転生したらHP10000だった。


「シーニャンおねーしゃま、かえっちゃってさみしい……」
「そうでございますね。ですが、薬丸の輸入は我が家が窓口となる話でございますし、お手紙は定期的に届きます。そのうちまた、お会いする機会もあるでしょう」
「うん……」
 
 シーニャンさんが朱雀領に帰り、私たちの生活は以前と同じに戻った。
 私の加護が願いを叶えるものではないとわかったから、王家は私を引き続きグレン王子の婚約者として扱うと改めて通告をよこしてきたらしい。
 なんでわざわざ改めて?
 夕飯の時に父様が「星の女神様の加護を手放したくはないのだろう」と言っていた。
 願いが叶えられなくても、そんなもんらしいよ。
 どちらにしても、私はグレン王子と結婚して幸せにするんだ。
 そのために、私もっと勉強して賢くなろう。
 でもそれだけでいいのかな?
 殿下を幸せにするために、私は他になにをしたらいいのかな?
 
「あ、そうだ!」
「どうかされましたか? お嬢様」
 
 お夕飯のあとにお部屋に戻って勉強タイム。
 その時に思い出した。
 先日、加護の報告に行った時に父様たちが話していた内容。
 難しくてよくわからなかったから、サリィに聞こうと思ってたんだ。
 
「ねーねー、サリィ。このあいだ、とーしゃまとにーしゃまがおーさまのおにーさん? のおはなししてたけど、イリヤよく、わかんなかったの。イリヤがわかるように、かんたんにしておしえてほしーの」
「お城でしていたお話ですか?」
「そう!」
「そ、そうですね……」
 
 あれ? なんか言いづらそう?
 聞かない方がよかったのかな?
 
「簡単に説明いたしますと……そうですね……今の国王陛下は、お兄様がいらっしゃったのです。我が家で言うところの、ブロッサ様とルイシス様のような感じです。二人兄弟だったのです。ですから、以前の王太子はお兄様の方だったのです。ここまではおわかりになりますか?」
「うん……」
 
 うちで言うところのブロッサ兄様がちゃくなん、っていう跡取り。
 ルイシス兄様はその補佐。
 そんな感じだったってこと?
 あー、そう言われたらなんかわかるー。
 
「しかし、王太子であったお兄様はご結婚されたあとに馬車の事故でご夫婦ともにお亡くなりになってしまわれたのです。とても残念なことですが……」
「いなくなっちゃったんだ……」
「はい。ですから、王太子の座は今の国王陛下のものになりまたした。当時、第二王子であった陛下もすでに今の王妃様とご結婚されてグレン王子をお産みになられたばかりで、国が喪に伏す中でグレン王子のご生誕はあまりお祝いできなかったのです。ええと、わかりますか?」
「……なんとなく」
 
 そこは少しわかるの。
 生まれても、親戚の人が亡くなってしまったからお祝いを大っぴらにできなかったって話だよね。
 それは可哀想だけどちょっと仕方ないよね。
 最後のお別れだもん。
 じゃあ、グレン王子の誕生日、これからはイリヤがいっぱいお祝いしてあげたらいいのかな?
 
「それが約六年前。そして、陛下が王太子から前王陛下に王位を渡されたのが約二年前。お嬢様はまだ赤ちゃんですね」
「そうなんだ……」
「と、いうお話を、旦那様はされておりました。ご理解いただけましたか?」
「うん。なんとなく。イリヤがグレンおーじのおたんじょーびをいっぱいおいわいしてあげたらいいんだよね!」
 
 お祝いをあんまりされてないって、やっぱり前世の私と一緒。
 私、お誕生日お祝いしてあげたい。
 グレン王子の誕生日を聞くとどうやらもうすぐだという。
 それじゃあ、私その時になったらケーキを作ってあげよう!
 手作りの誕生日ケーキ、憧れていたから。
 あ、そうだ。
 その時にチョコレートを使おう!
 
「そうでございますね。お嬢様がグレン王子のお誕生日をたくさんお祝いしてさしあげれば、きっとグレン王子も大喜びしてくださいますよ」
「うん! うん! そうだよね!」
 
 あんまりお祝いしてもらえなかったのなら、これからは私がお祝いしてあげる。
 私がお祝いしてもらいたかったお祝いの仕方で。
 前世の私は、お祝いしてもらいたかった。
 誕生日当日に、おめでとうって言われて、ケーキを食べて、プレゼントをもらう。
 普通かもしれないけれど、私にはずっとほしくてほしくて憧れて、羨ましくて、悲しかったこと。
 私がグレン王子に、前世の私がほしかったものをあげたいの。
 人にお祝いされる誕生日という、そんな普通を。
 
「サリィ、サリィ、イリヤ、グレンおーじのおたんじょーびにイリヤがケーキつくってあげたい! チョコレートケーキ!」
「あの薬丸を用いた新しい甘味、ですね。なるほど、面白そうですが……ケーキ……ケークのことですよね? お嬢様は作り方をご存じなのですか?」
 
 ケーキの、作り方……!?
 
「……わかんない」
「それでは、件のケーク家に話をしてみましょう。飾りつけだけでもさせてくれればそれでもよろしいですか?」
「うん! チョコレートケーキにするの!」
 
 そう言うと、サリィが微笑む。
 やりたいことがいっぱい!
 前世みたいに馬鹿にされることもない。
 グレン王子、私たちはやりたいことができるんだよ。