カルレットさんの手回しの速度は凄まじく、翌日には王宮でお茶会に乱入し、演奏会の提案。
事前に了承していた王妃様は、ママ友たちの前でカルレットさんを突発的にお茶会に招いたため、ママ友ご婦人たちに演奏会のことを話したため『息子、娘さんもご一緒にルイシス様の奏でる芸術を鑑賞し、耳を養いましょう!』という提案に大喜び!
これ以外にも、大々的に五歳から十歳の社交界デビュー前の子持ちの貴族に声をかけるので、王妃様に『ぜひグレン王子も参加してくださいませ。今はお怪我で動けないとのことですが、皆お見舞いをお伝えしたいですわ。車椅子でも構いませんので!』と笑顔で言い放ったそうだ。
これで王妃様は逃げ場がなくなったんだって。
王妃様は『声が出ない病に罹っている』とやんわり断ろうとしたらしいけれど、カルレットさんは『あら、演奏会ですもの、グレン王子は座って聴いてくださるだけでいいのでは?』と言えば最初から王妃様にご招待された方々からも『そうですわ。ぜひグレン王子に我が子を紹介させてくださいませ』『お言葉を交わさずとも構いません、まずはご紹介を』『グレン王子もそろそろ従者をつけるお年頃ですもの』等々の援護射撃。
ありがたいことに、その援護射撃のおかげで王妃様は折れた。
サリィは『確かにそろそろグレン王子に従者をつける頃ですね』と頷く。
そうなのか。
従者ってなに?
「従者は言うところの側仕えですね。王族に用意される“ご友人”であり“世話係”ですわ。わたくしのような侍女の入れない場所が今後増えていきますから、同年代のご友人、相談相手のようなものです」
「おともだち……」
「イリヤお嬢様にもそろそろご友人をつくられてもよろしいかもしれませんね」
「おともだち……!」
前世ではまだ実の父親がいた頃に通っていた幼稚園のお友達が最後。
当然楽しかった記憶しかない。
なお、顔も名前も覚えていない。
でも、いっぱい楽しかったの!
いっぱい遊んで、楽しかった!
楽しかった記憶、それが“ともだち”!
「イリヤにもおともだち? できるかな……?」
「できるに決まっておりますわ! お嬢様のような優しくて利発でお可愛らしい方にお友達ができないわけがございませんわ! 本当でしたらサリィがいつでもお隣にいて、お世話をさせていただきたいのですが! 学園に通うようになってから常にお側にいることができませんから、お嬢様のお世話をしてくれる小間使いのような下級貴族の令嬢をなんとか捕まえて……」
「サ、サリィ?」
なんか言ってることがどんどん不穏になってない……?
小間使いって、使用人ってことでしょ?
お友達を小間使い扱いは違くない!?
「イリヤ、ちょっといいかな?」
「あ、はぁい、とうさま」
父様の声が、扉の外から聞こえてきた。
あれ? 父様、今はお城でお仕事中なんじゃ……。
不思議に思い、サリィと顔を見合わせてからサリィが扉を開ける。
廊下には困った顔の父様。
部屋に入ってきてからすぐに私の体を持ち上げて、ソファーに座らせる。
そして、父様は対面の椅子に座った。
「実はブロッサとルイシスに色々聞いたんだ。グレン王子を我が家で療養させる計画があると」
「うん! おねがいします! このままだとグレンおうじ、しんじゃう!」
「簡単な話ではないのだよ。国王陛下の許可も必要だし、他の貴族の目もあるし……」
「おねがいします、とうさま! グレンおうじ、このままじゃしんじゃうの! ちゃんとイリヤがせきにんをもっておせわするから!」
ソファーから立ち上がって頭を下げる。
お願いお願いお願い!
このままじゃグレン王子は私と同じになる。
多分本当に、王様と王妃様はグレン王子を……殺す。
確信があるの。
それが定められた未来のように。
「………………わかった。可愛いイリヤがそこまで言うのなら。それが女神様の思し召しなのかもしれないしな」
「とうさま! ありがとう! だいすき!」
「ただし! 一つ条件がある」
「じょうけん!?」
その条件をクリアしたらなんとかなる!?
なんでもやる! と手を上げると、ピンク色の石がはまったハート形のペンダントを手渡された。
なにこれぇ?
「これを常に持ち歩いておきなさい」
「これはなぁに? とうさま」
「それは[ヘルスチャージ]という魔道具だ。基本的に魔道具には魔力が必要ないものと、必要なものがある」
そうなの!?
サリィを見上げると「貴族が使うものは魔力を通すものがあり、魔力のない平民が使うものは魔力が不要なものがあります」とのこと。
一口に魔道具といっても、魔道具の種類は多種多様。
貴族が使う魔力を通して使う魔道具は、基本的にすさまじい威力のものが多く、逆にいうと魔力を通さないと使えない。
平民のものは魔力のない平民にも使えるように魔石自体が持つ魔力をスイッチなどで起動させて使用できる。
ほへー。
「この[ヘルスチャージ]という魔道具はヘルスポイントが可視化できるようになる魔道具」
「ヘルスポイントが可視化できる魔道具でございますか?」
「無論それだけではない。その名の通り常に持ち歩いていることで、魔石の中に『ヘルスポイント』がチャージされていく。要するに体力が貯蓄されていくのだ」
「まあ」
「ほあー」
