「婚約者のイリヤが会えないほどのお怪我をされているのですか? それならば、イリヤに報告がきてもよろしいのでは?」
「王家としては隠しておきたいのだろう。王太子候補が、立太子する前に幾度も幾度も怪我で死にかけているなどと貴族たちに知れ渡れば、王家が侮られる」
母様が「そうね。国王陛下と王妃様がご子息である王子殿下を“守る力”がないとされてしまうもの」と頰に手を当てる。
しかし、ブロッサ兄様は目を細めて「でも、そういう時は騎士団のせいにするのでしょう?」と呟く。
ええ……?
それってつまり、カルレットさんのお父様――モーリスさんのお友達のおじさんのせいになるってこと?
最悪じゃん。
「父様、その……あまり、言葉にすることではないと思うのですが……王子殿下がもしもお亡くなりになったら、次期国王は……どうなるのでしょうか?」
「この国には王家の嫡子以外が嫁ぐ先として公爵家が五つあるが、王太子がいなければ公爵家の中から優秀で人望の厚い者が守護神様に謁見し、次の王となる。つまり、お前が次期王になる可能性がまったくないわけではないということだ」
「それは、困りますね」
「そうだな。特に、オーヴェン公爵家は積極的だろう。なにが目的なのか、王座に執着しているようだからな」
「ああ……」
ブロッサ兄様が眉を寄せて頭を抱える。
母様は私に向かって「オーヴェン公爵家は王妃様のご実家なのよ」と仕方なさそうに微笑みつつ教えてくれた。
うちの家――そういえば公爵家。
一応、HPが有り余ってあんまり眠れないので、勉強した。
カルヴァ王国には五つの公爵家がある。
我が家、オルヴァーニュ。主に内政。国王の補佐。王侯貴族と国民の管理。土地の管理。
オーヴェン公爵家。主に教育。貴族院。王立図書館管理。法制関係。
メイジス公爵家。主に国防。騎士団の管理。騎士の管理。辺境伯との連携。
アジュール公爵家。主に外交。現在当主が偏屈すぎて、嫁がおらず、また高齢のため外交はオーヴェン公爵家に委託している状態らしい。おそらくこのままだと縁者から養子を取ることになる。
ジング公爵家。主に財政管理。国の財布とも呼ばれる家。商会を束ねており、組合未加入の商会にも気にかけている。また、昨今台頭してきた冒険者協会なども管理している。
しかし、王妃様がオーヴェン公爵家の人だっていうのは知らなかったなー。
「あの家は本当に……お好きですよね。権力が」
「そうだな。国の維持というより、権威が好きなようだ。幸い、グレン王子と歳の近い子がいないから、あまり現実的ではないだろうが」
「シシリ様が生きておられたら、今頃よいお子を授かっていたかもしれないけれどね」
「そうだな」
「どなたですか?」
ブロッサ兄様が聞き返す。
私も知らなーい。
各貴族の家系図を覚えるのも必要だと言われたけれど、オーヴェン公爵家には今嫡男となる男児はおろか、娘さんもおらず養子を縁者から取る予定、と教わった。
あ、でもその代わり嫁入り済み、ってことで、二人の娘さんの名前があったような……?
「シシリ様は王妃様の双子のお姉様よ。つまり、亡くなった前王太子ご夫妻の、奥様の方」
「え!? それって、王家ご兄弟ともオーヴェン公爵家のご息女とご結婚されているということですか!?」
「そうよ。オーヴェン公爵のゴリ押しでね。当時五公爵家に年頃の娘さんがいなかったから、ほぼ自然にそうなったともいえるのだけれど。でも、本当に誰もが憧れる美男美女ご夫妻だったのよ。あ、別に現王陛下ご夫妻がそうではないと言わないけれどね? でも、なんか、違うのよね」
「仲睦まじかったからな」
思わずブロッサ兄様と顔を見合わせる。
今の国王陛下ご夫妻しか知らないけど、兄弟姉妹で結婚したなんて。
しかも王妃様って双子だったんだ。
「でもだからこそ、陛下と王妃様はクリスト様とシシリ様ご夫婦の事故死に心を痛めて同じ傷を分かち合い、仲を深められたそうよ。確かにどこか距離のあるオセアド様とシシル様の距離が縮まったのは、クリスト様とシシリ様が亡くなったあとなのよね。それがまた切なくて、でもロマンチックでもあって、お茶会では一時期その話題で持ちきりだったことがあるのよ」
「母様……」
なぜかテンションが上がってしまった母様。
ついに王様たちを名前で呼び始めてしまった。
年代的に母様は王様たちと同級生。
だから、名前もご存じ。
それは知っているけれど、サリィに「貴族院を卒業したら、王族のことは『王太子殿下』や『国王陛下』や『王妃様』と呼び、お名前は“友人”でなければ呼んではいけない」って習った。
そこは『メリハリ』なんだって。
『こうしをわける』っていう。
なんだっけ、こうし。
なんかそこだけ特に難しいこと言ってたんだよね。
仕事中か、仕事してない時か、その違いみたいなこと言ってたっけ。
つまり、今母様ってば恋話が楽しくてそのマナー? を忘れてる。
女の人ってそういう話好きだもんね。
母様の表情はうっとりしている。
なんか”女の子”みたいで可愛い。
そんな母様を見たら父様がにこにこしながら「母さんは可愛いなぁ」と呟く。
にこにこというか、デレデレ?
相変わらず夫婦仲がいいなぁ。
夫婦仲がいいのはいいよねぇ。
