転生したらHP10000だった。


 国の守護神というのは、女神ブロントズウェール様より派遣された国を守る神。
 国を豊かに保ち、王侯貴族に人の身でありながらも魔力を与える。
 魔獣の被害は人に対する試練も兼ねているため、守護神は対処してくれないが対国にはその加護が発動すると言われている。
 王族が守護神の加護を最大限に使用することができ、その力は自国の貴族を操作、洗脳することができるという。
 しかし、父とアルドの様子を見るに現国王にその権限がないのだとすれば、同時に国を守る守護神の加護も使えないということだ。
 それがなければ、他国からの侵攻から国土を守り切ることは非常に難しい。
 常識的に考えれば、守ることは不可能。
 貴族たちに残された魔力でどうにかなるとも思えない。
 魔力の有無は、敵も同じ条件。
 こちらでどうにかすることができるのは、四神の加護を得る試練を乗り越えるか、または世界有数の冒険者パーティーを雇うことができれば、あるいは――。

「打てる手は打っておくべきですね。アルド、もしも『金の大槌』に依頼できるのであれば、万が一の時は傭兵として我が国についてもらえるようにそれとなく頼んでおいてはくれないか?」
「『金の大槌』に……!? か、構わないけれど……。クルツさんはアグレド王国に恨みがあるそうだから、向こうの味方にはならないと思うよ」
「だとしても」

 世界的に有名な冒険者パーティー『金の大槌』のリーダー、青龍に加護をいただいたエルフ、クルツ・ウォン・アルダがアグレド王国に憎悪を抱いてる話は有名だ。
 なぜなら彼は故郷の森をアグレド王国に焼かれ、捕えられて奴隷闘技場に放り込まれた経歴を持つ。
 奴隷闘技場の剣闘士から勝ち上がり続け、ついに闘技場から脱出して冒険者となる。
 その後も快進撃は続き、仲間を集めた彼は世界有数の冒険者パーティー『金の大槌』のリーダーとなった――。
 有名なクルツ・ウォン・アルダの英雄譚である。
 それに憧れ、『金の大槌』メンバーになるべく冒険者を目指す若者が増えたと言っても過言ではなく、かつ『金の大槌』が現れるまであった冒険者の不潔でならず者というイメージも、清潔で美男、かつ長寿のエルフであるクルツのおかげで相当改善された。
 冒険者協会は、クルツのおかげで相当変革したことだろう。
 もちろん『金の大槌』以外にも世界的有名なパーティーはある。
『白炎の剣』と『漆黒の最強』だ。
 だが、『白炎の剣』と『漆黒の最強』は大陸南西と北西に拠点を置いている。
 他国の戦争に手を貸すかどうかは依頼料次第だろうが、カルヴァ王国にそこまでの財産はない。
 勝てそうな理由をいくら思い出そうにも、勝てる要素が少なすぎる。
 そしてオルヴァーニュ公爵家の男たちが考えることは、騎士団や辺境伯はとうに考えている。
 素人が考えることなど、どう前線を支援するかくらい。
 そして、そうなった時にどうやって家族を守るか。

「ブロッサ、もしも開戦したらお前にはこの家を守ってもらわねばならない。だが、ルイシス、お前は母さんとイリヤを連れて朱雀領を通り南西のグラブレール王国に避難してほしい。あの国は芸術家を集める。お前ならば迎えられるだろう。伝手は――今から作るしかないが」
「わかりました。留学生の中からグラブレール王国の人を探してみます」
「すまない。この国が勝てる見込みが……あれば……」

 目頭を押さえる父の姿に、肩を落とす。
 貴族として、公爵家の嫡男として生まれた以上仕方ない。
 むしろ、当然だろう。
 母、妹を芸術に秀でたルイシスが連れて逃げるも異論はない。
 侵攻を受けた国がどうなるか、歴史が語っている。
 特にアグレドとブロード島はそうやって侵攻を繰り返して国を今の大きさにした。
 そして負けた国の人間、王侯貴族はみな処刑されるか、あるいは奴隷闘技場に押し込まれる。
 そこで日々殺し合い。
 親と子、婚約者同士、友人同士、同国の女同士、布を一枚着せた王侯貴族の娘と武装した蛮族の男、地位が高かった者を一人対、平民を数人。
 そんな悪趣味な戦いを毎日のように開催して、娯楽として消費する。
 父とブロッサも、この国が負ければそんな奴隷にされるだろう。
 だがそうなる前に、イリヤと母を他国に逃す。
 アルドは頼りにならない。
 貴族として生きることを選べば、朱雀の加護持ちのアルドは大変頼りにもなるが……ただ一人の加護持ちで戦争に勝てるわけではないのだから。
 むしろ、ブロッサとしてはアルドに冒険者となり、家と縁を切ってから国外に避難した母とイリヤとルイシスを守ってほしいと思っている。
 ブロッサにはできないことだ。
 ぐったりする父の肩を叩いてから「アルドは自分の好きにしていいんだ。お前は三男で、責任を背負う立場ではないしね」と言葉をかける。
 そして「最悪な時は、国外に避難した母様とイリヤとルイシスを守ってやってくれ。伝手はないし、力が必要な時もある」と言えばハッとした顔をするアルド。

「この国は……そんなに勝ち目がないの?」
「お前が思っている数倍、ないな」
「っ」

 アルドの絶望的な表情はまさしくこの国の未来そのもののような気がした。