その後の食事会という名の感想の語り合いタイムは、大成功、らしい。
カルレットさんにもちゃんと挨拶とお礼を言えたし、グレン王子を我が家で預かれそうで、計画は大成功と言えそう。
帰りの馬車の中でもルイシス兄様は王妃様に「他の学生のことも気にしてくださって、ありがたい」と褒めている。
同級生たちが食事会に呼んでもらえて、講師のアルバイトが決まった子が多くて安心したんだって。
どういうこと、って思ったら兄様が演奏会に連れてきた学生さんたちは子爵家や男爵家のお金のない子ばかり。
中には高位貴族の支援を受けて、高等部に進めるようになった子もいたらしい。
ルイシス兄様的には「みんな音楽への真摯な思いを持つ素晴らしい演者だったから、未来が開けてよかった」と言っていた。
兄様としては、今回の演奏会の”旨味”として自分と同じ音楽を愛するも、お金や後ろ盾がなくて進学が難しかった子たちに高位貴族との繋がりを、と考えていたらしい。
つまり、兄様としての思惑も大成功。
「なんにしても、グレン王子を我が家に迎えるまで油断はしてはいけないわ。明確に喧嘩を売ってしまったもの。根回しはしていたけれど、王妃様のあの様子だと納得はしていないでしょう」
「えっと、根回しはしておられたのですよね?」
「高位の貴族にだけはね。でも、時間が足りなかったの。本当は最低でも三ヶ月かけて根回しをするものよ。今回は緊急という形で他家に反発されたわ。うちが公爵家でなかったら無理だったわよ。普段売っていた恩が全部パアかもしれないわね」
「ご、ごめんなさい……?」
なんか私のわがままのせいで、家に迷惑をかけちゃった?
でも、でも……グレン王子を早く助けなきゃいけないの。
母様の言う通り、うちの離れにグレン王子が入れるまで安心はできないかあ。
『あら、文句を言うような貴族は守護神に魔力を停止されますわよ。ジュジュが頼んであげます』
「そんなことできるんですか!?」
「「え?」」
「あ。……ジュジュさまが『モンクをいうきぞくは、しゅごしんさまにたのんでまりょくをとめる』って。そんなことできるのって、くちからでちゃって」
「「そんなことできるの!?」」
あ、母様と兄様も知らなかったんだ。
「いえ、でも……確かに宮司様や朱雀様の大巫女様も『星の精霊』は四神様と同格以上とおっしゃっていたわ。国の守護神よりも偉い、ということなのかしら?」
『そうよ。ジュジュたちの方が国の守護神よりも偉いの! イリヤとルイシスが望むならジュジュたちが守護神に頼んで家族も守ってあげますわよ』
『ジュジュ、あまり人間の世界に干渉してはダメですよ。あなたはそれでなくとも他の世界でもやりすぎてしまうんですから』
『人間の知性が弱すぎるからでしょう! ワタシが頑張らないと、タタングばっかり働くことになっちゃうじゃない! 人間もっと知性的に生きなさいよ!』
『まあそれは本当にそうデース』
私が上を向いている間、母様も兄様も心配そうに待っていてくれる。
まあ、えっと、つまり『星の精霊』様たちが女神ブロントズウェール様の次に偉くて国の守護神様はその次くらい、ってことらしいよ!
「神々の力関係が影響を及ぼすものだとは。というか、イリヤが『星の精霊』様方とこんなに普通に会話している方が、その、なんというか……」
「そうね。――あら? なにかしら?」
「表が騒がしいですね。なにかあったのでしょうか?」
馬車の小窓から外を覗くルイシス兄様。
私も背筋を伸ばして小窓を覗き込むと、馬車を囲んで護衛していた家の騎士が一ヵ所に集まって深刻な表情をして話をしている。
え? なんだろう? 真ん中にいるのはゴーズという我が家の護衛騎士の一人で、今日私たちの護衛の担当ではない。
お城で演奏会があったから、いつもより閑散としている貴族街の公道でなんだか不穏な雰囲気。
『事態が動いているみたいね』
『はあ。人間って本当にもー』
『いよいよ始まったんデスねー』
え? なにがですか?
『イリヤは小さいから、きっとおとなたちは教えてくれていないのでしょうけれど……東側の領地に二つの国が侵攻――攻め込んできているの。人為的に起こしたスタンピードと重ねて一気になだれ込んできたのよ』
「え!?」
『人為的に起こすスタンピードほど許せないものはないのだわ!! タタングやっちゃって!』
『ジュジュ、あなた[学問]の精霊なのになんでそんなに血の気が多いのデース?』
『せっかく知性のある生き物に生まれたのに、知性のない行動ばかりするからよ!!』
怒ってるジュジュ様。
えっと……えっと……東の方。
地図を思い出す。
青竜様の領地の近くは突き出た大陸部分にアグレド王国というところがあり、アグレド王国の横には海を隔ててブロード島がある。
この世界で島国と言えばブロード島国しかない。
歴史的に大陸東部はとにかく戦争が多く、今も色濃く奴隷制度が残っているという。
奴隷、意味を聞いたらサリィが『人権がなく、立場的には平民や罪人より下の存在です。他人から命令されたら絶対に実行しなければいけません。王侯貴族と真逆の存在ですね』って言ってた。
人間扱いされないんだって。
というか、攻め込まれているって……えっと……つまり――。
『戦争をしかけられているのよ、カルヴァ王国は』
「っ……」
