド王国とブロード島国は敗戦国の人間を奴隷にするの。地位が高い人間は特にさらし者にされますわ。本当に知性がある生き物のすることとは思えない!』

 ……痛いことをされるってこと……?
 殺されちゃうの……?
 この国から出るって、どうするの? どこに行くの?
 グレン王子は? うちに来るって、約束してもらったのに……!?

『できれば国の守護神の加護を持つグレン王子は連れて逃げてくれた方がいいですわね。でも、できるかしら?』
『もしも他の国に行くようなら朱雀領の大巫女か、西にあるニーングルグ女王国に行くといいわ! あの国はあらゆる女神を祀る国。ワタシたちの加護を持つイリヤはあたたかく迎え入れてくれるはずよ!』
『でも、いい加減アグレド王国とブロード島国はいい加減にするべきデース。ああして他国へ侵攻ばかりするから、守護神が生まれないのデース』

 朱雀領の大巫女――シーニャンさん。
 確かに、シーニャンさんなら迎え入れてくれるかもしれないけれど……。

「イリヤ」

 母様に名前を呼ばれて顔を上げる。
 泣きそうな母様の表情。
 不安でいっぱいになる。

「我が国は今ね、他の国から戦争をしかけられているの。戦争はわかるわね?」
「は、はい……」
「国の守りは期待できないの。お父様がね、もう前からこういう時のために避難先を確保してくれていたのよ。だから……」
「え……え……? あ、あの……」

 母様が私の目線に合わせるようにしゃがんで、抱き締める。
 嫌な感じ。嫌な予感。嫌だ。嫌だ。
 その先は聞きたくない。

「お父様とブロッサは貴族としての役目を果たさねばなりません。わたくしたちも貴族として、アグレド王国とブロード島国の暴挙を他国に伝え、外部からカルヴァ王国を支援する役割を持ちます。……これは本来、外交を担当するアジュール公爵家の役割ですが……アジュール公爵はわたくしのお爺様なの。だから、万が一の時はわたくしがオルヴァーニュ家とアジュール公爵家の役割を同時に背負うようにと言われていました。わたくしの子であるあなたたちにも、同じ役割があります。お爺様はわたくしの子たちの中でアジュール公爵家の養子に、とおっしゃっておりました。本来であれば末の子、アルドが好ましい。でもあの子は冒険者になることを選びました。だから、学校を卒業したらルイシスがアジュール公爵家に養子に行く予定だったの」
「う、うん……」
「そうよね。イリヤにはまだ難しい話よね。でも、聞きなさい。……だから、ね。母とイリヤと、ルイシスは……カルヴァ王国から、出なければいけないの。他の国に行って、カルヴァ王国を助けてください、とお願いして回る度をしなければいけないのよ。わかる?」
「う……」

 うん、って言いたくない。
 わかるって答えたくない。
 それって……だって、それって……!

「と、とうさまと、ブロッサにいさまは……」
「二人はオルヴァーニュ公爵家の者として、最後まで国内で戦わなければなりません。一緒にはいけないのです」
「……っ、……っ……」

 息が、詰まる。
 苦しい。
 HPをいっぱいもらったのに。
 どうやって息をするんだっけ。
 嫌だ。嫌だよ。嫌。

「父様とブロッサを国外に出て助けるのがわたくしたちの役割なのです。それに、王都に侵攻が進むまでまだあと数年は時間があるはずです。その間に、アグレドとブロードを我が国が押し返すこともありますが、他国から味方を連れて帰ることの方が大切でしょう。イリヤ、聞き分けるのです。わたくしたちは貴族。平時ならば家族が離れることはありませんが、貴族たる者、この国を守るために家族と離れることもある。家族を守るためにも国外に出るのです。わかりますか?」
「……う……」
「イリヤ、僕も一緒に行く。本当は卒業してからと思っていたけれど……」
「う、うう……ううう」

 母様は「もちろん対応のために各公爵家が登城して、今協議を行なっているでしょうが国を出るのは早いに越したことがありません」と言う。
 家族が、離れ離れになる。
 大好きな父様、ブロッサ兄様を置いて。

「グレンおうじは……?」
「…………。わからないわ。連れていけたら……いいけれど……」
「グレンおうじ、つれていかなきゃ……しんじゃうんだよ……!」

 それだけは譲れないよ。
 母様、お願い。
 グレン王子を一緒に連れて行かせて!