私、六歳になりました!
で、実はその前にグレン王子の七歳の誕生日があったわけです。
その日は事前にお祝いをしたいから、我が家に来るかお城に行くかを手紙のやり取りで話し合い。
しかし返ってくる答えはどう見てもグレン王子が書いたと思えない達筆の文字で『王族の誕生日は神に祈りを捧げる儀式があるので、当日祝えない』というものばかり。
ならば別の日に。
前の日や、後日でも。
私の直筆以外にも、サリィに代筆してもらったものを送ったけれど返答は同じ。
「イリヤ、グレンおうじのこんやくしゃなのに、なんでおたんじょうびのお祝いできないの?」
「そうですね……旦那様に相談してみましょうか」
と、いうわけで父様に相談。
父様もさすがに「おかしいな」と言ってお城に行く時に聞いてみると言ってくれた。
母様にも報告したら、母様も「それは変ね。普通婚約者がお相手のお誕生日をお祝いするのは普通のことよ」と首を傾げる。
兄様たちも同じ意見。
ルイシス兄様が「なんだかイリヤとグレン王子の交流を、持たせないようにしているようにも見えてしまうよね」と眉尻を下げていた。
なんで?
なんで私がグレン王子と遊ぶのを邪魔されるの?
意味がわからないよ。
――そんな状況が数ヶ月も続き、私が六歳の誕生日を迎えても未だにグレン王子と会えていない。
仕方なく手作りケーキを贈って、反応を待つも返答はなく。
定期的な手紙にも返事が来なくなってしまった。
いくらなんでも変だよ。
変……変だって思うんだけれど……。
前世の私、再婚相手とお母さんに『家から出るな』って言われて閉じ込められていたのを思い出した。
そのくせ、自分たちの都合でテラスに出されて家に入れてもらえなくなっていたし。
グレン王子は……お城から出られないんじゃないかな。
お城は広いから、前世の私と同じとは限らないけれど。
でも、なんか……そんな感じがするの。
「お嬢様のお誕生日に反応もないなんて! 婚約者だというご自覚はないのでしょうか」
「グレンおうじがわるいんじゃないとおもうの」
「お嬢様……」
「父様からもなにも言われていないの?」
「うん」
貴族院がお休みなルイシス兄様がしゃがんで私の目線に合わせて話してくれる。
父様も聞いてはくれているみたいだけれど、どうやらグレン王子の扱いは前々から“そう”だったらしい。
城の中で、まるでいないもののような扱い。
「そう。……まあ、そうだよね。イリヤがグレン王子と出会った時の、あの異様な状況についても調査が打ち切られたのでしょう? 貴族院でも話題にすら上がらないし」
「そうなのですか?」
「グレン王子が貴族院に入る年齢ではないから、というのもあるのだろうけれど……貴族院の話題は流行り廃りの話ばかりだよ。アルドの話題も、たまに出るけれど」
「アルドにいさま?」
「そう。僕に対しての話題として、なのかもしれないけれど」
ふーん、と首を傾げる。
しかし、ルイシス兄様は本当に綺麗な顔だなあ。
アルド兄様もブロッサ兄様も美形だとは思うのだけれど、ルイシス兄様は特に母様に似て明るい、金に近い髪と真紅に近い瞳。
本人はあまり自分の綺麗な顔を覗き込まれるのが好きではないらしく、前髪が長くて右側は特に長い。
これはバイオリンを演奏する時にわざと右側を客席に向ける兄様のこだわり、らしいよ。
よくわからないけれど。
こんなに綺麗に微笑むのに、少しもったいない気はする。
でもルイシス兄様がそういうこだわりがあるみたいだから。
「お嬢様やグレン王子の社交が始まるまで、箱入りにしておくつもりなのかもね」
「しかし、殿下ももう七歳でございますよ。社交は八歳から、ですよね?」
「お茶会とかは、ね。確かにそろそろ適度に表に出る時期ではあるけれど……そればかりは僕に聞かれても」
「し、失礼しました」
社交って八歳からなんだー。
私もお茶会のマナーとかは習い始めているけれど、練習相手は母様。
いつか見知らぬ誰かとお茶会して、交流しなければならない。
私、上手くできるのかなぁ?
今からすっごく不安だなぁ。
「僕にとっての王子殿下はグレン王子しか知らないから、よくわからないのだけれど……王族はそういうものではないの? サリィ」
「そ、それは……わたくしにも……」
「そうだよね。父様や母様も国王陛下の幼少期のことはよく知らないようだし。まあ、王族には王族のあれやそれやがあるんじゃない? イリヤが蔑ろにされているのは、少し面白くないけれど。イリヤの誕生日に贈り物の一つもないのだろう? 貴族同士ならば婚約者に贈り物をするのは当然だけれど……」
「はい」
そういうものなんだ。
私はグレン王子に誕生日当日おめでとうを言いたかった。
贈り物をして、ケーキの蝋燭を吹き消して、ハッピーバースデーのお歌を歌ってあげたかった。
許可がないとお城に行けないから、無理だったけれど……。
来年はちゃんと隣でお祝いできたらいいなぁ。
私のお手紙、読んでくれているかなぁ?
「とりあえずどういう状況なのかよくわからないのなら、父様が言っていた通り、イリヤは自衛ができるように少しだけでも剣や弓を学ぼうか。僕も武道は得意ではないから、一緒にやろう。ジザックス侯爵令嬢が、一緒に教わる機会を作ると言ってくれたんだ」
「わかった!」
「うん。では、次の日曜日に」
「はい!」
