転生したらHP10000だった。


「とても素晴らしい演奏でしたわ!」
「わたくし感動いたしました!」
「ぜひ我が家の子の講師に……」
「また演奏会を開いてくださいませ! ああ、企画してくださったジザックス嬢には感謝してもし足りないですわ!」
「小宮殿で多くの方を招待できたのは王妃様のおかげですわ」
 
 カルレットさんと母様がルイシス兄様に群がる奥様方からガッツリガードしてくれているおかげで、人見知りの兄様がゆっくり連れてこられた子どもたちと一人一人交流できている。
 今回の表向きの目的の一つは、子どもたちに至上の演奏を聴かせて教養を深めること。
 裏の目的は貴族の子どもたちをグレン王子に紹介して、従者候補をある程度定めること。
 そして本来の目的は――グレン王子の無事を確認しつつ、我が家にグレン王子を保護すること!
 これだけ大勢の前で王妃様がグレン王子を我が家で療養させる、と約束してくれたら、王家も周囲の貴族も納得せざるを得ないんだって。
 つまり、えっと……難しい言葉の意味はよくわからないかったけれど、とりあえずグレン王子が我が家に保護できたら成功!
 グレン王子、早く保護してあげなきゃ。
 周りを見回すけれど、グレン王子はまだいないみたいだ。
 探しに行ってもいいかな?
 
「ルイシス・オルヴァーニュ」
 
 キャッキャと騒ぐ奥さん方の声の合間に、兄様を呼ぶ声。
 そして城の制服の侍女が車椅子を押して近づいてきた。
 車椅子にはグレン王子!
 その隣で、ルイシス兄様の名前を呼んだのは王妃様。
 グレン王子の両手と両足は包帯で巻かれていて、なんて痛々しい。
 駆け寄ろうとしたら、別の城の侍女にやんわりと妨害される。
 
「素晴らしい演奏でしたわ。場所を提供した甲斐があるというものです」
「王妃様! よかった、皆小宮殿を貸してくださった王妃様にお礼を申し上げたかったのですよ! ねえ、皆様」
「ええ! 王妃様のおかげで素晴らしい演奏が聴けましたわ! ありがとうございます!」
「ところで、そのお隣の方はまさか……」
「え、ええ。これが我が子ですの。お恥ずかしいですわ。見ての通り体調がよくありませんの。すぐに部屋に戻して横にしてあげたいのです。皆に紹介するのはまた別に機会を設けますわ」
 
 母様とカルレットさんの周りにいた奥様方が振り返って王妃様の方へ駆け寄る。
 おかげですぐにグレン王子が見えなくなった。
 でも、車椅子がキュッキュと音を鳴らして離れていくのがわかる。
 まずい、グレン王子!
 
「お待ちくださいな、王妃様。グレン王子のこと、よろしければ我が家で療養されてはいかがかしら?」
 
 ザワ、と奥様方が母様の方を振り返る。
 母様……! ありがとう……!
 
「な、なにを言っておりますの」
「いったいなんの話ですか、オルヴァーニュ夫人」
「グレン王子を、オルヴァーニュ家に? な、なぜ……」
「あら、なにもおかしなことは言っておりませんわよ? わたくしの弟は薬師兼医師。お城からも近く、私兵で警備も固めております。お過ごしいただく予定の離れは一階にゲストルームがございますので現在の車椅子の状態でも問題はございません。もちろん、グレン王子付きの侍女や護衛騎士もお連れいただいて構いません。城では段差が多くて(・・・・・・)大変でございましょう?」
 
 え! 母様の弟ってお医者様だったの!?
 それに、お城に段差、多いっけ……?
 母様が笑顔で一歩一歩王妃様に近づく。
 王妃様は笑顔を消して、母様を睨んでいるように見える。
 お、怒らせている?
 大丈夫?
 
「そ、それでしたら我が家でも……!」
「我が家でもお預かりできますわ! ぜひ我が家で……」
 
 え!?
 突然我が家でグレン王子を預かります、という大合唱が始まる。
 待って待って待って、そんなの困るよ!
 うちでグレン王子を保護しなきゃ…………あ、いや? グレン王子がとりあえずお城から――王様と王妃様から離せればいい。
 まず離す。
 そうすれば、ひとまずグレン王子が王様たちにいじめられることはないと思うの。
 王様や王妃様はグレン王子を虐めているという意識がないかもしれないけれど。
 
「まあ、皆様落ち着いてくださいませ。オルヴァーニュ公爵家で療養していただければ、オルヴァーニュ公爵家でお茶会を開催していただければご招待いただけますわよ」
 
 カルレットさんがそう言うと、奥様方は急にスン……と静まり返る。
 そしてすぐに「そうね」「公爵家にお任せするのが一番、よね」と言い出す。
 な、なんだぁ?
 
『ふふふ、王妃が困っているわねー』
『事前に打診を受けていたはずなのに、手放すと”子育てできない王妃”って思われると思っているのデース。すっごく今さらなのにネー』
『無理ないわ。今王家に守護神の加護を持っているのはグレン王子だけですもの。それを公爵家に持って行かれたらと思うと不安なのでしょうね』
 
 頭上の三人の精霊様がクスクス笑う。
 なにかよくわからないんだけれど王妃様はグレン王子を放したくないの?
 なんで? 虐めるだけのくせに?
 ああ、でも前世で『しのしょくいんさん』っていう名前の人が来た時、母も母の再婚相手も私に『なんでもありませんって言え』って言ってた。
『なにを言われてもパパとママと一緒にいたいって言え』って。
 グレン王子のところに近づくと、私の姿を目にした瞬間目を見開く。