翌日の午後、王家からの呼び出し――報告を受ける時がついにきた。
シーニャンさんとボックス馬車に乗り込み、アルド兄様とモーリスさんが護衛として同行してくれる。
お土産と書いた手紙は昨日の夜にお城に届けてもらったから、グレン王子の反応が楽しみ。
私の好きなバタークッキー、グレンも好きって言ってくれたら嬉しいけど。
「そういえばルイシス兄様に聞いたけれど、今流行っている観劇はミュージカルなんだって。魔法を使ったミュージカルは試験的なものでもあるので、下手したらもう二度と観られないかもしれないんだって。ルイシス兄様がすごいお勧めしていたよ」
「ほう。では、そのチケットを予約してこようか」
「あ、それならルイシス兄様からもらったよ。イリヤにも直接あげたい、って言っていたよ」
「イリヤ、あんまりおしばい、いいや」
「あ、あらあー」
興味がないわけではないのだけれど、今、現時点だと興味がないというか。
シーニャンさんとなら観たいかもしれないけれど、それなら――。
「イリヤ、それならルイシスにーしゃまのヴァイオリンききたい」
「あ、そっちか」
「ルイシス殿は楽器ができるのか」
「というか、ルイシス兄様は楽器も絵も、芸術と呼ばれるもの全般で自己表現するのが好きなんだよね」
「芸術家肌なのだな」
「そう。もうなんでも。お芝居も自分でストーリーを考えるし、自分で演じたりもする」
そうなの。
ピアノも弾けるし、フルートや大きなヴァイオリンみたいな楽器とか、初めて触る楽器もすぐ使えるようになるし、ルイシス兄様はすごいの。
それなのになぜか婚約者が決まらない。
長男のブロッサ兄様は家を継ぐから、婚約者を早く決めろって父様にせっつかれてたからブロッサ兄様も……もしかして婚約者いない?
なんでだろう?
兄様たち、こんなにかっこよくてなんでもできるのに。
「さあ、あなたたち。お城に着きましたよ。シーニャン様、アルドがエスコートいたしますので、どうぞこちらへ」
「ありがとう、夫人」
別の馬車に乗っていた母様と父様も城に着くとすぐに馬車から下りて、私を抱っこして下す。
あの玄関ホールを通り、中庭ではなく階段を登った応接室に通された。
「きょうはおにわじゃないんだ」
「前回襲われただろう? お父さんが室内で、とお願いしたんだ」
「あー」
「襲われた?」
シーニャンさんは怪訝な表情。
アルド兄様が「イリヤが加護を持っているとわかった時に」と説明してくれた。
そういえばそうだった。
私のHPが10000あるってわかったのは、あの事件の時。
痛みはあったけれど、死ぬ感じはしなかったんだよねぇ。
「最初は不死の加護かと思ったんだ」
「まあ、それに近いだろうな。イリヤの加護は。だが死にづらいだけで死なぬわけではない。“どうやったら死ぬのか”というやばい考え方をしているやつにはよくよく気をつけるのだぞ」
「そんなやついるの!?」
「私は一度会ったことがあるぞ。二十年ほど前だがな、誘拐された時に、私のような不老不死の巫女はどうしたら死ぬのか試したかったなどとほざく輩に。死にづらい女を拷問して愉しむ輩も世の中にはいるのだ。いわゆる変態だな」
「そんなやつ――っ!」
なんか変態さんの話してる。
途中から父様に抱き上げられて、母様とサリィに左右から耳を塞がれてしまったからなにも聴こえなくなったけれど。
「こちらでお待ちください」
ようやく耳から手が外された。
最初に聞こえてきたのは、お城のメイドのそんな言葉。
応接間に入ってソファーに座らせられ、王様と王妃様がくるのを待たされる。
偉い人は時間を置いてくるものなんだって。
待たせて立場をわからせるんだって、父様がこれもマナーなのだと教えてくれた。
しかし、シーニャンさんは「私を待たせるとはカルヴァ王国の国王はよい度胸をしているな」と言った瞬間、室内にいたメイドさんと近衛騎士が一人出て行く。
アルド兄様が、苦笑い。
う……うん、まあ……そうだよね。
「シーニャン様には申し訳ございません。今、メイドが陛下を呼びに行ったかと思いますので」
「当然だな。たかだか一国の国王如きが私を待たせるなど生意気にもほどがある」
「シーニャンねーしゃまはまたせたらだめなひと?」
「そうね。シーニャン様は大巫女様ですから」
「こくおーへーかよりもえらい?」
「そ、そうだなあ……。う、うーん……ちょっと言葉にしづらいが……陛下はこの国で一番偉いお方だが、シーニャン様は世界で偉い方なのだ。神にお仕えする、神の半身。国王陛下も尊いが、シーニャン様のような四神の大巫女様は、それとはまた違った尊き方なのだ」
「う……うん?」
なんかよくわからない。
どっちも偉いけど、別な偉いってこと?
父様も母様も兄様も困った顔で「シーニャン様は神様の次に偉いから」とか「国王陛下も偉いのだ」とか「国王陛下も国の守護神の次に偉いのだけれど……」となんかまとまりがない。
説明しづらいというか、説明が難しい?
「簡単に言うとな、イリヤ。私は神に仕え、神の半分の権限を持つのだ。国王は国の守護神から土地を治めるように命じられている。どちらも主人は神なのだ。しかし、私の仕える朱雀様の方が、この国の守護神より偉い。だから私の方が少しだけ偉いのだ」
「そうなんだ!」
