転生したらHP10000だった。


 朱雀様にお礼を言って、シーニャンさんにしがみついたまま来た道を戻る。
 炎はない。
 道を燃やしていた炎は朱雀様になってしまったから。
 真っ暗な闇の中に細い石の道が浮いている状態。
 この道が燃えていたみたい。
 ……こんな人が一人通るのがやっとみたいな道が燃えてたの?
 怖すぎじゃない……!?
 
「イリヤは高いところが怖いのか?」
「こわい」
「んふふふふ。可愛いなぁ。そうかそうか。大丈夫だぞ。ほら、見えて来たぞ」
「え? あ……」
 
 扉だ。
 来た時に使った朱色の扉!
 シーニャンさんが出し入れできるって言ってたけれど、よ、よかったぁ。
 急いで帰りたいけれど、駆け足して転んで落ちたら嫌だから、シーニャンさんの手から離れられない。
 私、なんでかわからないけれど走ると絶対に転ぶから!
 これ、なんでなんだろう?
 おとなは走っても転ばないのにね?
 私のバランスが悪いのかな?
 
「イリヤ」
「は」
 
 名前を呼ばれて見上げると、シーニャンさんが扉を開けるところだった。
 帰れる……やっと!
 ギイィ、と扉が開けてサリィが胸の前で手を握り締め、待っていてくれた。
 サリィの顔を見たら、急に寂しくなって飛び出す。
 
「サリィー!」
「お嬢様ー!」
「よお、無事に終わったかい?」
「うむ。イリヤの加護は星の女神――この世界を我らが女神ブロントズウェール様へ“任せた”総合神、通称星の女神ローゼクリス様より与えられた加護。ローゼクリス様は数多の星を繋ぐ神で、いかなる願いも叶えられる。しかし、イリヤの場合は加護そのものが『願い』であり、常時『叶えられている』状態だから、イリヤ自身を含め他の願いを叶えることはできないそうだ」
 
 サリィに抱きついてぎゅっとされる。
 私がそんな状態なのでシーニャンさんが代わりに全部説明してくれた。
 うう、なんか、さっきからなにからなにまで申し訳ない。
 でもありがとうございます。
 
「常に願いを叶える加護が作動していて、他の新たな願いを受けつけねぇってことか。なるほどな。しかし、それじゃあもしかしてイリヤの加護を遮断したら?」
「その時はイリヤの加護が一時停止するだけだ。遮断が剥がれれば元に戻る」
「じゃあ、カルヴァ王家がイリヤの加護を利用しようとしても――」
「無理だな」
 
 首を横に振るシーニャンさんに、モーリスさんは顎に手を当てて「ふぅむ」と神妙な面持ち。
 サリィの胸から顔を離して、シーニャンさんとモーリスさんの方へと向ける。
 なんか、いいことのはずなのに二人とも無表情。
 
「あの、つまりお嬢様はもう大丈夫なのですよね?」
「いや。このままだと『そう聞いている』程度でおそらく色々いちゃもんをつけられるだろうな。なにしろ、朱雀様に話を聞いたのは幼い嬢ちゃんと、大巫女のシーニャンだけだ。冒険者の俺や、使用人のあんたが『こう言われたと言っていました』と報告しても信用されんだろ。嬢ちゃんはまだ子どもだしな」
「そんな……では、どうしたら……!?」
「私がカルヴァ王国に同行して、カルヴァ王に直接報告しよう」
「シーニャン様!?」
 
 驚いた声を上げるのはシーニャンさんの侍女。
 モーリスさんも「え? マジで言ってる!?」とすごく驚いている。
 やっぱり大巫女様が朱雀領を出るの、おかしなことなんだ?
 
「そこでモーリス、お前だ。主に護衛を頼もう。私だけでなくイリヤも守るのだ。主になら可能であろう?」
「マジで言ってる?」
 
 二回目の『マジで言ってる?』が出た。
 そんなに非常識なことを言っているようには見えないけれど。
 
「公爵家のお嬢様だけでなく、朱雀領の大巫女の護衛を俺一人!? 非常識にも程があるだろ!」
「我らが外に出ているとわかる者などおらんだろ。それに、イリヤはあと帰るだけだ。カルヴァの王家も私の言うことなら納得するしかできぬだろうしな」
「ぐ……それは、そうだろうが……。いや、そうだな。それしかないか」
 
 そう言って、かなり渋々という様子でモーリスさんが「護衛を受ける」と言ってくれる。
 じゃあ、帰りもモーリスさんが護衛してくれるだ。
 それに、シーニャンさんも一緒に行くの、嬉しい!
 
「しかし、シーニャン様。たかが一国の公爵令嬢一人のためにそこまでなさる必要は……」
「なにを言う。イリヤはこの世界でたった一人の星の女神ローゼクリスの加護を受けた乙女だぞ。朱雀様の大巫女は私だけだが、大巫女自体は四神それぞれについて四人いる。それに比べればイリヤの方がはるかに希少だろう」
「で、ですが……」
「なら、仁科もついてくればよかろう。誰かしらは連れて行くつもりだったから主でいい」
「は、はい! もちろんご一緒いたします!」
 
 シーニャンさんも連れていく侍女が決まったらしく、次は帰る準備。
 ここ二日で里の人達に挨拶行脚したから、帰国の挨拶もしなさい、とシーニャンさんに言われた。
 確かに、それが筋、だよね!
 
「はい! あいさつ、かえるの、言ってくる!」
「うむ!」
「ではわたくしは荷物の準備をしてまいります。モーリス様、護衛をお願いいたしますよ」
「お、おう。わかったよ」