槍の基礎訓練が終わると、腕が結構くたくた。
HPは減っていない気がするけれど、それと筋力は別物なんだなぁ。
「ちゅかれた」
「ふふふ。ちゅかれましたか」
「イリヤは筋がいいみたいで羨ましいよ」
「イリヤ、すじがいいですか?」
「そうですわね。ですが、やはりまずは健康ですわ! 武器を扱うのにも体力、腕力、スタミナが必要! それにあまり幼い頃から筋肉をつけすぎると成長の妨げになります。特に女性は、あまり筋肉をつけすぎると着る服に困ります!」
思わずルイシス兄様とカルレットさんの全身を眺めてしまう。
背は高いし、出るところはかなり出ている。
太ももぱつぱつ。
胸も苦しそう。
ああ、うん。
説得力がすごい。
服は……確かに困りそう。
「イリヤに足りないのは……きんにく――!?」
ハッとする。
HP――体力は問題ない。
私にないのは筋力とスタミナでは!?
そう言うと、少し困ったようにカルレットさんには「成長期の女子は筋肉をつけすぎると太って見えますわ」と首を横にする。
あ、そうか。今その話してたっけ。
「じゃあ、スタミナ……?」
「まずは体力作りですわ! もちろん少しの筋肉も必要です。体力、スタミナ、筋力を程よくつけるにはランニングが一番ですわ!」
拳つきで提案されたのはランニング。
ランニングって、伝説の……!?
時々早朝にテラスから見た走っている人?
あれを、私も!?
「とはいえわたくしたちのような貴族子女はヒールのない靴というのも、通気性のある服というのも市販されておりません。わたくしの贔屓の仕立て屋を紹介いたしますから、運動に適した靴と服を仕立ててもらうのをお勧めいたしますわ。あとで紹介状をお渡ししますので、続けるのでしたら使ってくださいませ」
「ありがとうございます!」
「それから、普段あまり運動なさらないのでしたら今日はお湯にしっかりと浸かって体を温めてストレッチをしてお休みくださいね。それで筋肉痛がだいぶ楽になりますから」
「筋肉痛は……不可避なのでしょうか?」
「普段運動なさらないのでしたら……本日と明日以降の筋肉痛は避けられないかと」
カルレットさんにそう言われてがっくりと項垂れるルイシス兄様。
きんにくつう、って、なんだろう?
筋肉が通?
「イリヤさんもですわよ。きっと普段使わない筋肉を使って、筋肉びっくりになってしまいますの。それが数日続いてしまいますが、筋肉さんが慣れたら治りますわ」
「い、いたいいたいですか?」
「そうですわね。痛い痛いですわ」
痛いのぉ!?
痛いのは、嫌だなぁ……。
「でも、その痛い痛いが治ると筋力がアップいたしますの! 魔力も同じですのよ。魔力は使い切ると数時間ぐったりとしてしまいますが、戻ると量が増えたり魔法が強くなりますの」
「イリヤ、まだまほうがつかえないです」
「そうですわね。ですが、いずれは魔法も学ぶことになりますわ。今はまだ魔力が安定しませんから、無理に使ってはいけませんが……正しく魔法について教わってから、ルイシス様のように魔法を教わる日が来ましたら頭の片隅に残しておいてくださいませね」
「は、はい」
つまり、魔力と使い切ったらまりょくの筋肉痛がくるのか。
ヤダなぁ。
あ、そういえば……。
「まりょくはどうして十さいにならないとあんていしないのですか? イリヤはいままほうをつかったらだめなんですか?」
「え? ええ、そうですわね。昔から幼いころから魔法の訓練をすれば、魔法を極められると考える貴族は世界中にいましたが、十歳頃にならないと魔力は安定しませんの。そんな状態の魔力で魔法を使うと、暴発して周囲に被害が出てしまうそうですわ。……定期的にそういうアホな考えで、自分の子に魔法を教しえて大爆発を起こして亡くなる事故が起きますのよ。町中でやるとバレるから、と校外の広い場所で。おかげで地面に大穴が開いて、探すと沼がいっぱいありますのよ」
「ば、ばくはつ……」
「ですからイリヤさんも、こっそり魔法の練習などしてはいけませんわよ。貴族街で起こる爆発事故の三割は、こっそり魔法の練習をした子どもが起こしたものですの。もちろん屋敷ごと使用人もご家族もバーン、ですわ」
思わず口を覆った。
わ、私……ちょっと考えてた。
将来魔法を使うなら、今からちょっと練習していた方がいいんじゃないのって。
……絶対やめよう。
「イリヤ、まりょくがあんてーするまでまほうつかわないです」
「偉いですわ~」
「カルレット嬢、本日は無理を言ったのに妹ともども色々と教えてくださりありがとうございました」
「いえいえ! またいつでもお声がけくださいませ。予定なら空けますわ。イリヤさんも、やる気があるようですし」
「はい!」
手を挙げる。
そうよ、私頑張るの!
グレン王子を幸せにしてあげるの。
そのためにも守ってあげられる女にならないとダメよね。
……カルレットさんみたいに、おっぱい大きくなりたいし!
「またおしえてください! イリヤはグレンおうじをまもれるおんなになりたいです」
「まあ! まあまあまあまあまあまあまあ!」
なんか急に嬉しそうになるカルレットさん。
そしてものすごくにっこにっこしながら「いつでもお声がけくださいませね!」と言ってくれた。
