転生したらHP10000だった。


 そういうものなのかな。
 でも……なんか……悲しい。

「イリヤ、きょうのくんれん、がんばる。イリヤがつよくなったら、グレンおうじをまもってあげられるよね?」
「イリヤ……」
「まあ……!」

 思わずルイシス兄様の手を掴む。
 たくさんの芸術品、音楽を生み出す魔法の手。
 男の人なのに細く柔らかい手。
 グレン王子の手はきっとこの手よりもずっと小さくて、細い。
 私はよく覚えている。
 忘れられるわけがない。
 もう無視しようと思っているけれど、それでも前世の私は苦しくて痛かったから。
 こびりついているの、あの痛みも苦しみも。
 グレン王子が、今……あの頃の私のような痛みを味わっていると思うと苦しくてたまらない。
 可哀想で、可哀想で。
 昔の私も、今苦しんでいるグレン王子も、可哀想で。
 どうにかして助けてあげることはできないだろうか?
 救ってあげることはできないだろうか?
 救ってあげたいの。
 今の私は、幸せだから。
 助けてあげたいの、守ってあげたいの。

「なんでお優しいご令嬢なのかしら……。健気で、愛らしいわ。あの“呪われたお方”にこれほどお優しい方が……そう……。では、わたくしがイリヤさんを強く逞しい、かっこいい淑女に鍛えて差し上げますわ! 一緒に頑張りましょうね!」
「あ……。は、はい! よろしくおねがいします!」

 そうか、そうだよ!
 私が強くなればいいんだ!
 HP10000の私が強くなったら、グレン王子がもそもそ怪我をしなくて済むんじゃない?
 私は怪我したって、致命傷もかすり傷!
 痛いは痛いけれども!

「イリヤ、王妃教育も忘れてはいけないよ。お兄ちゃんが音楽と芸術も教えてあげるからね」
「は、はぁい」

 うっ。
 音楽と芸術品のお勉強って難しいんだよぉ。
 苦手なんだよねぇ。
 でも、ルイシス兄様なら優しくわかりやすく教えてくれるかな?

「わたくしも教えてほしいですわ。お母様から毎日泣かれてしまいますのよ。『お父様に似すぎなのよ』って」

 少し寂しそうに言うカルレットさん。
 その後ろにいたジザックス侯爵家のメイドさんたちが、厳しい表情で強く強く頷いておられる。
 お、おおう……。

「僕でお力になれるのでしたら、構いませんよ」
「ありがとうございます! と、特にお歌とピアノが苦手なんですのっ。ピアノの先生には『壊れる!』と怒られ続け、最近では講師をお願いした方皆さんにお断りされて……」
「ああ……」

 失礼ながらそんな感じがしてしまう。
 でも、本人は一生懸命やっているんだろうな。
 心底ガックリと肩を落としておられる。
 可哀想。

「それに刺繍や編み物も苦手なんです。針がすぐに折れてしまって」
「え……刺繍針とか、折れるものなのですか……?」
「意外と簡単にボキッといきますのよ」
「へ、へえ」

 そうなの!?
 私はまだ『小さいから』と刺繍は教わっていない。
 驚いてサリィを見上げると、真っ青な顔でブンブン左右に首を振る。
 ルイシス兄様がちょっと引いているから、やっぱり、針って普通折れないんだ……。
 え? じゃあ、その針を折ってしまうカルレットさんって……何者?

「あ、こちらですわ! こちらが我が家の誇る訓練所ですの! お父様の第一騎士団の騎士も時折やって来て訓練しておりますのよ。ちなみに、魔法訓練する場合は半魔法結界を張りますから、おっしゃってくださいね」
「イリヤ、まだまほうつかえないです」
「ほほほ。イリヤさんはまだ幼いですものね。魔法は魔力が安定する十歳頃から訓練を行うのですよ。魔法の訓練をする時は、わたくしがおつきあいいたしますからね」
「ほんとう? ありがとうございます、カルレットさま」

 縦巻きロールをふるふる揺らしながらしゃがんで微笑むカルレットさん。優しい。
 それにすごく頼もしい!
 ルイシス兄様よりも年下のはずなのにおっぱいも大きくてプルプル。
 そういえば太ももも太くてズボンぱつぱつ。
 太っているというより肉つきがいいんだろうな。
 私、お肉つきづらくてがりがりだから羨ましいなぁ。

「ではこちらをお持ちになって。木剣ですわ」
「ぼっけん」
「木製の剣だね」

 兄様には腕より少し長いぐらいの木剣。
 私には木の短剣。

「持ち方は右手が柄上の方、左手が下の方ですわ。こう」

 と、見せてくれる。
 握り方からやるんだ。
 利き手が逆なら、上下の手は変えていいらしい。
 ……ところで剣を両手で握るカルレットさんのお胸が……苦しそう……むぎゅんってしてる……すごい……。

「そして足は利き足を前へ少し出し、左足を軸にいたします。上へ上げて、振り下ろす!」

 ばいん、と詰まってたおっぱいが解放される。
 そして振り下ろされた瞬間、むぎゅっとに戻った。
 苦しくないのかなぁ?

「これが打ち込みの基礎ですわ。これを行うのにもそれなりに体力と筋肉が必要なのです。感じられましたかしら?」
「確かに……これを繰り返すのですよね?」
「ええ。意外と腕の筋肉が必要ですのよ。イリヤさんはいかが?」
「え、えっと……かけごえとか、ひつようですか?」
「その方が気合いを入れられるのでしたら、声を出してもよろしくてよ!」

 そうなのか。
 カルレットさんのおっぱいばっかり見ててよく見てなかったって言ったら怒られるかな。
 だって、あんなの……見ちゃうよ。